認知症の症状|検査や治療法・効果的な予防法

認知症の症状にはどのようなものがあるのか、どのような治療法や予防法が効果的なのか、見ていきましょう。

認知症とはどんな病気?

記憶力や判断力の障害により生活に支障をきたす認知症

認知症とは、さまざまな原因で脳細胞の働きが悪くなったり壊死したりすることで、記憶力や判断力などに障害が生じ、対人関係や社会生活に支障をきたしている状態です。
およそ6ヵ月以上、この状態が続く場合に認知症と診断される可能性があります。
認知症は複数のタイプがありますが、最も多いのが「アルツハイマー型認知症」です。

通常の「物忘れ」とどう違う?

人間は歳を重ねるごとに「物忘れ」が自然と増えるものですが、認知症による物忘れと通常の物忘れは性質が異なります。

例えば、前日に食べた夜ご飯を思い出す場面で考えてみましょう。加齢による通常の物忘れは断片的なものなので、夜ご飯で「何を食べたか」を忘れてしまうのが一般的です。また、本人にも忘れてしまったことの自覚があります。

一方、認知症による物忘れの場合は行動全体を忘れてしまうため、上の例でいくと「夜ご飯を食べたこと」そのものを忘れてしまいます。加えて、本人に忘れたことの自覚がない点も特徴です。

両者は進行スピードも異なります。加齢による物忘れは時間をかけて進行するのに対し、認知症による物忘れは急速に進行するため、早期の適切な診断が重要です。

認知症の症状はどのようなもの?

脳の細胞が壊れて減少していく病気の本質として現れる症状を「中核症状」、残存している脳の細胞が頑張りアンバランスを生じることで現れる症状を「周辺症状=BPSD(認知症の行動・心理症状)」といいます。

中核症状

記憶障害

認知症の初期段階から現れやすい障害です。
目や耳などから入るたくさんの情報や出来事(自分の言ったこと、やったこと)を記憶できなくなり、直前のことが思い出せなくなります。
認知症が進行すると、昔の記憶や自分に関する大事な情報も失われていきます。

見当識障害

記憶障害と同様に、認知症の初期段階から現れる障害です。
見当識とは、自分が置かれている状況を正しく認識する能力です。認知症になると「時間→場所→人」の順でわからなくなります。

失見当識の具体例

はじめに時間の見当識で障害が生じ、 今日の年月日や曜日、今の時刻、季節や自分の年齢を忘れるようになります。遅刻をするなど予定に合わせた行動ができなくなったり、季節にあった服装を選べなくなったりします。
次に、今自分のいる場所がわからなくなり、自宅に帰れず迷子になる、部屋を間違える、トイレの場所がわからなくなり失禁するなどの症状が現れます。
さらに進行すると、人を間違えることが常態化します。家族や親戚、友人でも認識できない場面が増え、実の子を兄弟と認識するなど、相手と自分の関係を間違えることもあります。

理解・判断力障害

考えるスピードが遅くなり、判断にも支障が出てきます。
一度に処理できる情報量が減るため、複雑なことについて理解したり、記銘したり、反応することは困難です。複数のことが重なるなど些細な変化で混乱しやすくなります。

実行機能障害

目的をもって、計画を立てて物事を実行し、その結果をフィードバックしながら物事を進めていく機能の障害です。
認知症になると、仕事や家事を段取り良く進められなくなり、日常生活に支障が出てきます。
また、予想外の出来事に対して、他の手段を考えて適切な方法で対処することが難しくなります。

失行・失認・失語

  • 失行とは、身体を動かす機能の障害はみられず、行動しようとする意思はあるものの、今までの生活で身に付けていた動作が行えない状態です(道具がうまく使えない、服がうまく着られないなど)。
     
  • 失認とは、身体的には問題がなくとも「五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)」による認知力を正常に働かせ、状況を正しく把握することが難しい状態をいいます(例えば、目で醤油を見ているけれど、「醤油を取って」と言われても醤油と認識できない)。
     
  • 失語とは、言葉を司る脳の部分が機能しなくなり、「聞く」「読む」「話す」などの行為が正常にできなくなる症状です。

周辺症状(BPSD)

認知症の行動・心理症状(BPSD)は周辺症状とも呼ばれており、中核症状が要因となって、行動や心理症状に現れるものです。本人の性格や環境、心理状態によって出現するため、人それぞれ個人差があります。

病気をよく理解して適切に対応したり、リハビリなどを行ったりすることで、改善する場合もあります。

活動亢進(こうしん)

焦燥性興奮、易刺激性、脱抑制、異常行動、暴言や暴力、徘徊など。

精神の不調

幻覚、妄想、夜間行動異常、不眠、睡眠障害など。

感情障害

不安、ひどく落ち込む、悲哀感、自責感など。

アパシー

意欲低下、自発性低下、情緒の欠如、不活発、周囲への興味関心の欠如など。

認知症の種類ごとの症状

おもな認知症の症状を種類別に見ていきましょう。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症の患者数は、日本の認知症患者数の約7割を占めています。
徐々に進行することが特徴で、近時記憶障害(数分から数日程度の記憶の障害)で発症することが多く、進行にともない、見当識障害、遂行機能障害、視空間障害(迷子になりやすい)が加わります。
周辺症状ではアパシーやうつ症状、病識の低下、取り繕い反応といった対人行動が出現する傾向です。
65歳以前の発症例では、失語症状、視空間障害、遂行機能障害などの記憶以外の認知機能障害が前景に立つこともあります。

