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介護費用を抑える方法は?7つの税金控除と負担軽減の制度・補助金

親や親族を介護するうえで、税金の負担を減らす方法について知りたい方は多いのではないでしょうか。

介護に関連する税金控除は、おもに7つあります。医療費控除や扶養控除などの仕組みを知っておくことで、介護費用の負担軽減が見込めるでしょう。

今回は、介護の平均期間と平均費用を紹介したうえで、介護に関連する税金控除や、介護費用の負担軽減につながる制度・補助金について解説します。

介護の平均期間と平均費用はどのくらい?

まずは、介護の平均期間と平均費用について確認しましょう。

介護の平均期間は5年1カ月

生命保険文化センターの2021年調査(※)によると、介護の平均期間は5年1カ月(61.1カ月)です。また、介護期間の分布で最も多いのは「4~10年未満」で31.5%、次いで「10年以上」が17.6%という結果です。

2009年調査の介護の平均期間は約4年6カ月であったため、以前よりも平均期間は延びており、長期化しやすい介護に備える必要性が高まっているといえます。

介護にかかる平均費用は月額8.3万円

生命保険文化センターの同調査(※)によると、介護にかかる平均費用は月額8.3万円です。ただし、介護費用の分布で見ると「15万円以上」の16.3%が最も多い結果です。

2009年調査の平均費用7.3万円と比べると、月額の平均費用は1万円増えています。なお、住宅改修などにより掛かる一時的な費用の平均は74万円のため、介護全体にかかる費用は高額になる可能性もあることがわかります。

介護費用を抑える7つの税金控除

続いて、介護費用を抑える7つの税金控除を紹介します。

1.社会保険料控除

公的介護保険料は、社会保険料控除を適用できます。給与から天引きされて年末調整を受けている場合は申告不要ですが、確定申告の場合は、源泉徴収票や介護保険料納付済額通知書で保険料を確認し、確定申告書への記入が必要です。

2.医療費控除

1月1日~12月31日までに支払った医療費が10万円を超えた場合(※)、医療費控除を適用できます。医療費控除の限度額は最高200万円で、介護保険制度における施設サービスや居宅サービスなど介護サービスの内容によって、控除対象が規定されています。

例えば、施設サービスの「介護老人福祉施設」を利用した場合は、施設へ支払った介護費や居住費、治療に必要な特別室の利用料などが医療費控除の対象です。ただし、施設内での日常生活にかかる費用やレクリエーションの費用などは、医療費控除の対象から外れるので留意しておきましょう。

その年の総所得金額等が200万円未満の方は、総所得金額等の5%の金額を超えた場合

3.扶養控除

親族を扶養に入れている場合、所得税の控除を適用できます。扶養控除を適用できる扶養親族として認められるのは、その年の12月31日時点で以下4つの要件すべてを満たしている親族です。

1.配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)である
2.納税者と生計を同一にしている(同居・別居は問わない)
3.年間の合計所得金額が48万円以下(2019年分以前は38万円以下)である
4.青色申告者の事業専従者として、その年を通じて給与を一度も受け取っていない、もしくは白色申告者の事業専従者でない

控除額に関しては、扶養親族の年齢や同居の有無で以下のように異なります。
 

区分

扶養親族の年齢

(その年の1231日時点の年齢)[A1] 

控除額

一般の控除対象扶養親族

16歳以上

38万円

特定扶養親族

19歳以上23歳未満

63万円

老人扶養親族

同居老親等以外の者

70歳以上

48万円

同居老親等

58万円

例えば、納税者の扶養に入っている親が70歳以下なら38万円の控除を受けられ、70歳以上で同居状態なら58万円、別居状態なら48万円の控除を受けられます。

4.障害者控除

納税者本人、もしくは同一生計にある配偶者や扶養親族が障害を持っている場合は、障害者控除を適用できます。障害者手帳を持っていなくとも、「障害者控除対象者認定書」が交付されれば障害者控除を受けられます。

障害者控除は要介護認定の有無に関わらず要件を満たせば対象となります。また、自治体によって基準が異なる可能性があるため、自治体に確認しましょう。また、障害者控除の控除額は、区分によって以下のように異なります。
 

区分

控除額

障害者

27万円

特別障害者

40万円

同居特別障害者

(親族のどなたかと同居している特別障害者の方)

75万円


障害者と特別障害者のどちらに該当するかは、当てはまる認定区分によって異なります。ここでは世田谷区を例に紹介しますが、認定区分は自治体によって異なるため、事前に確認しましょう。

