認知症について知る

認知症の段階別の症状は?今からできる4つの対策

認知症に不安を覚える方のなかには「認知症は段階ごとにどのような症状が出る?」「種類によってどのような特徴があるのだろう?」といった、疑問を持つ方もいるでしょう。

認知症は、認知症の種類や周辺環境、個人によって進行スピードや症状が異なるため、今から対策を講じておくことや、発症したら早めに対処することが重要です。

この記事では、認知症の段階別による症状や、認知症の種類などについて解説します。併せて、認知症に備えるための4つの対策も見ていきましょう。

認知症の段階別による症状は?

まずは、認知症の段階別による症状や特徴について解説します。

1.前兆

前兆とは、認知症が発症する前触れの段階を指し、「軽度認知障害(MCI)」ともいいます。厚生労働省によるMCIの定義は、以下のとおりです。

1. 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。
2. 本人または家族による物忘れの訴えがある。
3. 全般的な認知機能は正常範囲である。
4. 日常生活動作は自立している。
5. 認知症ではない。

引用:e-ヘルスネット「軽度認知障害(けいどにんちしょうがい)」

MCIでは物忘れなどの症状が出るものの、日常生活には大きな支障がないため、「年齢のせい」だと見過ごされることが少なくありません

それでは、MCIの具体的な症状を見てみましょう。

● 話そうとしている言葉がスムーズに出てこないことがある
● 今日の日付や曜日がわからないことがある
● 数分前に聞いた話を思い出せないことがある
● 鍵や財布などを置いた場所がわからなくなることがある
● 公共交通機関を利用する単独での外出に不安がある

MCIの方のうち、年間10~15%の方が認知症に移行するといわれています。ただし、早期に適切な対策を施せば、進行を予防できたり改善が見込めたりする可能性もあります。

2.初期

初期段階の特徴は、前兆段階のような単なる物忘れではなく、日常生活や仕事などに支障をきたす場合があることです。
完全な治療法はないものの、早期発見と適切な対処により、認知症の進行を遅らせることが可能とされています。

初期段階に起こる症状の具体例を見てみましょう。
 

判断力の低下

●  日常作業をこなすのに時間がかかる

●  頻繁に物をなくす

●  周囲の会話のスピードについていけなくなる

物忘れ

●  料理の味付けが変わる

●  同じことを何回も聞き直す、同じ話を何度も繰り返す

●  同じ物を何度も購入する

精神的な落ち込みや混乱

●  人付き合いを避け始める

●  突然怒り出す

●  活力がなくなる

作業能力や集中力の低下

●  計算ミスが増える

● ドラマや本などの話の流れを追えなくなる

●  料理や車の運転など、以前はできていたことが難しくなる

3.中期

認知症は中期になると記憶障害がさらに進み、新しく何かを覚えることが難しくなります。記憶する能力は低下するものの、「楽しい」「悲しい」などの感情は残りやすいことが特徴です。

中期段階の具体的な症状は、次のとおりです。

● 日付、時間、場所などがわからなくなる
● 電話番号や住所を言えない
● メモを残してもメモ自体の存在を忘れる
● 食事をしたことを忘れる

上記のような症状が出ると、自立生活が困難になり、家族や介護施設などのサポートが必要になります。

4.末期

末期段階の認知症に見られるおもな症状は、以下のとおりです。

● 人とのコミュニケーションが取りづらい、意思疎通が難しくなる
● 家族などの親しい人でも認知が困難になる
● 歩行障害や運動障害などが生じる

末期では、初期や中期にあらわれていた記憶障害はあまり見られません。これは、自発性の低下によって周囲や物事への関心が薄まり、「同じことを話す・同じことを聞く」などの症状がなくなるためです。

また末期では、嚥下障害・筋固縮・失禁のほか、歩行困難・運動障害・不潔行為などの症状があらわれるため、常に介助が必要な状態になります。さらに、免疫力の低下が著しくなるため、感染症で死亡するケースも見られます。

認知症には大きく分けて4種類ある

認知症の段階別の症状を押さえたところで、ここでは認知症の種類と、その特徴について解説します。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、認知症のなかで最も多く見られる種類であり、認知症全体の60~70%を占めます。そして、多くは65歳以上で発症することが特徴です。

