認知症について知る

認知症で記憶を忘れる順番とは?
症状が進む原因や進行を抑えるための対策


年齢を重ねて物忘れが多くなると、認知症かもしれないと不安を抱えるようになるかもしれません。ある日突然、認知症の症状が出たとしても、可能な限り冷静かつ適切に対応したいものです。

認知症で記憶を忘れる順番は、ある程度決まっています。順番を理解しておくことで、外出時や来客時の対策、心構えといった準備が行えるでしょう。

この記事では、認知症で忘れていく記憶の種類や忘れる順番、進行を抑える有効策などを紹介します。症状に心当たりがある方や、将来の不安を感じている方は、ぜひ最後までお付き合いください。

認知症で物忘れを引き起こす原因とは

そもそも、認知症を発症した際の物忘れを引き起こす原因は何なのでしょうか。ここでは、物忘れの原因について解説します。

物忘れを引き起こす原因は「中核症状」が関係している

認知症の物忘れの原因には、記憶障害や見当識障害が関係しています。記憶障害や見当識障害は認知症の中核症状を代表する障害であり、認知症になれば誰にでも出現する障害です。

記憶障害が出現すると、これまで覚えていたことを忘れるようになったり、新しいことを覚えられなくなったりします。見当識障害は、時間や場所などを認識する「見当識」に障害が起こることで出現する症状です。症状が出現すると、今がいつなのか、ここはどこなのかなど、自身が置かれている状況を把握するのが難しくなります。

中核症状と周辺症状の違い

認知症の症状は、大きく分けると中核症状と周辺症状に分類されます。中核症状は、脳の機能が低下することで直接的に起こる症状です。一方の周辺症状は、中核症状によって二次的に起こる症状であるという違いがあります。

周辺症状は、中核症状の影響と、自身の性格や取り巻く環境などが複雑に絡み合って起こるものです。そのため、認知機能に直接かかわりのない症状も含まれています。これらを踏まえると、物忘れに直接的に影響するのは中核症状であることが理解できるでしょう。

認知症で忘れていく記憶の種類

前述した「記憶障害」と「見当識障害」に関係のある記憶の種類を紹介します。記憶をどのように忘れるのか、どのような症状が出現するのかなど、それぞれのポイントを確認しましょう。

記憶障害に関わる記憶の種類

まずは、記憶障害にかかわる記憶の種類を6つ紹介します。それぞれの記憶における具体的な例も併せて紹介するので、これまでに同じような状況を経験していないか確認しながら読み進めていきましょう。

1.即時記憶

即時記憶とは、数十秒~1分ほどの短い時間だけ覚えておく記憶のことです。即時記憶に障害が起きている場合、情報を十分な状態で脳に保持することが難しくなるため、今何をしていたのかを理解しづらくなります。

例えば、今までしていた会話の内容を忘れてしまい同じことを何度も尋ねてしまう、自身で置いたものをどこに置いたのか忘れてしまうといった症状が見受けられるでしょう。なお、即時記憶は認知症の初期に出現する症状であり、人によっては認知症と気付かないケースもあることに注意が必要です。

2.近時記憶

近時記憶とは、数分~数日ほど保持される記憶のことです。思い出そうとした際にさまざまな記憶の干渉が入りますが、一度忘れたことでも記憶をたどることで思い出せるという特徴があります。

近時記憶に障害が発生した際の具体的な症状としては、数日前の天気が思い出せない、前日に購入したことを忘れて同じものを購入してしまうなどが挙げられます。近時記憶の症状は、自身でも認知症を疑う段階のため、日常生活への不安を感じ始める方もいるでしょう。

3.遠隔記憶

症状が進行すると、遠隔記憶も障害されるようになります。数日~年単位の記憶は遠隔記憶と呼ばれていますが、近時記憶との明確な時間区分は設けられていません。

具体的に挙げられる症状は、数年前の家族旅行でどこに行ったのか思い出せなかったり、5年前に父が亡くなっていることを忘れていたりするなどです。ときには、自身に子どもがいることや、結婚して配偶者がいる事実を忘れてしまうケースもあります。そのため、周囲との会話でつじつまが合わなくなり、明らかな症状を認識できる段階といえるでしょう。

4.意味記憶

意味記憶とは、物や言葉の意味に関する記憶のことです。「オレンジ」を例に挙げると、その色や形、大きさ、野菜なのか果物なのかといった情報が意味記憶にあたります。意味記憶に障害が出る頃には、思い浮かんでいることを言葉で表現するのが難しくなり、「これ」や「あれ」などを多用するようになります。

また、意味記憶には社会通念上の常識も含まれているため、障害の発生により、意図せず周囲に迷惑をかける場合があることに注意が必要です。例えば、青信号や赤信号を理解できず運転が難しくなったり、「トイレを済ませてください」と言われても「トイレを済ませる」という言葉の意味が理解できなくなったりします。

5.エピソード記憶

エピソード記憶とは、場所や日時を含む、自身が経験した具体的な出来事に関する記憶のことです。エピソード記憶に障害が出ると、食事を済ませた直後でも「食べていない」と話すなど、自身が行なったことに関する記憶が抜け落ちてしまいます。

具体的な例としては、野球観戦に行った過去の記憶が抜け落ちていたり、数年前に引っ越した記憶がなくなり自身の家ではないと思っていたりするケースがあります。この段階になると、自身の認識や記憶に違和感を覚えるなど、症状の進行に不安を感じるようになるでしょう。

