介護保険の住宅改修でできること
申請の流れや適用条件のポイント


親やパートナーなど、家族が在宅介護を必要とする場合、気になるのが自宅の環境整備です。そのような場合に役立つのが公的介護保険です。公的介護保険を使うと、住宅改修のための補助金を受給できます。

給付を受けるには条件があり手続きも必要ですが、支給限度基準額20万円の9割(18万円)が上限で支給されます。

この記事では、住宅改修にまつわる制度の説明や、制度の範囲内でできること、メリット、申請に必要な書類や流れを解説します。

公的介護保険を活用した住宅改修とは

公的介護保険を利用した住宅改修は、少ない負担で住宅改修をすることで被介護者が日常生活を送りやすいようにサポートし、被介護者やその家族の生活の質を向上させることを目的としたものです。

住宅改修費用の支給対象となるのは、以下の内容です。
  • 手すりの取付け
  • 段差の解消
  • 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
  • 引き戸等への扉の取替え
  • 洋式便器等への便器の取替え
  • その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修

住宅改修を利用できる方

介護保険の住宅改修の対象となるのは、要介護認定により要支援1~2、もしくは要介護1~5に該当する方です。加えて、介護保険被保険者証記載の住所に居住している必要があり、入院中の場合や施設で介護サービスを受けている場合は支給の対象にはなりません。

なお、住宅改修費の支給を受けるには事前申請をする必要があります。工事完了後も費用発生の事実がわかる書類(領収書など)の提出が必要です。これらをあらかじめ確認しておくとスムーズに手続きを行えるでしょう。

利用限度額

支給限度基準額は20万円です。このうち、住宅改修にかかった費用の7割~9割に相当する額が支給されます。工事費用が総額で20万円を超えた際には、超過部分は自己負担となる点に注意が必要です。また、住宅改修費の支給は原則1人1回となります。

「思ったよりも自己負担額が大きかった」「改修したけど不便が残る」ということにならないためにも、ケアマネジャーと相談し、希望する住宅改修の内容をしっかりと伝え、改修内容を決めましょう。

支給方法

住宅改修費の支給方法には「償還払い」と「受領委任払い」の2通りがあります。

償還払い

被保険者が施工事業者に工事費を全額支払い、その後該当する支給額が申請した被保険者の口座に振り込まれます。

受領委任払い

施工事業者に改修費の利用者負担分のみを支払ったのちに専用の申請書を提出すると、市区町村から施工事業者に住宅改修費用の残りの金額が支払われる仕組みです。受領委任払いの場合、市区町村と受領委任契約を締結する施工事業者に工事を依頼しなければなりません。

介護保険を活用した住宅改修の3つのメリット

公的介護保険を利用して住宅改修を行うことには、被介護者だけでなく介護者にとってもメリットがあります。

バリアフリーリフォーム費用の軽減

多額な費用がかかることもある住宅のリフォームですが、市区町村から最大18万円のリフォーム費用を支給されるため、金銭的・精神的負担が軽減されます。自己負担だけではできなかったリフォームを行える場合もあるでしょう。

生活や在宅介護の負担を軽減

被介護者に必要な環境を整えることで、被介護者が自分でできることが増え、生活や介護の負担が減ります。被介護者が自分でできることが増えると認知機能や身体機能の維持にもつながるでしょう。また、介助者の手を借りなくても生活動作を行えると、「自分だけでも○○ができた」という自己肯定感の向上も期待できます。

被介護者が安心して生活できる住空間づくりにつながる

わずかな段差をなくすことで転倒や転落のリスクが軽減したり、手すりを設置することで移動や立ち上がり動作がスムーズになったりするなど、適切な環境を整えることで被介護者が安心して過ごせるようになります。

介護保険の住宅改修を活用できる3つの事例

住宅改修では、具体的にどのようなリフォームを行えるのでしょうか。この章では、具体的な住宅改修の内容とそれによって期待できる変化、費用の例を3つご紹介します。

手すりの設置

例えば、被介護者に筋力の低下や麻痺などがある場合、廊下や階段などに手すりを設置することで室内移動の安全度が向上します。また、浴室や玄関などに設置すれば、体を支える手段として役立つでしょう。形状(水平型、L字型など)も被介護者の状態に合わせたものを選べます。

