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認知症の症状<暴言>~認知症による暴言の原因や対応方法とは?

認知症を発症した家族の介護をしている方の中には、暴言の対応に悩まれている方もいらっしゃいます。
頻繁に暴言を受けていると、介護する側は精神的に追い詰められてしまいます。

本記事では、認知症による暴言の原因・暴言への対応方法をご紹介します。介護をする人自身の精神を守るためにも、認知症の症状である「暴言」について把握しておきましょう。

認知症による暴言とは

認知症を発症すると、人が変わったように暴言を発するようになる場合があります。それは本性が現れたのではなく、認知症による影響で暴言の「症状」が現れているのです。認知症では理解力や判断力が低下し、苛立ちが芽生えやすい状態です。そこに何らかのきっかけが加わると「怒り」となり、暴言を発してしまいます。詳しい原因やきっかけとなることを解説します。

暴言が出る理由や原因

暴言が出るのには理由や原因があります。認知症の影響は大きく、種類によって暴言症状の現れやすさが異なります。

認知症の影響

暴言が出る理由・原因は、認知症の影響が大きいです。認知症で生じる症状には、「中核症状(認知機能の障害)」と「BPSD」と呼ばれる中核症状の影響で現れる行動・心理の症状があります。中核症状には、記憶障害、見当識障害、遂行機能障害、理解・判断力の低下、失行・失認などがあります。一方のBPSDには、暴言、徘徊、抑うつ、せん妄、睡眠障害、興奮といった症状があります。つまり、認知症で生じる認知機能障害が原因となり「暴言」が引き起こされているのです。

認知症の種類によって障害されやすい脳の部位は異なるため、暴言症状の特徴も異なってきます。それぞれ見ていきましょう。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉が何らかの原因で神経に異常をきたして生じる認知症です。他の認知症と比べて、認知症を発症してから早い段階で暴言の症状が現れやすいのが特徴になります。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれるタンパク質が特定部位に蓄積して生じる認知症です。レビー小体型認知症の特徴的な症状である「幻視」から暴言につながる場合が多くなっています。よりリアルな物や人物が見えるため、それらに対して恐怖を感じて感情が高ぶり、暴言が出やすいのです。

血管性認知症

認知症の種類の中でも2番目に発症割合の高い認知症です。血管性認知症は、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害で発症した認知症です。脳血管障害で血流が妨げられ、脳細胞に影響が届かなくなるため障害部位の脳細胞が壊死してしまいます。障害が発生した部位が感情のコントロールを行う前頭葉の場合、暴言の症状が出やすい状態と言えます。

アルツハイマー型認知症

認知症の種類で最も発症割合の高い認知症です。アミロイドβとタウタンパクと呼ばれる異常なタンパク質の蓄積が原因となります。異常なタンパク質の蓄積により脳全体で細胞の萎縮が起こり、理解力や判断力の低下、感情コントロールの低下を生じ、暴言症状が現れます。そのため、アルツハイマー型認知症では症状が進行した際に暴言を発しやすくなるのが特徴です。また、睡眠障害を併発しやすいため、その影響から暴言に発展する方も少なくありません。

不安を感じた

そもそも不安は、自分の身を守るための防衛反応です。脳の「扁桃体」と呼ばれる部位は、不安や恐怖を感じたときに活動するとされています。扁桃体は、身を守るために不安や恐怖を感じると、闘う、逃げるといった行動を身体にとらせます。つまり、認知症者は扁桃体の機能から「暴言」を発し、身を守っているのです。

感情をコントロールできない

普段私たちは、脳の「前頭葉」で感情のコントロールを行っています。怒りを感じたときに自制心を働かせられるのは前頭葉が機能しているおかげです。しかし、認知症になると脳細胞の萎縮で前頭葉の機能が低下しているため、感情のコントロールが難しくなり暴言症状が現れやすくなっています。

自尊心が傷ついた

みなさんも自尊心が傷つけられ、悲しみから来る怒りを覚えた経験に覚えがある方も少なくないでしょう。認知症者も同様に、自尊心が傷つけられると怒りを感じ、暴言となって現れる場合があります。

体調が悪い

体調の悪さは、暴言のきっかけになります。特に認知症者は、感情コントロールが難しいため、体調が悪いことでさらに感情の不安定さを招きます。暴言を防ぐために、普段から認知症者を観察し、いつもと違うところがないか確認することが大切です。

薬の影響

認知症に対して薬剤を服用した際、副作用として怒りやすく(易怒性)なることがあります。例えば、認知症に用いられる「ドネペジル」という薬です。ドネペジルはアルツハイマー型認知症に対して使用される場合が多いですが、副作用の1つに易怒性があり、それによって暴言を発してしまいます。薬物療法を行う場合は治療だけにとらわれず、薬がもつ副作用に注意してください。

認知症による暴言はどんなときに出やすい?

