介護保険の限度額とは?「支給限度額」と「負担限度額」のそれぞれの特徴を解説


公的介護保険について調べたことがある方は、介護保険の「限度額」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。介護保険の「限度額」には「支給限度額」と「負担限度額」の2種類があるため、混同しないように注意が必要です。

今回は、介護保険の基礎知識とともに、支給限度額と負担限度額のそれぞれの特徴について紹介します。併せて、限度額に深く関係する「要支援・要介護認定」や、自己負担限度額に関係する「高額介護サービス費」についても解説します。

介護保険の基礎知識

介護保険とは、その名のとおり介護が必要な方に対して、介護や介護予防にかかる費用の一部を給付する公的な社会保障制度です。

介護保険は、40歳以上になると被保険者として自動的に加入する制度です。加入後、65歳以上かつ自治体が実施する要介護認定において介護の必要性ありと認定された場合、居宅サービスや地域密着型サービス、居宅介護支援、施設サービスといった介護サービスが受けられるようになります。

介護サービスを受けるには、各自治体の担当窓口で申請を行なう必要があるため、事前に制度の内容や申請方法についてきちんと把握しておきましょう。

介護保険にまつわる「限度額」は2種類

介護保険には、サービスを利用できる限度額である「支給限度額」と、自身で支払うサービス利用料の限度額である「負担限度額」の2種類の限度額があります。ここでは、この2種類の限度額についてそれぞれ詳しく説明します。

支給限度額

介護保険の限度額における「支給限度額」とは、1カ月ごとに介護保険を用いてサービスを利用できる限度額のことです。支給限度額は、金額ではなく「単位」で表されます。基本的に1単位につき10円とされていますが、地域によって変動します。

支給限度額の上限は、認定されている「要介護度」によって決定されます。要介護度は、要支援1~2、要介護1~5に区分されており、介護サービスを利用するには「要支援・要介護認定」が必要です。

支給限度額は要介護度によって異なります。以下は、要支援1と要介護1における支給限度額の例です。

・要支援1の場合:支給限度額5,032単位(上限額の目安はおよそ5万320円)
・要介護1の場合:支給限度額1万6,765単位(上限額の目安はおよそ16万7,650円)

上記の支給限度額を超えてサービスを利用した場合、その超過分は全額自己負担となるため注意が必要です。

負担限度額

介護保険を適用して介護サービスを利用する際は、所得に応じて1~3割の自己負担が必要になり、この自己負担額の上限を「負担限度額」といいます。

なお、「第2号被保険者(40歳以上65歳未満)」に該当する場合、自己負担額の割合は1割で固定されます

第1号被保険者の方が自己負担割合がどのくらいなのかを知るには、「要支援・要介護認定」を受けた際に支給される「介護負担割合証」をチェックするとよいでしょう。

以下は、所得別の自己負担額の一例です。

(例)本人の合計所得金額(年金とその他の所得合計)が220万円以上の場合
・単身世帯340万円以上/2人以上世帯463万円以上:3割
・単身世帯280万円以上340万円未満/2人以上世帯346万円以上463万円未満:2割
・単身世帯280万円未満/2人以上世帯364万円未満:1割

以下、160万円以上220万円未満、160万円未満と所得ごとに負担割合が定められています。

介護サービスを利用するには「要介護認定」を受ける必要がある

ここからは、要介護認定について、申請に必要なものや申請先、認定の流れについて紹介します。

申請に必要なものと申請先

要介護認定の申請に必要なものは、以下のとおりです。

・申請書
・介護保険被保険者証
・健康保険の保険証(65歳以下)
・マイナンバーカード、もしくはマイナンバー通知書

要支援・要介護認定の申請は無料で行えるため、手数料などは必要ありません。

要支援・要介護認定の制度自体は国が管轄しているものの、申請先は各市区町村の窓口です。なお、要支援・要介護の区分別に利用可能なサービスは異なりますが、いずれも申請先は同じです。