 

認定区分

認定基準

障害者に準ずる者

1.身体障害者(3級~6級)に準ずる者

・要介護・要支援に認定されている

・主治医意見書等に記載されている障害自立度がA以上である

(特別障害者に準ずる者を除く)

2.知的障害者(中級・軽度)に準ずる者

・要介護・要支援に認定されている

・主治医意見書等に記載されている認知自立度が2以上である

(特別障害者に準ずる者を除く)

特別障害者に準ずる者

1.重度障害者(1級、2級)に準ずる者

・要介護3以上に認定されている

・主治医意見書等に記載されている障害自立度がB以上である

2.知的障害者(重度)に準ずる者

・要介護3以上に認定されている

・主治医意見書等に記載されている認知自立度が3以上である

3.寝たきり高齢者

・要介護3以上に認定された期間が6カ月以上継続している

・食事、排せつ、入浴のいずれかに介助を要する状態が6カ月以上継続している

障害者控除対象者認定書の申請は、各自治体の保健福祉課や高齢介護課などで行えます。

5.高齢者の税金控除

一定の年齢区分を超えて条件に当てはまることで、税金控除の優遇を受けられるケースがあります。例えば、65歳以上の方に対しては公的年金収入の非課税枠がアップします。

公的年金のみが収入の場合、65歳未満は年金収入が108万円以下、65歳以上は年金収入が158万円以下で、所得税が免除されます。なぜ所得税が免除されるかというと、公的年金等の最低控除(65歳未満で60万円、65歳以上で110万円)と基礎控除の48万円で、課税所得が0円になるためです。

また、配偶者がその年の12月31日時点で70歳以上の場合、※老人控除対象配偶者として48万円の控除を適用できます。一般の控除対象配偶者の控除額は38万円のため、年齢を重ねることで優遇される税金控除の例といえるでしょう。

ただし、本人の所得が900万円以下であることや配偶者にも要件がある

6.子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除

その年の収入金額が850万円超の給与所得者で、以下いずれかの要件を満たす場合は、所得金額調整控除を適用できます。

・本人が特別障害者に該当する者
・23歳未満の扶養親族を有する者
・特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族を有する者

なお、所得金額調整控除額は以下の計算式で算出されます。

・{給与等の収入金額(※1)-850万円}×10%=控除額(※2)

※11,000万円超の場合は1,000万円

※2円未満の端数があるときは、その端数を切り上げ

7.還付申告

税金控除をその年の確定申告の期限までに申告していなくとも、5年以内であれば、還付申告を行なうことで税金控除を受けられる可能性があります。例えば、3年前の医療費控除を申告していなかった場合でも、さかのぼって申告可能です。

ただし、数年分の還付申告をまとめて行なう場合、1年ごとの計算・申告が必要な点には留意しておきましょう。すでに、当該年の確定申告を提出しているときは、「更正の請求書」を所轄の税務署長へ提出しなければなりません。

併せて知りたい!介護費用の負担を軽減できる制度・補助金

税金控除のほかに、介護費用の負担を軽減できる制度・補助金について解説します。

負担限度額認定制度

介護対象の親と同居している場合、世帯分離を行なって親が市町村民税非課税世帯になると、介護保険の負担限度額認定を適用できるケースがあります。負担限度額認定を受けることで、介護保険施設を利用した際の費用負担の軽減が可能です。

負担限度額認定では、所得や資産の要件によって以下のように段階が設定され、負担限度額は、これらの段階と施設の種類、部屋のタイプによって異なります。

利用者負担段階

所得要件

資産要件

単身者

夫婦

1段階

生活保護受給者

なし

なし

市町村民税非課税で、老齢福祉年金受給者

1,000万円

2,000万円

2段階

市町村民税非課税世帯で年金収入等の合計が年間80万円以下

650万円以下

1,650万円以下

3段階(1

市町村民税非課税世帯で年金収入等の合計が年間80万円超120万円以下

550万円以下

1,550万円以下

3段階(2

市町村民税非課税世帯で年金収入等の合計が年間120万円超

500万円以下

1,500万円以下

上表の「年金収入等の合計」には、以下の収入や所得が含まれます。

・公的年金等収入金額
・その他の合計所得金額
・非課税年金収入金額(障害年金・遺族年金等)

また、上表の資産要件が適用されるのは、公的介護保険の第1号被保険者(65歳以上の方)に対してです。第2号被保険者(40歳以上65歳未満の方)が負担限度額認定を受ける場合は、利用者負担段階にかかわらず、資産要件が単身者で1,000万円以下、夫婦で2,000万円以下となります。

