介護について知る

生活保護と介護保険の関係とは
介護に関わる自己負担はどれくらい?


「老後資金に不安がある」「高齢の親が要介護状態になり将来が心配」など、今後の介護費用に対し不安を感じている人も多いのではないでしょうか。ある程度経済的に余裕がないと、生活保護を申請したほうが良いと考えられるケースもあるかもしれません。

生活保護受給者は介護保険料や介護サービス利用料を実質的に負担する必要がありません。なぜなら、生活保護制度は生活困窮者に介護と医療の機会を与えられるよう制度が設計されているからです。

この記事では、人生100年時代における介護に不安を感じている方に向け、生活保護の制度と公的介護保険の関係性について解説します。また、親の介護費用を生活保護で賄う方法などについても紹介しますのでぜひご一読ください。

生活保護の基本

まず、生活保護とはどのような制度なのか、基本から簡単に説明します。

8種類の扶助からなる生活保護

生活保護制度の目的は、生活困窮者に対して必要な保護を行なうことにより、憲法第25条に定められた「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するとともに、生活困窮者の自立をうながしていくことです。

生活保護はあくまでも最低限度の生活を維持できるよう支援する制度です。したがって、換金できる資産を持っていれば売却して現金化し、労働する能力があるなら可能な方法で働き、ほかの制度で受けた給付をしっかりと活用することが前提とされています。

また、親族や周囲の方から援助を受けられるのなら、援助を受ける必要があります。

つまり、厚生労働大臣の規定する最低基準を満たしていないと判断された場合にのみ支援の対象となるのです。

生活保護は、生活を送るにあたって必要な費用の種類ごとに8種類の扶助に分けられています。扶助の種類と内容は次のとおりです。

扶助の種類

扶助の内容

生活扶助

食費・光熱費など生活で必要となる費用を基準額に応じて支給

住宅扶助

住居にかかる家賃について規定の範囲内で実費支給

教育扶助

義務教育で必要な学用品にかかる費用を基準額に応じて支給

医療扶助

医療サービスにかかる費用を直接医療機関へ支払い(本人負担はなし)

介護扶助

介護サービスにかかる費用を直接介護事業者へ支払い(本人負担はなし)

出産扶助

出産にかかる費用を規定の範囲内で実費支給

生業扶助

働くのに必要な技能習得などにかかる費用を規定の範囲内で実費支給

葬祭扶助

葬祭にかかる費用を規定の範囲内で実費支給

介護との関わりが深い生活扶助・医療扶助・介護扶助

8種類ある扶助のなかでも介護との関係が深いのは、生活扶助・医療扶助・介護扶助の3つです。生活扶助で困窮している保護者・被保護者の生活をサポートし、医療扶助と介護扶助で医療サービスと介護サービスをそれぞれ提供します。

なかでも介護扶助は介護サービスの費用に対して支給されるもので、生活保護を受給する要支援者・要介護者がサービスを受けるうえで欠かせないものです。

生活保護受給者は介護保険料負担が実質ゼロ

国民皆保険制度の日本では、40歳以上の人は介護保険料を負担しなければなりません。しかし、生活保護受給者は保険料の本人負担額が実質ゼロになるよう制度が整えられています。公的介護保険制度における扱いを年齢別に見ていきましょう。

40歳以上65歳未満の生活保護受給者のケース

公的医療保険に加入する40〜65歳未満の人は、公的介護保険における第2号被保険者となります。第2号被保険者は標準報酬月額に応じて決まる保険料を支払わなければなりません。会社員の場合、健康保険料と併せて給与から天引きされる仕組みです。

ただ、生活保護を受けている方は基本的に公的医療保険へは加入しておらず、第2号被保険者にはなりません。介護保険料は公的医療保険の保険料の一部として納付する仕組みであるため、公的医療保険に加入していない方はそもそも保険料を納付できないのです。

65歳以上の生活保護受給者のケース

年齢が65歳を超えると、本人の公的医療の保険加入状況に関係なく第1号被保険者となります。そのため、生活保護受給者であっても介護保険料の支払い義務が生じます。保険料は、各自治体が定める基準額や収入状況などに応じて決定されるのが基本です。

生活保護を受けていても介護保険料の支払い義務はあるものの、その全額が生活扶助で賄われるため、本人の実質負担額はゼロとなります。

介護保険料の納付方法は「代理納付」が一般的です。福祉事務所が生活保護費から保険料を天引きすることで、受給者本人は特に手続きすることなく納付が可能です。ただし、受給開始直後など特定のタイミングでは、別途現金での納付が必要となるケースもあります。

