公的介護保険で受けられるサービスとは
サービスの概要と利用までの流れ


公的介護保険は介護サービスを1~3割の自己負担で受けられる制度です。しかし、要介護度によって受けられるサービス内容が異なるため注意が必要です。

本記事では、公的介護保険の概要と要介護度、利用できる介護サービスの種類と手続きの流れ、要介護認定で「非該当」の場合に検討したいことを解説します。また、民間の介護保険についても触れているので参考にしてみてください。

「公的介護保険」とは

はじめに、公的介護保険制度の概要と介護サービスの利用に必要な要介護認定について解説します。

公的介護保険制度は、さまざまな介護サービスを利用するために必要な制度

公的介護保険制度とは、1~3割の自己負担でさまざまな介護サービスを受けられる制度で、おもに市区町村が運営しています。

40歳以上は加入義務があり、特別な手続きなく自動的に被保険者となります。

公的介護保険の介護サービスを受けられる方は次のとおりです。
  • 第1号被保険者:65歳以上で要支援・要介護状態になった方
  • 第2号被保険者:40~64歳で医療保険に加入しており、特定疾病により要支援・要介護状態になった方
特定疾病とは加齢に起因する病気で、次の16疾病が該当します。
・末期がん
・後縦靭帯骨化症
・慢性関節リウマチ
・脊柱管狭窄症
・早老症
・骨折をともなう骨粗しょう症
・初老期における認知症
・糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症
・脳血管疾患
・閉塞性動脈硬化症
・慢性閉塞性肺疾患
・両側の膝関節または股関節に著しい変形をともなう変形性関節症
・筋萎縮性側索硬化症
・多系統萎縮症
・脊髄小脳変性症
・進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病

第2号被保険者は特定疾病に該当しないと要支援・要介護状態でも介護サービスを受けられない点に注意が必要です。

介護サービスを利用するための条件

介護サービスの利用には、第1号・第2号被保険者ともに要支援・要介護状態であることを示すために要介護認定を受けなければなりません。

要介護認定は要支援1・2、要介護1~5に区分され、要介護度に応じた介護サービスを受けることが可能です。

各区分における心身状態の目安は次のとおりです。
 

要介護度

心身状態の目安

要支援1

食事や排泄などの基本的な日常生活はできるが、立ち上がりなどに助けが必要なことがある。

要支援2

基本的な日常生活はできるが、立ち上がりや歩行などに助けが必要なことがある。

要介護1

買い物や金銭管理などに支障があり、立ち上がりに助けが必要である。認知機能や理解力の低下もみられる。

要介護2

立ち上がりや歩行が難しいことが多い。基本的な日常生活も助けが必要なことがある。

要介護3

立ち上がりや歩行が自力で難しく、杖や車いすが必要である。基本的な日常生活も全面的な助けが必要である。

要介護4

助けがないと基本的な日常生活ができない。理解力も著しく低下し、問題行動もみられる。

要介護5

寝たきりのことが多く、日常生活全般に助けが必要である。コミュニケーションも困難な状態である。

要支援よりも要介護の方が、また要介護の数字が大きい方が介護の必要度が高いことがわかります。

日本では高齢化にともない要介護認定者数は年々増加傾向です。2030年には65歳以上の約5人に1人※1になることが見込まれています。
 

※1厚生労働省「第92回社会保障審議会介護保険部会資料」および「介護保険事業状況報告の概要(令和5年10月暫定版)」より当社推計(第1号被保険者に対する65歳以上の認定者数の割合を使用)

※2厚生労働省「令和3年度介護保険事業状況報告(年報)」

※3厚生労働省「令和3年度介護保険事業状況報告(年報)」および「第55回社会保障審議会介護保険部会資料」より当社推計

介護は誰にとっても身近な問題といえるでしょう。

公的介護保険で利用できるサービスはおもに5種類

公的介護保険で利用できる介護サービスはおもに5種類です。各介護サービスの概要を解説します。

居宅サービス

居宅サービスにはさらに訪問サービスや通所サービス、短期入所サービスに分類されます。

訪問サービスは利用者の自宅を訪問してサービスを提供します。
具体的には、ホームヘルパーによる食事や入浴の介護、理学療法士などによる心身機能維持・改善のためのリハビリ、看護師による医療行為などがあります。
また、簡易的な入浴槽が設置されている入浴車が訪問し、入浴の手助けをすることも可能です。

