軽度認知障害(MCI)や初期の認知症の症状・受診のサイン

進行性の病気である認知症。
認知症を早期発見・早期治療するためには、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)や初期の認知症症状を確認しておくことが大切です。
軽度認知障害(MCI)や認知症の初期症状、受診のサインについて詳しく見ていきましょう。

そもそも認知症とは

認知症とは、さまざまな原因で脳細胞の働きが悪くなったり壊死したりすることで、記憶力や判断力などに障害が生じ、対人関係や社会生活に支障をきたしている状態です。
およそ6ヶ月以上、この状態が続く場合に認知症と診断される可能性があります。

認知症は複数のタイプがありますが、最も多いのが「アルツハイマー型認知症」です。

軽度認知障害(MCI)とは

認知症になる一歩手前の状態を「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」と呼びます。
認知症への入口となる初期の軽度認知障害のことで、基本的な日常生活には支障がなく、認知症の病的水準まではいかない”グレーゾーン”であるといえます。

軽度認知障害(MCI)の定義

軽度認知障害(MCI)は、記憶力や注意力などに低下がみられている一方で、日常生活に支障をきたさない状態です。
厚生労働省では、以下のように定義しています。
  • 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。
  • 本人または家族による物忘れの訴えがある。
  • 全般的な認知機能は正常範囲である。
  • 日常生活動作は自立している。
  • 認知症ではない。

引用:厚生労働省e-ヘルスネット「軽度認知障害」

軽度認知障害(MCI)を放置すると約40%の方が5年以内に認知症に進行することが分かっており、軽度認知障害(MCI)の状態で適切に対処することで、アルツハイマー型認知症発症を防げる可能性があります。

*厚生労働省「e-ヘルスネット」より、年間10%の方が認知症に進行すると仮定して当社試算

認知症の初期症状

認知症の初期症状には、物忘れや気分の落ち込み、集中力の低下などがあります。
症状について、詳しく見ていきましょう。

物忘れ

物忘れは誰にでもあるものです。しかし、頻度が高くなってきた場合は認知症の初期症状の可能性があります。
次のような場合は注意した方がよいでしょう。
  • 何度も同じことを聞いてくる、話してくる
  • ゴミの回収日を忘れてゴミを出す日を間違える
  • 同じものを何度も買ってくる
  • 料理の味付けが変わる
  • 置き忘れや忘れ物が増える

気分の落ち込み・混乱

認知機能が低下すると、精神的に落ち込んだり混乱したりする頻度が高くなります。
次のような症状に注意しましょう。
  • 少しのことで怒るようになった
  • 財布を置いた場所がわからなくなり人に盗まれたと思い込む
  • 活力がなくなってきた
  • 趣味や日々の習慣への興味がなくなってきた
  • 生活がだらしなくなった

集中力の低下

認知症を発症すると、集中力が低下する場合があります。
次のような症状がみられた際は注意しましょう。
  • 計算や運転のミスが増えた
  • 本やドラマのストーリーの流れを追えなくなる
  • 手芸や家事など集中力が必要なものを投げ出すようになった
  • 約束を守らなくなった

時間や場所の感覚が乱れる

今いる場所、時間などの感覚が乱れることで、普段の生活習慣が行えなくなる場合があります。
認知症がある程度進行してから起きる症状ではありますが、初期段階でも起きる可能性があるため確認しておきましょう。
  • 今の日付がわからない
  • さっきまで電話していた人の名前がわからない
  • 近所でも道に迷ってしまうことがある

<チェックリスト>たとえば日常生活で、こんな症状が現れたら認知障害のサインかも

  • 家電(電子レンジ、洗濯機、電動髭剃り、血圧計)など、いつも使っていたものが使えなくなる
  • 買い物のたびに同じもの(トイレットペーパー、ティッシュ、調味料、食材、電池 etc)を買ってくる
  • 混乱しているような様子でイライラすることが増える
  • 道に迷う
  • 部屋が散らかっている。タンスや押し入れ、水回りがぐちゃぐちゃになっている
  • 周囲の人とのトラブルが増える
  • 「バカになったみたい」「もうダメね」「死んじゃった方が楽」といった発言をする
  • 確認することが増える
  • 人との関わりを断るようになる。会話を終わらせようとする
  • 引きこもりがちになる
  • 薬を正確に飲めていない。薬がたくさん余っている。残薬の数が合わない
  • お金のことを心配したり、執着するようになる
  • 病院の通院日を忘れる。予約日や時間を間違える
  • 小銭が増える(計算しにくくなったり、計算が面倒でいつもお札で支払うため)

