認知症について知る

認知症の方の一人暮らしは可能?
リスク・注意点・利用できるサービス例


家族が認知症になった場合、一人暮らしでも生活を続けられるのか知りたい方も多いのではないでしょうか。

家族が認知症になっても、急な同居や福祉サービス導入は困難であり、初期段階などのごく軽度の認知症であれば、支援を受けながら一人暮らしを継続するケースは少なくないでしょう。

ただし、認知症の方の一人暮らしは、金銭トラブルに遭ったり、食生活が乱れたりと生活するうえでのリスクが高まります。そのため、認知症の症状が進行する前の対応について、家族がしっかりと把握しておくことが大切です。

今回は、認知症の方の一人暮らしの可否や一人暮らしする際のリスク、家族が認知症になる前に準備しておくべきことなどを解説します。併せて、家族に認知症の疑いがあるときの対応や、頼れるサービス例も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。

認知症の人が一人暮らしすることは可能?

家族が認知症になった場合、初期段階のようにごく軽度な症状であれば一人暮らしが可能なケースもありますが、基本的には大きなリスクがともなうものです。

例えば、アルツハイマー型認知症の場合は、軽い物忘れなどの兆候が現れてから、3年以内に約50%の方が発症する※とされています。初期症状から中期、末期まで段階的に進行するのが特徴です。
急に環境を変化させたり、行動を制限したりすると、症状が進行するおそれがあるので注意しましょう。
また、認知症が進行すると、対人関係のトラブルや屋外の徘徊などのリスクが高まります。家族との同居や、特別養護老人ホームなどへの入居も視野に入れつつ、症状の進行状況を見守ることが重要です。

認知症の人が一人暮らしする際のリスクや注意点

次に、認知症を発症した家族が一人暮らしする際のリスクや注意点を紹介します。

外出時に危険な目に遭うリスク

認知症の方が外出した際に、自宅への戻り方がわからずに道に迷い、危険な目に遭うリスクがあります。

例えば、道に迷っている間に夏では脱水症状、冬では低体温症になることが考えられるでしょう。その他、転倒による骨折などのリスクもあります。

さらに、道に迷ってしまい、行方不明となってしまうことも考えられます。実際に、警察庁の「令和3年における行方不明者の状況」によると、認知症またはその疑いがある方の行方不明者数は1万7,636人で、行方不明者数全体の22.3%を占めています。

火を消し忘れ火事を起こすリスク

認知症による物忘れが原因で、ガスコンロの火を消し忘れ、火事を起こすおそれもあります。事前の対策として、認知症の方の自宅のコンロを安全装置付きのものに替えたり、IHコンロに替えたりするとよいでしょう。

トイレトラブルを起こすリスク

認知症の方は、徐々に日常の動作ができなくなることから、トイレに行けずにトラブルに発展するリスクがあります。例えば、失禁しても着替えられなかったり、和式トイレに慣れているために洋式トイレを「トイレ」と認識できなかったりするケースなどが挙げられます。

また、便秘が長引くことによって腸閉塞などになると、治療や手術が必要になるため注意が必要です。

金銭トラブルに遭うリスク

判断力が落ちることから、お金の管理がうまくできなくなるケースがあります。それにより、詐欺の被害に遭ったり、必要のない高額商品を購入したりする可能性も高まるでしょう。

このような場合には、家族があらかじめ買い物リストを用意しておき、買い物の際に付き添うなどの対策が必要です。

過去には、訪問介護サービスのヘルパーが、認知症の方の自宅にある現金を盗んだ事例もあります。お金の管理は、なるべく家族が行なうことで金銭トラブルを防ぎやすくなるでしょう。

食生活が乱れるリスク

一人暮らしの方が認知症を発症した場合、栄養バランスが偏った食事をとったり、食事をとり忘れたりすることは少なくありません。栄養バランスの取れていない食事が原因で、栄養素の摂取量が不足している「低栄養」の状態になると、認知症の悪化につながるおそれもあるため要注意です。

また、持病を抱えて服薬治療をしている方は、薬の飲み忘れや薬の量を誤る可能性もあるため、家族がしっかりと管理する必要があります。

近所で問題を起こすリスク

認知症の症状の一つである「物盗られ妄想」によって「大事なものを盗まれた」と近所の方を疑ったり、指定曜日にゴミを出せなかったりすると、トラブルに発展しかねません。

認知症の方の一人暮らしでは、近所の方との円滑なコミュニケーションが重要ですが、このようなトラブルが発生すると生活の継続が難しくなってしまいます。

認知症の方の一人暮らしにはいずれ限界がくることを念頭に置き、日常生活が問題なく送れているのか、家族がこまめにチェックする必要があるでしょう。

一人暮らしの家族が認知症になる前にしておくこと

続いて、一人暮らしの家族が認知症になる前にしておくべき4つのことを見ていきましょう。

資産状況を整理・把握しておく

認知症の方の不動産や口座などの資産状況を、家族が事前に整理しておくことは大切です。例えば、認知症の方がクレジットカードを所有している場合、家族が知らないうちに不要なものを次々と購入してしまうケースなどがあります。

また、認知症の方が銀行窓口で不審な振る舞いをすると、口座の不正使用や犯罪に巻き込まれることを防ぐために、預金口座が凍結されることもあります。資産凍結を防ぐには、本人に代わって家族が資産を管理できる任意後見契約や、家族信託などの制度の利用を検討するとよいでしょう。

