介護者が腰痛になってしまう原因とは|効果的な対策と予防法


ご家族の介護をしている方のなかには、腰痛に悩んでいる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。介護では人を抱えたり、無理な姿勢で作業したりすることが多く、腰に負担がかかりやすいため腰痛の発症や悪化のリスクがあります。

本記事では、介護における腰痛の原因から効果的な対策まで詳しく解説します。

また、簡単なストレッチや腰に負担をかけない介護方法である「ボディメカニクス」の8つの原則についても併せて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

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介護の腰痛に悩む人は多い

介護は、人を支えたり無理な姿勢をとったりすることがあり、腰への負担が大きいものです。介護職の方に腰痛の悩みを持っている方が多いことからも、介護は腰痛になりやすいことがわかります。

厚生労働省の調査によると、介護士が属する「保健衛生業」における腰痛の発生件数は年間で2,050件でした。そのほかの疫病と比較しても、腰痛の件数が圧倒的に多く、保健衛生業で発生した業務上の疾病のうち、「負傷に起因する疾病」の約92%を占めています。
腰痛が進行すると、ぎっくり腰や腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症につながるおそれがあります。介護を無理なく続けるためには、腰痛の予防と対策が重要です。

介護で腰痛になってしまう3つの原因

腰痛の原因はおもに3つあり、それらが重なって腰痛になることがあります。どういう原因か詳しく説明します。

1:介護時の無理な姿勢

原因の一つは、無理な姿勢での介護です。介護には前屈みや中腰など、腰に負担のかかりやすい動作が多くあります。無理な姿勢をとり続けると腰への負担が増し、腰痛を引き起こします。

特に以下のような姿勢や動作をする際には注意が必要です。
  • 要介護者を持ち上げる
  • 中腰になる
  • 腰をひねる
  • 前屈みになる
  • 長時間同じ姿勢を続ける
一見、力が入らないように見える「腰をひねる」「長時間同じ姿勢を続ける」場合でも、腰に負担がかかります。

2:要介護者の居住環境

在宅介護の場合、介護施設のような十分に整備された設備が少ないことがほとんどです。例えば、トイレやお風呂は十分なスペースがなく、介護者が無理な姿勢をとりがちです。

また、床が滑りやすかったり、照明が暗く足もとが見づらかったりすると、足腰に負担がかかり腰を痛める可能性があります。

3:要介護者との体格差

体格差があると、無理な姿勢をとる場面が増え、腰に負担がかかります。

要介護者が大柄の場合、支えたり持ち上げたりする際に大きな負担がかかります。また、要介護者が小柄な場合は介護者が中腰になることが多く、姿勢が悪くなりやすいため腰に負担がかかってしまいがちです。

介護で腰痛にならないための3つの対策

腰痛を予防するには、普段からの心がけや対策が不可欠です。ここでは、腰痛を防ぐための3つの対策を解説します。

1:腰に負担をかけない姿勢・動作を意識する

先述のとおり、介護では無理な姿勢をとる場面が多くなります。そのため、腰に負担がかからない姿勢や動作を普段から意識することが大切です。

例えば、体勢を低くするときは腰を曲げるのではなく、下に落とします。足を開いて重心を下げるようにすると安定感が増し、バランスを崩すことも減り腰への負担も軽減します。

後述の「腰に負担をかけない介護方法「ボディメカニクス」の8つの原則」では、身体的負担が少ない介護技術を紹介しますので、併せて参考にしてください。

2:介護環境を整える

介護者の負担を減らすためには、介護環境を整えることも大切です。介護環境の改善は介護者の負担を軽減し、腰痛の予防につながります。

例えば、以下の設備や環境を見直してみましょう。
  • ベッドの高さ
  • 車いすのグリップの高さ
  • 滑りにくい床材
  • 適切な室内温度
  • 照明の明るさ
車いすのグリップやベッドが低すぎると、前傾姿勢になり腰に負担がかかります。また、照明の明るさや床材、室内の温度設定も重要です。室内温度が低いと冷えが血行不良を引き起こし、腰痛を悪化させる可能性もあるため、適切な温度に設定しましょう。

3:福祉用具を活用する

福祉用具を適切に活用することで、介護者の負担を減らせます。トイレ介助やベッドから車いすへの移乗介護などでは、腰に負担がかかることがあります。正しい介助姿勢を意識するのは大切ですが、それだけで腰痛を完全に防ぐのは難しいでしょう。

そこで、持ち上げる動作を減らせる「福祉用具」の活用がおすすめです。

以下のような福祉用具を活用するとよいでしょう。
  • 移動用リフト
  • スタンディングマシン
  • スライディングボード
  • スライディングシート
これらの福祉用具は、公的介護保険を活用して購入・レンタルできる場合があります。利用を検討している場合は、ぜひケアマネージャーに相談してみてください。

介護による腰痛をケアするストレッチ

腰痛予防の対策と同時に、こまめな身体のケアも大切です。ここでは、腰痛を簡単にケアできるストレッチを紹介します。

太ももの前側を伸ばすストレッチ

  1. 手すりや椅子に向かい合い、右手でつかまる(キャスター付きの椅子の使用は避ける)
  2. 左手で左足首をつかみ、背中のほうへ引っ張る
  3. そのまま20~30秒キープする
  4. 反対側の足も同様に行ない、左右1~3回程度繰り返す
太ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)が硬いと骨盤が前傾してしまい、腰に負担がかかりやすくなってしまいます。柔軟性を保てるように、普段からストレッチを取り入れましょう。