認知症による暴言に対応する際、どんなときに暴言が出やすいのかを把握しておくことは非常に大切です。主に暴言が出るタイミングは次の3つです。

● 不安や混乱を感じているとき
● 自尊心を傷つけられたと感じるとき
● 体調・気分がよくないとき

何のきっかけもなく暴言が出る場合もありますが、ここでは上記3つに焦点を当て解説します。

不安や混乱を感じているとき

認知症になると理解力や判断力が低下します。それによって人との会話で理解できないことがあったり、周囲の状況を理解できなかったりしやすいため、不安や混乱を生じます。それが怒りにつながり、暴言を発してしまうのです。

自尊心を傷つけられたと感じるとき

認知症を発症しても、プライドは持ち続けています。 例えば、認知症を発症する前に会社の社長をしていれば、やはり上に立つ者としてのプライドを持っていたりします。

体調・気分がよくないとき

体調や気分がよくないときは、感情が不安定になりやすく暴言の症状が現れやすいです。また、認知症者は自身の不調を伝えることがうまくできません。周囲に不調を知らせるために、暴言を手段として利用する場合もあります。

認知症の暴言への対応方法

認知症の暴言に対して、上手く対処できないと介護する側の精神が耐えられなくなるおそれがあります。対応方法を把握し、介護負担を減らせるようにしましょう。

物理的な距離を取る

暴言の症状が出た場合、物理的な距離を取り落ち着くまで待つのも1つの方法です。認知症では理解力も低下しているため、声かけをしても負の感情の引き金になりかねません。一度物理的に距離を取り、落ち着くまで待ってみましょう。

感情的な距離をとる

認知症者から暴言を受けたとき、頭の中がそのことでいっぱいになり精神的に追い詰められます。一度、自分の趣味や好きなことを行い、感情的な距離をとってみるとよいです。いくら家族であっても、常に認知症者のことを考えるのは大変です。気分転換しながら上手に付き合いましょう。

誰かに話す・相談する

何度も怒りの感情を暴言としてぶつけられると一人で抱えるのは困難です。自分一人で抱えきれなくなった場合は、誰かに話したり相談したりするのが大切です。友達や家族に悩みを打ち明けるのもよいでしょう。

地域包括支援センターで相談する

地域包括支援センターは、高齢者の介護や保健、福祉、医療など幅広く相談に乗る総合相談窓口です。ケアマネージャーや保健師などが在籍しているため、専門家のアドバイスを受けられます。家族や友人に相談しても解決できない悩みであれば、積極的に活用することをおすすめします。

暴言を予防・改善する方法

先ほど暴言が出る原因やきっかけを解説しました。それらを把握したうえで認知症の暴言を予防・改善する方法をご紹介します。

日頃のコミュニケーションで注意すること

認知症の方とのコミュニケーションには十分配慮する必要があります。以下を意識して接してみましょう。

否定しない

まずは相手を否定しないのが大前提になります。否定されると負の感情が爆発するきっかけになるため、相手を受容することから始めるのが大切です。言葉だけでなく対応の仕方や行動にも注意しましょう。

不安や混乱にはまり込まないようにする

不安や混乱は、認知症者の暴言を引き出すきっかけとなります。どのようなときに不安や混乱を招きやすいのかを把握し、避けるようにしましょう。コミュニケーションにおいて、こちら側はわかりやすく言っているつもりでも、認知症者には理解できないといった場面も少なくありません。思い込まず相手と丁寧にコミュニケーションを取るとよいです。

自尊心を大切にする

認知症者の自尊心を傷つけないよう、コミュニケーションの取り方に注意しましょう。一人ひとり傷つくポイントは異なるため、相手に合わせることが大切です。「相手を否定せず受容する」を心掛ければ、おのずと自尊心を大切にできるので意識してみてください。

認知症者と介護者の感情を大切にする

認知症者だけでなく、介護者であるみなさんの感情も大切にしましょう。認知症者のことばかりを考えていると、気づかぬ間に心身の疲れが蓄積していきます。自分の身を守るためにも、適度に心身のケアを行うことが大切です。

他のことに関心を向ける

暴言を生じるきっかけになるような出来事があった場合、他のことに関心を向けるのは暴言を回避する1つの方法です。他に注意が向くと、認知症者がもっていた負の感情が消えている場合があります。認知症者が好きなことや夢中になりやすいものをあらかじめ見つけておくと対応しやすいでしょう。

専門家や施設に相談

自分で手に負えない場合などは、認知症の暴言に対する専門家に相談するのが一番です。認知症の暴言と一言で言っても、元々の性格や認知症の重症度などが異なるため、対応が違ってきます。専門家に相談して一度見てもらうと安心できるでしょう。

介護者を変えてみる

ご自身が介護を行っている場合は家族の誰かに変わってもらう、訪問介護などの介護保険サービスを利用してみるといった方法があります。一度、怒りのスイッチが入ると執着する場合が多いため、介護者を変えれば執着を取り除けるでしょう。

体調が悪くないか確認する

体調が悪い場合には、認知症の症状を生じやすくなります。普段よりも暴言を発しやすいと感じた場合は、体調が悪くないかを確かめるようにしてください。難しければ、病院を受診し検査してもらってもよいでしょう。

ケアマネージャーや医師に相談する

要介護認定を受けている場合、担当のケアマネージャーがいます。暴言への対応で困った場合、認知症の知識に精通しているケアマネージャーに相談するとよいです。もしケアマネージャーがいない場合は、医師に相談しましょう。医師に相談する際、認知症の方の状態をよく把握している「かかりつけ医」に相談するのがベストです。

認知症者による暴言への対応は一人で抱え込まない

認知症者自身では、暴言をコントロールすることは難しくなっています。コミュニケーションの取り方の注意などで暴言の頻度を抑えるのは可能ですが、ゼロにするのは困難です。介護する側が一人で抱え込むのは精神的に大変なため、友人や専門家を頼りながら上手に付き合いましょう。

村上友太〔医師〕

医師、医学博士。福島県立医科大学医学部卒業。福島県立医科大学脳神経外科学講座助教として基礎・臨床研究、教育、臨床業務に従事。現在、東京予防クリニックで勤務。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、神経内視鏡技術認定医、抗加齢医学会専門医。
日本内科学会、日本認知症学会などの各会員。

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