認知症の中核症状とは?
周辺症状との関係性と対応のポイント

年齢を重ねるにつれ、認知症への不安を感じることがあるかもしれません。自分や家族の変化に気付いたとき、どのように対応すれば良いのか戸惑うこともあるでしょう。

認知症の症状は、「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」に分類されます。中核症状は脳の機能低下によって引き起こされ、周辺症状は本人の性格や生活環境的な要因によってあらわれるものです。

この記事では、認知症の根本的な症状である中核症状に注目し、その特徴や周辺症状との関係について解説します。また、具体的な治療法や対応、不安を感じたときに取りたい対策についても紹介するので、参考にしてください。

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認知症の中核症状とは?周辺症状(BPSD)との関係は?

認知症の症状は、「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」の2つに分類されます。以下では、それぞれの特徴や違いを見ていきましょう。

中核症状は脳の機能低下によって起こるもの

中核症状は、脳の機能低下により発生する症状です。心理的なものではなく、脳の神経細胞が障害されることで起こるといわれています。

症状の一例として、記憶力や判断力の低下、物忘れ、時間や場所の認識の困難化(見当識障害)などが挙げられます。

周辺症状(BPSD)は中核症状や環境から二次的に起こるもの

周辺症状は、行動・心理症状ともいい、中核症状が心身の状態や環境などに作用して出現する、二次的な症状です。症状の一例に、抑うつや妄想、徘徊、意欲の低下などが挙げられますが、自身の性格や周囲の環境などに影響を受けるため、症状のあらわれ方は人によって異なります。

周辺症状は中核症状と異なり、すべての認知症患者に出現するものではありません。また、周囲の対応や環境の改善によって症状が軽減するケースもあります。

認知症の周辺症状は、以下で詳しく説明しています。

関連記事:認知症の周辺症状とは?代表的な種類や段階ごとの特徴を理解しよう

認知症におけるおもな中核症状5つ

以下では、認知症で見られるおもな中核症状を5つ紹介します。どのような症状があらわれるのかを理解しておきましょう。

記憶障害

記憶障害は、認知症の症状のなかでも早い時期から見られる症状です。新しいことを覚えられなくなるため、直前に起きた出来事でも忘れてしまうことがあります。知人の名前が出てこなくなるなど、これまで覚えていたことを思い出せなくなるのも特徴の一つです。

症状が進行するにつれて、これまでの記憶を思い出せず忘れていく可能性が高いでしょう。新しい記憶から失う傾向にあるため、子どもの頃などの古い記憶のほうが残ることがあります。

見当識障害

見当識障害は記憶障害と同様に早くから出現し、現在の日付や時間、場所など、現状を理解できなくなる症状です。さらに進行すると、自身と他人の関係性も理解できなくなってしまいます。

日時の把握が困難になることで季節を間違えやすくなり、季節に適さない服装で外出しようとすることがあるでしょう。また、場所を把握できなくなることで、住み慣れているはずの自宅内で迷ってしまったり、よく行く外出先で道に迷ってしまったりします。

他人との関係性の把握が困難になると、知人だけでなく家族も正しく認識できません。過去に亡くなっている人を、まだ生きていると思い込むこともあります。

理解・判断力の障害

理解・判断力の障害により、物事をスムーズに理解できず、適切に判断することが難しくなります。複数の出来事が重なったり、早口で話されたりすると、うまく情報が処理できず混乱することがあるでしょう。

また、目視できないものを理解するのが難しくなるため、ATMや自動販売機の操作が困難になります。

曖昧な表現も理解が難しいことから、何かを説明する際には具体的な内容にしなければなりません。例えば、「TPOを考慮した服装」と言われても理解が難しいため、「コートやジャケットを着て」など、具体的な指示を受けたほうが行動しやすくなります。

実行機能障害

実行機能障害とは、物事を順序立てて、計画的かつ効率的に行動することができなくなる症状です。
例えば、食事の準備では、炊飯器でご飯を炊いている間にみそ汁やおかずを作るのが一般的な流れでしょう。しかし、実行機能障害があると、ご飯を炊いたりおかずを作ったりすること自体は可能でも、効率を考えて作ることが難しくなります。

また、冷蔵庫にあるものを確認し、足りない食材を購入するとしましょう。購入する予定だった食材が品切れだったとしても、通常であれば他の食材を代わりに買うなどして代用することが可能です。

しかし、実行機能障害では予想外のことに対応できません。そのため、購入予定の食材が入手できなかった場合、自分で考えて別の食材を購入したり予定していたメニューを変更したりできる可能性は低いでしょう。

失語・失認・失行

失語とは、脳の言葉を司る部分の機能が低下し、「聞く」「読む」「話す」などの行為が正常にできなくなる症状です。言葉は話せても相手の話を理解できなかったり、相手の話を理解できていても言葉が出てこなかったりするため、意思疎通が難しくなります。

