介護業界における「訪問マッサージ」
健やかで快適な暮らしのために


事故や加齢によって思うように体が動かせなくなると、気持ちが沈みがちになったり、身体を動かすのが億劫になってしまう場合があります。「体の調子を改善したい」「気分転換したい」といった気持ちになったとき、何かできることはないのでしょうか。

介護サービスの一つに「訪問マッサージ」があります。移動せずに自宅でマッサージを受けられ、血行の促進や筋力の維持といった効果が期待できるものです。

身体の調子が少しでも良くなると、動いてみようという意欲につながります。マッサージによってリフレッシュできるなど、気持ちの面でも変化が表れるでしょう。

本記事では、介護業界における訪問マッサージについて解説するとともに、期待できる効果やメリットを紹介します。料金体系や利用の流れもまとめているので、一つの選択肢としてご活用ください。

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介護業界における「訪問マッサージ」とは?

介護業界では、マッサージ師が自宅に訪問して施術する「訪問マッサージ」というサービスがあります。病気やケガ、加齢などが理由で寝たきりになってしまった方や、歩行困難で通院するのが難しい方などに対して行なうサービスです。

マッサージ師は、あん摩や指圧、マッサージを組み合わせた施術を行ないます。基本的に器具などは使用せず、介護対象者の自然治癒力や免疫力を高めることが目的です。

高齢化が進み、医療費増加への懸念を抱く方や、住み慣れた環境での療養を希望する方などが増えています。介護の場所を病院から在宅へとシフトする動きが見られるなかで、訪問マッサージの需要も増加傾向にあるのです。

訪問マッサージの対象者と期待できる効果

訪問マッサージはすべての方が利用できるわけではありません。ここでは、対象となる症状や状態、訪問マッサージを受けることで期待できる効果について解説します。

訪問マッサージの対象となる症状や状態

訪問マッサージは、寝たきりの方や歩行困難で通院が難しい方を対象としたサービスです。しかし、利用できるのは医師に医療上で訪問マッサージの必要性が認められた方に限られます。一律に診断名(病名)での判断とはなりません。

具体的には、「筋麻痺・筋萎縮」または「関節拘縮」などの症状がある人が対象です。歩行困難や寝たきりの状態であり、医師に必要性が認められた方が訪問マッサージの対象者ということです。

最終的な判断は、かかりつけの医師によって決定されます。

訪問マッサージの目的と期待できる効果

訪問マッサージの目的は、定期的な施術により、身体機能の回復や維持を行い、自然治癒力や免疫力を高めることです。

マッサージによって筋肉の緊張(張り・凝りなど)や関節痛の緩和を促し、筋力の維持や向上につなげます。関節可動域の維持や改善も期待できるため、日常生活の改善も期待できます。

また、関節が動くようになると、関節がポンプの役割となり、血液やリンパ液の循環が促されます。「冷え」や「むくみ」といったさまざまな体質改善も期待できるのです。

訪問マッサージの3つのメリット

訪問マッサージを受けることで、介護対象者だけでなく、介護する方にもメリットがあります。ここでは、訪問マッサージによって得られるメリットを見ていきましょう。

通院介助が不要

訪問マッサージの場合、決められた時間にマッサージ師が直接自宅に訪問して施術を行ないます。そのため、通院介助の必要がありません。

通院する場合は、外出するまでの準備や行き帰りの移動、院内での待ち時間など、介護対象者本人だけでなく、介助する方の負担も生じます。両者にとってその負担が軽減されるだけでも、大きなメリットといえます。

疲労回復

寝たきりの方や歩行困難な方の場合、筋力の低下や身体能力の衰えによって疲れやすくなります。筋肉が硬くなり、体の動きが悪くなってしまうことも少なくありません。

訪問マッサージを受けることで、筋肉がほぐれ、血液の流れが良くなります。その結果、疲労回復効果を期待できるのがメリットです。

蓄積した疲労が少しでも改善すると、体が動かしやすくなり、自分でできることが増えていきます。心身ともに健康な状態を目指せるのです。

要介護度の進行予防に効果的

訪問マッサージは、身体機能の回復や維持などを目的としています。あらゆる身体機能の低下に対し、残存機能の維持や改善に働きかけるのが特徴です。要介護度の進行を予防する方法としても効果的な方法といえます。

また、マッサージを行なう際は、介護対象者の身体に触れたり、会話を交わしたりと、密なコミュニケーションが必要です。これにより、孤独感やストレスの緩和、認知症の予防効果も期待できます。

