認知症について知る

レビー小体型認知症の原因と症状
初期症状から治療法まで解説


認知症には、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など、さまざまな種類があります。認知症が疑われる家族がいる人のなかには、アルツハイマー型認知症とは異なる症状に頭を悩ませている人もいるのではないでしょうか。

幻視や睡眠時の異常行動などが見られる場合、レビー小体型認知症の可能性があります。レビー小体型認知症はさまざまな症状を引き起こすため、介護の負担も大きくなりがちです。

本記事では、レビー小体型認知症の原因や症状の進行について詳しく解説します。治療や介護の方法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

レビー小体型認知症とは

レビー小体型認知症は、「レビー小体」と呼ばれるタンパク質が脳に蓄積されることで発症する認知症です。英語名の頭文字を取って「DLB」とも呼ばれています。

レビー小体型認知症が発見されたのは1976年、診断基準が確立されたのは1996年のことです。アルツハイマー型認知症が初めて報告されたのが100年以上前の1906年であることを踏まえると、レビー小体型認知症は比較的新しい部類といえるでしょう。

なお、レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症に並ぶ三大認知症の一つです。認知症全体の約4.3%を占め、全体で3番目に多い認知症とされています。

レビー小体型認知症を発症する原因

レビー小体型認知症は、「α-シヌクレイン」と呼ばれる成分が異常な形となって一塊になった「レビー小体」が脳の大脳皮質や脳幹に蓄積することで発症します。レビー小体が脳神経細胞に損傷を与えることで脳の神経伝達に支障をきたし、認知機能が低下するといわれています。

また、脳の「ドーパミン神経細胞」を破壊することで脳から筋肉への指令がうまく伝わらなくなり、運動機能にも影響がおよぶ可能性もあります。

脳内にレビー小体が形成される点では「パーキンソン病」と共通しています。両者の違いは、レビー小体が形成される場所です。

パーキンソン病では、レビー小体が脳幹の黒質と呼ばれる部分に形成されます。一方のレビー小体型認知症では、脳幹だけでなく、大脳皮質など脳の外側全体に幅広く形成されるのが特徴です。

レビー小体型認知症の特徴

レビー小体型認知症は65歳以上の方に見られることが多い認知症で、女性よりも男性が発症しやすい傾向があります。発症する人の男女比は2:1程度といわれています。高齢者での発症例が圧倒的に多いものの、まれに30~50代の若いうちに発症する例もあるため注意が必要です。

また、認知機能の高低が、時間や日によって波のように変化することも大きな特徴です。「この間はできていなかったのに今日はできている……」という場合もあるため、一過性のものと思って医療機関を受診せず、発見が遅れてしまうことも少なくありません。加えて、初期のレビー小体型認知症では認知機能の低下が目立たない場合もあります。

レビー小体型認知症による症状には個人差があります。症状によってはうつ病やパーキンソン病などの病気と区別がつかず、特定が難しいケースも多いようです。

レビー小体型認知症のおもな症状

レビー小体型認知症で見られるおもな症状について解説します。症状の出方には個人差があることを理解したうえで、症状の種類を知っておきましょう。

認知機能障害

認知症に見られるおもな症状の一つです。初期の症状として、物事の理解や判断速度の低下、集中力・作業能力の低下が見られます。日常生活にも影響が生じるでしょう。

ただし、レビー小体型認知症の場合、初期~中期にかけてはアルツハイマー型認知症に比べて記憶障害が目立たない傾向にあります。症状が見過ごされてしまった結果、知らぬ間に進行してしまうケースも少なくありません。

また、認知機能障害は患者ごとの周期で変動します。本人の理解力や判断力がハッキリしているときと、低下しているときの差が大きいのも特徴です。

幻視

幻視は、実際に存在しない人や物体、動物などが存在するように見える状態のことで、レビー小体型認知症の特徴的な症状の一つです。例えば、実際にはそのようなものは存在しないのに「そこに蛇がいる」「知らない人が座っている」などと訴えます。このとき本人には具体的かつ鮮明に見えているケースが多いとされます。