生活保護非受給者への救済措置「境界層措置制度」

前述のとおり、生活保護の受給対象になれば介護保険料の負担額が実質ゼロとなり、受給者本人の負担なく介護サービスを利用できる仕組みになっています。しかし、なかには生活保護の基準には当てはまらないものの、毎月の保険料支払いなどによって生活が困窮してしまう方もいるかもしれません。

そのような場合に活用を検討したいのが「境界層措置制度」です。これは本来よりも低い所得基準の保険料や負担額を適用すれば生活保護の支給基準に該当しないものの、規程どおりの介護関連費用を支払うと生活保護水準に抵触してしまう「境界層」にあたる方を対象にした制度です。

具体的には、当制度が適用された方は、介護サービスの負担限度額や介護保険料の所得段階などが段階的に低い水準へと軽減されます。

介護関連の負担を軽減できれば生活保護を受ける必要がなくなるという方は、境界層措置制度を活用すると問題を解決できるかもしれません。

境界層措置制度を利用したい場合、まずはお住まいの自治体にある福祉事務所へ相談して境界層措置に該当するかを確認しましょう。

該当すると認められたあと、福祉事務所より発行される証明書を自治体の役所窓口に提出すれば手続きは完了です。

生活保護受給者は介護サービスを受けられる?

生活保護を受けると介護保険料の支払いは実質免除されますが、それでも通常どおり介護サービスの対象となるのでしょうか。先ほどと同じく受給者の年齢別に解説します。

40歳以上65歳未満で要介護となったケース

要介護認定は通常第1号被保険者(65歳以上の高齢者)が対象です。ただし、以下に示す16種類の特定疾病により要介護・要支援の状態になった場合、第2号被保険者(40歳以上65歳未満の方)であっても介護サービスを利用できます。

  • がん(医学的知見により回復の見込みなしと判断される場合のみ)
  • 関節リウマチ
  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  • 後縦靱帯骨化症(OPLL)
  • 骨折をともなう骨粗鬆症
  • 初老期における認知症
  • パーキンソン病関連疾患
  • 脊髄小脳変性症
  • 脊柱管狭窄症
  • 早老症
  • 多系統萎縮症(MSA)
  • 糖尿病性神経障害・腎症・網膜症
  • 脳血管疾患
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 両側の膝関節または股関節に著しい変形をともなう変形性関節症
40歳以上65歳未満で生活保護を受けている方は基本的に第2号被保険者ではありませんが、上記16種類の特定疾病に罹患して要介護・要支援の状態に陥ったときは、被保険者と同じく介護サービスを受けることが可能です。その一方、保険料負担の対象外であるため「みなし2号」して扱われます。

みなし2号でも介護サービス料(費用の全額)は発生しますが、介護扶助の支給により実質的な負担はありません。

65歳以上で要介護となったケース

65歳以上の高齢者ならいずれの方も第1号被保険者となるので、通常どおり介護サービスを受けられます。介護サービスを利用するにあたり、第1号被保険者は本人の所得に応じて原則費用の1〜3割が本人負担額です。

生活保護を受けていても例外ではなく、原則1割の費用負担が発生します。ただ、この場合も介護扶助により負担分が全額支給されるため、本人負担額は実質ゼロです。

生活保護受給者も介護施設に入所できる

介護保険料を支払っていない方は介護施設に入所できるのか、不安に感じる方がいるかもしれません。結論から言うと、生活保護を受けていても介護サービス提供の対象となる方であれば、特別養護老人ホーム・ケアハウス・介護付き有料老人ホーム・グループホーム・サービス付き高齢者向け住宅などの介護施設への入所・入居が可能です。

ただし、受給者向けのプランを設定している施設は数が限られるため注意が必要です。定員の関係でなかなか施設が見つからず、入所まで時間がかかる可能性もあるでしょう。

公益社団法人全国有料老人ホーム協会が2014年3月に公表した調査報告によると、入所者・入居者のなかに生活保護受給者がいると回答した施設の割合は、住宅型ホームで49.0%、サービス付き高齢者向け住宅では32.1%でした。
一方、介護付きホームでは11.3%に留まっており、施設の種類によっても受け入れ状況が異なる結果となっています。

また、施設によっては生活保護を受けていないことを入居要件にしていたり、受給者のみ要介護度に関する条件を設けていたりするケースもみられます。自治体によっては「生活保護法指定介護機関」に関する情報を提供している場合もあるので、事前に確認しておくと安心でしょう。

生活保護で親の介護費用の負担を軽減することはできる?

