親の介護は放棄できる?介護放棄の原因と解決策についても解説


介護放棄とは、介護を必要とする人のケアをしないことです。「食事を十分に与えない」「医療機関を受診させない」といった行為は、介護放棄に該当します。

介護の精神的・身体的・経済的な負担に悩み、親の介護を放棄したいとお考えの方もいるかもしれません。実際に、多くの介護者が疲れを感じているといわれています。

しかし、法律上、親の介護は放棄できないため、どのように介護と付き合っていけば良いか、介護を続けるためにどのような解決策があるかを知っておくことが大切です。

この記事では、介護放棄の概要や背景について解説するとともに、親の介護に悩んでいる・不安を抱えている方へ向けて解決策を紹介するので、ぜひ参考にしてください。

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介護放棄とは

介護放棄とは、「介護を必要とする人(被介護者)のケアをしないこと」です。介護放棄は虐待の一種で、育児放棄と同様に「ネグレクト」と呼ばれることもあります。次のような被介護者の尊厳を無視した行為は、介護放棄に該当します。

(例)
• 食事を十分に与えない
• 汚れたおむつを交換しない
• 入浴させない
• 部屋を掃除しない
• 医療機関を受診させない
• 存在を無視する

このような行為が意図的だった場合、徐々にエスカレートしていく可能性があります。

一方で、何らかの理由で被介護者へのケアがおろそかになっているなど、意図せず介護放棄の状態になっているケースもあります。

介護放棄が発生するきっかけ

介護放棄が発生してしまうのには、いくつかのきっかけがあると考えられます。ここでは、介護放棄のきっかけとなり得る3つの要因を見てみましょう。

被介護者の状態が悪化する

例えば、被介護者本人が自ら歩ける場合と、まったく動けない場合とでは、介護する側(介護者)の精神的・身体的な負担は大きく異なります。

一般的には、時間の経過とともに被介護者の身体機能・認知機能は悪化していくため、被介護者の状態悪化に伴って、介護者の負担も増えるでしょう。加えて、周囲の人を頼れない環境で介護を続けていると、介護者は孤立してしまう傾向にあります。

このような要因が組み合わさることで、介護者は「介護を続けるのがつらい」と追い込まれてしまい、介護放棄につながる恐れがあります。

経済的な負担が大きい

介護には一定のお金が必要です。被介護者の年金・預貯金・資産などが十分にあれば問題ありませんが、そうでない場合は、介護者に経済的な負担がかかることも多いでしょう。

また、いわゆる「介護離職」、つまり介護の時間を確保するために介護者が仕事を辞めると、収入が減ってしまいます。介護者は自分や家族の生活も守らなければならないため、介護放棄を考えてしまうかもしれません。

被介護者との関係性が良くない

被介護者=親、介護者=子どもの場合、過去に親から虐待を受けていたなど、関係性が良くないことがあります。こうした状況では、介護者は被介護者を「積極的に介護したい」と思えないでしょう。

また、関係が良好でないために両者が離れた土地で暮らしており、いざ介護が必要な状況になっても、物理的な距離によって難しいパターンも想定されます。

なお、被介護者と介護者の関係性が悪くなくても、介護者が介護にまったく関心がないことが原因で、介護放棄につながってしまうケースもあるでしょう。

「扶養義務」により親の介護は放棄できない

この記事を読んでいる方のなかには、「自分の親の介護は放棄できるのだろうか?」と思っている方もいるのではないでしょうか。しかし、法律上、子どもは親の介護を放棄できません

具体的には、民法第877条第1項に「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」(※)と定められています。「直系血族」とは、祖父母・父母・子・孫のことです。

「互いに扶養をする義務」には、直接的な介護のほか、介護費用や生活費などの経済的支援も含まれるとされています。扶養義務は、相続放棄のような扱いができないため、原則として「親の介護をしない」という選択はできないのです。

