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認知症について知る

あなたの「?」にもの忘れ・認知症の専門医が答える 認知症クリニック

認知症はきちんと治療すれば治るものなのでしょうか?
また、どんな治療をするのかとても気になります。

認知症は、徐々に症状が進行していく進行性の病気です。完治は難しい※ですが、治療によって、進行を緩やかにし、穏やかな暮らしをサポートできます。

※正常庄水頭症とか、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫などの場合、脳外科的な処置で劇的に良くなる場合もあります。甲状腺ホルモンの異常の場合は、内科的な治療で良くなります。薬の不適切な使用が原因で認知症のような症状がでた場合は、薬をやめるか調整すれば回復します。ところが、こうした状態のまま長期間放置すると、脳の細胞が死んだり、恒久的な機能不全に陥って回復が不可能になります。一日も早く受診することが重要です。(厚生労働省「認知症の診断と治療」より)

 認知症の治療において、脳の神経細胞が壊れることで起こる記憶障害や実行機能障害などの中核症状の進行を緩やかにすることはできますが、現代の医療では、根本治療薬はなく、壊れた脳の神経細胞自体を元に戻すことはできません。しかし、中核症状に伴って起きる睡眠障害や徘徊などの行動症状と、不安・焦燥、妄想などの心理症状は、治療によって予防・コントロールできるケースが多くあります。

 この行動症状と心理症状を予防・コントロールすることで、認知症の患者さんの生活の負担や、家族や周囲の方の介護の負担は大きく軽減されます。症状をコントロールするためにも、早期受診、早期診断、早期治療、そして治療の継続が、非常に重要です。

認知症の治療における効果イメージ

認知症の治療における効果イメージ

治療1 環境の整備

認知症の治療では、生活環境の整備も治療の一環となります。
今の生活環境をチェックして、ご本人はもちろん、認知症の患者さんの家族、医師などの関係者で相談しながら、これからの生活を見据えた環境に整えましょう。


家族や周囲のサポート体制は整っていますか?
地域包括支援センターに相談しましたか?
認知症に知見のあるかかりつけ医はいますか?
気軽に相談できるコミュニティはありますか?
認知症の患者さんが働いている場合は、業務内容の見直しをしましたか?
病気のために苦手になったり、できなくなっている能力を必要とする作業はないか? 危険な作業や複雑すぎる作業はないか? 出張は妥当か? など

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治療2 治療薬

投薬治療には、認知症の進行を穏やかにする役割があります。
認知症の治療において、薬は必須ではありませんが、常に薬の効果を検証しながら、体質や症状に合った薬を処方してもらい服用することは、症状をコントロールすることにつながります。また、時には、認知症の症状を悪化させている薬を減量したり、中止することも治療となります。
それぞれの認知症の患者さんに合った適切な投薬治療のためにも、患者さんのことをよく理解し、気兼ねなく相談できる、認知症の知見のあるかかりつけ医への受診をおすすめします。かかりつけ医は、患者さんのみならず関係者にとっても心強い存在になります。

中核症状のための抗認知症薬

認知機能を改善する2つのメカニズム

2つのメカニズムのうち、いずれかのメカニズムの薬を使用するか、①から1種類と②を併用することができます。

メカニズム①アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
メカニズム②NMDA受容体拮抗薬

※コリンエステラーゼには、アセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼの2種類が存在する
・アセチルコリンエステラーゼ…記憶に関わる神経伝達物質、アセチルコリンを分解する成分
・ブチリルコリンエステラーゼ…アセチルコリンを含むさまざまな神経伝達物質を分解する成分

周辺症状(行動症状・心理症状)のために使う薬

 周辺症状のために使う薬について、詳しくはこちらをご覧ください。
(厚生労働省「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」)

高齢者には、副作用の出現を懸念し、マイルドな漢方薬が選択されるケースが多く見受けられます。
しかし、漢方薬も含め、それぞれ効果が出ることもあれば、副作用が出ることもあります。
そもそも高齢者は認知症以外の疾患があるケースが多くあります。それによって例えば、血圧の薬やコレステロールの薬、骨粗しょう症の薬、糖尿病の薬、痛み止めなどと、服薬数も多い場合は飲み合わせに注意しましょう。また、サプリメントなども主治医や薬剤師と相談し、よく確認しながら服用してください。

