認知症について知る

認知症で入院する基準は?
入院施設・退院後の選択肢や費用の不安に備える方法


家族が認知症を発症しても、介護しながら自宅で生活することは可能です。しかし、認知症の症状が重くなるにつれ、介護者の負担は増加するでしょう。認知症の症状が重い場合や、家族の生活に大きな影響が出ている場合、認知症での入院治療は可能なのでしょうか。

結論からいうと、認知症での入院は可能です。この記事では、認知症の入院に対応できる病院や、入院の基準とリスク、退院後に考えられる選択肢を解説します。また、気になる介護費用の内容・費用の不安に備えるための方法も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

認知症で入院はできる?

はじめに、認知症による入院の現状や、対応してもらえる医療機関について解説します。

認知症で入院することは可能

認知症を理由とした入院は可能です。自宅や施設で介護が難しくなった場合や、ケガ・急病で救急搬送される場合などに入院となることがあります。

認知症での入院は近年増加傾向にあるといえます。例えば、厚生労働省の資料によれば、認知症のなかで最も多いアルツハイマー型認知症に関して、認知症を有する入院患者数は、平成14年(2002年)で1.9万人だったところ、平成29年(2017年)には4.9万人と約2.6倍に増加しています。

認知症の入院に対応できる病院とは

認知症患者の場合、認知症以外の病気がない場合や、認知症の症状が重い場合などは、一般の病院では対応が難しいでしょう。

認知症での入院は、おもに認知症専門の精神科のある病院が受け入れています。具体的には、精神科のある救急病院や、認知症疾患医療センターを設置している病院が挙げられるでしょう。

認知症疾患医療センターは、認知症の診断や治療、医療相談などを一括して行なう医療機関で、都道府県や指定都市が指定した病院に設置されています。

センターは大きく分けて4つに分類されており、総合病院や大学病院にある「基幹型Ⅰ」「基幹型Ⅱ」や、精神科の単科病院などにある「地域型」、診療所などに設けられている「連携型」があります。
このうち、総合病院や大学病院に設置されている「基幹型」と呼ばれるセンターでは、入院設備が整っており、認知症患者が安心して入院・治療を受ける体制が整えられていることが特徴です。

認知症で入院が必要な場合

では、認知症で入院治療が必要と判断されるには、どのようなケースがあるでしょうか。

精神保健福祉法に基づくケース

認知症を含めた精神疾患医療には、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」が大きく関わっています。

この精神保健福祉法に基づく判断により、入院が必要になる場合があります。

認知症の本人が入院・治療の必要性を理解できて、医師と合意したうえで任意入院するケースもありますが、以下のような場合は本人の同意なしで入院が可能です。
  • 医療保護入院
    医療的な措置と保護が必要であるにもかかわらず、本人が状況を正しく把握できない場合は、本人の同意なしで入院させます。家族などの同意は必要です。

  • 措置入院・緊急措置入院
    認知症により、他人に暴力をふるったり、自分自身を刃物で傷つけたりする危険性がある場合は、都道府県知事の権限により入院させることが可能です。

介護者の生活に支障が出ているケース

認知症の症状により、対応する介護者の日常生活や仕事に大きな影響が出ている場合、入院が考慮されます。判断基準としては、以下のような症状が挙げられます。
  • 興奮
    「ちょっとしたきっかけで激しく怒り出す」「家族・介護者への暴力行為がある」「物を壊したり投げたりする」など、興奮状態が激しい場合。

  • 妄想や幻覚
    「お金を盗られた」「大事なものを盗まれた」などの妄想や、「(すでに亡くなっている)親族が来た」「家の中に誰かいる」などの幻覚が症状としてみられる場合。

  • 感情の不安定さ(落ち込みや苛立ち)
    数分前まで穏やかに過ごしていると思っていたら、急にイライラし始めたり、ふさぎ込んだりするなど、著しく感情の起伏が激しい場合。

専門医が判断するケース

認知症を専門とする医師が、入院治療が必要と判断した場合は家族・介護者の意見や本人の症状を踏まえて決定します。

例えば次のようなケースがこれに該当します。
  • すでに認知症と診断され薬物を使わない治療を行なっていたが、十分な効果がみられない。しかし本人は薬を使った治療を拒否していて、このままでは認知症が悪化する懸念があり、入院治療が適切であると判断された場合。

入院で症状が悪化する?入院時のリスク

認知症での入院は可能ですが、入院できたとしてもさまざまな問題に直面することもあるようです。

ここでは入院時に起こりがちな問題と対処法について解説します。

環境の変化などで症状が悪化する場合がある

環境の変化が原因でストレスや不安・さみしさから眠れなくなるなど、入院当日から混乱してしまうこともあります。

加えて、初めて見る病棟内は、同じような部屋が並んでいる特殊な環境です。それによって自分の病室がわからなくなり院内を徘徊する行動に出るケースや、今自分はどこにいて、なぜここにいるのかがわからず、不安に陥ってしまうケースが予想されます。

悪化しやすい症状

入院がきっかけとなって悪化しやすい症状には、以下のようなものがあります。
  • 暴力
    必要なケアのために近付く介護者に、興奮して抵抗するなどして、暴力をふるうことがあります。