ふくらはぎを伸ばすストレッチ

  1. 手すりや椅子に両手でつかまり、安定した姿勢をとる
  2. 左足を後ろに引き、右足を軽く曲げて左足のアキレス腱を伸ばすような姿勢をとる
  3. そのまま20~30秒キープする
  4. 反対側の足も同様に行ない、左右1~3回程度繰り返す
ふくらはぎの筋肉が硬いと、もも裏の筋肉である「ハムストリング」が硬くなり動きが悪くなってしまいます。腰が丸まり背骨に大きな負担がかかってしまうため、よく伸ばしておきましょう。

背中を伸ばすストレッチ

  1. 手すりやテーブルに両手でつかまる
  2. 床と上半身が平行になるように前屈みの姿勢をとり、腰を90度まで深く曲げる
  3. そのまま20~30秒キープする
  4. 1~3を3回程度繰り返す
背中の筋肉である広背筋を伸ばすストレッチです。広背筋を伸ばすと姿勢を改善でき、腰痛の緩和につながります。

腰に負担をかけない介護方法「ボディメカニクス」の8つの原則

ボディメカニクスとは、力学の原理を利用した介護技術です。身体的特性をとらえて、最小限の労力で最大限の力を発揮できるため、腰痛予防にも効果的です。

ここでは、ボディメカニクスの8つの原則を紹介します。

1:支持基底面を広くする

支持基底面とは体重を支えるための床面積を指し、面積が広いほど安定性が増します。足をそろえて立つよりも肩幅に広げたほうが安定するのは、支持基底面が広いためです。

要介護者を起き上がらせる際には、直立ではなく足を広げることで介護者自身の安定性が向上します。

2:重心を低く保つ

重心を下げることで骨盤が安定し、腰の負担を軽減できます。これは、綱引きをする際に腰を落とすと大きな力を出せるのと同じ原理です。

介助の際には、腰をなるべく落として重心を低く保つことが重要です。ただし、骨盤が後傾していると力を効果的に発揮できないため、注意する必要があります。要介護者を持ち上げる際には、重心を低くするとともに支持基底面を広くとるとさらに安定します。

3:持ち上げず水平に移動させる

水平移動は重力の影響を受けないので、持ち上げるよりも小さな力で移動させられます。人を抱えるなどの持ち上げる動作は、腰に大きな負担がかかるため水平移動を意識しましょう。

例えば、寝ている要介護者をベッドの下部から上部へ移動させる際には、身体を持ち上げるのではなく、滑らせるように移動させます。

4:要介護者に接近し重心を近づける

重いリュックサックの肩紐を短くして、背中に密着させるように重心を近づけると、小さな労力で大きな力を発揮できます。

要介護者を抱え上げる際には、身体を密着させるようにすると重心が安定し、腰への負担を減らせます。

5:身体を小さくまとめる

寝ている要介護者を起き上がらせる場合、手足を広げた状態では力が分散してしまいます。ベッドとの摩擦も大きいため簡単には動かせず、介護者の腰への負担も大きくなります。

しかし、要介護者に腕や膝を曲げてもらい身体を小さくまとめると、力が分散せずに小さな力でも身体を起こせるでしょう。

6:押さずに手前に引く動作を意識する

押す動作よりも引く動作のほうが、より小さな力で介助できます。押す動作は腰への負担が大きく、慢性的な腰痛を引き起こす場合もあるため注意が必要です。

要介護者の身体を起こす際には後ろから押すのではなく、手前に引くように心がけましょう。また、腕や服を引っ張ると、要介護者の身体を痛めてしまうおそれがあります。力任せではなく、ゆっくりと手前に引くことを意識します。

7:身体全体を利用し、大きな筋群を使う

腕だけでなく、背中や脚、腰など全身の大きな筋肉を使うことで、身体の一部分への負担を分散させることができます。例えば、要介護者を車いすからベッドへ移動させる際には、腕だけでなく太ももや背中、お尻などの筋肉も一緒に使うことを意識しましょう。

身体全体を使うようにすると疲れにくくなり、長時間の介護も効率的に行えます。

8:てこの原理を活用する

介護では、利用者を移動させたり、体位を変えたりする場面が多くあります。これらの動作を腰に負担をかけずにスムーズに行なうためには、「てこの原理」を理解し、活用することが重要です。支点・力点・作用点の関係をうまく利用することで、小さな力でも大きなものを動かせます。

例えば、寝ている要介護者を起こす際には腰を支点に、肩を力点にして遠心力を利用すると簡単に上体を起こすことができます。

腰痛の原因を理解して身体への負担を軽減しよう


介護は腰への負担が大きく、多くの方が腰痛に悩まされています。放置すると、慢性的な腰痛やぎっくり腰、腰椎椎間板ヘルニアなどの深刻な症状を引き起こすおそれがあります。

そのため、腰痛を予防するには無理な姿勢をとらないよう心がけたり、介護しやすい環境を整えたりするなど、ちょっとした工夫が必要です。

本記事を参考にして、腰痛に悩まされない快適な介護生活を実現しましょう。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年3月29日

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