要介護者からの暴力に悩んだときはどうする?
相談窓口と施設探しのポイント


もし自身が介護している要介護者から暴力を受けている場合、その原因を理解し、対処方法を考えねばなりません。

要介護者による暴力行為は介護者にとって大きな負担となり、1人で何とかしようとしても、その対応は非常に困難です。

この記事では、要介護者の暴力行為の原因や対処法を解説し、相談できる窓口や入居施設を探す場合のポイントを紹介します。

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要介護者による暴力の原因

本来は暴力的ではなかった要介護者が、介護者に対して暴力をふるう場合があります。

このような暴力行為は介護者にとって非常につらい経験です。しかし、暴力の原因を理解することが、適切な対応策を見つける手がかりになる可能性もあります。

要介護者の暴力行為のおもな原因は以下のとおりです。

認知症で感情をコントロールできない

認知症によって感情を抑制する前頭葉の働きが低下し、怒りが暴力行為へとつながることがあります。

混乱や不安を感じている

認知症の影響で現実の状況が理解できずに混乱や不安を感じることで、暴力行為を引き起こす場合も少なくありません。

体調が悪くストレスを感じている

体の痛みや不調がストレスとなり、その結果、介護者に対して暴力をふるうことがあります。

自尊心が傷つけられたと感じている

自分の言動が否定されたり、自尊心が傷つけられたと感じたりすると、暴力行為へと発展することがあります。

薬が影響している

認知症の治療薬の副作用が暴力行為の原因になる場合があります。


上記に挙げた原因を認識しておくことが、在宅介護で暴力行為が起こる可能性を軽減するヒントとなるでしょう。

要介護者の暴力に悩んだときの対処法

認知症の影響で起こる要介護者の暴力行為を完全に防ぐことは難しいですが、対応方法はいくつか存在します。

ここでは、要介護者の暴力行為への対処法を3つ紹介します。

力で対抗することは避ける

認知症の方は、不安や怒りの感情から暴力的な行動に出ることがあります。このような状況に力で対抗すると、不安をさらに煽り、お互いが深く傷つく可能性があるため危険です。

自衛のために力を使うことは正当防衛として許されることもありますが、問題の根本的な解決にはつながりません。

要介護者の暴力行為によって身の危険を感じた際は、安全を確保するためにも、まずはその場から離れましょう。

物理的・感情的に距離を置く

認知症による暴力や暴言は、介護者にとって大変つらいものです。

暴力的な行動が表れた場合には、まずは安全を確保するために物理的な距離を取りましょう。また、冷静さを保つために感情的な距離も置く必要があります。

物理的・感情的な距離を置き、介護者自身の心身の健康を保つことも大切です。定期的にリフレッシュのための時間を作り、必要に応じてデイサービスやショートステイなどの介護サービスを利用しましょう。

第三者に相談する

要介護者の暴力に悩んだときは、第三者に相談しましょう。

家族や親族などのほうが話しやすければ、身近な人に相談することも選択肢の一つです。しかし、医師やケアマネージャーなどの専門家に相談すると、より効果的なアドバイスを受けることができます。

もし人に話すことに抵抗がある場合には、日記などに状況を記録してみましょう。気持ちを整理し、今後の相談に役立てられます。

要介護者の暴力について相談できる窓口

要介護者の暴力行為に関する悩みを相談できる専門的な窓口を4つ紹介します。

地域包括支援センター

要介護認定で「要支援」と判定された高齢者や、公的介護保険の認定を受けていない高齢者の暴力については、地域包括支援センターに相談しましょう。

地域包括支援センターには、ケアマネージャー、保健師、社会福祉士などの専門スタッフが配置されており、相談窓口を無料で利用できます。複数の分野にまたがる相談に対応しており、必要なサービスや制度の案内のほか、適切な介護施設の紹介も可能です。