費用の目安:約10~20万円、公的介護保険適用(1割負担の場合)で1~2万円程度。階段に設置する場合、階段の形状によって費用が変わります。

便器の取り替え

和式の便座だと膝を曲げてしゃがむ姿勢がとりづらかったり、しゃがんだ姿勢から立ち上がれなかったりと、自力での排泄が困難になる場合があります。そこで、洋式の便座に改修することで一連の排泄行動が行いやすくなり、介助者の負担軽減や被介護者の自己肯定感の向上につながります。

費用の目安:20万円前後。ウォシュレット機能や暖房機能を追加すると30万円を超える場合もあります。リフォーム費用が20万円の場合、公的介護保険適用(1割負担)で自己負担額は2万円です。

一方、リフォーム費用が30万円の場合、公的介護保険適用(1割負担)で補助されるのは20万円までで、その1割の2万円に加えて補助対象外の10万円の自己負担額が発生します。そのため、自己負担額は合計で12万円となります。

室内の段差解消

廊下と部屋の段差を解消したりスロープを設置したりすることで、自立歩行者の転倒リスクを減らせます。車いす移動もしやすくなるため、歩行状態が変化しても今までのように自宅で過ごせます。

費用の目安:約2~45万円(廊下の段差を解消するためにスロープの設置を行う場合)。公的介護保険適用(1割負担)で2,000円~27万円程度の自己負担額となります。

公的介護保険を利用した住宅改修を申請する流れ

公的介護保険の住宅改修費用を受給したい場合、どのような手続きを行えばよいのでしょうか。この章では、申請手続きの手順や必要書類、住宅改修費用の受領までにかかる期間を解説します。
  1. ケアマネジャーなどに相談
    はじめに、ケアマネジャーなどに住宅改修の内容や改修場所の希望を伝え、相談します。その後、ケアマネジャーが必要書類を作成します。


  2. 施工事業者と打ち合わせ
    住宅改修の施工事業者と打ち合わせをして、施工プランや見積書を作成してもらいます。


  3. 市区町村に必要書類を提出
    工事前に「支給申請書」「住宅改修が必要な理由書」、「工事費見積書」、「住宅改修後の完成予定の状態がわかるもの(写真または簡単な図を用いたもの)」をお住まいの市区町村へ提出します。


  4. 保険者(市区町村)が申請内容を確認
    提出した申請内容から、保険を給付できるものかを市区町村が確認します。


  5. 住宅改修工事施工・完成・支払い
    申請書類に問題がないことが確認されたら、改修工事を施工します。工事完了後に、施工事業者に費用を支払います。


  6. 工事完成後に市区町村へ支給申請
    「住宅改修に要した費用にかかる領収書」、「工事費内訳書」、「住宅改修の完成後の状態を確認できる書類(便所、浴室、廊下など箇所ごとの改修前および改修後それぞれの写真とし、原則として撮影日がわかるもの)」、「住宅の所有者の承諾書」などを提出します。


  7. 住宅改修費の支給額が決定・支給
    申請内容が認められたら、住宅改修費が支給されます。

市区町村の要介護認定や書類申請後に住宅改修費が支給されるため、実際の給付までは時間がかかります。住宅改修の必要性を感じたら、早めにケアマネジャーなどに相談することをおすすめします。

そのほか、要介護状態区分が3段階上がるか転居した際には、再び20万円までの支給限度基準額が設定されます。要介護状態の変更時や転居の際には、都度ケアマネジャーなどに相談すると安心でしょう。

公的介護保険を活用して、快適に過ごせる住環境を整えよう


公的介護保険の住宅改修補助を利用すると、少ない負担でリフォームを行え、被介護者が安心して過ごせるでしょう。対象は室内だけでなく、廊下や階段、玄関、風呂場など幅広い場所の改修が可能で、被介護者に必要な設備を設置できます。

被介護者の自立度が変わっても住み慣れた自宅で暮らすことは、本人にとって大切なことです。公的介護保険の住宅改修補助を上手に利用し、生活環境を整えましょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年7月8日

介護について知る

介護を予防する

介護について考える

公的制度・支援サービス

介護の費用

介護が始まったら

認知症について知る

認知症とは

認知症の予防

もの忘れ・認知症の専門家の
特別コンテンツ

生活習慣病について知る

生活習慣病とは

生活習慣病の予防

老後の備え方

年代別アドバイス