暴言が出るのには理由や原因があります。認知症の影響は大きく、種類によって暴言症状の現れやすさが異なります。
暴言が出る理由・原因は、認知症の影響が大きいです。認知症で生じる症状には、「中核症状(認知機能の障害)」と「BPSD」と呼ばれる中核症状の影響で現れる行動・心理の症状があります。中核症状には、記憶障害、見当識障害、遂行機能障害、理解・判断力の低下、失行・失認などがあります。一方のBPSDには、暴言、徘徊、抑うつ、せん妄、睡眠障害、興奮といった症状があります。つまり、認知症で生じる認知機能障害が原因となり「暴言」が引き起こされているのです。
認知症の種類によって障害されやすい脳の部位は異なるため、暴言症状の特徴も異なってきます。それぞれ見ていきましょう。
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉が何らかの原因で神経に異常をきたして生じる認知症です。他の認知症と比べて、認知症を発症してから早い段階で暴言の症状が現れやすいのが特徴になります。
レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれるタンパク質が特定部位に蓄積して生じる認知症です。レビー小体型認知症の特徴的な症状である「幻視」から暴言につながる場合が多くなっています。よりリアルな物や人物が見えるため、それらに対して恐怖を感じて感情が高ぶり、暴言が出やすいのです。
認知症の種類の中でも2番目に発症割合の高い認知症です。血管性認知症は、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害で発症した認知症です。脳血管障害で血流が妨げられ、脳細胞に影響が届かなくなるため障害部位の脳細胞が壊死してしまいます。障害が発生した部位が感情のコントロールを行う前頭葉の場合、暴言の症状が出やすい状態と言えます。
認知症の種類で最も発症割合の高い認知症です。アミロイドβとタウタンパクと呼ばれる異常なタンパク質の蓄積が原因となります。異常なタンパク質の蓄積により脳全体で細胞の萎縮が起こり、理解力や判断力の低下、感情コントロールの低下を生じ、暴言症状が現れます。そのため、アルツハイマー型認知症では症状が進行した際に暴言を発しやすくなるのが特徴です。また、睡眠障害を併発しやすいため、その影響から暴言に発展する方も少なくありません。
そもそも不安は、自分の身を守るための防衛反応です。脳の「扁桃体」と呼ばれる部位は、不安や恐怖を感じたときに活動するとされています。扁桃体は、身を守るために不安や恐怖を感じると、闘う、逃げるといった行動を身体にとらせます。つまり、認知症者は扁桃体の機能から「暴言」を発し、身を守っているのです。
普段私たちは、脳の「前頭葉」で感情のコントロールを行っています。怒りを感じたときに自制心を働かせられるのは前頭葉が機能しているおかげです。しかし、認知症になると脳細胞の萎縮で前頭葉の機能が低下しているため、感情のコントロールが難しくなり暴言症状が現れやすくなっています。
みなさんも自尊心が傷つけられ、悲しみから来る怒りを覚えた経験に覚えがある方も少なくないでしょう。認知症者も同様に、自尊心が傷つけられると怒りを感じ、暴言となって現れる場合があります。
体調の悪さは、暴言のきっかけになります。特に認知症者は、感情コントロールが難しいため、体調が悪いことでさらに感情の不安定さを招きます。暴言を防ぐために、普段から認知症者を観察し、いつもと違うところがないか確認することが大切です。
認知症に対して薬剤を服用した際、副作用として怒りやすく(易怒性)なることがあります。例えば、認知症に用いられる「ドネペジル」という薬です。ドネペジルはアルツハイマー型認知症に対して使用される場合が多いですが、副作用の1つに易怒性があり、それによって暴言を発してしまいます。薬物療法を行う場合は治療だけにとらわれず、薬がもつ副作用に注意してください。