前頭側頭型認知症とは?
発症する原因や症状・関わり方を解説


認知症にはいくつかの種類があり、その一つに「前頭側頭型認知症」があります。

前頭側頭型認知症とは、脳の前頭葉や側頭葉の萎縮が原因となり、人格や行動に影響が出る認知症です。
比較的若年層に発症する認知症で、いわゆる物忘れなど認知症に多い症状とは異なる、特徴的な症状が見られます。根本的に治す効果的な治療法はなく、家族など周囲の方のかかわり方がケアの中心になります。

当記事では、前頭側頭型認知症の原因・症状などの基礎知識や、症状が疑われる場合の検査・治療法・かかわり方などケアの方法を解説します。

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前頭側頭型認知症とは

初めに、前頭側頭型認知症の原因と、発症しやすい年齢について解説します。

前頭側頭型認知症の原因

前頭側頭型認知症は、アルツハイマー型認知症・脳血管性認知症・レビー小体型認知症とともに「四大認知症」の一つです。

脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することで症状が起きる認知症で、近年の研究では、脳の神経細胞に存在する「タウ蛋白」および「TDP-43」というたんぱく質の関与がわかってきました。
海外では遺伝の関連性も言われていますが、日本では同じ家族内の前頭側頭型認知症の発症はほとんどありません。

脳の前頭葉は「人格・社会性・言語」に関連する部分、側頭葉は「記憶・聴覚・言語」に関連する部分で、前頭側頭型認知症を発症すると、社会性が阻害される症状などが見られます。

側頭葉内側海馬優位の萎縮が特徴的なアルツハイマー型認知症などに見られる、認知症の代表的な症状「記憶障害」「物忘れ」などは、前頭側頭型認知症ではあまり目立ちません。

アルツハイマー型認知症など、その他の認知症は以下の記事もご参照ください。

発症しやすい年齢

前頭側頭型認知症は、50代~60代と比較的若い年齢で発症することが多い認知症です。認知症全体で見たときの発症率は1.0%程度で、割合としてはさほど多くありません。

ただし、若年層での発症は、発症した本人が「認知症である」という認識を持ちにくいものです。また、前頭側頭型認知症は、よく知られている認知症とは異なる特徴的な症状が見られることから、家族や周囲の方の対応が難しくなっています。

前頭側頭型認知症の症状

前頭側頭型認知症の症状は、認知症によく見られる物忘れなどのとは異なるのが特徴です。

以下では前頭側頭型認知症でみられる症状について解説します。

初期症状でよく見られるもの

前頭側頭型認知症は、前頭葉と側頭葉を中心に、脳細胞が少しずつ壊れ萎縮していくことで発症します。初期には以下のような症状がゆっくりと現れ、やがて進行していきます。
  • 性格が変わったように感じる
  • 言葉をうまく話せなくなる
  • 普段と異なる行動を見せる
  • 動きがぎこちない
  • 物事を考えたり覚えたりする能力が低下する

症状の特徴

前頭側頭型認知症は、「人格・社会性・言語」をコントロールする前頭葉の働きが阻害されます。前頭葉は、注意力や自制心、想像力などの高次脳機能にかかわる重要な部分なので、行動や感情のコントロールが難しくなるのです。

また、「記憶・聴覚・言語」をつかさどる側頭葉の働きも阻害されるので、言語障害や記憶障害にもつながります。

前頭葉・側頭葉に影響が出る前頭側頭型認知症では、以下が二大症状です。
  • 人格変化・行動障害
  • 言語障害

人格変化・行動障害の具体例

人格変化や行動障害では以下のような症状が見られます。
  • 抑制が利かない
    衝動的に行動する(暴力・暴言)、礼儀やマナーが欠如する、社会的に適さない行動をする、周囲の目を気にしなくなる、欲しいものを勝手に持ち出したり食べたりする(万引き・盗食)など

  • 無関心・無気力・共感の欠如
    家族や他人に無関心になる、共感できない、喜びや悲しみなどの他者の感情が理解できず感情移入できない、感覚が鈍い、入浴や着替えなど身だしなみに気を使わなくなる、趣味などに熱中できなくなるなど

  • 同じことを繰り返す(常同行動)
    散歩で同じ道順を歩き続ける、同じ動作を繰り返す、同じ食事メニューに固執する、時刻表のような生活パターンで過ごすなど

  • 食行動変化
    過食になり満腹でも食べ続ける、濃い味や甘いものを好むようになるなど嗜好が変化する、以前は好きでなかったものを急に食べ始める、思いついたときに食べるなど

