認知症について知る

認知症の初期症状「怒りっぽい」の原因とは?
対策方法とその他初期症状

みなさんのなかには、親や親族など身近な人が怒りっぽい性格になり、困っている方もいるのではないでしょうか。もしかしたら、それは認知症の初期症状かもしれません。

また、怒りっぽい性格になる以外にも、認知症にはどのような初期症状があるのか把握しておきたい方もいるかもしれません。

認知症の初期症状の一つとして、今までは穏やかだったにも関わらず、ささいなことで怒ったり怒鳴ったりする「易怒性・被刺激性の亢進」という症状があります。

怒りっぽくなる原因としては、感情抑制能力の低下によって感情のコントロールが困難になることや、理解力・判断力の低下などによって不安やイライラが募ることなど、その原因は一つだけではありません。

この記事では、認知症の初期症状における「怒りっぽい」の原因や対策方法、その他の初期症状などについて解説していきます。

認知症の初期症状「怒りっぽい」はどのような症状のこと?

「怒りっぽい」は、認知症の初期症状の一つです。前まで穏やかだった人が急によく怒るようになった場合は、認知症を疑ったほうが良いかもしれません。

まずは、認知症の初期症状「怒りっぽい」がどのような症状なのか解説していきます。併せて、認知症の中核症状や周辺症状などについても理解しておきましょう。

中核症状と周辺症状

中核症状とは、脳の機能低下による認知機能低下から引き起こされる症状のことです。文字どおり、認知症の中核となる症状を指します。具体的には、記憶障害や日時が不正確になる見当識障害、遂行機能障害、理解力・判断力の低下、失行、失語などが挙げられます。

一方で周辺症状とは、中核症状の二次症状として引き起こされる症状のことです。行動・心理症状(BPSD)とも呼ばれます。中核症状による理解力・判断力の低下と生活環境による影響が本人に不安や混乱をもたらし、その不安・混乱が起因となって副次的に引き起こされる症状です。

周辺症状の具体的な内容については、後述します。

認知症の初期症状「易怒性・被刺激性の亢進」によって怒りっぽい性格になる

認知症には、「物忘れが著しくなる」というイメージがあるかと思いますが、「怒りっぽい」も初期症状としてよく挙げられる症状の一つです。この怒りっぽい性格になることを、医学用語では「易怒性(いどせい)」と呼びます。

認知症患者の多くを占めるアルツハイマー型認知症のBPSDには、怒りっぽくなる「易怒性・被刺激性の亢進」という症状があります。

具体的には、「急に不機嫌になる」「大声をあげて威嚇する」「殴りかかろうとする」などの行動を起こすなどが一例です。

「怒りっぽい」以外の認知症の初期症状とは?

認知症の初期症状には、「怒りっぽい」以外にも「記憶障害」や「判断力低下」など、さまざまなものがあります。

記憶障害に関しては、数分前~数日前の短期間の記憶を忘れっぽくなるケースがほとんどです。数カ月~数年前の長期間の記憶においては、症状が進行するにつれて徐々に忘れっぽくなっていきます。

また、判断力低下は、出来事に対する理解や判断が難しくなる症状です。身近なところでいうと、買い物中の会計や横断歩道を渡るタイミングなどがわからなくなる、といったケースが挙げられるでしょう。

認知症の行動・心理症状(BPSD)として挙げられる症状

以下では、認知症の行動・心理症状(BPSD)として挙げられる症状について、箇条書きでまとめました。
  • 抑うつ
  • 不安
  • アパシー
  • 焦燥性興奮
  • 拒絶
  • 幻覚
  • 妄想
  • 不眠
  • 徘徊
  • 歩行障害
  • 失禁
易怒性・被刺激性の亢進だけでなく、暴言や暴力、焦燥性興奮といった症状も怒りっぽい症状の一つといえます。

認知症の初期症状で怒りっぽい性格になる原因とは?