脳血管性認知症

障害を受けた部位で出現する症状は異なりますが、うつ、アパシー症状、情動失禁(情動のコントロールができないため、わずかな刺激で急に泣いたり、笑ったり、怒ったりする状態)、人格変化や歩行障害(不安定歩行や繰り返す転倒など)、排尿障害などがみられます。

レビー小体型認知症

幻視(人物や動物、物体など)、注意・明晰さ・認知力が変動する、パーキンソニズム(動作緩慢、手足の震え、筋肉が硬くなるなど)、レム睡眠行動異常症(睡眠中に突然大声を上げたり、手足を振るなどの激しい動きをしたり、悪夢で大きな寝言を言うなど)を特徴とします。抗精神病薬に対する過敏性、姿勢の不安定性、繰り返す転倒、失神、自律機能障害(便秘、起立性低血圧、尿失禁など)、過眠、嗅覚鈍麻、幻覚、体系化された妄想(被害妄想、不貞妄想、幻の同居人など)、アパシー、不安、うつ症状も早期から認めることが多いです。

初期の認知症の症状

認知症の初期症状には、物忘れや気分の落ち込み、集中力の低下などがあります。どのような症状が見られたら認知症の可能性があるのか詳しく見ていきましょう。

物忘れ

物忘れは誰にでもあるものです。しかし、頻度が高くなってきた場合は認知症の初期症状の可能性があります。次のような場合は注意したほうがよいでしょう。
  • 何度も同じことを聞いてくる、話してくる
  • ゴミの回収日を忘れてゴミを出す日を間違える
  • 同じものを何度も買ってくる
  • 料理の味付けが変わる
  • 置き忘れや忘れ物が増える

気分の落ち込み・混乱

認知機能が低下すると、精神的に落ち込んだり混乱したりする頻度が高くなります。次のような症状に注意しましょう。
  • 少しのことで怒るようになった
  • 財布を置いた場所がわからなくなり人に盗まれたと思い込む
  • 活力がなくなってきた
  • 趣味や日々の習慣への興味がなくなってきた
  • 生活がだらしなくなった

集中力の低下

認知症を発症すると、集中力が低下する場合があります。次のような症状がみられた際は注意しましょう。
  • 計算や運転のミスが増えた
  • 本やドラマのストーリーの流れを追えなくなる
  • 手芸や家事など集中力が必要なものを投げ出すようになった
  • 約束を守らなくなった

時間や場所の感覚が乱れる

今いる場所、時間などの感覚が乱れることで、普段の生活習慣が行えなくなる場合があります。
認知症がある程度進行してから起きる症状ではありますが、初期段階でも起きる可能性があるため確認しておきましょう。
  • 今の日付がわからない
  • さっきまで電話していた人の名前がわからない
  • 近所でも道に迷ってしまうことがある

認知症の検査方法

認知症の診断にあたっては、さまざまな検査が行われます。一般的な検査の流れとおもな検査の内容を見ていきましょう。

一般的な認知症検査の流れ

認知症の検査は「問診→身体検査→画像検査→神経心理学検査」の順に行われるのが一般的です。ただし、これらの検査を必ずすべて実施するわけではありません。問診や症状を確認したうえで、必要な検査を行い、認知症か否かを判断します。

身体検査

認知症検査では、血液検査や尿検査などの身体検査も実施されます。血液や尿からさまざまな物質を検出することにより、認知症そのものに関するチェックだけでなく、脳以外の臓器に異常がないかも確認します。甲状腺機能低下症などの認知症による合併症を発症していないかチェックするのも重要なポイントです。

画像検査

画像検査は、大きく分けて「形態画像検査」と「機能画像検査」の2種類を実施します。

「形態画像検査」は、CTやMRIなどの機器を用いて、脳の物理的な形を検査するものです。脳の萎縮状況を確認して認知症の診断に役立てるとともに、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞といった緊急性の高い疾患がないかどうかもチェックします。

「機能画像検査」は、脳の血流状況を確認するSPECT検査、糖代謝活性や認知症原因物質の沈着状況を確認するPET検査などを行います。脳機能が正常に働いているかどうかをチェックでき、初期のアルツハイマー型認知症も発見しやすいのが特徴です。

神経心理学検査

検査を受ける方に簡単な作業をしてもらったり、簡単な質問に答えてもらったりすることで、認知症か否かをチェックする検査です。基準となる点数を満たさない場合、認知症の疑いがあると診断されます。いずれの検査も一つの指標に過ぎないため、点数に届かないからといって必ずしも認知症とは限りません。

神経心理学検査の代表的な検査方法には以下のようなものがあります。

改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

記憶力を確かめる9つの簡単な設問に、口頭で答えてもらう形式で実施する認知症テスト。30点満点中、20点以下の場合には認知症の疑いありと判断されます。

簡単に実施できて、かつ信頼性が高いことから、多くの医療機関で採用されています。設問を用意するだけなので、自宅で実施することも可能です。

時計描画テスト(CDT)