ただし、紹介できる介護施設は地域包括支援センターが属する担当地区周辺の施設に限られることがある点は注意しましょう。

居宅介護支援事業所のケアマネージャー

要介護認定における「要介護1」以上と判定されていれば、居宅介護支援センターのケアマネージャーが相談窓口となります。

ケアマネージャーとは、介護を必要とする方が適切な介護サービスを受けられるように、ケアプラン(サービス計画書)の作成やサービス事業者との調整を行う介護の専門家です。

ケアマネージャーによる介護施設の紹介には制限が生じることもありますが、本人の生活スタイルや状況を考慮した情報の提供や介護施設の紹介が可能です。

医療相談室・地域連携室

高齢者の入院をきっかけに介護施設を探す場合には、病院内の医療相談室や地域連携室なども相談窓口となります。

医療相談室や地域連携室は中規模、大規模の病院に設置されていて、介護が必要な高齢者に対しても、退院後の生活支援や介護施設選びのサポートを提供することが可能です。

医療ソーシャルワーカーや看護師が配置されており、患者の状態や家族の希望に応じた支援を行っています。

認知症医療疾患センター

認知症疾患医療センターは、認知症の詳しい診断や症状への対応、相談などを行う認知症に特化した医療機関です。都道府県や政令指定都市が指定する病院に設置されています。

医療の支援だけでなく、近隣介護施設の紹介や、地域の支援機関との連携を通じて介護体制を整える支援も行っています。

認知症の患者や家族が抱えるさまざまな課題に対して、幅広い解決策を提供する医療機関です。

要介護者の暴力に悩んだときは精神科への入院や施設入居も選択肢の一つ

要介護者からの暴力行為は介護者に大きなストレスを与え、介護うつや家庭内の関係悪化につながる可能性があります。

このような深刻な状況に対処するために、精神科への入院や介護施設への入居を検討することも一つの有効な選択肢です。

例えば、精神科のある病院は認知症の方も入院することができます。精神科の医師や看護師は認知症に対しての理解が深く、適切なケアを提供できるため、ご家族の方も安心して任せられるでしょう。

入院期間中には適切な服薬治療やその他の医療的調整が行われ、その後の施設入居もスムーズに進められる場合があります。要介護者は安定した環境で必要なサポートを受けられるとともに、介護者は精神的な負担を軽減できます。

暴力行為がある要介護者は施設に入居できない場合もある

介護施設への入居は要介護者の暴力に悩んだときの対応策の一つですが、場合によっては施設に入居できないこともあります。

施設に入居拒否される場合がある

法令では、正当な理由なく介護サービスの提供を拒むことが禁止されています。

(出典:指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準

しかし、暴力行為はスタッフやほかの入居者の安全を脅かすものです。安全確保のため、暴力行為は介護施設側が入居を断る正当な理由であるとみなされる可能性があります。

介護施設側が入居を断る場合、具体的な理由を明確に伝え、本人や家族に理解いただく責任があります。また、ほかの適切な介護サービスの紹介や代替手段を提案することも、施設側に求められる対応の一つです。

このように入居拒否の事態に直面する可能性もあるため、場合によっては別の介護施設や介護サービスを探すことも検討する必要があるでしょう。

施設によって入居の可否が異なる理由

暴力行為を示す要介護者が一部の介護施設から入居を断られる一方で、別の介護施設では受け入れられる場合もあります。

介護施設によって入居の可否が異なる理由には以下の3つが挙げられます。

人員配置や環境設定が異なるため

介護施設は種類によって対象者や基準が異なり、それに応じて職員の配置や環境設定が決められています。

例えば、認知症対応型の介護施設では専門的な対応が期待できるため、ほかの介護施設での入居が難しい認知症の方でも受け入れられる可能性が高くなります。

本人に施設の雰囲気が合う場合があるため

生活環境の好みは個人によって異なります。そのため、介護施設の環境や雰囲気が本人の好みに合う場合は、状態が落ち着いて予想以上にすんなりと施設になじめることがあります。