認知症になると、なぜ怒りっぽい性格になるのでしょうか?原因としては、大脳にある前頭葉機能の低下によって感情抑制能力が落ちることが挙げられます。

他にも、自分の気持ちや不調をうまく伝えられないもどかしさや、判断力低下によって不安やイライラが募り人にあたってしまうことも珍しくありません。

ここからは、怒りっぽい性格になる原因について、7つに分けて確認していきましょう。

感情のコントロールが困難になるから

認知症になると、状況判断や対応が難しくなる「認知機能障害」が現れます。そのため、状況を正しく理解することができず、イライラにつながりやすくなります

また、認知症になると大脳の前頭葉が萎縮しているなどの原因で、感情抑制能力が低下することも、怒りっぽい性格になる理由の一つです。

前頭葉機能の低下により、「融通が利かなくなる」「頑固になる」という状態が引き起こされると、結果的に易怒性・被刺激性の亢進につながります。

例えば、本来なら「怒るべきではない」と感情をコントロールすべき状況でも、うまく感情を抑制できずに感情のままに行動してしまう、といったことも起こりかねません。

気持ちや不調をうまく伝えられないから

認知症になると、自分の気持ちや身体の状態・不調などをうまく伝えられなくなります。また、感覚機能が低下しているため、喉が渇いていることを自覚できない場合も多いのです。

さらに、不調などに気付けても、失語によってうまく言葉にできないケースもあります。その結果、周囲の人にうまく伝えられないもどかしさからストレスがたまり、イライラや体調悪化を引き起こすこともあるでしょう。

状況判断ができずイラつきやすくなるから

認知症を発症すると状況判断が難しくなるため、目的があって外出しても途中で目的を忘れてしまうことや、なぜ今ここにいるのかわからなくなることがあります。その結果、不安やイライラが募って、周囲の人にあたってしまうケースも多く見られます。

例えば、「外出したくないけど病院に行く必要がある」場合に、外出途中に目的である「病院に行くこと」を忘れたとします。すると、「外出したくない」という感情だけが残り、連れ出してくれた家族に対して「行きたくないのに無理やり連れて行かれている」と感じ、怒りに発展することも珍しくありません。

自尊心が傷付けられるから

認知症になると、今まで当たり前にできていたことができなくなります。初期の認知症では、できなくなった事実を自覚するため、自尊心が傷付くことにつながりやすいです。

自尊心が傷付いている現状を受け入れられず、必死に隠そうとして怒るようになると、その態度が「怒りっぽい」と思われるようになります。

特徴としては、「周囲からの過剰な心配に怒る」「物を紛失したことを周囲のせいにして怒る」「理解できないときは相手の説明が悪いと怒る」といった怒り方をする点です。

対人関係の悪化によって孤立しやすくなるから

認知症の人は、自分自身の怒りに対して、「なぜ怒っているのか、何に対して怒っているのか」理解できないことが多い傾向にあります。

そのため、周囲の人に「なぜ怒っているのか?」と尋ねられても、きちんとした返答ができないケースがほとんどです。

こうしたコミュニケーションの積み重ねによって、対人関係が少しずつ変化し、最終的に職場や家庭内での孤立につながります。そして、この孤独感が「怒りっぽい」性格を生み出す可能性も否定できません

周囲の否定的な言動によってストレスを受けるから

上記のように対人関係がうまくいかなくなるなかで、周囲が以下のような否定的な発言や態度ばかりを示してしまうと、イライラやストレスにつながることがあります。

「最近なんか変だよ」
「さっき伝えたばかりなのに忘れたの?」
「なんでできないの?」など

認知症ではない方でも、否定的なことばかりをいわれるとストレスを感じるものです。それが認知症の方であれば特に感じやすいため、周囲の人は否定的な言葉を避ける必要があります。