扶養義務者の範囲と優先順位

ここでは、前章の内容をより深く理解するため、扶養義務者について解説します。

扶養義務者の範囲

先述のとおり、扶養義務者には、直系血族と兄弟姉妹が該当します。また、民法第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」(※)と定められていることから、配偶者も扶養義務者に該当します。

まとめると、被介護者の「祖父母・父母・子・孫、兄弟姉妹、配偶者」が扶養義務者です。一方で、被介護者の「子どもの配偶者」には、同居していたとしても法律上の扶養義務はありません。

扶養義務者の優先順位

年齢や同居の有無などによる、扶養義務者の優先順位は定められていません。仮に、被介護者に2人の子ども(長男・次男)がおり、長男が別居、次男が同居していたとしても、2人には平等に扶養義務があります。

優先順位を決める場合は、被介護者と扶養義務者間で話し合いをする必要があるでしょう。

親の介護を放棄すると罪に問われることも

介護の必要性を理解したうえで介護を放棄すると、罪に問われるかもしれません。具体的には、「保護責任者遺棄罪」という罪で、3カ月以上5年以下の懲役が科される可能性があります。

また、介護を放棄したことで親が死亡したり、ケガをしたりした場合は、さらに次の罪が適用される可能性もあるでしょう。

• 保護責任者遺棄致死罪:3年以上20年以下の懲役
• 保護責任者遺棄致傷罪:3カ月以上15年以下の懲役

ただし、扶養義務は、あくまでも介護者が経済的に困らない範囲内で発生するものとされています。よって、介護者が経済的に困窮している場合などを含む、すべてのケースで罪に問われるわけではありません。

親の介護が難しいときはどうする?5つの解決策

最後に、介護に悩んでいる方や不安を抱えている方に向けて、5つの解決策を紹介します。

扶養義務者間で話し合う

さまざまな事情で親の介護が難しい、または負担となっているなら、自分の兄弟姉妹(被介護者から見た子ども)など、まずはほかの扶養義務者に相談してみましょう。

被介護者にどのような介護が必要か、何にどれくらいの費用がかかるかを洗い出し、扶養義務者それぞれの役割を話し合いで決める必要があります。遠方に住んでいたり、体力的に余力がなかったりと、直接介護に携わるのが難しい扶養義務者でも、資金援助などの間接的な方法で協力することは可能です。

もし、介護費用の分担などに関して協議が決裂した場合は、家庭裁判所を頼る選択肢もあります。

介護に関する窓口に相談する

扶養義務者間での話し合いと併せて、以下のような各種窓口にも相談すると、良い情報・対処法を得やすくなるでしょう。

地域包括支援センター

地域包括支援センターとは、高齢者の日常生活を地域全体でサポートするための施設・拠点のことで、「高齢者相談センター」などの名称で呼ばれているケースもあります。地域包括支援センターはおもに自治体が設置しており、原則として、どの市区町村にも存在します。

地域包括支援センターには、介護や医療の分野に精通したスタッフが在籍しているのに加え、相談費用は無料です。高齢者本人やその家族など、以下の利用対象者の条件を満たす方なら、介護に関して気軽に相談できるでしょう。

【おもな利用対象者】
対象地域に住んでいる65歳以上の方、またはその支援者

各自治体

各市区町村の窓口では、公的介護保険制度や福祉サービスなどの情報提供を行なっています。

居住地域の自治体の代表番号に電話すれば、適切な担当部署へつないでくれます。「どこに問い合わせたら良いかわからない」という方も、気軽に電話してみるとよいでしょう。

医療機関

医療機関によっては、介護の相談を受け付けていることがあります。特に、被介護者に持病があって通院しているなら、介護に関して相談するのも手です。主治医に相談すれば、適切な介護サービスの提供先を紹介してくれるかもしれません。