さらに、身体機能が回復すれば、介護対象者自身でできることも少しずつ増えていくでしょう。生活の質が改善することで、介護する方の負担軽減にもつながります。

「訪問マッサージ」と「訪問リハビリ」3つの相違点

訪問マッサージと訪問リハビリの違いがわからず、どちらを利用したらよいのかわからない方もいるでしょう。ここでは、目的・提供内容・対象者に分けて、それぞれの違いを解説します。

①目的が異なる

訪問マッサージの目的は、身体機能の維持や回復を行ない、自然治癒力や免疫力を高めることです。筋肉の緊張の緩和、関節可動域の維持や向上、痛みの改善などにより、つらい症状を和らげます。

一方、訪問リハビリは、日常生活の自立を助けるための身体機能の維持や向上が目的です。歩行やトイレ、食事など、機能改善によって自立した生活が送れるようになることを目指します。

②提供内容が異なる

訪問マッサージで提供される施術の種類は「マッサージ」と「変形徒手矯正術(へんけいとしゅきょうせいじゅつ)」の2種類です。

あん摩マッサージ指圧師(国家資格)の資格を持ったマッサージ師が、あん摩や指圧、マッサージを行ないます。鍼灸師の資格を持ったマッサージ師であれば、鍼や灸の提供も可能です。

それに対して訪問リハビリは、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が行ないます。身体的な障害や疾患、生活上の課題に応じた健康管理や運動療法、動作訓練など、身体機能の維持向上を目的としたリハビリを行なうのが特徴です。

③対象者が異なる

訪問マッサージの対象者は、麻痺や関節拘縮がある方、寝たきりの方、歩行に不安があり自力での通院が難しい方などです。病名や診断名は問いませんが、医師の同意が必要になります。なお、年齢制限はなく、介護認定の有無は問われません。

一方、訪問リハビリは要介護認定を受けているすべての方で、医師からリハビリの必要性を認められている方が対象です。ただし、40~64歳までの方は、がんやリウマチなどの「16種類の特定疾病」が原因で要介護認定を受けた方のみが対象です。

訪問マッサージの料金体系

訪問マッサージの料金は厚生労働省によって定められており、全国一律の料金です。部位数や施術の種類と訪問距離を合わせた金額から、保険適用時の自己負担額を計算して算出します。ここでは、料金を3つの要素に分けて解説します。

部位数や施術の種類の料金

マッサージ(あん摩・マッサージ・指圧)の場合、施術部位は躯幹(くかん)、右上肢、左上肢、右下肢、左下肢の5つの部位に分けられます。そして、医師からの同意書に記載された施術部位数と種類をもとに料金が算出される仕組みです。料金は1部位につき350円となっており、最大5部位まで施術できます。

変形徒手矯正術や温罨法(おんあんぽう)の場合は、マッサージと料金が異なります。変形徒手矯正術は右上肢、左上肢、右下肢、左下肢の4肢に分けられ、1肢につき450円が加算されます。温罨法の場合は、1回につき125円が加算されます。

訪問距離の料金

訪問マッサージでは往診料が発生し、訪問距離が4km以内か、4kmを超えるかによって料金が変わります。地図上の直線距離で測り、4km以内なら2,300円、4km~16kmまでなら2,550円です。

もし自分の前に訪問マッサージの施術を受けた方がいる場合は、訪問事業所から自分の家までの距離と、前に施術した方の家から自分の家までの距離で、短いほうを優先して料金を算出します。

同一の施設や住居で1人の施術者が複数人に対して訪問マッサージを行なう場合は、往診料は1人分のみの適用となるので覚えておくとよいでしょう。

保険負担割合の料金

訪問マッサージは医療保険(健康保険)が利用できるので、利用者の自己負担額は1割~3割です。往診料も保険適用の範囲内です。

1回につき400円~1,300円程度、変形徒手矯正術を行なう場合は500円~1,900円程度の負担になります。

訪問マッサージの利用の流れ

実際に訪問マッサージを受けたいと考えたときは、どうしたらよいのでしょうか。ここからは訪問マッサージを利用する手順を見ていきましょう。

かかりつけ医に相談する

まずは、かかりつけ医に訪問マッサージを利用したい旨を伝えましょう。医療保険の適用対象となるためには、対象となる症状・状態であることが必要です。ご自身が対象となるのか、マッサージを受けて問題はないのか、かかりつけ医に相談しましょう。

