認知症について知る

認知症になると寿命は短くなる?
平均的な寿命と寿命を左右する要因や死因・末期のケア


認知症になることで、寿命は短くなるのでしょうか。
さまざまな研究結果によれば、認知症患者の寿命(余命)は発症から5年~12年といわれており、認知症でない人よりも寿命が短くなる傾向にあることがわかっています。
しかし、年齢や性別など、寿命に関与するさまざまな要素についても理解を深めることが大切です。

この記事では、認知症患者の平均寿命、寿命に関与する要素、認知症のおもな死因などを解説します。また、終末期の緩和ケアについても説明しているので、気になる方はぜひ参考にしてください。

認知症患者の寿命(余命)は発症から5~12年

認知症患者の寿命に関しては、日本のみならず海外においてもさまざまな研究が行なわれています。

研究によって結果は異なりますが、認知症を発症してからの余命は、おおむね5年~12年といわれています。

認知症の寿命には、さまざまな要因が関係していると考えられており、年齢や性別、身長、病型、症状の進行度合いなど、患者の状態に個人差が見られることは想像に難くありません。

なお、公益社団法人「認知症の人と家族の会」の調査※によると、認知症の介護に要する時間は、要介護2以上になってから平均で約8年という結果があります。しかし、病型の違いや進行スピードは患者によって異なり、早く経過する人もおられます。認知症の診断を受けてすぐに要介護認定の2以上になる人は多くはなく、長い人では20年以上介護を続けているという人もおられます。平均年数はあくまでも参考として考えておくとよいでしょう。

参照:中等度・重度認知症の人の在宅生活継続に関する調査研究事業報告書(公社認知症の人と家族の会,2023)令和4年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業

認知症の寿命(余命)に関与する要素

認知症の寿命には、以下の3つの要素がおもに関与していると考えられます。

・ 発症年齢
・ 性別
・ 症状の進行具合

年齢を重ねることで、身体機能や精神機能など、さまざまな機能が低下し、合併症を起こす可能性が高まります。高齢になると、自身で医療機関に出向くのが困難になったり、症状を思うように伝えられなくなったりすることで、合併症への対応が遅れてしまう可能性があることに注意が必要です。

性別においては、さまざまな研究データが報告されていますが、明確な根拠があるとはいえません。しかし、多くのデータによれば、女性よりも男性のほうが認知症発症後の寿命は短いことが判明しています。

また、症状の進行が早いと寿命が短くなる傾向にあります。病型によっても進行スピードに違いはありますが、病型と寿命の関係性はこの限りではありません。

認知症の進行段階と末期段階での症状

認知症では、前兆(軽度認知障害)・初期(軽度)・中期(中等度)・末期(重度)と、進行段階が4つに分類されます。
それぞれの段階における症状を理解していれば、進行を緩やかにしたり、適切に対応したりすることが可能です。症状を見落とさないためにも、段階ごとの進行状況を確認していきましょう。

前兆(軽度認知障害)

前兆期は軽度認知障害(MCI)とも呼ばれる段階であり、明らかな認知機能障害が見られる状態ではありません。この段階では、もの忘れや不安感といった症状が見られるようになりますが、日常生活に支障をきたすほどではないのが特徴です。

軽度認知障害は、10年ほど前から兆候が出現するケースもあり、年間10%~15%の人は認知症に移行する可能性があるといわれています。早期に発見できれば早めに治療できる可能性が高いため、進行を緩やかにすることが可能な状態といえるでしょう。

参照:厚生労働省e-ヘルスネット「軽度認知障害」

初期(軽度)

発症から1年~3年ほど経過すると、初期段階の症状が出るようになります。もの忘れなどの記憶障害から始まり、日時を理解するのが難しくなるといった見当識障害の症状も見られるようになるのが初期段階の特徴です。

前兆期よりもできないことが増えるため、日常生活に支障が出始める時期といえます。また、自信喪失によって感情表現が乏しくなることもあり、うつ病を疑われるケースもあるため注意が必要です。診察時には、状況を適切に伝えることが大切といえるでしょう。

中期(中等度)

中期に入ると、記憶障害が深刻化し、認知症であることが日常生活のなかでわかりやすくなります。また、中期では妄想や作り話など、周辺症状が出現する状態にあることも理解しておく必要があるでしょう。

この時期に入ると、食事や着替え、入浴などを自身で行なうのが難しいため、介護が必要になります。中期は簡単なこともできなくなったり、失語により会話が困難になったりすることから、介護する側も大変な時期といえるでしょう。

末期(重度)

末期の特徴は、コミュニケーションを取るのが難しくなることや、運動障害・歩行障害といった症状が見られるようになることです。また、嚥下障害や失禁も起こる可能性が高まるため、常に介護を要する時期でしょう。

末期は、ベッドで過ごす時間が増えたり、寝たきりの状態になったりする時期でもあります。そのため、手厚い介護が必要となり、介護者自身も周囲からサポートを受けなければ対応が難しくなるかもしれません。

認知症のおもな死因は?

