お風呂での介護に重要な入浴の手順と事前準備・注意点


身近な人に介護が必要になったとき、入浴ではどのように介助したらよいのか疑問に思う人もいるでしょう。お風呂での介護は、準備や手順を事前に理解しておくことが大切です。

この記事では、お風呂の介護をする際に必要な事前準備や注意点、入浴の手順などについて詳しく解説します。

入浴の目的と効果

まずは入浴のおもな目的と、入浴で得られる効果について解説します。

清潔にして感染症を防ぐ

入浴の大きな目的は、体の汚れや細菌を取り除いてきれいにし、清潔に保つことです。

皮膚に汚れや細菌が付着した状態が続いた場合、褥瘡(じょくそう)が生じる恐れがあります。褥瘡とは、体重で圧迫される場所の血流の低下によって皮膚に赤みやただれ、傷ができた状態で、一般的に「床ずれ」と呼ばれるものです。

また、皮膚が清潔でない状態が続くと、感染症を引き起こす可能性もあります。

入浴によって体を清潔に保つことは、褥瘡や感染症の予防につながるのです。

痛みを緩和する

入浴でお湯につかると体が温まります。体を温めることにより筋肉や関節の緊張がほぐれ、痛みが和らぐ効果を期待できます。

腰痛や関節痛がある場合は、積極的に湯船につかるとよいでしょう。

心身機能を高める

入浴には心身機能を高める効果も期待できます。心身機能とは、手足の動きや内臓の働き、精神の働きなど、体や心のさまざまな機能のことです。

入浴によって体が温まると血管が広がり、血液循環が促進されます。多くの血液が体内を巡ることで代謝が高まり、免疫力向上や心身機能の活発化につながるのです。

リラックスできる

湯船につかると自律神経の副交感神経が刺激されます。副交感神経が優位になることにより、心身ともにリラックスすることが可能です。

「ゆっくりお風呂につかることが楽しみ」という人も多く、入浴のリラックス効果によって寝つきが良くなり、疲労回復にもつながります。

入浴前に注意しておくこと

お風呂の介助を行なう前に注意すべきポイントを4つ紹介します。

体調が悪くないか観察する

入浴前には、本人の血圧・体温・脈拍・呼吸数などを必ずチェックしましょう。

体調が良くない場合に無理して入浴してしまうと、容態の急変を引き起こす恐れがあります。

食欲はあるか、顔色に変化がないかどうかなど、日頃から要介護者の体調に注意しておくことが重要です。

食前・食後の1時間は避ける

食事の前後1時間程度は、入浴を避けることをおすすめします。

空腹状態での入浴は水分不足や血糖値の低下につながり、貧血やめまいといった不調を引き起こす恐れがあるため注意が必要です。また、食事をとってすぐの入浴では消化不良が生じるかもしれません。

