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認知症について知る

あなたの「?」にもの忘れ・認知症の専門医が答える 認知症クリニック

第5回職場や近所の人が、もしかして認知症?仲間として知人として、できることはありますか?

家族ではない、他人だからこそ認知症に気付くことができるケースは多くあります。“他人力”を活かして対応し、早期発見・早期治療へと導きましょう。

家族ではないけれど、よく顔を合わせる、職場や近所の人の言動に異変を感じて「もしかして認知症なのでは?」と思った場合、どうしたら良いのか、何か自分にできることはないのかと思う方は多いのではないでしょうか。

認知症かどうかを見分けるのは非常に難しいものですが、今までの本人をよく知るあなたが異変を感じる場合、認知症ではなくても、別の精神疾患を抱えている可能性もあります。

どんな病気であっても早期発見・早期治療は大切ですので、医師の診察を受けるように勧めてみてください。

ここでは、職場の人と近所の人の認知症が疑われる場合の対応方法などをご紹介します。

もしかして認知症?職場の人の認知症が疑われる場合

例えば、こんなことがあったら要注意

同じ目標や目的を持って、日々コミュニケーションを取りながら共に行動する職場の仲間だからこそ、異変に気付くことができます。上記のような傾向が見られたら要注意です。

取引先とのトラブルが起きた時に「もともとそんな仕事は受けていない」「相手がウソをついている」といった対応をしたことから認知症が疑われたケースもあります。

今までだったらあり得ないようなミスが続いた場合には、本人のためにも放っておくのは絶対NG。そのまま放置すれば社内での信頼を失い、立場をなくして職を失うことにつながるかもしれません。「あれ? おかしい?」と思った時の周囲の対応が、本人の今後を左右する場合もあることを覚えておいてください。

ただし、あり得ないようなミスであったとしても、一度や二度は偶発的である可能性もあります。あくまでミスが続いた場合に行動を起こすようにしましょう。

また、特に若い方の場合は、上記の項目に該当する言動があった時、うつ状態や発達障害、ストレス反応、統合失調症など、他の精神疾患である可能性も考えられます。最初から「認知症」と疑わずに、何らかの異変があると捉えるとよいでしょう。

ケース1本人に直接告げる場合

家族では言いづらいことも、他人だからこそ言える、ということも多いものです。直接話せるような間柄であれば、気になっていることを素直に伝えましょう。
本人も自分の変化や不調が気になっている場合、あなたが口火を切ることで「実は…」と相談しやすくなることもあります。一方で、自分の変化を指摘されたことに驚いて構えてしまい、思い当たる節があるにも関わらず、否定したり、怒り出すケースも想定されます。また、症状の進行具合によっては、病識がないこともあります。
したがって本人に伝える際には、相手を責めるような言い方にならないように配慮しましょう。心配しているからこそ伝えていることを告げ、「何でもなければ安心だから」と専門医の受診を勧めてみてください。

さらに、本人の同意を得ることができれば受診時に付き添うことをおすすめします。実際に認知症の疑いで、上司や同僚に付き添われてクリニックを訪れる方は多くいらっしゃいます。
認知症の診断では、以前と現在でどのような変化があったのか、どのようなミスが多いのかなど、本人では語れない“他人目線”での客観的な情報がとても重要になります。当事者本人のみの受診で、情報が不十分であるが故に診断ができなかった場合、改善策が打てず、かえって本人を苦しめることになってしまうことも考えられるのです。

ケース2本人に直接言いづらい場合

職場の産業医や人事部、総務部など、関連部署に相談しましょう。または、上司など、本人より上の立場の人に相談するのも良いかもしれません。
その際には、本人の行動にどのような変化があったのかを客観的に伝えるのがポイントです。また、本人を責めたり、排除したいのではなく、検査や適切な治療を受けてもらい、お互いが働きやすい環境にすることが目的であることを明確に伝えるようにしましょう。
また、産業医が専門機関への紹介状を書く場合には、本人の変化や気になる行動など、診断のヒントとなる情報を詳しく書いてもらうようにサポートすると親切です。