認知症による物忘れと加齢による物忘れの違い

物忘れについては加齢が原因で起きる場合もあります。そのため、認知症と加齢の物忘れは混同されがちです。

認知症による物忘れと加齢による物忘れの違いについても確認しておきましょう。
認知症による物忘れ 加齢による物忘れ
体験したこと 体験したこと自体を忘れる 体験の一部を忘れる
学習能力 新しいことを覚えるのが難しい 変化はない
もの忘れの自覚 ない ある
探し物に対して 誰かが盗んだと思い込む 努力すれば見つけられる
日常生活への支障 ある ない
症状の進行 進行する 極めて徐々に進行する

出典:政府広報オンライン『もし、家族や自分が認知症になったら知っておきたい認知症のキホン』(2021年)

認知症が進行すると現れる症状

認知症の症状には、「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD:Behavioral and psychological symptoms of dementia)」があります。
それぞれ、どのような症状なのか詳しく見ていきましょう。

中核症状

記憶障害

新しいことを記憶できなくなったり、直近で起きたことを思い出せなくなったりします。

症状が進行すると、以前から記憶していたことも思い出せなくなります。

見当識障害

時間や場所、季節感などの感覚が薄れていき、迷子になったり遠くに行こうとしたりするようになります。

さらに進行すると、自分の年齢や家族の存在などの記憶も薄れていきます。

理解・判断力の障害

思考にかかる時間が長くなり、同時に2つ以上の事象が重なった状態では相手が誰なのかがわからなくなります。
また、小さな変化や普段と異なる出来事が起きた際に混乱することが増えます。

実行機能障害

同じものを購入したり、複数の行動を同時に進められなくなったりします。

例えば、同じ調味料を複数購入してしまう、電子レンジで温めている間にフライパンで料理をすることができない、計画通りに物事を進められないなどです。また、予想外の出来事が起きたときに対処できなくなります。

感情表現の変化

自分が置かれている状況を正しく認識できなくなるため、その場にそぐわない感情表現をするようになります。

例えば、「そのような馬鹿なことはあるか」と言われた場合、自分そのもののことを「馬鹿」と言われたと思って怒るような場合があります。

行動・心理症状(BPSD)

行動・心理症状(BPSD)は、本人の性格や生活環境、人間関係などの要因が関連している行動や心理面の症状です。
例えば、次のような症状が現れます。
  • 認知能力の低下を自覚して元気がなくなる
  • できなくなることが増えて自信を失って何もかも面倒になる
  • 人にものを盗られたと思い込む
  • 妄想で自分が誰かに狙われているなどと言う

認知症の初期症状を疑うときは医療機関へ

認知症の中でもアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症は、生活習慣病との関連が示唆されています。
軽度認知症(MCI)の状態で医療機関を受診し、医師の指導のもと食生活の改善や運動習慣を身につけるなど適切な対応を行うことで、 認知症の発症リスクを軽減できる可能性があります。

また、認知症を発症している場合も、初期の段階で受診し早期に治療を開始することで、進行を遅らせたり症状を改善したりできる場合もあります。

少しでも認知症を疑ったら早めに医療機関を受診することが大切です。

ご自分やご家族の認知症へ備えましょう

認知症は進行性の病気ですので、少しでも認知症が疑われる場合は早めに医師に相談することをおすすめします。
最初はご本人が受診を拒否することもあるかもしれません。そのような場合も、まずはご家族から医師に相談するとよいでしょう。

ご自身のほかご家族の方の将来の認知症が不安な方は、サインを見逃さないように気を付けながら、認知症を発症した場合に備え認知症保険へのご加入もぜひご検討されてはいかがでしょうか。

とよだクリニック 院長
豊田 早苗

2000年鳥取大学医学部医学科卒業。2002~2004年総合診療医として病院過疎地域での地域住民の健康診断等に従事した後、2005年とよだクリニック(精神科・心療内科・神経内科・内科)開業。
2015年とよだクリニック認知症予防リハビリセンター開設。

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