アルツハイマー型認知症は、リン酸化タウやアミロイドβなどのタンパク質が長い時間をかけて脳内に蓄積し、これらの物質が神経細胞を減らしたり、神経細胞の働きを阻害したりすることが原因とされています。

症状としては、記憶障害・見当識障害・判断や遂行機能の障害以外に、失認、失語、失行といった認知機能の低下が見られます。これらは、時間の経過とともに進行するのが特徴です。

失認、失語、失行とは、以下のような状態を指します。

● 失認:視界には捉えられているが、何なのかを理解できない
● 失語:言葉や名前が出てこない
● 失行:手足の動きに問題はないが、どのように動かせばいいかわからない

アルツハイマー型認知症ではこれらの症状にともない、睡眠障害・幻覚・妄想・不安・抑うつなどの症状が出る場合もあります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症を発症する原因は、脳出血・脳梗塞・くも膜下出血などの脳血管障害により、脳の神経細胞の一部に酸素や栄養が行き渡らなくなることです。脳血管障害が発生した場所によって症状が異なり、場合によっては体の麻痺をともないます。

脳血管性認知症はアルツハイマー型認知症とは異なり、症状は徐々に進行せず、脳血管障害が発生するたびに段階的に進行します。

脳血管性認知症の特徴的な症状は、以下のとおりです。

● まだら認知症:症状に波があり、同じことができるときとできないときがある
● 感情失禁:感情をうまくコントロールできない

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、タンパク質の一種であるαシヌクレインでおもに構成されるレビー小体とLewy神経突起が神経細胞中に出現し、ダメージを与えることが原因とされています。

レビー小体型認知症はアルツハイマー型認知症に比べて進行速度が速く、女性よりも男性にやや多く見られることが特徴です。

レビー小体型認知症の症状の特徴には、以下のようなものが挙げられます。
 

認知機能障害

●  初期は記憶力よりも、識別力や注意力の低下が目立つ

●  調子の良いときや悪いときがあり症状の激しい変動がみられる

●  進行後は、見当識障害や記憶力の低下が目立つようになる

視覚認知障害

●  幻視・妄想など、実際にはその場にないものが見える

鬱状態

●  焦燥感や強い不安感が生じる

●  集中力・決断力・意欲の低下を感じる

●  頭が動かなくなる考えるスピードが落ちる

パーキンソン症状

●  体が震える

●  小刻みに歩く

●  筋肉が緊張し動きが硬くなる

レム期睡眠行動異常症

●  睡眠中に大声で叫ぶ、歩き回る、手足をばたつかせるなど

自律神経症状

●  起立性低血圧が生じる

●  便秘症状が見られる

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、前頭葉と側頭葉に起こる脳の萎縮が原因とされています。好発年齢が50~60代と、ほかの認知症よりも低い年齢で発症しやすいことが特徴です。

前頭側頭型認知症のおもな症状と具体例は、以下のとおりです。
 

同じ行動の繰り返し

●  同じ行動やパターンを繰り返す

自発的な発言の低下

●  相手の言葉をオウム返しする

●  言葉が出にくくなる

●  同じ言葉を言い続ける

感情の鈍化

●  他人に共感できない

●  感情移入が難しくなる

社会性の欠如

●  会話の途中で立ち上がる

●  礼節を欠く

●  身だしなみを気にしなくなる

●  万引きを起こす

抑制力の低下

●  暴力を振るう

●  暴言を発する

「中核症状」と「周辺症状」を知っておこう

認知症の症状は、「中核症状」と「周辺症状」の2つに大きく分類されます。

ここでは、認知症の症状を理解するうえで重要な2つの症状について解説します。

中核症状

中核症状とは、脳の神経細胞の障害が原因となる認知機能障害のことです。中核症状では、記憶障害・見当識障害・実行機能障害・判断力や理解力の低下・失語・失認・失行などが見られます。

症状の具体例は、以下のとおりです。

● 家事の手順がわからなくなる
● 時間や場所がわからなくなる
● 相手の話の内容が理解できなくなる

周辺症状

周辺症状とは、中核症状に心理要因・環境要因・身体要因などが加わることで発生する精神状態や行動障害を指し、「行動・心理症状(BPSD)」とも呼ばれます。

以下は、周辺症状の精神症状と行動症状に見られるおもな特徴です。
 

周辺症状(BPSD)