指定した時間の時計の針の形を正しく描けるかどうかによって、認知症の疑いの有無をチェックするテストです。単に描けるかだけでなく、描いている途中の様子を見ながら、描けない要因なども細かく分析します。

他のテストのような質問形式ではないため、患者本人が抵抗なく実施できるのがメリットです。

ミニメンタルステート検査(MMSE)

「精神状態短時間検査」とも呼ばれ、短時間で多くの質問や計算などに回答してもらうタイプの認知症テストです。一つ目に紹介した長谷川式スケールと形式は似ているものの、質問内容が多岐にわたり、質問の数が多くなっています。質問する分野が幅広いため、本人の得意なこと、苦手なことがわかりやすい検査です。

認知症はどのように治療する?

認知症と診断されたら、適切な治療が行われます。しかし、アルツハイマー型認知症をはじめとする「変性性認知症」は、今のところ根本的な治療法が確立されていません。治療とはいっても、あくまでも進行を遅らせるためのものであることは認識しておきましょう。

変性性認知症の治療方法は、「薬物療法」と「非薬物療法」の2つに大別されます。

薬物療法

薬を服用することで、症状が発現するのを抑えたり、症状の進行を遅らせたりする治療法です。中核症状に対しては「抗認知症薬」、周辺症状(BPSD)に対しては抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬などを服用することもあります。

ただ、服薬に関しては副作用のリスクがあります。鎮静がかかることによって転倒・骨折のリスクなどが上昇する可能性もあるため、非薬物療法を行っても思うような効果が見られない場合や、本人・家族が症状により苦痛を感じるケースにおいて薬物療法を実施するのが一般的です。

非薬物療法

リハビリテーションや心理療法など、薬物を使用せずに症状の進行を遅らせる治療法です。認知症で行われる非薬物療法として、回想法、認知リハビリテーションが挙げられます。

回想法は、過去の写真や思い出の品を見て、昔の記憶を思い出しながら、ほかの人と会話します。記憶を他人と共有することにより、認知機能アップを図る治療法です。認知リハビリテーションでは、ゲームやパズルなどを使って、認知機能の維持や回復を図ります。

また、軽い運動や体操、音楽療法、芸術療法、動物セラピーなどを組み合わせて実施するケースもあります。

こうした活動を通して本人に自信を持たせ、肯定的な感情を生むことで、症状の軽減につながるとされています。

認知症の予防や進行抑制に効果的な5つの方法

認知症の発症を防いだり、進行スピードを遅らせたりするには何が有効なのでしょうか。効果的な5つの方法を紹介します。

(1)バランスの良い食生活をする

生活習慣病による体内の血流不足は、認知症の発症や進行を引き起こすといわれています。そのため、生活習慣病にかからないよう、日頃からバランスの良い食生活を心がけることが大切です。具体的には次のことを意識しましょう。
  • 塩分や糖分を摂りすぎない
  • 抗酸化作用が期待できる緑黄色野菜を積極的に摂る
  • 動脈硬化を予防するDHA、血液をサラサラにするEPAやDHAを含む魚類を積極的に摂る

(2)定期的な運動を心がける

体を動かすことには、脳の働きの活性化による、認知能力の低下防止効果が期待できます。
大切なのは、一度に高負荷の運動をしようとするのではなく、ウォーキングなどの適度な運動を日頃から定期的に行うことです。無理をするとケガの原因になるだけでなく、習慣化できなくなってしまいます。

(3)過度な飲酒や喫煙をやめる

過度な飲酒や喫煙は生活習慣病の原因になるほか、お酒の過剰摂取を原因とするアルコール性認知症の発症にもつながります。認知症予防の観点からは飲酒や喫煙は悪影響を及ぼすものであり、飲酒や喫煙については医師によく相談しましょう。

(4)認知トレーニングを取り入れる

脳トレやパズル、計算ドリルなど、認知能力を鍛えるトレーニングは、認知症予防や進行を抑えるのに有効です。しかし、無理にやっても続きません。

囲碁将棋、料理、楽器演奏、テレビゲームなど楽しめることに、趣味の範囲で無理なく取り組むことが大切です

(5)人間関係を持つ

地域活動や友人との交流を通して社会的なつながりを持っておくと、生きがいができて認知症予防につながります。他人と会話を楽しんだり、一緒に運動したりすることが認知能力低下の予防にもなり、認知症の進行も遅らせられるでしょう。

認知症への正しい理解と対策を


認知症は進行性の病気であるため、初期の段階で気付き、早期に治療を開始することが重要です。アルツハイマー性認知症などの変性性認知症は、現状根本的な治療法がないとされますが、適切な治療を行えば進行速度を抑えることはできます。

今回ご紹介した5つの方法を実践して認知症予防に努めるとともに、どのような症状がありうるのか把握しておき、ご自身や身近な方について、少しでも認知症が疑われたら早めに医療機関を受診することが大切です。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年8月2日

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