レビー小体型認知症の初期段階では認知機能障害の症状がわかりづらいため、幻視が早期発見の有力な手がかりです。幻視だけなく「壁や木目の模様が人の顔に見える」「かけてある洋服が人に見える」など、目に見えたものをほかのものと見間違える錯視をともなうケースもあります。

幻覚の出方も人によって異なり、幻聴の症状が出るケースもしばしば見られます。

妄想

被害妄想や誤認妄想も、レビー小体型認知症に見られるおもな症状です。

被害妄想は、「隣の家の人にお金を盗られた」「部屋に入ってきてひどいことをされた」など、実際には受けていない被害を訴える症状のことを指します。

誤認妄想は、「配偶者が不倫をしている」と訴えたり、鏡に映った自分を自分ではないと感じたりする症状のことです。

パーキンソン症状

パーキンソン症状とは、パーキンソン病と似た症状のことです。手足の震えや筋肉のこわばり、動作が緩慢になるなどの症状が見られます。日々の生活において、転倒リスクが高まることに注意が必要です。

抑うつ症状

抑うつの症状があらわれ、ボーッとしたり寝ている時間が長くなったりします。日や時間帯によって症状の程度が異なることも、レビー小体型認知症の特徴です。何となく元気がないように見えたり、食事量が減ったりする場合もあります。

レビー小体型認知症の初期は認知障害の程度が軽いことが多いため、幻視やパーキンソン症状を自覚して不安に感じる傾向があります。こうした不安の蓄積が抑うつ症状につながるケースも少なくありません。

自律神経症状

自律神経のバランスが崩れ、さまざまな症状があらわれる場合があります。立ちくらみやめまい、便秘、尿失禁、失神など、複数の症状が同時に生じることもあります。

睡眠時の異常行動

睡眠中に大声を出したり暴れたりするのも、レビー小体型認知症の症状の一つです。睡眠は眠りが浅い「レム睡眠」と、眠りが深い「ノンレム睡眠」に分類されます。異常行動があらわれるのはレム睡眠のときです。

睡眠時に大声で叫んだり、手足を大きく動かしたりする行動が見られ、ひどい場合は歩き回ったり、家族に暴力を振るったりすることもあるほどです。すべて寝ている間の行動なので本人は覚えていません。

睡眠時の異常行動は、「レム睡眠行動障害(RBD)」と呼ばれるレビー小体型認知症初期の典型症状です。

レビー小体型認知症の進行にともなう症状の変化

レビー小体型認知症の進行にともなう症状の変化を、初期・中期・後期に分けて解説します。

初期の症状

初期の頃に見られる症状は以下のとおりです。
  • パーキンソン症状
  • 幻視
  • レム睡眠行動障害
  • 自律神経症状
  • 抑うつ症状
特にパーキンソン症状は先行してあらわれることが多い一方で、認知機能障害が目立たない場合もあります。

中期の症状

中期は初期の症状の変動が大きくなり、症状が出たり出なかったりを繰り返しながら悪化する傾向があります。記憶障害や見当識障害などの症状も見られるようになります。

後期の症状

後期では、中期よりもさらに症状が進行し、自律神経症状による立ちくらみやパーキンソン症状による転倒が見られることもあります。身体的な介護が必要な場面が増えるでしょう。

レビー小体型認知症の診断基準と症状チェックリスト

ほかの病気との区別がつきにくいといわれるレビー小体型認知症ですが、どのような状態が見られたら疑うべきなのでしょうか。レビー小体型認知症の診断基準を解説するとともに、病院を受診すべきか簡単に確認できるチェックリストを紹介します。

医学的な診断基準

レビー小体型認知症の診断基準では、精神状態の変化が急性的にあらわれる、または症状が変動しながら経過することを必須症状としています。そのうえで、認知機能の変動、繰り返す具体的な幻視、レム睡眠時の睡眠障害、パーキンソン症状(いずれか1つでもあらわれている)という中核的特徴の有無、指標的バイオマーカーの結果に応じて診断されます。