治療3 リハビリテーション

認知症の治療では、患者さん本人がさまざまなことに興味や関心、意欲を持つこと、そして生きがいや楽しみを持って生活をすることが大切ですので、楽しんで取り組むことができる趣味や日課となることを暮らしの中に取り入れてみてください。ポイントは、どのようなことでも「無理のない程度」に行うこと。
今までの趣味が続けられるなら、無理のない範囲で続けてみてください。症状の進行や患者さんの好み、向き不向きに合わせて、家庭の中で料理やガーデニングなどの役割を担ったり、折り紙、粘土、パズル、麻雀など、指先の運動にもなる遊びを取り入れるのもおすすめです。
また、歌も良い効果がたくさんあります。懐かしい歌を聞くことで情緒が豊かになり、精神が安定することもありますし、歌うことは脳だけでなく、喉の筋肉の衰えを予防し、嚥下機能の維持にもつながります。

治療4 ケア

ケア(care)とは、狭義には「介護」と訳されますが、広い意味では、世話や配慮、気配り、手入れ、メンテナンスなどをすることです。認知症ケアにおいては、温かく見守ることから体調管理や服薬、食事、着替え、洗髪や爪切り、排泄、移動、心理的な援助までのすべてを含みます。認知症の患者さんに対して好ましいケアとは、上から目線で「何かをしてあげる」という介護やお世話ではなく、患者さんが安心して心穏やかに生きられるような関わり方なのではないでしょうか。
しかし、このようなケアを一人で行うのは難しいことです。特に一人暮らしや、高齢の夫婦二人暮らしの場合、必要なケアを行うことが徐々に困難になっていきます。ケアプランの作成を含め、訪問介護サービス、デイサービス、ショートステイなどのケアサービス全般は、公的介護保険制度を上手に活用することで、少ない自己負担額で利用することもできます。


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 今回は、認知症の治療について紹介しましたが、認知症の治療のポイントは、「家族や周囲の人との関係性を保ちながら暮らせているか」ということです。

 自分ではわからない変化に気付いてもらったり、サポートが必要なときに手を差し伸べてもらったり。家族や友人、医師、ケアマネージャーなど、周囲のさまざまな人に囲まれた環境の中で、自分らしい生活を送ることにより認知症の治療は成り立っています。

環境の整備や治療薬、リハビリテーション、ケアなどの治療で進行は抑えられる?認知症の治療事例を見てみましょう。

 引退したものの、名誉会長など10の役職についているAさん。いろいろな企業や団体から声がかかり、講演会や寄稿は断っているが、式典などへの出席や挨拶は断り切れず、誘いがあった際には引き受けていた。人の名前や関係性の記憶があいまいになり、そのため神経が疲れて眠りも浅くなりつつあったが、周りの人からは「その場にいるだけでいいから」と言われ、家族も何もしなくなることで、さらに認知症が進行することを懸念して、会場への送り迎えなどを足繁くしていた。
 しかし、徐々に頭痛や動悸、めまいが起こるようになった。そして1週間のうちに3つの会合が続いた際に、居ても立ってもいられないほどのソワソワ感・恐怖感を感じて救急車を呼ぶ事態になった。

 診察では、役職を半分以下に減らしたり、役職を退任することをすすめられ、診断書をもらって関係各所に経緯を説明したところ、役職を2つに絞ることができた。

 その後、気持ちが楽になって落ち着き、ぐっすり眠れるようになった。最近では、体調が良いと思う時だけ、行きたいと思った会合に、顔を出すようにしている。


 環境の整備が功を奏したケースですね。

 ストレスが多すぎると、認知症に悪い影響を与えます。混乱やパニック、それに伴う事故などにつながります。

 若いころなら問題なくできたことでも、今の体力や能力では、想定以上に負担がかかることもあります。また特に、高齢や認知症では、体力、能力は年々変化していきますので、こまめに現状と照らし合わせ、見直しを図ることが大切です。

 会話の中に「あれ」「その」などの指示語が多くなってきていた矢先、電車の乗り換えがわからなくなって、外出先から家に帰れないという出来事があった。

 かかりつけの内科医に認知症の薬を処方してもらったが、薬を飲み始めてからイライラして、怒鳴ったり、物を投げつけ、服薬や入浴、着替えを拒否するようになった。かかりつけ医に「イライラは認知症の進行のため」と説明されたので、認知症専門医の診察を受けたところ、認知症の薬の副作用を指摘され、飲み薬から貼り薬への変更を提案された。貼り薬になじみがなかったが、服薬に関する衝突の軽減が期待できるとの説明を聞いて、試してみることにした。