認知症は、身体機能の低下や免疫力の低下による呼吸器感染、循環器疾患を引き起こすことで死に至るケースが多いといえます。そのため、認知症そのものが死因となることはほぼありません。ここでは、認知症患者に多いといわれている死因について解説します。

肺炎

認知症を発症すると身体機能が低下するため、感染症リスクが高まります。さらに、嚥下機能が低下し誤嚥を起こすと、異物とともに細菌が侵入する可能性があります。高齢になることで免疫力も低下し、細菌への攻撃力も弱まることで重症化につながるのです。

特に、嚥下障害などで経管栄養を行なうことが多い末期には、誤嚥による肺炎が起こりやすくなります。根本的な解決が難しく、誤嚥性肺炎を繰り返し全身状態が徐々に悪化することで致命的となるケースも多いでしょう。認知症の死因として多いのは肺炎ですが、そのプロセスには嚥下機能の低下が深く関わっていることがわかります。

老衰

認知症になると、認知機能が低下して寝たきりになる症例があります。また、身体機能の低下により、積極的に運動する機会も減少するでしょう。そのため、骨粗鬆症が進行し、転倒や骨折が起こりやすくなり、寝たきりの生活を送ることもあります。

さらに、嚥下障害によって食べ物を飲み込みづらくなると、食事ができなくなってしまい栄養状態の悪化や脱水を引き起こす危険性がある点に注意しなければなりません。もっとも、老衰という状態は、認知症特有のものというより、加齢により誰もがその経過をたどる可能性が高いと考えられます。

認知症末期のケア

認知症が進行することで、さまざまな苦痛を感じるようになることが予想されます。緩和ケアによって苦痛を和らげることは大切ですが、適切な方法とはどのようなものなのでしょうか。ここでは、終末期(末期)における緩和ケアのあり方や、症状別の緩和ケアを紹介します。

認知症における緩和ケアの特徴

認知症以外の疾患では、患者の苦痛を和らげることを目的とし、終末期の緩和ケアを行なう症例があります。本来であれば本人が苦痛を訴えた時点で緩和ケアを始めますが、認知症の終末期患者の場合、苦痛を認識し、周囲に伝えるのは困難です

認知症に終末期のケアを行なう場合は、起こりうる苦痛を客観的に評価して対応することが大切です。海外ではいくつかの客観的評価スケールが用いられていることから、日本でもこのような評価を参考にしている医療機関はあるようです。

終末期に入るとコミュニケーションが難しくなり、意思表示も思うようにできなくなるでしょう。ゆとりのある終末期を過ごしたり最適な医療を受けたりするためにも、早い段階でアドバンス・ケア・プランニングを検討し、周囲と話し合っておくことが大切です。

認知症終末期に発生する症状と緩和ケア

認知症の多くは高齢者であり、免疫力が低下している可能性が考えられます。そのため、感染症が原因で食欲不振になり、衰弱する危険性もあるでしょう。このような場合は、適切に治療することで改善を目指すことが大切です。

また、症状が進行することでコミュニケーション不足になり、孤独感が苦痛につながるケースもあります。意思疎通が困難な場合は、非言語コミュニケーションを活用し、コミュニケーションを継続するようにしましょう。

肺炎を起こしている症例では、喀痰吸引を頻繁に行なうことや呼吸困難が苦痛になると考えられます。このような場合は、肺炎の原因ともいえる誤嚥を防ぐために、口腔ケアを行なってみてください。なお、口腔ケアは、感染症防止の観点から経口摂取ができなくなった患者に対しても予防ケアとして行なうことが大切です。

認知症と付き合っていくために
患者ができること・患者の家族ができること

認知症と診断されると、本人だけでなく家族も戸惑うことでしょう。認知症という症状を抱えながら生きていくにあたって、患者・家族のそれぞれができることは何なのでしょうか。ここでは、患者および患者の家族ができることを解説します。

患者ができること

認知症と診断されたら、まずは適切な行動を取れるように正しい知識を身につけることが大切です。また、かかりつけ医を見つけて治療を受けることで、早期治療にもつながります。かかりつけ医を探す際は、市区町村のWebサイトを参考にするとよいでしょう。

今後も安心感を持って生活するためには、経験者の話を聞くのも効果的です。成功例や失敗談など、具体的な例から多くの情報が得られます。

症状が進行することで、サポートが必要になる場面が増えるかもしれません。また、自身の気持ちを周囲に伝えることが難しくなる可能性も高まります。そのため、早い段階で周囲の人に自身の考えを共有しておくことが大切です。

患者の家族ができること

認知症と診断されれば、本人だけでなくご家族も戸惑いを感じるでしょう。これまでのような生活を送ることは難しくなるかもしれませんが、正しい知識を持って適切な接し方を心得ておくことが大切です。

また、本人が認知症を自覚することは、精神的に大きな衝撃となる可能性があります。ショックを受けることで生活に支障をきたすことも想定されるため、できる限りのサポート体制を整えておきましょう

交代制で介護する場合でも、症状によっては人手が足りなくなることが予想されます。公的介護保険制度を有効活用し、介護者自身の時間も大切にしてください。

認知症患者の言動には、さまざまな背景があります。難しいところもあるかもしれませんが、本人の行動や感情を頭ごなしに否定するようなことはせず、本人の意思に寄り添って対応するように心がけましょう。

認知症を発症したら進行する前に今後の対応を話し合っておこう


認知症を発症してからの寿命は、おおむね5年~12年といわれています。認知症発症後の寿命には個人差があり、発症年齢や性別、症状の進行具合などが関与しているため、寿命は参考程度に考えてください。

認知症は進行段階によってさまざまな症状が出現するため、どのようにケアすれば良いのか理解を深めることが大切です。患者本人の意思を尊重した生活を送れるように、早い段階で意見を共有し、今後の対応について話し合っておきましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年8月4日

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