  • 介護拒否
    点滴を抜くなど、診察・治療や介護行為に抵抗する場合があります。

  • 大声
    昼夜逆転によって夜間や早朝などに急に大声を出したり、歌を歌ったりして周囲の患者のストレス原因となります。

  • 徘徊
    治療に影響があるほど、院内をうろうろと歩き回ったり、歩こうとしたりする症状です。

落ち着いて入院生活を送るための工夫

認知症の人が落ち着いて入院生活を送るには、入院生活の環境づくりが大切です。

例えば普段使用している化粧品や枕・クッションなどの愛用品、ラジオ・編み物などといった日常的に楽しんでいるものを持ち込むと、本人の安心感につながります。

また、家族の写真など、慣れ親しんだ環境を思い出せるアイテムなども有効です。

退院後の選択肢

ここからは、認知症での入院期間の目安と、退院後に考えられる選択肢について解説します。

認知症で入院する期間

「入院後3ヵ月経ったら退院を促される」という噂を聞いたことはあるでしょうか。病院運営の関係で、そのようなケースがあるようですが、認知症で入院した場合も3ヵ月程度で退院するように言われると、途方に暮れてしまう方もいるでしょう。

実際には病院により対応が異なるため、一律で3ヵ月経ったら退院、というわけではありません。入院期間は症状や家族の事情などにより異なるため、入院先の病院で相談・確認してみましょう。

なお、厚生労働省の資料によれば、アルツハイマー型認知症での平均在院日数は273日(約9ヵ月)となっています。
ただし認知症による入院では、症状の悪化により転院・退院を促されるケースもあり、注意が必要です。

退院後に検討する施設

認知症で入院した病院を退院したあとの受け入れ先としては、次のような施設・方法が考えられます。ただし、本人の回復具合や要介護度の変化などにより検討することが大切です。
  • 認知症に特化した病院(転院)
    認知症疾患医療センターが設置されている病院や、認知症医療に特化した精神病院、精神科が設置されている救急病院など。

  • 認知症に対応している施設
    特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護付き有料老人ホームなど。

  • 介護サービスを利用した自宅介護
    ヘルパーによる介護訪問やデイサービスなどを活用して、自宅で介護する方法。

悩んだときの相談先

認知症で入院中に、退院を促されたとしても、なかなか退院後の受け入れ先が決まらないケースはあります。悩んでしまったときは次のような相談先を活用してみましょう。
  • 病院の医療相談室
    現在入院している病院などの医療相談室では、ソーシャルワーカーなどの医療専門の相談員がいるので、転院先や介護の相談に対応してもらえます。

  • 地域包括支援センター
    全国の市区町村に設置されている、高齢者支援が相談できる福祉施設です。社会福祉士や介護支援専門員、看護師などが配置されており、福祉・医療面から問題の解決を図ってもらえます。相談は認知症の本人が居住している市区町村のセンターで行ないましょう。

  • 認知症地域支援推進員
    上で紹介した地域包括支援センターや、市区町村窓口に配置されている専門の相談員です。地域での入院や介護サービスなどの相談が可能です。

  • 自宅介護の場合
    自宅介護する場合、介護のつらさを1人で抱え込んでしまいがちです。介護保険サービスや公的サービス、民間事業者のサービスなどに相談し、活用しましょう。利用の際は、認知症に対応している介護事業者を選ぶのがおすすめです。

入院にかかる費用と使える制度

認知症の入院に必要な費用はどの程度でしょうか。ここでは認知症での入院費用の概算と、負担軽減のために活用できる制度を解説し、介護費用の不安に応える民間の介護保険についても紹介します。

認知症の入院にかかる費用

認知症の入院費用には公的医療保険が適用になるため、年齢や適用する制度により自己負担額は変動します。実際の負担額は医療費総額の1割~3割となります。

また、保険適用外の差額ベッド代や食事代、必要な物品の購入費などは実費で必要となります。

負担軽減に活用できる制度

医療医の負担軽減に利用できる制度としては、以下のようなものがあります。
  • 高額療養費制度
    保険診療で、年齢や年収に応じて定められた上限額を超えた金額を支給してもらえる制度です。
    一例として、70歳以上・年収が約156万円~370万円の場合は、1ヵ月の医療費の上限額は57,600円となります。※1

  • 入院時食事療養費
    入院時の食事代は原則として1食460円ですが、次の条件に当てはまる場合は軽減措置があります。※2

    ・小児慢性特定疾病患者 260円
    ・難病患者 260円
    ・住民税非課税世帯 210円~100円(条件による)

  • 公費医療負担
    特定疾患や生活保護世帯などは医療費の補助・免除があります。

民間の介護保険も有力な選択肢

認知症の介護費用や入院費用の不安に備えるには、認知症介護に特化した民間の介護保険を使う方法もあります。

例えば介護が必要になった場合に一時金や年金として認知症介護費用がサポートされたり、公的介護保険制度の「要介護1」以上でその後の保険料が免除されたりする商品もあります。

認知症で入院することは可能!退院後の受け入れ先や介護費用についても準備を


認知症に特化した医療が受けられる病院なら、認知症で入院することは可能です。しかし退院後の受け入れ先がなかなか見つからないことや、高額になりがちな介護費用のことなど、家族の不安も尽きることはありません。

長くなりがちな認知症介護では、医療制度をうまく使うとともに、民間の介護保険なども活用することがおすすめです。いざというときに備え、使える制度を調べておくなど、あらかじめ準備しておくようにしましょう。

 

朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年8月28日

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