認知症の症状<幻覚>~認知症による幻覚症状とは?原因や対応方法を解説

認知症の症状の1つである「幻覚」。認知症者が幻覚を起こしたときに「どういう対応をすればよいかわからない」と悩んでいる方はいないでしょうか。本記事では、幻覚症状について・原因や対応方法を解説します。

認知症による幻覚症状とは

幻覚症状を起こすと、実際には見えないもの、聞こえないものなどが見えたり聞こえたりします。認知症の中でも、レビー小体型認知症で幻覚症状が起こりやすいです。レビー小体型認知症と比べれば発症割合は低いですが、アルツハイマー型認知症でも見られます。

幻覚症状の種類には、「幻視」「幻聴」「幻味」「幻臭」「幻触」があります。他の人にとっては理解できない言動がとられますが、本人にとっては実際に感じている事実であることを知っておきましょう。

錯覚との違い

錯覚はいわゆる「見間違い」や「聞き間違い」など、実際に存在するものを誤認してしまうことです。実際は存在しないものを、存在するかのように認識してしまう幻覚とは異なります。

また、メカニズムにも違いがあります。目の錯覚と幻視を例として挙げると、どちらも目から情報が入り、視覚を司る「後頭葉」に情報が伝達されます。目から入った情報は脳で処理され、自動で補正がかかっています。私たちは、その補正されたものを見ているのです。それにより誤認したものが「目の錯覚」です。
一方、目から後頭葉に情報が伝わる途中の部位に障害が生じ、無いものをあるかのように認識してしまうのが「幻視」になります。

幻覚症状の原因

幻覚症状の原因には、認知症が影響しているものとそれ以外のものがあります。

レビー小体型認知症の特徴的症状

幻覚症状は主に、レビー小体型認知症で見られます。レビー小体型認知症とは、レビー小体と呼ばれる、異常タンパク質が脳内に蓄積することで発症する認知症です。幻覚症状の中でも、幻視が特徴的な症状として知られています。幻視が現れる原因は、記憶を司る「側頭葉」や情報処理を行う「後頭葉」に異常が起こるためだとされています。レビー小体型認知症の発症割合は女性よりも男性の方が高く、認知症の進行が比較的早いのが特徴です。

機能の低下や環境による不安感

認知症になると、神経同士での情報のやり取りに障害が起こります。それにより視覚や聴覚、味覚などの五感、空間認識能力に異常が生じ、幻覚症状を引き起こすのです。また、不安感を抱きやすい環境だと幻覚症状が起こりやすくなります。認知症者は負の感情を記憶しやすいため、幻覚症状が起こるとさらに不安を感じます。悪循環に陥らないよう、環境を整えておくことが重要です。

認知症以外の原因

認知症以外の原因による幻覚症状は、統合失調症やうつ病などの精神疾患で多くなっています。他にも過眠症やナルコレプシーなどの睡眠障害、肝性脳症や単純ヘルペス脳炎などの意識障害が見られる疾患で幻覚症状は生じます。

また、アルコールの過剰摂取や薬の副作用でも幻覚症状が引き起こされる場合があります。認知症の症状である「興奮」や「せん妄」に対して睡眠薬や抗不安薬を用いますが、副作用に「せん妄」のリスクがあります。せん妄とは軽度の意識障害のことで、幻覚症状を引き起こしやすいため注意が必要です。

幻覚の主な症状

幻覚にはさまざまな症状があります。認知症の種類によって現れやすい幻覚が異なります。どのような認知症でどういった幻覚が現れやすいかにも注目して見ていきましょう。

幻視

レビー小体型認知症で特徴的な症状が「幻視」です。他の人には見えていないものが、見えてしまう症状になります。レビー小体型認知症では、よりリアルに物や人が見えるのが特徴です。アルツハイマー型認知症でも見られる場合がありますが、レビー小体型認知症と比べればあまり目立ちません。

幻聴

実際には聞こえないものが聞こえてしまう症状が「幻聴」です。幻聴もさまざまで「誰かの声が聞こえる」「電話の音が聞こえる」「誰かと誰かの会話が聞こえる」などがあります。主にレビー小体型認知症で生じます。周囲からは何かに取りつかれているように見え、対応に困りがちです。認知症による症状であることを把握し、冷静に対応しましょう。

幻味/幻臭

幻味は、実際にはない味を感じ、食事の際に「変な味がする」といった発言が見られます。しかし、口の中に食べ物がなかったり、食べていても何も味がしなかったりしても、さまざまな味を感じるようです。
幻臭は、実際にはない臭いを感じ「変な臭いがする」といった発言が見られます。

体感幻覚

体感幻覚は、皮膚や臓器に幻覚を生じるものです。具体的には「手足を触られている感じがする」「虫が体を這っている感じがする」「脳が溶けてしまった」といった症状が見られます。精神疾患の患者に多い幻覚症状です。