 貼り薬に替えてから1週間後、イライラが軽減してきているように感じた。その後、貼り薬と併用して、鎮静作用のある飲み薬を試してみたところ、今度は拒否することなく、お茶の隣に置いておくと食後に自ら薬を飲むようになった。拒否していた着替えも、「湿布の貼り替えをする」と貼り薬を本人に見せながら言うと着替えてくれるようになった。さらに、以前は断固拒否していたデイサービスの利用もすんなり快諾し、通い出し始めた。デイサービスでは他者とのコミュニケーションとイライラの再燃や落ち込みが課題だった。しかし、何気なく描いた絵が上手いとスタッフと利用者らにほめられたことが自信につながり、以後希望する利用者の似顔絵を描くことや、絵を用いたレクリエーションへの参加でコミュニケーションを図っているという。


 薬の調整、環境整備、ケア、リハビリが上手く組み合わさっているケースですね。

 認知症の中核症状に「失語」があり、言語によるコミュニケーションがとりにくくなる症状の進行の方もいらっしゃいます。言いたいことを上手く言葉にできないもどかしさで、イライラしたり、または引きこもりがちになることもしばしばです。

 わかりやすい習慣や自然と目的を達成させられるような行動パターンが見つかると、生活がしやすくなります。また、非言語的なコミュニケーションによる新たなコミュニケーション手段を充実させると心の安定が強まります。Bさんは絵だったようですね。昔取った杵柄、身にしみ込んだ技能や芸は一生ものですね。

 その能力を発見し、さりげなく引き出して、発揮できる場を確保している点は、介護福祉士や作業療法士などのプロの力といえるでしょう。デイサービスなど、介護保険サービス利用の利点だと思います。

 看病の末に夫を亡くしてから自宅にこもるようになったCさん。その頃からもの忘れがあり、2年後にお隣にお住まいの方から娘さんに「最近Cさんの言動がおかしい」との連絡が入り、娘さんが家に行ってみると、家の中は物がひどく散乱している状態だった。
 病院で認知症と診断を受けて薬を処方され、服薬と定期的な通院は欠かさなかったが、もの忘れ、頑固さが増し、さらに母親から昼夜問わず電話が頻繁になった娘さんは疲れて診察時にも時間の余裕がない様子で、Cさんを急かしていた。聞けば、娘さんは書道教室を開いているとのこと。診察の後、教室の開始時間までにCさんを自宅に送り届けて落ち着かせなければいけないことを気にしながらの受診であったという。

 それならば、「書道教室にお母さんを連れて行ってみてはどうか?」と娘さんに提案したところ、最初は驚いて反論したものの、一度試してみたところ、Cさんは想像以上に穏やかで、教室の邪魔をせずに習字に集中していたとのこと。そのことをきっかけに、受診の後は親子で書道教室に行っている。Cさんが生徒さんの字を大げさに何度もほめるため、今では教室の“名物おばあちゃん”になっている。また、娘さんは、Cさんの表情や集中力を好機に捉え、デイサービスにも通所させることにした。すると、夜間の娘さんへの電話もほとんどなくなった。これらのことで、娘さんの心に余裕も生まれ、Cさんの笑顔も増えた。


 Cさんも環境の整備からのケア、リハビリでよくなりましたね。

 発想の転換は、介護の行き詰まりのブレイクスルーのポイントになります。
 上手くいかないことがあった場合、180度考え方ややり方を変えてみたり、押してだめなら引いてみてください。

 しかし、介護の疲労が溜まり過ぎていると、柔軟な発想や変化の受け入れができにくくなります。介護者が疲弊する前に、考えや行動を変えて、お互いの心の安定や健康を維持できるといいですね。

 記憶障害ゆえに繰り返し同じことを言うのは認知症の典型的症状です。しかし、その症状が生徒さんをハッピーにして、結果的に患者さんご本人も娘さんもハッピーになれる。今はまだ認知症は完治が難しい病気ですが、こういう良い形を作り出していくことこそが認知症の治療だと思います。

話し手 さちはなクリニック 副院長  岡 瑞紀

さちはなクリニック

さちはなクリニック 副院長  岡 瑞紀

琉球大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神神経科学教室にて研修。国家公務員共済組合連合会立川病院、桜ケ丘記念病院勤務後、慶應義塾大学病院メモリークリニック外来、一般内科医院での認知症診療、各種老人入居施設への訪問診療、保健所の専門医相談、地域研究、家族会など各種講演会での啓発活動を通して、様々なステージや状況下の認知症診療を経験。慶應義塾大学大学院医学研究科にて学位取得。2015年より、さちはなクリニック副院長として、もの忘れ、認知症の診療を担当。

免許・資格:医師/精神保健指定医/精神科専門医/日本老年精神医学会認定専門医/医学博士
所属学会:日本精神神経学会/日本老年精神医学会