言語障害の具体例

言語障害では以下のような症状が見られます。
  • 意味記憶障害・意味性失語
    言葉の意味や物の名前を思い出せない(富士山の写真を見て山と認識できても富士山とは認識できない、信号機の写真を見ても信号機という呼称ができない)など

  • 自発的な言葉の低下
    相手に言われたことをそのまま言い返す(オウム返し)、いつも同じ言葉を言い続けるなど

その他の症状と進行速度

上記以外に、以下のような症状がみられる場合があります。
  • パーキンソン症状(体が震える、動作が遅くなる)
  • 運動ニューロン症状(筋力低下、体のつっぱり)
前頭側頭型認知症の進行速度はゆるやかです。人格変化・行動障害や言語障害が悪化していく場合と、別の運動症状が合併する場合があります。ただし、すべての方がこのような経過をたどるわけではなく、無気力・無関心の症状が次第に強くなることで、行動障害が目立たなくなるという場合もあります。

また、発症後平均6年~8年で寝たきりになる といわれています。

前頭側頭型認知症の検査・診断方法

「性格が変わったように感じる」「言葉をうまく話せなくなった」などの気になる症状が見られる場合、どこで検査を受けるべきでしょうか。

前頭側頭型認知症の疑いがある場合、まずは物忘れ外来が設置されている精神科や脳神経内科を受診しましょう。

受診すると初めに問診が行われ、前頭側頭型認知症にみられる症状があるかどうか確認されます。問診には家族も同席するようにし、客観的にみた自宅での様子などを伝えます。受診前に、症状が出始めた時期や経過、本人の具体的な様子などを書き留めておくとよいでしょう。

問診を経て、前頭側頭型認知症が疑われる場合は、CT検査やMRI検査が行われます。これはアルツハイマー病と区別するため、前頭葉や側頭葉の萎縮を画像で確認する検査です。

脳の萎縮があまり進んでおらず、CT検査やMRI検査で判断できない場合は、脳血流シンチグラフィーやPET検査が行われます。

これらの検査により、前頭葉や側頭葉の萎縮のほか、血流や代謝の低下が認められる場合、前頭側頭型認知症と診断されます。

前頭側頭型認知症の治療と本人のケア

最後に前頭側頭型認知症の治療法と、家族のかかわり方のポイントを解説します。

治療法

現在、前頭側頭型認知症の症状改善や進行を防ぐ有効な治療法は確立されていません。特徴的な症状への対症療法として、抗精神病薬が処方される場合があります。

かかわり方・ケアのポイント

根本的な治療法がないため、トラブルを回避し本人が穏やかに暮らすためには、周囲の方のかかわり方やケアが大切です。

例えば、毎日同じ行動をとる場合には、本人のこだわりを尊重してスケジュールを立てるようにしましょう。そのスケジュールを毎日のルーティンにし、日常生活を乱さないことがポイントです。

また、親しい周囲の方と情報を共有しておくことも重要です。前頭側頭型認知症では理性が働かなくなることで、周りに暴言を吐いたり暴力をふるったりすることがあります。身近な方やよく会う方には、あらかじめ病気のことを説明してトラブルを回避しましょう。

万引きの可能性がある場合は、よく立ち寄るお店にも事情を伝え、家族の連絡先などを知らせておくと安心です。

前頭側頭型認知症は暴力行為など対応が難しい症状が多いため、家族の介護負担は大きいものになります。身内だけで抱え込まず、認知症ケアに特化した施設を利用するなど、専門家や介護スタッフとの連携が大切です。

脳の一部が萎縮する認知症「前頭側頭型認知症」は症状の理解が大切


前頭側頭型認知症は、人格変化や行動障害・言語障害といった症状が特徴的な認知症です。周囲の方はさまざまな症状を理解し、認知症が原因の行動であることを認識してケアを行うことが大切です。

気になる介護費用ですが、前頭側頭型認知症は指定難病のため、医療費助成の対象となっています。医療費助成を利用する場合は、居住地を管轄する自治体窓口に問い合わせましょう。

また、65歳未満の発症が多い前頭側頭型認知症は、公的介護保険の特定疾病に該当します。要介護(要支援)認定を受けると、第2号被保険者(40歳~64歳)として公的介護保険が利用可能です。

介護費用に不安がある場合は、民間介護保険への加入も検討するとよいでしょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年12月20日

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