入浴のタイミングには十分注意しましょう。

体の状態をチェックする

入浴時は、要介護者の体に異常がないか全身をチェックできるチャンスです。

皮膚の乾燥や湿疹、褥瘡(床ずれ)による赤みや腫れなどの異常がないか、全身の様子を確認しましょう。頭からつま先まで、くまなく観察することが大切です。

浴室・脱衣所の室温・お湯の温度を調節する

急激な温度変化は、ヒートショックのリスクを高めます。そのため、浴室や脱衣所をほかの部屋の室温に合わせておくようにしましょう。

特に冬場はヒートショックの危険性が高まります。浴室・脱衣所を暖房器具などで温める対策が必要です。

また、高齢者の皮膚は若い人と比べて温度を感じにくくなっているため、熱すぎるお湯でやけどしてしまう恐れもあります。お湯の温度は40度程度に保つようにしましょう。

入浴前の準備【本人編】

お風呂の介護を行なうときは、要介護者を浴室で一人きりにすることがないよう、必要なものを事前にすべて準備することが重要です。

ここでは、入浴介助の前に準備しておくものを紹介します。

入浴補助用品

要介護者の入浴を補助する介護用品はすべて用意しておきましょう。

入浴補助用品の種類には、滑り止めマットや入浴用の椅子(シャワーチェア・シャワーキャリー)、浴槽手すり、湯船につかる際のバスボードなどがあります。

ボディーソープやシャンプー

ボディーソープやせっけん、シャンプーなどの準備も忘れずにしておきましょう。

泡で出てくるタイプなら入浴介助中に泡立てる手間を省けるため、時間の短縮ができて便利です。

やわらかいボディタオルやスポンジ

高齢者の皮膚は刺激に弱くデリケートな傾向があります。

要介護者のデリケートな肌を守るため、体を洗うアイテムには刺激の少ないやわらかいボディタオルやスポンジを用意するとよいでしょう。

タオル類

入浴後に使うバスタオルやフェイスタオルなども準備しておきましょう。

大きいバスタオルや吸水性の高いバスタオルを用意すると、要介護者の体をふく時間を短縮できるためおすすめです。

着替え一式

着替えのセットは脱衣所の取りやすいところに準備しておきます。

下着や衣類はもちろんのこと、必要に応じてオムツ・尿取りパッドなどを置いておくことも忘れないよう注意しましょう。

爪切りや保湿剤

入浴すると爪がやわらかくなるため、お風呂のあとは爪切りに最適なタイミングです。爪切りを予定している場合は、入浴前に爪切りを用意しておくとよいでしょう。

また、皮膚の乾燥を改善する保湿剤や皮膚科処方の軟膏など、スキンケアに必要なものも準備しておき、お風呂のあとの清潔な肌に塗布します。

入浴前の準備【介護者編】

介護する人の入浴前の準備も、忘れずに行ないましょう。お風呂の介護の際に、介護者が身に付けるものとして一般的なのは以下のアイテムです。

入浴介護に適したエプロンや手袋

入浴の介助を行なう際に介護者の体が濡れないよう、防水・撥水加工が施されているエプロンや手袋を用意しましょう。

なお、介護者の服装は乾きやすい素材の半袖・半ズボンなどがおすすめです。

滑りにくい靴

お風呂の介護のときには、要介護者だけでなく介護者の転倒にも気を付ける必要があります。

「浴室だから」とはだしで介助するのは、滑りやすく危険です。ゴム製のサンダルや長靴など、滑りにくい履物を着用して介助しましょう。

風呂介護の手順

お風呂の介護をスムーズなものにするための、具体的な入浴手順を解説します。

床や椅子など触れる場所を温める

要介護者の肌が直接触れる浴室の床や椅子などは、お湯をかけて温めましょう。

この一手間で、床や椅子が冷たくて体にショックを与えるといった刺激を防ぐことができます。

注意して椅子に座る

滑って転ばないよう足もとに気を付けながら、要介護者に椅子に座ってもらいます。

なお、椅子の近くに手すりがある場合は、つかまりながら座るとよいでしょう。

足もとから少しずつお湯をかける

お湯の温度をまずは介護者が確認し、そのあと要介護者も確かめます。温度に問題がなければ、足もとからお湯をかけていきましょう。

足もとからお湯をかけるのは、心臓から遠い位置にあり、体に負担がかかりにくいためです。足から順に少しずつ体の上部にお湯をかけ、全身を温めます。

上から順に洗う

髪から顔、上半身、下半身の順に洗い進めます。

洗髪の際は、耳に水が入らないように注意しましょう。本人や介護者が耳をふさいだり、シャンプーハットを使ったりするのがおすすめです。指の腹でやさしく洗い、シャンプーの流し残しのないよう十分にすすぎます。

体を洗う際には、自分で洗える部分は本人に洗ってもらいましょう。自分で洗うことによって、自尊心を傷つけたりADL(日常生活動作)が低下したりすることを防げます。手が届かないところなど、自力での洗体がしにくいところは介護者が手伝いましょう。

しっかりとすすぐ

洗い残しがないことを確認しながら、肌に付いたボディーソープやせっけんなどの洗浄剤をしっかりと流します。すすぎ残しは肌トラブルの原因になるため注意が必要です。

湯船につかる

髪や体を洗ったあとは、手すりなどを利用したり介護者が本人の体を支えたりしながら、安全に湯船につかってもらいます。

湯船につかる時間が長すぎると、のぼせやめいまいなどを引き起こす恐れがあるため危険です。お湯につかるのは5分程度にしておくとよいでしょう。

湯船から出たら洗い場で体を軽くふく

湯船から出たら、脱衣所に移動する前に洗い場で体を軽くふきます。この際、滑らないよう十分注意しましょう。

脱衣所でしっかり水分をふき取り、着替える

脱衣所に移動したら、体に水分が残らないようしっかりふき取ります。滑って転倒することを防ぐため、足裏の水分までふき取りましょう。

保湿剤の塗布など必要なことを行ない、衣類を身に付けます。

入浴を嫌がる場合はどうする?

介護を必要とする高齢者のなかには、入浴を嫌がる人もいるでしょう。お風呂を嫌がる場合にはどのように対応すればよいかを詳しく解説します。

スムーズに入浴してくれないケースもある

入浴してほしいタイミングに入ってくれないと、介護する側は焦る気持ちが募ります。「言うことを聞いてもらえない」「どうにもできない」と、介護者のストレスが溜まることもあるでしょう。

入浴を拒否された際には、まずは介護者が落ち着くことが大切です。「どうしても入らないとダメ」「汚れているから入りますよ」といった否定的な声かけは、逆効果になる場合があるため避けましょう。

理由を聞いてみる

お風呂を嫌がる人には、入浴したくない理由があります。なぜ入りたくないのか理由を聞いてみると、スムーズに入浴できるかもしれません。

例えば、「疲れていて入浴の動作がつらい」「家族に介護してもらうのが申し訳ない」などの理由が隠れている場合があります。本人の気持ちに寄り添い、理由に付き合うことも大切です。

入浴の動作の負担を軽減できる介護用品を取り入れたり、「手伝うから任せて」と明るく声をかけたりすることで、入浴する気持ちになれる可能性が高まるでしょう。

本人の価値観を大切にする

入浴にまつわる習慣がネックになっていることもあるでしょう。お湯の温度や入浴にかける時間などにこだわりがある場合は、本人の価値観を重視することでスムーズにお風呂に入れる可能性があります。

体を清潔に保つことや痛みの軽減がお風呂の目的だととらえた場合、清拭や蒸しタオルで温めるなどの行動を取るのも一つの方法です。

介護者の思いを一方的に押し付けるのではなく本人の希望を尊重しながら、落としどころを探ってみましょう。

自宅での風呂の介護が難しい場合

自宅で入浴させるのが大変な場合は、介護サービスの利用を検討しましょう。

訪問入浴サービスを利用すれば、自宅での入浴をフォローしてもらえます。また、デイサービスやショートステイを利用した際に施設で入浴も行なってもらうと、介護者の負担を軽減できるでしょう。

お風呂の介護が大変だと感じた際には、ケアマネジャーなどに相談してみることをおすすめします。

風呂の介護は手順を押さえ、事前準備をしっかり行ないスムーズに進めるのがコツ


入浴は体を清潔に保つだけでなく、心身機能を高めたりリラックスしたりすることのできる大切な習慣です。安全かつスムーズに入浴介助を行えるよう、事前の準備や手順をしっかり把握しておきましょう。

自宅でのお風呂の介護が大変だと感じたときには、介護サービスを利用するのも一つの方法です。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2023年11月22日

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