自分自身ではなく、高齢の親が介護を必要としているケースもあります。自分やきょうだいが近所に住んでいて介護できるなら問題ありませんが、仕事や育児などさまざまな理由で介護が難しい場合もあるでしょう。

家族での介護が難しければ施設への入所を検討することになりますが、費用が大きな負担になる可能性があります。子ども世帯に経済的な余裕がないと、親の介護関連費用を負担することが難しい場合も考えられます。

このような場合、親世帯のみ生活保護の認定を受け、介護にかかる費用を生活扶助や介護扶助から充当するのも一つの方法です。

認定を受けるには世帯収入が基準を下回っていることに加え、換金できる資産を有していない、働くことが難しいといった条件を満たす必要があります。

また、扶養義務のある親族などからの扶養が受けられないことも条件であるため、自身を含めた親族に経済的な扶養能力がない旨を調査される必要があります。

親子同居の場合、世帯分離という方法が有効です。世帯分離とは、親世帯・子世帯を住民票上で別の世帯に分け、家計を別のものとすることを指します。世帯分離によって子世帯を要保護世帯から外しつつ、親世帯にかかる介護費用負担を軽減できます。

ただし、この方法で認定を受けるには、世帯分離をしないと親の介護費用等の負担により「子世帯も要保護世帯となってしまう」場合に限られます。
世帯分離により親世帯のみが生活保護認定を受けるためのハードルは非常に高いといえるでしょう。

生活保護受給者は病院の受診も原則無料

生活保護受給者は介護保険料・介護サービス費用に加えて、医療機関の受診にかかる費用も原則無料となっています。生活困窮者に医療サービスの機会を提供する医療扶助についても簡単に見ていきましょう。

医療費は医療扶助で全額支給

日本では原則、全国民が被用者保険(健康保険や共済保険)・国民健康保険・後期高齢者医療制度からなる公的医療保険制度の対象となっています。保険料を負担し公的医療保険の適用を受けることで、国民の医療費負担軽減を実現しています。

しかし、生活保護を受けている方は例外的に公的医療保険の対象外で、保険料負担の義務もありません。その代わりに医療扶助を受けられるため、医療費の負担が実質免除されます。医療機関の受診料のほか、公的医療保険適用内の手術や処方薬にかかる費用なども支給対象です。

一方、差額ベッド代をはじめとした公的医療保険の適用外費用は、医療扶助の支給対象外となります。

医療扶助を受ける際の注意点

医療扶助を受けるにあたっては注意点があります。

まず、医療扶助を受けるには、福祉事務所に毎月申請することが原則です。

生活保護を受けている方は公的医療保険に加入していないので保険証を持っていません。通常は医療機関受診時に保険証を提示して保険適用を受けられますが、生活保護受給者が医療機関を受診する見込みがある場合、自治体から受診時に提出する書類を発行してもらう必要があります。ただし自治体によって申請方法や発行方法が異なるため、事前に確認しましょう。

すべての医療機関で医療扶助が利用できるわけではない点も要注意です。医療扶助は、生活保護法に基づいて指定された医療機関での受診に対してのみ支給されます。

生活困窮者に介護と医療の機会を提供する生活保護制度


生活保護受給者は介護保険料や介護サービス費用の支払いが実質免除されています。介護施設への入所・入居も可能ですが、選べる施設は限られるのであらかじめ確認しておきましょう。

ハードルは高いものの要件を満たしていれば、高齢の親の介護にかかる費用を生活保護で賄える可能性もあります。

さらに医療費も医療扶助により原則自己負担が免除となっており、生活困窮者でも必要な介護と医療を受けられる体制が整っているといえるでしょう。

しかし、制度の適用を受けるには収入が最低水準を下回っているだけでなく、資産や就労能力の有無など、厳しい条件を満たしていなければなりません。資産の所有に制限がかかる、新たなローンを組めなくなるなど特有のデメリットも存在します。

公的制度による救済を前提とするのではなく、あくまでも自身の貯蓄や資産で生活できるよう、日頃から準備しておくことが大切です。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

AFP 齋藤 彩

急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(Certified Financial Planner)

公開日:2023年12月26日

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