もしかして認知症?近所の人の認知症が疑われる場合

例えば、こんなことがあったら要注意

会うと立ち話をする近所の方や、お隣のおじいちゃんやおばあちゃん。頻繁に会う存在だからこそ、その変化に気付けることもあるでしょう。

認知症の症状の一つとして現れやすい疑心暗鬼の感情によって周囲の人のことが信じられなくなり、ご近所トラブルへと発展するケースも多く見られます。

「いつもと様子が違う」「こんな人じゃなかったのに」そんな風に感じたら、認知症の可能性を疑っても良いでしょう。

認知症によるもの忘れの特徴は、体験の一部ではなく、体験したこと自体を忘れてしまうことにあります。例えば、健常な人は、昼食に何を食べたのかが思い出せないのに対して、認知症の人は昼食を食べたこと自体を忘れてしまいます。

また、認知症のもの忘れの場合は、本人がもの忘れをしていることに気が付かないというケースも多くあります。さらに認知症が進行すると判断障害が起き、計算ができなくなったり、時間や場所が分かりづらくなったりします。

認知症の疑いを持った場合には、家族や親戚など、本人の近親者を知っていれば、自分が感じた変化を伝えて、病院での受診を提案してみましょう。

近親者の方が認知症への理解が乏しい場合には、認知症は、早期発見・早期治療がとても大切であること、早期発見・早期治療が本人と家族のこれからの暮らしを左右することを話すと納得してもらえるかもしれません。


近親者に伝えるのが難しい場合には、地域包括支援センター、または市(区)役所、警察署などに相談してみましょう。

“他人力”を活かしたサポートを

親御さんが通院している
病院に相談する

認知症の方にとって、家族以外の人と交流を持つことは大切なこと。挨拶だけでも、なるべく声をかけることを心がけましょう。
また、症状が軽度の場合には、地域の活動やレクリエーションに誘ってみましょう。一人暮らしの方や家族がいても孤食の方は、栄養が偏りがちなので、バランスのよい食事のためにも、複数人で食事をする機会を作ってみてはいかがでしょうか。

認知症の方の「家族をサポートする」姿勢も大切です。

認知症の方の外出先での様子を定期的に家族に伝えることも他人だからできることの一つです。同居の場合もそうですが、離れて暮らす家族にとっては、なおさら貴重な情報となるでしょう。介護割引や便利グッズなど、遠距離介護の情報を教えてあげるのも良いかもしれません。

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職場の人の認知症が疑われる場合、近所の人の認知症が疑われる場合、どちらのケースでも大切なのは「この人は認知症かもしれない」という思いを自分一人で抱え込まないことです。周囲の意見を聞いたり、職場や家族、地域包括支援センターなどと連携しながら、温かく見守り、タイミングを見て病院で認知症検査を受けるように誘導しましょう。

また、本人や家族は、変化に気付きにくいもの。他人だから気付くことができる“他人力”を活かして、早期発見をサポートしましょう。

もしかして迷っている? そんな時どうしたらいい?

街で迷っていたり、困っていたりする認知症と推察される方を見かけた時、どのようにサポートすればよいのでしょうか?

時間や気持ちに余裕がある時は「どうしましたか?」「何かお困りですか?」などと優しく声をかけたいところです。しかし、認知症の場合、とても怒りっぽくなっていたり、例えば、誰かから逃げているという妄想の中で街を彷徨っていることなどもありますので、声をかけた人を、自分を邪魔する存在だと思って攻撃的な反応をすることも考えられます。声かけの際にはそのことを踏まえて、駅であれば駅員さんに、店内であれば店員さんに、街中であれば警察の力を借りるなど、周囲の方と一緒にサポートするようにしましょう。

例えば、こんなことがあったら要注意

職場や近所の人が認知症かも!? “他人力”が助けになった事例を見てみましょう。

事例 1ケーキ屋を営んでいる若年性認知症の62歳男性Aさん

海外で本場の菓子作りを学び、雑誌に載るようなこだわりのケーキ屋を経営しているAさん。

半年前くらいから、家の冷蔵庫に靴を入れたり、親戚の集まりで、失礼なことを言ってその場の空気を凍りつかせたりといったことが起きていたが、奥様は心配しながらも「疲労によるうっかりだろう」と軽く考えていた。

