認知症について知る

認知症は何科を受診すれば良い?
本人が受診を嫌がる場合の対応とは


身近な人の気になる様子を見て、「もしかして認知症?」と感じたことがある方は多いのではないでしょうか。認知症を早期に診断し治療を始めることは、認知症の症状を軽減し進行を緩やかにすることにつながります。

しかし、病院にはさまざまな診療科があるため、身近な人が認知症かもしれないと感じても何科を受診すれば良いのかわからないと迷ってしまうケースが少なくありません。

この記事では、認知症を疑う場合に何科にかかるべきかを解説します。また、認知症診断の一般的な流れや治療法についても紹介するため、ぜひ参考にしてください。

認知症の受診を検討するタイミング

認知症の受診を検討するタイミングは、認知症の初期症状にあたる様子に気がついたときです。ここでは、認知症のおもな初期症状や早期診断の重要性を解説します。

認知症の初期症状

認知症の初期症状として、以下のような症状が挙げられます。

● 数分前や数時間前にあったことをすぐに忘れる
● しまい忘れ・置き忘れが増え、いつも探し物をしている
● 同じものをいくつも購入してくる
● 身だしなみに気を遣わなくなる
● 趣味や好きなことに興味を示さなくなる

認知症の初期症状は身近な家族が気付けることが多く、上記のような症状に気付いたときは受診を検討するタイミングといえるでしょう。

認知症の早期診断は重要

認知症の初期症状に気付き、早期の診断を受けることは非常に重要です。

早期に医師の診察を受けて認知症かどうかを診断されることで、気になる症状の原因が認知症以外の病気であった場合でも、適切な治療を受けられます。

例えば、頭部の打撲によって発症した脳内出血が認知症に似た症状を引き起こしているケースでは、早期の処置で症状を改善することも可能です。診断が遅れると適切に治療できない恐れがあります。

また、受診によって認知症であることが確定した場合でも、早期の治療や介護サービスにつながれば、本人の将来的な生活の質は大きく高まるでしょう。

認知症が疑われるときは何科にかかるべき?

身近な人について認知症が疑われる場合は、認知症の初期症状に気付いたタイミングで早期に受診することが大切です。

ここでは、認知症が疑われるときに何科を受診すれば良いのかを、かかりつけ医がいる場合といない場合に分けて説明します。

まずはかかりつけ医に相談

「認知症なのでは?」と感じたときは、まずは本人のかかりつけ医に相談するとよいでしょう。かかりつけ医とは、風邪や体調不良などの際に診察してもらったり健康について相談したりできる、身近で信頼できる医師のことです。

かかりつけ医は本人の普段の様子やこれまでの病気、身体の状態をよく知っています。認知症が疑われるときでも、普段から信頼を置いているかかりつけ医に相談すれば安心です。

診察の結果、かかりつけ医が認知症の疑いが強いと判断した場合、状況に応じた医師や病院を紹介してくれるでしょう。

かかりつけ医がいない場合

特定のかかりつけ医がいない場合は、以下の診療科を受診するとよいでしょう。

● 脳神経内科
● 脳神経外科
● 精神科
● 心療内科
● 老年科
● 「もの忘れ外来」を開設している病院

認知症の原因によって該当する診療科が異なるため、認知症の受診が可能な診療科は多岐にわたっています。本人や付き添う家族が通いやすい病院を選ぶのがおすすめです。

ただし、初診で紹介状を持たずに受診する場合は、診察までに長い時間がかかる傾向があります。スケジュールには余裕を持たせて受診しましょう。

認知症診断の流れ

認知症かどうかを診断するための一般的な流れを解説します。総合的な診断によって、認知症かどうかだけでなく、認知症の種類や進行度を明らかにすることが可能です。

1. 診察

診察では医師が本人や家族に対し、現在の状態やこれまでにかかった病気などについて尋ねます。本人が受診に乗り気でない場合は何も答えない可能性があるため、家族が状況をある程度把握しておくことが必要です。

医師が認知症の診察で尋ねることの多い質問を以下に挙げます。

● 認知症が疑われる症状が出始めた時期
● 気になる症状の詳細
● 既往歴
● 飲んでいる薬

2. 身体検査

認知症の診断では認知症以外の病気である可能性の有無を調べるため、一般的な身体検査が実施されます。おもな身体検査は以下のとおりです。

● 血液検査
● 心電図検査
● 感染症検査
● X線撮影

これらの検査によって医師は身体の全体的な健康状態を確認し、今後の医療や介護の方針を検討します。

3. 神経心理学検査

認知機能を測定するため、日時や場所の認識、簡単な計算、文字を読むなどの検査が行なわれます。

代表的な検査は以下の3つです。
● 改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
● ミニメンタルステート検査(MMSE:Mini Mental State Examination)
● 時計描画テスト