施設での人間関係が良い影響を与えることがあるため

介護施設における人間関係が、認知症の症状に良い影響を与えることがあります。

特に、スタッフやほかの利用者との相性が良い場合、その人間関係は本人が介護施設で穏やかに生活する助けとなるでしょう。

暴力の要因が認知症の場合に検討したい入居施設

要介護者が暴力行為を示す場合、家族やケアマネージャーは、介護施設ごとの方針や環境を慎重に比較し、本人に適した施設を選ぶことが大切です。

暴力の原因が認知症である場合は、認知症ケアに特化した介護施設への入居を検討するのもよいでしょう。

ここでは、認知症が原因で暴力行為におよぶ可能性がある要介護者が入居を検討したい介護施設を2つ紹介します

認知症対応型生活介護(グループホーム)

グループホームは認知症の進行を遅らせ、日常生活の機能を維持することに特化した、比較的小さな規模の介護施設です。

入居対象は「要支援2」以上の要介護認定を受けている認知症の方で、1ユニットには5~9人の入居者が共同生活を送ります。規模の小さい介護施設なので、スタッフが一人ひとりの入居者に合わせたケアを提供しやすい傾向があります。

グループホームでは、入居者同士が日々の活動を通じてコミュニケーションを取りやすい環境が整っており、アットホームな雰囲気のなかで暮らせるのが特徴です。

介護付き有料老人ホーム

介護付き有料老人ホームは、「要介護1」から「要介護5」までの判定を受けた要介護者を対象に、幅広いニーズに対応した介護施設です。重度の認知症や介護度の高い方も受け入れ、安心して生活できる環境を提供する施設もあります。

介護付き有料老人ホームには介護専用型や混合型などの種類があり、この2つは24時間の介護サービスを提供し、緊急時にも迅速に対応することが可能です。

また、生活支援サービスやリハビリ、レクリエーションやイベントなど、さまざまなサービスを受けられる施設もあります。活動的で充実した生活を送りたい方に適した介護施設といえるでしょう。

暴力行為がある要介護者の施設探しをするときの3つのポイント

要介護者が暴力行為を示す場合、適切な施設選びは非常に重要です。

ここでは、暴力への対処法として施設入居を検討する際に、考慮したい3つのポイントを紹介します。

認知症ケアの専門知識を持つスタッフが在籍している

認知症患者の介護では、認知症の特性を理解したうえでの落ち着いた対応が必要です。特に暴力が見られる場合は、専門的な知識を持つスタッフの対応が重要なポイントになります。

介護施設を選ぶときには、スタッフが「認知症介護指導者養成研修」や「認知症介護実践者研修」、「認知症介護リーダー研修」などの専門研修を受けているかを確認するのもよいでしょう。

このような研修を受けたスタッフが在籍する介護施設は、認知症の入居者への対応が適切で、より質の高いケアを提供している可能性があります。

介護体制が整備されている

人員基準を満たしている介護施設でも、実際には人手不足によって介護の充実度が落ちる可能性があります。そのため、介護施設に足を運んで見学し、実際の様子を確認することが重要です。

見学の際は昼食前後の時間帯を選ぶと効果的です。この時間帯は一般的に介護スタッフが最も忙しく活動するタイミングで、スタッフの対応や入居者への目配りの様子がわかりやすくなります。

充実したレクリエーションを行っている

認知症の方は環境の変化に敏感で、新しい生活空間に適応する過程でストレスを感じやすいのが一般的です。介護施設への入居時はその最たる例の一つでしょう。

そのため、レクリエーション活動は、入居者の気分転換や介護施設へのスムーズな適応をうながす重要な要素です。

介護施設を選ぶ際には、提供されるレクリエーションの活動内容や頻度を確認しておきましょう。

要介護者の暴力行為に悩んだときは専門家に相談したうえで施設入居も検討を


要介護者による暴力行為は認知症や身体的不調がおもな原因である場合が多く、原因を理解することが適切な対応策を見つけるためのヒントとなります。

暴力に対処する際には、力による対抗は避け、安全な距離を保つことが大切です。また、地域包括支援センターやケアマネージャーなどへ相談することも効果的です。

特に暴力行為の原因が認知症である場合には、適切な支援の提供や介護者の負担軽減のために、認知症ケアに特化した施設への入居を検討することをおすすめします。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年6月1日

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