抗認知症薬の副作用によって怒りっぽくなる場合があるから

認知症は、時間とともに少しずつ症状が進行していく脳の病気です。その進行を遅らせる薬として、「抗認知症薬」を服用することがあります

抗認知症薬は、認知症に対して一定の効果を期待できますが、一方で副作用が原因で怒りっぽくなることがあるといわれています。

どのような原因にしても、元気だった頃の本人のもともとの性格からは考えられないような怒り方をするという点で共通しているのが、認知症の「怒りっぽい」症状の特徴です。

認知症の初期症状で怒りっぽい性格になった人への対策方法

認知症を発症し、怒りっぽい性格になった人へは、どのように対応すれば良いのでしょうか?ここからは、認知症の初期症状の傾向が見られる人への対策方法として、以下の3つの方法を紹介します。

1.怒りの感情を否定せず共感し寄り添う
2.暴言・暴力が始まったら落ち着くまで距離をとる
3.怒りの理由を聞かない、もしくは一緒に考える

では、それぞれの対策方法について、詳しく見ていきましょう。

怒りの感情を否定せず共感し寄り添う

認知症を発症したことによって怒りっぽい性格になった場合は、否定ではなく共感を意識して寄り添うことが大切です。

その理由としては、以下のようなものが挙げられます。

・本人も怒りの理由が理解できていないから
・怒りの原因である勘違いや妄想は訂正できないから
・叱られている理由はわからなくても、叱られていること自体は理解できるから

認知症の人を無理に否定したり訂正したりしようとすればするほど、ストレスや自分を守る意識が強まって症状が悪化するおそれがあるため注意しましょう。

暴言・暴力が始まったら落ち着くまで距離をとる

暴言や暴力が始まってしまった場合は、無理に止めようとはせず、落ち着くまで距離をとるのも対策の一つです。興奮状態にある場合は、否定や訂正をせず共感して寄り添おうとしても、コミュニケーションを取るなかで怒りを助長してしまう可能性があります。

また、暴言や暴力は、決してケアにあたる方を傷付けようとしているわけではありません。なかには暴言や暴力を許容しようとする人もいますが、かえって「相手を傷付けてしまった」という自責の念がストレスにつながるケースもあるため、距離をとるのが最適な対策方法です。

怒りの理由を聞かない、もしくは一緒に考える

認知症になった本人は、自分自身でもなぜ怒っているのか理由がわかりません。そのため、無理に怒っている理由を聞き出さないようにしましょう

この場合は、「オウム返し」で対応するのが対策方法の一つです。例えば、本人が「無理やり連れてこられた」と言ったら、「無理やり連れてこられたんだね」と返します。オウム返しなら、否定も訂正もせずに会話を継続できるでしょう。

また、話を遮らないように注意しながら本人に話してもらい、怒りの原因を一緒に考えるのも大切です。話しているうちに気持ちが落ち着いて、怒りが収まることや原因がわかることもあります。

認知症初期症状の原因を知り適切な対応をとろう

認知症の初期症状には、記憶障害や判断力低下などがありますが、「怒りっぽい(易怒性・被刺激性の亢進)」も代表的な症状の一つです。認知症を発症すると、怒りっぽい性格になる原因としては、おもに以下のようなものが挙げられます。

・感情のコントロールが困難になるから
・気持ちや不調をうまく伝えられないから
・状況判断ができずイラつきやすくなるから
・自尊心が傷付けられるから
・対人関係の悪化によって孤立しやすくなるから
・周囲の否定的な言動によってストレスを受けるから
・抗認知症薬の副作用によって怒りっぽくなる場合があるから

もし、身近な人のなかで「最近怒りっぽくなった」と感じた方がいる場合、それは認知症の初期症状が起きている可能性があるでしょう。
認知症で怒りっぽくなった方に対しては、怒りの感情を否定せずに共感して寄り添うことが大切です。暴言・暴力が始まった場合は、落ち着くまで距離をとるようにしましょう。
その他、無理に怒りの理由を聞き出さないようにしたり、怒りの原因を一緒に考えたりすることも対策方法の一つです。家族など身近な人に認知症の初期症状が見られた場合は、専門医に相談したうえで、周囲の方がしっかりとサポートしましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年6月30日

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