高額介護サービス費

介護サービスを利用して自己負担額が一定の上限を超えた際、自治体へ申請することで超過分を受給できる制度です。
一般的な所得者の負担限度額は月額4万4,400円とされていますが、所得区分に応じて1万5,000円~14万100円まで分けられています。

所得区分

負担上限額(月額)

世帯

個人

課税所得690万円(年収約1,160万円)以上

14100

課税所得380万円(年収約770万円)以上

課税所得690万円(年収約1,160万円)未満

93,000

市町村民税課税~

課税所得380万円(年収約770万円)未満

44,400

世帯全員が市町村民税非課税

24,600

世帯全員が市町村民税非課税で、前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方等

24,600

15,000

生活保護を受給している方等

15,000


なお、施設の居住費や食費、住宅改修の費用などは、高額介護サービス費の支給対象外です。

高額介護合算療養費制度

医療保険と介護保険における1年間(毎年8月1日~翌年7月31日)の自己負担の合算額が高額な場合、自己負担分を軽減できる制度です。限度額は年齢と収入によって分けられています。

 

75歳以上

7074

70歳未満

介護保険+後期高齢者医療

介護保険+被用者保険または国民健康保険

年収約1,160万円以上

212万円

212万円

212万円

年収約770万円以上

1,160万円未満

141万円

141万円

141万円

年収約370万円以上

770万円未満

67万円

67万円

67万円

年収約370万円未満

56万円

56万円

60万円

市町村民税非課税世帯等

31万円

31万円

34万円

市町村民税非課税世帯かつ年金収入80万円以下等

19万円(※)

同一世帯内に介護サービス利用者が複数いる場合の限度額は31万円

上表のとおり、年齢区分や年収の状況によって限度額は異なるため留意しておきましょう。

公的介護保険料の減免

以下のようなケースに当てはまる場合、公的介護保険料の減免を受けられる可能性があります。

・生計維持者の入院や死亡、失業などで収入が著しく減った場合
・火災や地震などの災害で、住宅もしくは家財に大きな被害を受けた場合

ただし、公的介護保険料の減免を適用するには、保険料を滞納していない、介護保険施設に入居していないなどの条件を満たしている必要があります。また、自治体により基準が異なるため事前に確認しましょう。

各種補助金

自身の条件に当てはまる補助金を受給することも、介護費用の負担軽減につながります。

例えば、家族介護慰労金の制度では、介護サービスを1年間利用せずに要介護者の介護を行なっている場合、申請により年額10万円程度を受け取れます。ただし、自治体によっては、家族介護慰労金制度がないことや、要介護度だけでなくその他の条件(収入等)も異なる可能性があるため、事前に確認しましょう。

また、高齢者住宅改修費用助成制度では、要介護者・要支援者のために住宅改修する際、18万円を支給上限として、手すりの取り付けや段差解消などの費用が支給されます。

介護費用の医療費控除に関して

ここからは、介護費用の医療費控除に関して見ていきましょう。

医療費控除の対象となる介護サービスの内容とは

介護保険制度下での医療と関係するサービスであれば、医療費控除の対象となります。
例えば、介護医療院などの医療系施設サービスを提供するところであれば、居住費や食費、介護費がすべて控除の対象です。

介護用品の購入費用は医療費控除の対象となる?

介護用品は基本的に医療費控除の対象外です。ただし、おむつ代に関しては、医師から発行される「おむつ使用証明書」と領収書を確定申告書に添付することで、控除が可能です。
おむつ使用証明書は、おおむね6カ月以上寝たきりで、医師の継続治療におむつが必要であると判断された場合に発行されます。

介護に関連する税金控除や制度・補助金・保険をうまく活用しよう

介護の平均期間は5年1カ月で、平均費用は月額8.3万円※とされています。医療費控除や扶養控除、障害者控除など、自身のケースに当てはまる税金控除を適用して、介護全体にかかる費用負担を抑えることが大切です。

場合によっては、負担限度額認定制度や各種の補助金を利用することでも費用負担を軽減できます。また、民間の介護保険のなかには、軽度認知障害(MCI)に認定された段階で給付金を受け取れる保険商品などもあるので、必要に応じて加入を検討することもおすすめです。

介護にかかる費用を少しでも抑えるために、ぜひ今回の内容をお役立てください。
  

朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

AFP 齋藤 彩

急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(Certified Financial Planner)

公開日:2023年7月24日

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