未来に備えるお役立ち情報

認知症について知る

患者様ごとに最適な言葉で

認知症の告知をする際に気をつけていることはありますか。

 告知は非常に慎重に行うようにしています。患者様によっては、告知自体が生死に影響する可能性もあるからです。一言で「認知症」といっても、患者様ごとにお持ちの情報やイメージはさまざまです。
 認知症で最も多いのはアルツハイマー型ですが、例えば、“アルツハイマー”に対して絶望のイメージをお持ちの方であれば、まずは“加齢性の脳の病気”と表現してお伝えし、徐々に理解を深めていっていただくこともあります。

 一方、「認知症」という診断がつくことで、今までの不具合の原因が明らかになったと安堵される方・ご家族もいらっしゃいます。患者様自身とご家族が認知症をどのように捉えているのかということが非常に大事だと思っているので、それを問診の段階から確認し、患者様ごとに最適な言葉で告知するようにしています。


早期発見のメリットにはどのようなことがありますか。

 認知症は、現在の医学では治すことはできない病気ですが、薬によって進行を抑制することはできます。認知症の症状が進行すると、ご本人やご家族も予期しないさまざまなトラブルに見舞われることがあります。ですから、認知症だとわかったら、早いうちから自分の能力に見合った環境に調整していくことが大切です。例えば、会社経営をされている方は進退について検討したり、主婦の方は家事のサポート体制を考えたり、多々ある生活上の障害を軽減する工夫をすることでトラブルを未然に防ぐこともできます。

 そして、早期発見のメリットは何より自分の理解や判断力が十分にあるうちに将来のことを考え、自分らしい選択ができる点だと思いますね。


認知症の予防には、どのようなことがおすすめですか。

 私がおすすめするのは、次の4点です。

1.バランスのよい食事を摂ること2.質のよい睡眠をとること3.日中の活動と夜間の休息のメリハリをつけること4.人と積極的に関わること

 日中の活動は、以前からの趣味や特技に加えて、少しだけチャレンジングな新しいことを始めて、今まで使っていなかった脳を活性化させるとよいでしょう。頭を使う活動と身体を使う活動、頭と身体を同時に使う活動の最低3つをバランスよく取り入れることをおすすめしています。

一人で抱え込まないこと

介護をされているご家族の診療もされていると伺いました。

 介護をされているご家族は、多かれ少なかれ心身ともに疲れていらっしゃいますが、ご家族が元気であることが巡り巡って認知症の患者様の健康や安心につながっていることを日々感じています。そのため、まずは認知症の患者様の治療の中でご家族に元気になっていただくことを考えています。

 受診に同伴されるご家族の疲れが癒えるようなお声掛けや介護上の工夫を提案するようにしています。しかし、ご家族の中にはうつ病を発症しているケースもあります。ご家族の方が希望されれば、治療をしていくこともあります。介護をしながら、最善の治療となる工夫を施します。そのために、どのような環境で介護をしているのか、介護を受けている方との関係性などをよく知ることを心がけています。


介護をされているご家族へのアドバイスはありますか。

 ある認知症の患者様のご家族は、「何度同じ話をしてきたとしても相槌を欠かさず、共感の気持ちを示す。たとえ予期せぬトラブルが起きたとしても笑い飛ばす。性格や自尊心を尊重してあげながらも、子育てをしているくらいの感覚で接していると気持ちが楽になれる」とおっしゃっていました。実際、誰もがこのような気持ちになるまでには時間がかかることでしょう。

 ただ、ご自身が笑顔でいることを心がけると、患者様も安心してくれてお互い笑顔でいられるのではないでしょうか。

 大切なのは、一人で抱え込まないことです。今や“老老介護”“介護離職“は社会問題ですが、夫や妻、子供が一人で介護をするのには限界があると思っています。
 お子様やご兄弟、ご親戚がいらっしゃるならば、まずは現状をお話して何らかの協力をお願いしてみていただきたいです。ご近所さんやお友達にお話するのもよいかもしれません。ご自身が思っている以上に同じ介護の悩みをお持ちの方や、すでに介護経験のある方は多いものです。お住まいの地域で開催されている「オレンジ(認知症)カフェ」に参加し、リフレッシュや情報共有することも検討してみてください。

 そして介護サービスを利用するなど、“第三者”の協力も積極的に活用してください。ご家族はできる限り患者様の心に寄り添い、“第三者”が介護対象者の生活指導の役割を担うことが介護においてはベストなのではないかと思います。

一日、一日を丁寧に生きる

誰もが認知症になる可能性があるということで、
認知症になる前にしておくべきことはありますか。

 認知症になると、これまでの人生で歩んできた歴史や記憶が失われたり、ある一時の感情だけが浮き彫りになって鮮明に出てきたりすることもあります。

 例えば、かつてご家族に怒りや憎しみの感情を持ったとしましょう。
 その当時は理性のもとに我慢できたことが、認知症になったことで理性の抑制が効かなくなり、強い怒りや憎しみの感情として現れることもあります。それはご本人にとってもご家族にとってもとても悲しいことですね。ですから、元気なうちから毎日をどう生きるかが大切。一日一日を丁寧に、やり残しや悔いがないよう、気がかりなことやトラブルは解決しておくことが大切です。


今後、ますます認知症の高齢者が増えていくという
推計に対して、もの忘れ・認知症の専門医として
どのようにお考えですか。

 少子高齢化が加速する中、多くの高齢者が公的介護保険制度を利用していくために、若い世代の方の負担が重くなるのは社会的な問題であると捉えています。実際、介護には高額な費用がかかります。

 介護は長期にわたることもあるので、元気なうちからご家族との間で具体的な費用や財産管理を含めて、介護について話し合っておくことをおすすめします。

 そして、今後も専門医として患者様お一人おひとりに寄り添った診療を行っていきたいと思います。高齢者も若い世代もハッピーに暮らせるような社会、認知症になったとしても皆が生きやすい社会になることを願っています。


ありがとうございました。

前のページ
  • 1
  • 2

話し手 さちはなクリニック 副院長  岡 瑞紀

さちはなクリニック

さちはなクリニック 副院長  岡 瑞紀

琉球大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神神経科学教室にて研修。国家公務員共済組合連合会立川病院、桜ケ丘記念病院勤務後、慶應義塾大学病院メモリークリニック外来、一般内科医院での認知症診療、各種老人入居施設への訪問診療、保健所の専門医相談、地域研究、家族会など各種講演会での啓発活動を通して、様々なステージや状況下の認知症診療を経験。慶應義塾大学大学院医学研究科にて学位取得。2015年より、さちはなクリニック副院長として、もの忘れ、認知症の診療を担当。

免許・資格:医師/精神保健指定医/精神科専門医/日本老年精神医学会認定専門医/医学博士
所属学会:日本精神神経学会/日本老年精神医学会