6.手続き記憶

手続き記憶とは、自身の学習や練習で習得した技能や記憶のことです。繰り返しの体験によって体が覚えた状態であるため、無意識に覚えていることもあるでしょう。

例えば、自動車の運転や水泳、ピアノの演奏のように繰り返しによって覚えた記憶は、ほかの記憶よりも比較的保持されます。しかし、進行の度合いによっては手続き記憶に障害が出る可能性もあります。そうなると日常生活を送ることが困難となるため、施設への入所を検討すべき段階といえるでしょう。

見当識障害に関わる記憶の種類

ここからは、見当識障害にかかわる記憶の種類を紹介します。時間・人物・場所に関する見当識への理解を深めましょう。

1.時間

時間の見当識とは、日時や季節、年齢などの感覚のことです。時間の見当識に障害が起こると、真冬なのに薄着で過ごそうとしたり、病院に行くはずの時間に準備していなかったりと、時間の感覚を理解していないような症状が現れます。

日常生活を送るうえで、時間の見当識は重要かつ不可欠な能力といえるでしょう。そのため、誰かと一緒にカレンダーを確認することや、声かけしてもらうなど、見当識を失わないように工夫しながら行動することが大切です。

2.人物

人物の見当識とは、家族や知人の顔、名前に関する記憶のことです。人物の見当識に障害が出ることで、友人と対面しても誰なのかわからない、ときには自身が誰なのかわからなくなるケースも見受けられます。

人物の見当識に障害が出た場合、孤独感や不安からストレスを抱える可能性があります。そのため、周囲とコミュニケーションを取る際は、無理をせず自身のペースで行なうことが大切です。

3.場所

場所の見当識とは、現在地や目的地の方角、道順などに見当をつける能力のことです。場所の見当識を失っていくと、徘徊などのリスクにつながります。例えば、帰る場所までの道がわからなくなって行方不明になったり、通い慣れているはずの目的地に行けなくなったりする可能性があるでしょう。

徘徊行動の症状が出現した場合、命にかかわる危険がないとも限りません。そのため、常に連絡先や名前がわかるものを持ち歩くなどの対策を講じることが大切です。また、家族に見当識障害の症状が出現した際は、可能な限り目を離さないように注意しましょう。

認知症で記憶を忘れる順番

認知症の記憶を忘れる順番に規則性があるのか、気になる方もいるでしょう。ここでは、記憶を忘れる順番を、記憶障害と見当識障害に分けて解説します。

記憶障害の忘れる順番

記憶障害の場合は、近い記憶から忘れていく傾向にあるといわれています。そのため、即時記憶や近時記憶に該当するものは、比較的早く忘れる可能性が高いでしょう。

手続き記憶や意味記憶など、体験した記憶やインパクトのある記憶は残りやすいと考えられます。ただし、ひとくちに認知症といっても、症状や進行度合いは人によって異なります。同様に、記憶障害によって忘れる順番にも個人差があるため、症状をしっかり確認することが大切です。

見当識障害の忘れる順番

見当識が障害された場合、時間、場所、人物の順番で忘れる傾向にあります。具体的には、「今は何時なのか」「ここはどこなのか」「目の前の人物は誰なのか」といった順番で症状が出現するでしょう。ただし、記憶障害と同様、見当識障害の忘れる順番にも個人差があります。

見当識が正常であれば、時間や場所などから総合的に物事を判断できます。しかし、見当識障害が発生することで記憶障害との負の連鎖が生じ、さまざまな周辺症状を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

認知症の進行を抑えるための対策はある?

認知症の進行を抑えるためには、何が原因となって進行してしまうのかを理解しておくことが大切です。原因を把握したうえで、自身で行なえる対策を実践していきましょう。

認知症が進行してしまう原因としては、以下のようなものが挙げられます。

・ ストレス過多
・ 脳への刺激が少なくなる
・ 強い指摘を受けて落ち込む

ストレスが溜まることで脳への血流が減少し、神経細胞に悪影響をおよぼす可能性があります。ストレスを溜め込まないよう、適度に発散させていくことが重要です。

また、家事を行なう機会が減少するなど、脳への刺激が減少することも、認知症の進行を早める原因となる可能性があります。自身で脳を刺激し、考えて判断する機会を減らさないように注意しましょう。

症状が進行するなかで何かミスをすると、周囲に行動を制限されたり、強く指摘されたりすることがあります。それが原因で当人が委縮してしまい、自発的な行動をためらうようになってしまうかもしれません。このような状況も症状を進行させる原因になりうるため、周囲の理解を得られる環境を整えることが理想的です。

認知症の進行を抑える方法としては、以下のようなことが挙げられます。

・適度な運動
・バランスの取れた食生活
・クイズやトランプなどのゲーム
・薬の服用

適度な運動やバランスの取れた食生活は、脳への血流を促進する効果が期待できます。クイズやトランプなどの頭を使うゲームをしたり、周囲とコミュニケーションを取ったりすることも脳の活性化につながります。

また、医師の診断を受けて早い段階で薬を服用すれば、症状の進行を緩やかにできるでしょう。認知症は早期の対応によって進行を抑えることが可能なため、早めに受診することが大切です。

認知症の記憶を忘れる順番は理解を深めておくことで対策できる


認知症で物忘れを引き起こす原因は、中核症状による「記憶障害」や「見当識障害」であることがわかりました。記憶を忘れる順番としては、記憶障害では比較的近い記憶から、見当識障害では時間、場所、人物という順番で忘れていく傾向にあります。ただし、個人差が大きい要素のため、実際の症状をしっかり確認するようにしましょう。

認知症に不安を抱いている、あるいは実際に物忘れが目立つようになった場合は、将来に備えておくことも大切です。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年8月9日

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