錯視

錯視は、実際にそこにあるものを見間違える現象です。幻覚症状の一種ではありませんが、レビー小体型認知症にて幻視とともに錯視が起こります。錯視がきっかけで幻視が引き起こされることもあります。

妄想

本来ならありえるはずのないことを、信じ込んでしまう「妄想」は、認知症をはじめ統合失調症などの精神疾患で見られます。認知症ではレビー小体型認知症やアルツハイマー型認知症で起こります。幻視から「物盗られ妄想」や「被害妄想」といった症状に発展する場合があるため注意が必要です。

幻覚症状が出た際の対応方法

幻覚症状が出た際、介護者には適切な対応が求められます。対応を誤ると不安や混乱を助長してしまいます。ここからは、どのように対応したらよいか具体的な方法をご紹介します。

否定しない

どのような認知症の症状でも同じですが、否定しないことが大切です。他の人にとっては見えたり聞こえたりしていませんが、本人にとっては体験した事実になります。幻覚症状について否定せず傾聴しましょう。認知症者は想像以上に繊細で、ささいな言動や雰囲気でも感じ取ります。ストレスにならないよう十分配慮した対応が必要です。

安心できる対応をする

現れる幻覚症状によっては、不安や混乱を招きます。介護者は安心できる声かけなどの対応が必要です。幻視や幻聴の対応を例に挙げると、幻視は、近づくことで見えなくなる場合があるため「一緒に確認してみましょう」といった声かけを行い、見えている方向に近づいてみましょう。幻聴は、会話をすることで消える場合があります。関心を他のことに向けるような声かけを行うとよいでしょう。

興奮しているとき

幻覚症状が出た際、認知症者は興奮状態に陥りやすいです。突発的な行動を取る場合があるため、近寄りすぎないように注意してください。暴力がふるまわれケガをする恐れがあります。また、本人がケガをしないための配慮も必要です。周囲に刃物やガラスなど危険なものがないか、床は滑りやすくないか、高い場所から落ちるものはないかを確認しましょう。

本人が「おかしい」と思っていることも

基本的に認知症者は症状に対して自覚することが困難ですが、幻覚症状に対して「何かおかしい」と感じていることがあります。冷静な状態で問題なさそうであれば、幻覚症状について説明を試みましょう。その場合は言葉遣いに注意してください。衝撃のあまりショックを受ける可能性があるため、できるだけ柔らかい言葉遣いで衝撃の少ない説明をすることが大切です。自身での説明が難しい場合は、主治医に依頼してみましょう。

住環境を整える

幻覚症状は、環境に大きく影響を受けます。住環境を整えるだけでも幻覚症状の出現を抑えられるため、可能な限り対策しておきましょう。

照明を明るく

幻覚の中でも、幻視は暗い場所で起こりやすいです。また、暗い場所だと目の錯覚も起こりやすいため、幻視につながりやすくなってしまいます。照明の明るさを調節して、部屋全体を明るくしましょう。人によって光の感じ方は異なりますが、明るすぎてもリラックスしづらい環境が作られてしまいます。認知症者の表情や行動から明るさが適切かを確認しましょう。

部屋の中を片付ける

部屋の中を片づける理由はいくつかあります。

● 目の錯覚から幻視につながらないようにするため
● 幻覚症状を生じた際に床にある物で転倒しないようにするため
● 認知症者が夜間に行動する際、動線をわかりやすくするため
● 物の散乱で混乱を生じないようにするため

認知症者は周囲への注意が困難であり、周囲への雰囲気から感情を乱しやすいことが特徴です。部屋の中を片づけるだけでも、幻覚症状に加えてこれらの症状への対策になります。

部屋の点検

部屋を点検する際は、次のポイントを参考にチェックしましょう。

● 座席の位置:周囲の視線が気になる場所に座席がないか
● 照明の明るさ:暗すぎたり明るすぎたりしないか
● 音が響かないか:テレビや外の音などが響く部屋ではないか
● 不安や混乱を招く物がないか:消化器など不安を煽るような道具がないか
● 認知症者にとって馴染みのある物があるか:生活家具や写真など、馴染みのある物                    があるか

相手の考えや気持ちに寄り添うことを意識して対応を

認知症の症状の1つである「幻覚症状」に対して対応する場合は、それぞれの症状に応じて対応を変えるのがベストです。しかし、共通して否定しないようにすることが大切です。相手の考えや気持ちに寄り添うことを意識しましょう。また、幻覚症状は環境によって現れやすさが異なります。今回ご紹介した内容を参考にしてみてください。

村上友太〔医師〕

医師、医学博士。福島県立医科大学医学部卒業。福島県立医科大学脳神経外科学講座助教として基礎・臨床研究、教育、臨床業務に従事。現在、東京予防クリニックで勤務。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、神経内視鏡技術認定医、抗加齢医学会専門医。
日本内科学会、日本認知症学会などの各会員。

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