失認とは、視力に問題がないにもかかわらず、目の前にある物や状況を理解するのが困難になる症状です。目の前の物が何かわからなかったり、周囲にある物との位置関係を把握できなくなったりします。

失行とは、運動機能には問題がない状態でも、日常で行ってきた動作が困難になる症状です。例えば、服を着たり箸でご飯を食べたりすることが難しくなります。

認知症の種類とそれぞれにあらわれやすい中核症状

認知症には、複数の種類があります。
代表的なものは「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「脳血管性認知症」「前頭側頭型認知症」の4つです。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症では、記憶障害や見当識障害、失語、失認、失行などが見られます。このなかでも、記憶障害はアルツハイマー型の代表的な症状であり、初期から見られることが少なくありません。

アルツハイマー型は徐々に進行していく特徴を持ち、早い段階では物忘れなどの症状が見られます。初期の段階では工夫次第で自立した生活を送れますが、症状が進行するにつれて、場所がわからなくなったり人の見分けがつかなくなったりします。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症では、認知症の中核症状に加え、幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動異常といった症状が見られます。レビー小体型認知症でも記憶障害は見られますが、初期段階では多くの場合、アルツハイマー型認知症よりも症状が軽いとされています。

レビー小体型認知症は、日時によって症状のあらわれ方に波がある、症状の日内変動が特徴の一つです。また、初期段階では認知機能障害が目立たないことがあります。それによりうつ病や妄想性障害など別の病気と診断されてしまうことが多く、初期の診断が難しいことも特徴の一つです。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳の血管が障害されることで生じる認知症です。おもな症状は記憶障害や実行機能障害ですが、記憶障害に関してはアルツハイマー型認知症よりも軽い傾向にあります。

また、脳血管性認知症は、脳血管の障害が発生した部位によって症状が異なるのが特徴です。症状が出現しても、一部の認知機能は維持されているケースがあるため「まだら認知症」とも呼ばれます。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、脳の側頭葉や前頭葉が委縮して生じる認知症です。言語障害や軽度な記憶障害のほかに、性格の変化や行動障害など、他の認知症とは異なる症状が多い傾向にあります。

具体的には、感情を抑制できない、社会的に不適切な行為におよぶ、同じ行動を繰り返す、感情が鈍くなることなどが挙げられます。異常行動のような特徴的な症状が多く、精神疾患と間違われるケースがあります。

認知症と加齢による物忘れの違い

認知症にはさまざまな症状があるものの、多く見られるのは記憶障害による物忘れです。

認知症は、早期発見と適切な対処により、症状の改善や進行スピードを遅らせることが期待できます。加齢による物忘れと混同して発見が遅れないためにも、それぞれの違いをしっかりと理解しておくことが大切です。

認知症の物忘れでは、何かを忘れてしまっている自覚がありません。それに対し、加齢による物忘れでは、自身が何かを忘れてしまっている自覚がある、という違いがあります。

例えば、認知症の物忘れでは前日の朝に食事したこと自体を忘れてしまいますが、加齢の物忘れでは前日の朝に食事をした記憶はあるものの何を食べたのかを忘れてしまいます。

認知症の中核症状の治療法

現代の医学では、認知症を完全に治すことはできません。認知症の治療の目的は、病気の進行を遅らせ、少しでも症状を和らげることです。

認知症の中核症状の治療方法は、大別して「薬物療法」と「非薬物療法」の2つがあります。

薬物療法

中核症状の緩和には、抗認知症薬が使用されます。代表的な薬には「コリンエステラーゼ阻害薬」や「NMDA受容体拮抗剤」があり、記憶力や判断力の低下を遅らせることを目的としています。

医師や薬剤師の指導のもと、副作用に注意しながら正しく服用することが重要です。

非薬物療法

非薬物療法は、以下のような活動を通じて脳に刺激を与え、認知症の進行を遅らせる治療法です。

音楽療法
回想法
散歩
体操 など

例えば、音楽療法ではお気に入りの曲を聴いたり歌ったりすることで脳を刺激し、感情や記憶を引き出します。また、回想法は過去の思い出を他者に話すことで脳を活性化させ、自己肯定感を高める療法です。

非薬物療法は、患者の自己肯定感を高め、問題行動を抑制する効果も期待されています。薬を使わずに認知症の進行を遅らせる治療法として、患者本人だけでなく家族も穏やかに過ごせる環境づくりに役立つ方法です。