要支援・要介護認定の流れ

要支援・要介護度が認定されるまでのおおまかな流れは、以下のとおりです。

1. 訪問調査
2. 意見書の作成
3. 一次判定・二次判定
4. 認定

申請を行なうと、後日ケアマネージャーをはじめとした認定調査員による「訪問調査」が実施されます。訪問調査は、対象者本人の心身の状態や日常生活の状況、家族や住まいに関する情報を収集するためのヒアリングを行なうものです。

併せて、主治医による意見書が作成されます。意見書は、自治体が主治医に作成を依頼するケースが大半です。訪問調査を終え意見書が提出されたら、一次判定および二次判定に移ります。

要支援・要介護認定における一次判定は、意見書や訪問調査の結果をもとに、コンピューターで判定されるのが特徴です。二次判定は、一次判定の結果と訪問調査での特記事項等をもとに、保険や医療、福祉の専門家が会議を行ない判定します。一次判定・二次判定を経て、対象者の要支援・要介護度が認定されるという流れです。

負担限度額が高額になった場合は「軽減措置」の利用が可能

1カ月間の介護サービス利用料の自己負担分は所得区分に応じて限度額が定められています。ただし、サービスの内容によっては利用料が高額になり、この限度額を超過してしまう場合があります。

その際、自己負担限度額を超えた分は、「高額介護サービス費」として申請することで払い戻しを受ける軽減措置が利用可能です。ここでは、この高額介護サービス費について、区分ごとの限度額や申請方法、対象外となる注意すべき項目について紹介します。

負担限度額の区分と限度額

高額介護サービス費(一定の自己負担額を超えた分の払い戻し)を受けられる限度額は、所得に応じた区分によって変動します。以下は、区分ごとに定められている自己負担の限度額です。

● 課税所得が690万円以上:14万100円(世帯)
● 課税所得が380万円以上690万円未満:9万3,000円(世帯)
● 住民税課税~課税所得380万円未満:4万4,400円(世帯)
● 世帯全員が住民税を課税されていない:2万4,600円(世帯)
● 上記のうち、課税年金収入額+その他の合計所得金額80万円以下:1万5,000円(個人)
● 生活保護受給者:1万5,000円(個人)

高額介護サービス費の支給を受けるには

介護保険の自己負担限度額の認定は、各自治体で管理しています。そのため、申請方法や認定要件も自治体ごとに異なる点に注意が必要です。加えて、令和3年より申請要件や一部負担限度額の見直しがされました。そのため、申請時はこの点も併せて確認しておくのがおすすめです。

支給を受けるために必要な手続きの一例として、高額介護サービス費の支給対象となると、自己負担額が上限額を超えた時点で自治体から支給申請書が送付されます。支給申請書に必要事項を記入し、自治体の窓口に提出します。その際、自治体によって持参、郵送など提出方法が異なる場合があるため注意が必要です。

申請が受理されると、指定口座に払い戻し額が振り込まれます。なお、2回目以降は初回に指定した口座に自動的に振り込まれるようになります。

高額サービス費の対象にならない項目

高額介護サービス費の対象は、介護保険の自己負担分である1~3割の部分です。ただし、以下のように対象とならない費用もあるため注意しましょう。

● ポータブルトイレや入浴補助用具などの特定福祉用具の購入
● 手すりの設置など住宅改修にかかる費用
● 施設における居住費や短期入所の際の滞在費・食費
● 生活援助型配食サービスにかかる負担分
● 理美容代など日常生活にかかる費用
● 支給限度額を超え、全額自己負担分に該当する費用

支給限度額と負担限度額を理解して自己負担の軽減を


今回は、介護保険における支給限度額・自己負担限度額、それぞれの特徴を解説しました。2つの限度額について事前に理解しておくことで、実際にサービス利用を検討する際の指針になり得るでしょう。

また、自己負担限度額が超過してしまった場合は、所得に応じて「高額介護サービス費」を利用できるケースがあります。申請方法や認定要件は自治体によって異なるため、こちらの制度に関しても、事前にお住まいの地域を管轄している自治体に問い合わせるなどしてチェックしておくと安心です。

 

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CFP 金子 賢司

東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務めるなか、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強をはじめる。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。

資格:CFP(Certified Financial Planner)

公開日:2023年6月30日

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