しかし、しばらくすると、ケーキ屋のスタッフから奥様宛に「店長が心配」という電話があった。聞けば、以前から使い慣れているはずの菓子作り用語が出てこなくなり、「あれは何だっけ?」とスタッフに尋ねることが頻繁にあると言う。このままでは店の経営に問題が出てきてしまうかもしれないと心配して連絡したとのこと。

病院で検査を受けた結果、若年性の認知症であることがわかった。


職場の方からの「店長の異変」の報告の電話が、病気の発見のきっかけになったのですね。これぞ「他人力」だと思います。

このように、若年性認知症の場合に多いですが、お勤めをしている状況の中で認知症を発症した場合、異変に気付くのは職場の方であることも少なくありません。自宅では、あまり話しをしないタイプの方ですと、家庭生活の中では決定打が得られないということもあります。また、あとから思い返せば病気の症状だと思う言動も、家族だと不安には思うものの「そんなはずはない」と打ち消してしまったり、病院受診や検査にまでつなげられないことはよくあります。この店員さんが、奥様に電話をせずにだまって辞めてしまっていたら、と考えると本当にありがたい勇敢な行動だったのではないかと思います。

事例 2 認知症といわれたが通院せず家にこもっている83歳男性Bさん

公務員として定年まで勤め上げ、5年くらい前までは、通学路の交通安全係をしたり、お祭りの世話役をしたりと積極的に地域活動に参加していたBさん。奥様が亡くなったのをきっかけに、娘さんの家族と同居することになった。

家庭医の定期健康診断の際に、簡易な検査から認知症だと言われたのだが、それをきっかけに通院もしなくなり、家族は頭を抱えていた。

同居開始後、娘さんは、以前は活発だったはずの父親の口数が少なくなり、家の中でごろごろとしていることに違和感を持つようになった。外出を促すことでケンカになることも多かった。

そんな時、娘さんは回覧板で地域のお祭りのことを知り、思い切って実行委員の方に話を聞きに行った。すると、Bさんは、以前は喜々としてお祭りを仕切っていたが、数年前から顔を出さなくなったとのこと。「また来てくれるとありがたい」とのことで、再び父親を誘ってみてもらうようにお願いしたところ、早速その夜、自宅を訪れてくれた。

「また顔だけでも出してくださいよ」という実行委員の方の誘いに、最初は「もう歳だから」とか「足も目も勘も悪くなってしまったから」と言っていたBさんだったが、「みんなが会いたがっている」と粘り強く誘ってくれたことで、お祭りの準備に顔を出すことになった。

お祭り当日、Bさんは、やぐらや提灯などの祭りの備品や神輿の飾りつけ方などについて、お孫さんに生きいきと説明していた。


これも「他人力」により、認知症の進行予防につながった事例ですね。このようなきっかけで再び外出しだして人間関係が再開することで、行き詰っていたことも好転する可能性があります。今後は再開した関係を大切に維持できるといいですね。

地域とのつながりがよい刺激になり、認知症の進行予防やご家族の介護負担の軽減となることが「優しい認知症治療」だと思います。

話し手 さちはなクリニック 副院長  岡 瑞紀

さちはなクリニック

さちはなクリニック 副院長  岡 瑞紀

琉球大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神神経科学教室にて研修。国家公務員共済組合連合会立川病院、桜ケ丘記念病院勤務後、慶應義塾大学病院メモリークリニック外来、一般内科医院での認知症診療、各種老人入居施設への訪問診療、保健所の専門医相談、地域研究、家族会など各種講演会での啓発活動を通して、様々なステージや状況下の認知症診療を経験。慶應義塾大学大学院医学研究科にて学位取得。2015年より、さちはなクリニック副院長として、もの忘れ、認知症の診療を担当。

免許・資格:医師/精神保健指定医/精神科専門医/日本老年精神医学会認定専門医/医学博士
所属学会:日本精神神経学会/日本老年精神医学会