なお、相談室などを利用する場合は予約が必要なこともあるため、医療機関にあらかじめ確認しておくと安心です。

介護サービスを利用する

在宅で利用できる介護サービスは、「通所サービス」と「訪問サービス」に大きく分けられます。

通所サービス

通所サービスは、被介護者本人が施設に足を運び、支援を受けるものです。通所サービスの代表例として「デイサービス」「デイケア」が挙げられ、それぞれ次のような特徴があります。
 

通所サービスの例

概要

デイサービス

・被介護者の食事、入浴、排せつなどの介助を任せられる

・被介護者がほかの利用者との交流を図れる

デイケア

・リハビリテーションによる被介護者の機能改善を目指す

・介護職員のほか理学療法士や作業療法士によるサポートがある

訪問サービス

訪問サービスは、介護スタッフが被介護者の自宅を訪れ支援してくれるものです。訪問サービスの代表例には、「訪問介護」・「訪問看護」・「訪問リハビリテーション」などがあります。それぞれの特徴は、以下のとおりです。
 

訪問サービスの例

概要

訪問介護

・自宅にて被介護者の食事、入浴、排せつなどの介助を任せられる

・入浴に特化した「訪問入浴介護」サービスもある

訪問看護

・自宅にて看護師などが被介護者の健康状態のチェックを行なう

・点滴、注射といった医療措置にも対応

訪問リハビリテーション

・自宅にてリハビリテーションによる被介護者の機能改善を目指す

介護施設へ入居してもらう

介護サービスを利用しても、扶養義務者による介護は難しいという事情があるなら、介護施設への入居を検討するのも選択肢の一つです。ただし、その際には、被介護者本人の意向も考慮しましょう。

介護施設には、次のような種類があります。

【公的施設の例】

特別養護老人ホーム

食事・入浴・排せつ・リハビリテーションなど、被介護者が生活全般のサポートを受けながら長く生活できる施設

介護老人保健施設

リハビリテーションに重点を置き、被介護者が介助を受けながら自宅への復帰を目指すための施設

 

【民間施設の例】

介護付き有料老人ホーム

24時間体制で手厚い介助を受けられる施設

・定期的な健康診断や訪問診療なども行なわれる

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

・バリアフリー構造の住宅にて、安否確認や生活のサポートを受けながら暮らせる施設

・生活の自由度が高く、介護不要な高齢者でも入居可能

グループホーム

・認知症の高齢者のための施設

・利用者で少人数のグループを組んで介護サービスを受ける


民間施設に比べ、公的施設の入居費用・月額費用は安い傾向にありますが、入居条件が厳しいのが特徴です。また、人気の施設の場合、順番待ちになるかもしれません。

介護費用の軽減制度を利用する

介護費用の負担は、公的制度により軽減可能です。また、居住地域の自治体独自の助成制度が存在する場合もあるでしょう。

被介護者も介護者も経済的に困窮しているなら、生活保護の審査を受けることも考えてみてはいかがでしょうか。次の条件を満たしていれば、生活保護を受けられる可能性があります。

• 世帯収入が基準に満たない
• 現金化できる資産を所有していない
• 高齢や障害などのやむを得ない事情で、働いて収入を得られない
• ほかの制度による支援を受けても最低限の生活費が確保できない
• 生活の援助をしてくれる親族がいない

介護の悩みは抱え込まず周りの人と協力しよう


被介護者の身体・認知機能が徐々に悪化することや、経済的な負担が増えることなどがきっかけとなり、介護の放棄を考えてしまう方もいるかもしれません。

しかし、特に親の介護は、扶養義務により放棄できないことを知っておく必要があります。親の介護が難しいときには、扶養義務者間で話し合ったり、介護に関する窓口に相談したりしたうえで、以下の方法を検討しましょう。

• 介護サービスを利用する
• 介護施設へ入居してもらう
• 介護費用の軽減制度を利用する

また、「親はまだ元気だが将来の介護について不安がある」という方や、「自分の介護で家族に負担をかけるのではと心配している」という方は、民間介護保険の活用がおすすめです。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2023年10月2日

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