精神症状

行動症状

抑うつ

不安

幻覚

妄想

無気力

多動

不潔行為

暴言・暴力

徘徊

暴食

周辺症状の具体例を見てみましょう。

● 自宅を認識できず、徘徊するようになる
● 感情がコントロールできなくなり、介護を拒否するようになる

周辺症状は一時的にあらわれるものであり、認知症のすべての段階において続くものではありません。周辺環境や本人の性格など、さまざまな要因が原因となるため、あらわれる症状や程度には個人差が大きくなります。

参考リンク:認知症の「中核症状」についての解説記事はこちら
認知症の「周辺症状」についての解説記事はこちら

認知症に備えるための4つの対策

最後に、認知症に備えるための4つの対策を紹介します。

正しい知識を身につける

認知症は、種類・段階・個人差などにより、進行スピードや症状の出方が異なるため、正しい知識を身につけておくことが大切です。認知症の症状や特徴などを知っておくと、早期発見できる可能性が高まるでしょう。

認知症の正しい知識を身につけることで、以下のようなメリットも得られます。

● 早めに介護計画を立てられる
● 認知症を原因とする生活上のトラブルを未然に防げる
● 認知症を発症しても心に余裕を持って対処ができる

相談先を探しておく

認知症を発症すると、相談先を探すことが難しくなる場合があります。認知症の不安や悩みを一人で抱え込まずに済むように、家族・親族・友人など以外にも相談先を探しておき、心理的負担を減らしましょう。

また、早期のうちに相談をして適切な治療を受ければ、認知症の進行を遅らせ、症状を軽減できるかもしれません。認知症に関するおもな相談先は、以下のとおりです。

● かかりつけ医
● 地域包括支援センター
● 医療機関のもの忘れ外来
● 認知症を取り扱うNPO法人や民間団体など

自分の希望などを記録に残しておく

認知症を患うと、自分の希望や意志を他人に伝えることが難しくなります。自分の希望や意思などを記録に残しておけるエンディングノートなどを活用すると、家族や介護する方の負担が軽減されるでしょう。

エンディングノートなどに記録しておく内容には、以下のような項目が挙げられます。

● 介護に関する希望
● 葬儀やお墓に関する希望
● 友人、知人などの連絡先
● 保有資産(預貯金・有価証券・所有している不動産・借入金など)

なお、記録した内容は定期的に見直し、必要であれば加筆修正しましょう。

介護費用に備え民間の認知症保険を検討する

認知症が進行して介護が必要になると、介護サービスの利用や介護用品の購入などに費用がかかります。

介護費用は公的介護保険制度の利用により、ある程度は賄えるでしょう。しかし、公的介護保険制度を利用しても、適用外の介護サービスなどを利用すると、その費用は自己負担になります。

介護費用の自己負担分は、「自分の希望するサービスを利用した場合、公的介護保険制度を利用したうえでいくら不足するのか」を考えることが大切です。

介護費用が不足するようであれば、まずは預金・株式・所有する不動産・民間の保険などで補えるかどうかを考えます。

それでも足りない場合は、認知症と判断された際に保障を受けられる民間の認知症保険を検討します。認知症保険とは、経済的な負担が大きい認知症介護に備えるための保険です。保険料については、保険の販売員に相談してみましょう。

なお、公的介護保険制度の介護サービスを利用するには、要介護(要支援)の認定を受ける必要があります。まずは、かかりつけ医などに相談してみてください。

要介護(要支援)認定を受ける際の、大まかな手続きの流れは以下のとおりです。

1. 市区町村役場や地域包括支援センターに要介護(要支援)の認定申請をする
2. 市区町村などの調査員による訪問認定調査を受ける
3. かかりつけ医が主治医意見書を作成する
4. 市区町村役場による審査が行なわれる
5. 市区町村役場から認定結果の通知がくる

要介護認定には、要支援1~2・要介護1~5の段階があり、それぞれにサービス内容や支給限度額が異なります。

進行していく認知症と付き合っていくために

認知症は早期発見と適切な処置により、進行を遅らせたり症状を軽減できたりする可能性があります。認知症の発症に早く気付くには、認知症の段階別の症状や、認知症の種類・特徴などを知っておくことが重要になるでしょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年6月30日

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