中核症状があらわれたときの対応のポイント

中核症状があらわれた場合、どのように対応すればよいか迷うこともあるでしょう。ここでは、適切な対応方法について解説します。

本人を否定しない

認知症の方は、できないことを責められたり強い言葉で接されたりすると、自尊心が傷つき、ストレスによって症状が悪化することがあります。記憶は失われても、傷ついた感情や怒られた記憶は残るため、否定的な対応は避けましょう。

笑顔で優しく接し、相手が安心できる環境を整えることが大切です。

行動から意図や思いをくみとる

認知症の方の行動には、言葉では伝えきれない意思や気持ちが隠れている場合があります。これは、助けを求めたくても言葉にできないケースがあるためです。

本人が何を望んでいるのかを理解するため、行動をよく観察し、必要なサポートをさりげなく行いましょう。そうすることで、安心感を与えながら信頼関係を築けます。

本人のペースに寄り添う

認知症の方は急かされると混乱しやすいため、落ち着いた環境を整え、本人のペースに合わせることが大切です。

思考や動作がゆっくりになる場合でも、必要以上のサポートは避け、見守りましょう。話しかける際は、正面から視野に入って声をかけるなど、安心感を与える工夫を心がけることがポイントです。

介護者の負担を減らす環境を整える

認知症を発症すると、余命は一般的に5~12年ほど言われています。介護の期間が長くなれば、介護者の心身にも相応の負担がかかるため、工夫や対策が求められます。

介護の苦労を一人で抱え込まず、家族や専門機関に相談しながら支援を受けることが大切です。周囲の助けを借りることで、介護者自身の心身の健康を守り、安定した介護環境を整えましょう。

認知症に不安を感じたときにできる具体的な対応策

実際に、物忘れや判断能力の低下を周囲の人から指摘されるなどして「認知症ではないだろうか」と感じたら、どうすればよいのでしょうか。

ここでは、ご自身の状態に不安を感じた際に行うべき対策を紹介します。

症状の改善・認知症を予防する生活習慣を心がける

認知症の悪化を抑えたり予防したりするには、生活習慣の改善が有効とされています。生活習慣を改善するためには、有酸素運動、バランスの良い食生活、睡眠時間の確保が大切です。

有酸素運動のような軽めの運動は、血流の向上や脳細胞の活性化が期待できます。そのため、サイクリングやウォーキングなどを適度に取り入れるのがおすすめです。

また、バランスの良い食生活にするには、摂取カロリーを抑えること、塩分・糖分・トランス脂肪酸を控えること、緑黄色野菜や果物を積極的に摂取することなどを意識するとよいでしょう。

認知症の予防には、睡眠も有効です。現在睡眠不足の場合は、まず十分な睡眠時間を確保し、良質な睡眠が得られるようにしましょう。

関連記事:認知症に改善策はある?予防や進行を抑えるためにできる治療・対策

認知症保険や介護保険に加入する

ご家族との相続手続きや財産管理対策など、認知症が進行する前に行っておくべき手続きがいくつかあります。症状が進行して判断能力を失うと、財産が凍結されたり成年後見人を自身で選べなくなったりするため、早めに対策しておくことが大切です。

通院や施設の利用にかかる費用は高額になることが予想されるので、費用の捻出に向けた対策も行っておくとよいでしょう。費用が不足すると必要なサービスを受けられなくなる可能性があるため、認知症になった際の備えになる認知症保険や介護保険に加入しておくことをおすすめします。

専門機関に相談したり施設の利用を検討したりする

「認知症かもしれない」と感じたら、地域包括支援センターや保健センターなど、認知症に関して相談できる専門機関を利用するのがおすすめです。専門機関を利用することで、さまざまな情報が得られたり、専門医への受診サポートを受けられたりします。

認知症が進行すると自宅での生活が難くなる可能性があるため、介護施設への入居も検討しておくとよいでしょう。施設の種類としては、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、グループホームなどが挙げられます。

認知症の方が入居できる施設は、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:認知症の方が入所できる施設を解説!入所を考えるタイミングはいつ?

認知症の中核症状について理解し、早期に適切な対応を行おう

認知症は誰にとっても身近な問題のため、親や自分自身の将来について不安を感じる方も多いでしょう。特に中核症状は、記憶障害や判断力の低下、見当識障害など日常生活に大きく影響をおよぼします。
しかし、早期に理解し適切に対応することで、本人の混乱を防ぎ、介護する側の負担を軽減することが可能です。

在宅介護を考えている場合、無理をせず、家族や専門機関のサポートを活用しながら、寄り添うことが重要です。また、薬物療法と非薬物療法を組み合わせることで、症状の進行を遅らせたり、日常生活を少しでも安定させたりできます。

認知症に対する不安を少しでも和らげるために、正しい知識を持ち、準備を早めに進めておきましょう。早めの相談や介護環境の整備が、本人にとっても介護者にとっても安心につながります。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2025年4月8日

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