マッサージの依頼先を選ぶ

かかりつけ医から訪問マッサージの利用が認められたら、依頼する事業者を選定します。インターネットなどを使って自力で探す方法もありますが、かかりつけ医に相談するのもおすすめです。

マッサージ業者を選定する際は、以下の2点をチェックしましょう。
  • 担当者を固定してもらえるか
  • 医師やケアマネジャーと適切に連携しているか
マッサージ師には、身体の状態を継続的に把握してもらう必要があります。利用するたびに担当者が変わってしまうと、症状の経過に合わせた施術を受けられなくなってしまう可能性があるため注意が必要です。毎回担当者が変わることで、介護対象者がストレスを感じることもあるでしょう。安心して身体を委ねられるという点からも、担当者が固定してもらえるかどうかは事前に確認しておきたいポイントです。

また、訪問マッサージは、医師の同意書に基づいた「治療」を目的とした施術です。そのため、積極的に医師やケアマネジャーと連携をとり、身体の症状や状態に合わせた施術をしてもらうことが大切です。ホームページや口コミなどを参考に、事前に確認してみましょう。

初回カウンセリングを受ける

マッサージ業者が確定したら、次は初回カウンセリングを受けます。マッサージ業者に問い合わせ、初回カウンセリングを受ける日時を調整しましょう。

マッサージ師が実際に自宅を訪問し、健康状態や本人・家族の要望などを聞き取ります。事業者によっては体験マッサージを行なっているところもあるため、事前に確認しておくことが大切です。

カウンセリング(ある場合には体験マッサージ)や料金の説明、今後の流れなどを聞き、問題がなければ申し込みを行ないましょう。

医師から同意書をもらう

医療保険を利用して訪問マッサージを受ける場合、医師の同意書(診断書)が必要です。筋麻痺や関節拘縮などの症状に対して、機能回復を目的に行なう施術に同意するという医師の意思表示です。事前に同意書を作成してもらいましょう。

手配方法

同意書の手配は、基本的に訪問マッサージの事業者が行ないます。同意書の作成を医師に依頼しましょう。同意書の依頼先は原則としてかかりつけ医であることが求められていますが、歯科医師を除いて、医師であれば誰でも作成可能です。なお、作成にかかる日数は、申し込みから数日程度です。

6カ月ごとに同意書が必要

訪問マッサージを受けるうえで、回数制限はありません。ただし、訪問マッサージの同意書の有効期限は6カ月間と決まっているため、継続して施術を受ける場合は6カ月ごとに医師から同意書をもらう必要があります。

ここで注意したいのが、6カ月間の定め方についてです。同意の日付が1日~15日までであるか、16日以降であるかによって、有効期限が変動します。

以下の例のように、15日以前が同意日の場合は5カ月後の月末まで、16日以降が同意日の場合には6カ月後の月末までです。


例)
1月1日が同意日の場合、有効期間は6月30日まで
1月16日が同意日の場合、有効期間は7月31日まで


再依頼する場合は、有効期限に注意して早めに依頼するようにしましょう。

利用を開始する

同意書の用意ができたら、訪問マッサージの利用が可能になります。初回カウンセリングの内容や医師の指示などをもとに治療方針が立てられ、施術が行なわれる流れです。

施術時間

訪問マッサージの一回の施術時間は業者によって異なり、20分~30分程度で行なうところが多くあります。施術時間の規定がないため、30分より長くなっても問題ありません。依頼する業者にあらかじめ確認しておくとよいでしょう。

施術頻度

訪問マッサージは、期間の制限や回数の上限がありません。症状の重さや生活の状態をもとに、本人や家族、医師などと相談のうえで決定します。痛みや症状が強めに出ている場合は、週に2~3回程度利用する方が多いようです。

訪問マッサージを上手に利用して快適な生活を送りましょう


訪問マッサージは、寝たきりの状態や歩行困難で通院ができない方を対象とした、自宅で受けられるマッサージです。身体機能の回復や維持を目的に施術が行なわれ、筋力の維持や向上、関節可動域の維持といった効果が期待できます。

よく似たサービスに「訪問リハビリ」がありますが、施術の目的や内容、対象者が異なるため、違いを理解しておくことが大切です。訪問リハビリは要介護認定を受けている方が対象であるのに対し、訪問マッサージは年齢や介護認定の有無は問いません。

訪問マッサージを利用する場合は、利用可否をかかりつけ医に相談するところから始めましょう。固定の担当者がつき、医師やケアマネジャーと連携がとれている業者であることが望ましいです。

訪問マッサージをうまく利用して、快適な生活を送りましょう。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年2月27日

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