サポート役を決めておく

一人暮らしの方が認知症になる前に、家族のなかで誰がサポート役として立ち回るかを決めておきましょう。その際、1人にすべてを任せるのではなく、複数人でサポートして負担を抑えるのがベストです。

本人の健康状況や通院している病院、服用中の薬などの情報を収集しておくことで、体調を崩した場合にも家族がスムーズに対応できます。

本人の意見を聞いておく

一人暮らしをしている親などを家族がサポートする場合は、今後の生活方針について本人に確認しておきましょう。

あらかじめ意見を聞いておけば、本人の意思を尊重した選択ができます。さらに、認知症が進行して外部の支援が必要になった際にも、本人に受け入れてもらいやすくなります。

介護休暇・休業の制度を調べておく

家族が認知症になり、介護が必要になった場合に備えて、職場で介護休暇・休業の制度が利用可能か調べておくことも重要です。各制度の内容は、以下のとおりです。
制度 内容
介護休暇 1年間で5日間休める。1日または1時間単位で取得でき、1日の就業時間が8時間の場合は、計40時間分の介護休暇が取得可能。
介護休業 対象家族1人につき、通算93日間の休みを3回に分けて取得できる。
認知症の方が一人暮らしをしている場合は、家族がサポートするために、こうした制度の利用も検討するとよいでしょう。

認知症かも 一人暮らしの家族に認知症の疑いがあるときは

一人暮らしをしている家族に認知症の疑いがある場合に受ける検査や申請について、順を追って解説します。

1.認知症検査を受ける

家族に認知症の疑いがある場合は、認知症の検査を受けるために、まずかかりつけ医へ相談しましょう。かかりつけ医がいない場合は、脳神経外科や心療内科、精神科などへ相談するほか、地域包括支援センターで医療機関について相談するのも一つの方法です。

一般的に認知症検査は、問診、面談・診察、検査の流れで行なわれます。家族が情報を整理したメモを作っておいて医師に伝えると、より正確な診断に役立てられるでしょう。

2.要介護認定を申請する

認知症と診断された場合は、要介護認定の申請に向けて手続きを行ないます。申請は、市区町村の窓口で行うことができ、基本的に以下のものが必要です。

・要介護認定・要支援認定申請書
・申請者の身元確認書類
・マイナンバーを確認できる書類
・介護保険被保険者証
※40歳以上65歳未満の方は医療保険被保険者証が必要なケースがあります。

要介護認定は、介護サービスの必要度に応じて、要支援1・2、要介護1~5まで段階的に判断されます。例えば、要支援と認定された方の場合は、要介護状態になることを予防するために行なうサービスを受けられます。要介護1以上の認定で、施設サービスの利用も可能となります。

なお、要支援・要介護認定の区分ごとに、給付金の1カ月あたりの支給限度額は異なります。

3.症状を継続的に把握する

認知症の方が一人暮らしを継続する場合、その家族は本人の生活状況を定期的に確認することが大切です。本人の状態に応じて、適切な介護サービスなどを活用して支援しましょう。

ただし、症状が悪化した場合や、徘徊の頻度が高まりトラブルを起こしやすくなった場合は、一人暮らしをやめさせることも検討しなければなりません。家族との同居もしくは老人ホームへの入居などの方法をとり、安全な環境へ移す必要があります。

一人暮らしの家族が認知症になったときに頼れるサービス例

ここからは、一人暮らしの家族が認知症になった場合に頼れるサービスを2つ紹介します。

介護サービス

一人暮らしの認知症の方が利用可能な介護サービスには、おもに以下が挙げられます。
介護サービス 内容
訪問介護(ホームヘルプ) 訪問介護員(ホームヘルパー)が自宅を訪問して、身体介助や生活援助を行なうサービス
通所介護(デイサービス) 通所介護の施設へ利用者が通い、日常生活上のサポートや、機能訓練などを受けるサービス
短期入所生活介護(ショートステイ) 特別養護老人ホームなどに短期間入所して、日常生活上のサポートや、機能訓練などを受けるサービス
公的介護保険の適用によって、介護サービスにかかる自己負担割合は1~3割に抑えられます。ただし、認知症の方の見守りや家事支援などのサービスは適用対象外のため、全額を自己負担しなければなりません。

将来の介護にかかる費用負担を抑えるために、民間介護保険への加入を検討するのも一つの手段です。

地域の支援サービス

自治体によっては、保健師や看護師、作業療法士などで構成された「認知症初期集中支援チーム」を設置しています。認知症初期集中支援チームによるサポートを受ければ、認知症の方が自立的な生活を送るための体制構築に向けて、包括的・集中的に支援してもらえるでしょう。

また、「日常生活自立支援事業」を活用すると、職員が自宅を訪問して福祉サービスの利用援助などを行なってくれます。1回の訪問に平均1,200円の利用料はかかりますが、預金の払い戻し・預け入れなどの日常的な金銭管理のほか、生活状況の変化もチェックしてくれます。

一人暮らしの家族が認知症になったら各種サービスも活用しよう


家族が認知症になった場合、一人暮らしが可能なのはごく軽度な症状の間のみと考えたほうがよいでしょう。一人暮らしを継続するうえでは、トイレトラブルを起こすリスクや食生活が乱れるリスクなどがあるため、できる限りの対策を打っておくことが大切です。

認知症の方が要介護認定を受けた場合は、公的介護保険の適用により、介護サービスにかかる費用負担の軽減を図れます。ただし、一部のサービスは適用対象外となるので注意が必要です。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年8月9日

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