検査の点数が一定基準を下回った場合、「認知症の疑い」と判定されます。

ただし、本人が緊張や不安を感じているときや抵抗を覚えて協力的でないときは、検査で提示される課題に対応できないこともあるでしょう。

点数が基準よりも低いことで自動的に認知症と診断されるわけではないため、リラックスして検査に臨むことが大切です。

4. 脳画像検査

認知症の検査では、画像をもとに脳の萎縮度合いや脳内の血流の低下を調べる脳画像検査も行なわれることがあります。おもな検査は以下の4つです。

● CT
● MRI
● SPECT
● VSRAD

CTはX線を利用したコンピュータ断層撮影です。MRIでは電磁気によって脳の状態を判定します。

またSPECTとは放射線検査薬を注射し、薬の体内動向によって脳の血流量を確認する検査です。VSRADではMRI画像を統計的に解析します。

脳血管性認知症やレビー小体型認知症など、画像検査は診断や鑑別の一助となることがあります。

認知症の治療法

認知症に対する治療法には薬物療法・非薬物療法・適切なケアの3つがあり、ポイントは3つの治療法をバランス良く行なうこととされています。

薬物療法

認知症の薬物療法は以下の2種類に分けられます。

● 抗認知症薬によるもの
● 認知症の行動・心理症状を抑える薬によるもの

抗認知症薬による薬物療法は、記憶力や判断力の低下といった認知症の中核症状の進行を遅らせる目的で行なわれ、「コリンエステラーゼ阻害薬」などを使用します。

抗認知症薬は認知症を比較的軽度な状態に長く保つことが可能です。ただし、進行を完全に止める薬ではありません。

また、認知症の行動・心理症状を抑える薬による薬物療法では、睡眠薬や抗不安薬などが処方されます。抑うつや不眠、不穏など、認知症の行動・心理症状から生じる生活の悪循環を和らげることが目的です。

非薬物療法

認知症の非薬物療法は、認知症を患っている方の生活の質を高める効果を期待できます。例えば、読書・ゲームといった知的活動や趣味活動、回想法などは、認知症の代表的な非薬物療法です。

認知症の症状によって生じる不安や焦りに苦しんでいる場合でも、好きな活動に集中すれば本人が自分らしく過ごすことができます。

認知症の非薬物療法にはさまざまな種類があるため、本人にあったものに取り組むことがポイントです。

適切な介護

薬物療法や非薬物療法で認知症の進行を緩やかにしている間に、本人と家族に適した介護サービスを導入することも大切です。環境を適切に調整することで、本人や家族の生活の質をより良く保てます。

認知症を患っているという状況にゆっくりと慣れ、適切な介護の体制を整える時間を確保するために、薬物療法や非薬物療法を実施するとよいでしょう。

認知症の疑いで受診する際のポイント

認知症診断のために受診する際に、押さえておきたいポイントを4つ紹介します。

本人が受診を嫌がるときは工夫して伝える

本人が受診を拒否する場合、無理やり連れていくと不安をあおり逆効果となってしまいます。

認知症という言葉はできるだけ使わず、「念のために行こう」「予防のために早めに受診する人が多い」などと伝えるとよいでしょう。

また、家族や親族のなかでもさまざまな関係性が存在するため、受診を勧める場合、本人に伝える人を変更するという方法も有効です。

受診にむけて情報を整理しておく

実際に受診する段階になると本人だけでなく家族も緊張して、認知症が疑われる現在の状況や困りごとを医師にうまく伝えられないことがあります。

事前に症状や既往歴の情報をメモしておくなど、情報を整理しておくとスムーズに受診することが可能です。

また、症状や既往歴などの具体的な情報だけでなく、家族として不安なことや医師に相談したいことを書き留めておくのもよいでしょう。

診断結果はできるだけ誰かと一緒に聞く

受診の結果「認知症」と診断された場合は、本人・家族ともに精神的なショックのために医師からの説明や重要な情報を聞き逃してしまう恐れがあります。

認知症かどうかの診断結果はできるだけ一人ではなく、ほかの家族や信頼できる人と聞きましょう。

診断結果を聞く場への同席が難しい場合でも、結果を聞いたあとすぐに誰かに連絡できる体制を整えておくことをおすすめします。

認知症と診断された場合は公的機関に相談する

認知症と診断された本人や家族は、事実を受け入れられなかったりショックのためふさぎこんでしまったりすることもあります。まずは精神的なケアが重要です。

気持ちが少し落ち着いたあとには、本人が今後どのように過ごしたいか、また将来に備えて何をしておくべきかなどを確認する必要があります。疑問や悩みごとがある場合は、地域包括支援センターに相談するとよいでしょう。

認知症で何科にかかるか迷うときはまずかかりつけ医に相談を


認知症の早期診断・早期治療は、本人や家族の将来的な生活の質をより良くすることにつながります。

認知症の初期症状にあたる様子に気付いたときは、受診を検討するタイミングです。まずは、本人の普段の状態をよく知る、かかりつけ医に相談しましょう。

 

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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年8月24日

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