指標的バイオマーカーの基準は以下のとおりです。
  • SPECTまたはPETで示す大脳基底核におけるドパミントランスポーターの取り込み低下
  • MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下
  • 睡眠ポリグラフ検査によるレム睡眠の確認(筋緊張低下をともなわない)
以下2つの基準で診断します。
  • Probable DLB:ほぼ確実
    中核的特徴のうち2つ以上、または中核的特徴1つ・指標的バイオマーカー1つ以上
  • Possible DLB:疑い
    中核的特徴1つ、または指標的バイオマーカー1つ以上

レビー小体型認知症の簡易チェックリスト

以下の5項目のうち2つ以上の項目が該当する場合、レビー小体型認知症の可能性が疑われます。心配な方は早めに病院で受診しましょう。
  1. 実際には見えないものが見えたり、通常ではあり得ない見間違いをしたりする
  2. 歩き方が小股でたどたどしく、転倒しそうになることがたびたびある
  3. 就寝中に大声で叫んだり、動いたりすることが頻繁にある
  4. 意識がハッキリしているときとボーッとしているときの差が大きい
  5. 表情や喜怒哀楽の変化が乏しくなり、落ち込んでいる様子のことが多くなった

レビー小体型認知症の進行速度

レビー小体型認知症の進行速度は人によって異なるものの、末期にいたるまでにかかる期間は一般的に10年未満といわれています。アルツハイマー認知症に比べて進行が速いのが特徴です。

初期での特定が難しいにもかかわらず、初期発見できないと知らぬ間に進行が進んでしまう厄介な認知症といえるでしょう。

症状が発現してからの平均的な寿命は、6~12年程度とされます。

レビー小体型認知症の治療

レビー小体型認知症の根本的な治療法は確立されておらず、薬物療法とリハビリ治療によってあらわれている症状を抑えることを目標に治療がなされます。

薬物療法では、認知機能の低下と幻視には、アルツハイマー型認知症の治療にも使用されるリバスチグミンやドネペジル、幻視や妄想には非定型抗精神病薬のクエチアピンやオランザピン、パーキンソン症状にはパーキンソン病の治療に使用するレボドパを使用します。

そのほか、運動機能の低下への対応としてストレッチや筋力強化、バランス訓練などを行なう場合もあります。治療法は症状のあらわれ方や進行度、身体の状態などで異なるため、まずは医師に相談しましょう。

レビー小体型認知症を正しく理解して患者とまっすぐ向き合おう


レビー小体型認知症はさまざまな症状を引き起こします。人によって症状のあらわれ方が異なるため、症状によっては原因の特定が難しく、発見が遅れてしまうこともある病気です。

初期の段階では認知機能障害が目立たないケースも多い反面、アルツハイマー型認知症に比べて病気の進行が速いのが特徴です。中期以降になると認知機能や運動機能が低下していくため、日常生活において介護が必要になることも少なくありません。

また、就寝中に暴れたり大声を出したりするレム睡眠行動障害にも対応が必要です。必要に応じて施設入所や通所介護、訪問介護などを活用しましょう。

自宅で介護を行なう場合、転倒リスクを軽減するために、住宅内の段差の解消や手すりの設置など、バリアフリー化することも重要です。介護保険の利用や自治体の助成を受けることで負担軽減が可能な場合もあります。

幻視や妄想を訴える場合、周囲は理解しがたいこともあるかもしれません。ただ、事実ではないからといって否定し続けると、患者のストレスにつながります。一方で、肯定し続けると妄想症状が進行するリスクもあり、バランスが大切です。

本人が感じる恐怖・不安などの感情に対し、安心してもらえるよう傾聴し、気持ちに寄り添うことで落ち着くことがあります。症状が重い、周囲では対処しきれないという場合は早めに専門医に相談しましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年2月28日

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