通所サービスは利用者が日中、施設に通いサービスを受けます。
食事や排泄などの介護、リハビリなどを受けられるデイケアやデイサービスがあります。

短期入所サービスは、利用者が施設で短期的に宿泊できるサービスです。
食事や排泄などの日常生活の支援、リハビリ、レクリエーションを受けられるショートスステイが代表的です。医療機関や介護老人保健施設に短期間滞在し、医療ケアを受ける医療型のショートステイもあります。

自宅での介護は体力的・精神的にも負担が大きいものです。短期入所サービスは介護者の休息のためにも利用できるため、家族の負担軽減になるでしょう。冠婚葬祭や急用で介護ができないときにも便利なサービスです。

施設サービス

施設サービスでは、施設に入居してサービスを受けられます。

特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)で食事などの介護やリハビリを受けたり、介護医療院で医療ケアや介護を受けたりできます。期間はサービスにより異なるため事前に確認しましょう。

ただし、施設サービスは要介護状態でないと利用できない点に注意が必要です。

地域密着型サービス

地域密着型サービスは、高齢者が住み慣れた地域で生活できることを目的に提供されるサービスです。

グループホームなどで日常生活の支援を受けられるサービス、「施設通所」と「自宅訪問」、「短期宿泊」を組み合わせることで自立した生活と支援を受けられるサービスなどがあります。

また、要介護状態の場合、看護・介護一体で24時間体制で自宅巡回などを行う定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間限定で定期的な巡回や緊急時の訪問対応を行う夜間対応型訪問介護なども利用可能です。

福祉用具関連サービス

利用者の自宅での生活において、自立を助けるための用具を貸与したり販売したりするサービスです。

手すりやスロープなどの福祉用具のレンタルや、レンタルが適さない腰かけ便座や簡易浴槽などの購入費を保険給付の対象としています。

いずれの場合も自己負担はかかった費用の1~3割であり、購入での支給限度基準額は年間10万円です。

住宅改修サービス

自宅での生活のために住宅改修した場合、費用負担を軽減するサービスです。

手すりの設置や段差の解消、洋式便器への変更などの改修工事費用が保険給付の対象となります。自己負担は1~3割です。

基本的に、支給限度基準額は生涯20万円です。

介護サービスを利用するまでの流れ

介護サービスを利用したくても手続きがよくわからないという方もいるかもしれません。ここでは、利用までの流れを紹介します。

要介護認定の申請をする

介護サービスの利用には要介護認定が必要です。まずは市町村の窓口で要介護認定の申請をしましょう。

本人が思うように動けない、入院中などで申請できない場合は家族やケアマネジャーが代理で申請することも可能です。

申請に必要な書類は次のとおりです。
  • 申請書
  • 介護保険証
  • 診察券などかかりつけ医のわかるもの
  • マイナンバーが確認できる書類
  • 健康保険証(64歳以下の場合)
市町村により異なる場合もあるため、前もってホームページなどで確認をしましょう。

認定調査が行われる

市町村の調査員が自宅や施設を訪問し、本人の心身状態や日常生活、周辺環境について聞き取りを行います。調査内容は74項目あり全国共通です。

訪問調査後、市町村が主治医に意見書の作成を依頼します。主治医がいない場合は市町村が指定した医師の診察を受け、意見書を作成してもらう必要があります。

審査判定が行われる

訪問調査と主治医意見書の内容をもとに一次判定、二次判定を経て最終的な判定が行われます。

一次判定は訪問調査や主治医意見書の一部の内容をもとにコンピュータが判定します。全国一律の基準であり、市町村によって異なることはありません。

そして一次判定の結果や主治医意見書をもとに、介護認定審査会で最終的な要介護度の審査判定が行われます。これを二次判定といいます。

結果通知

審査判定で決定した要介護度を申請者に通知します。

認定は要支援1・2、要介護1~5までの7段階および非該当のいずれかです。

申請から原則30日以内に認定通知が届きますが、2ヵ月程度かかる市町村もあります。
通知が遅い場合は市町村に確認してみると良いでしょう。

要介護認定で「非該当」の場合に検討したいこと

要介護認定で「非該当」となり、介護サービスを受けられない場合に検討したいことを2つ紹介します。

認定結果の不服申し立てを行う

要介護認定結果に納得できない場合、結果通知を受けた翌日から60日以内であれば介護保険審査会に不服の申し立てが可能です。まずは市町村の窓口や地域包括支援センターに相談してみましょう。

しかし、不服申し立ては相当な時間がかかることを覚悟しなければなりません。通知された認定結果に問題がないかの調査を行い、不服申し立てが妥当と判断されたあとに認定調査をはじめからやり直すため、数ヵ月を要することもあります。

要介護認定で納得いく結果にするためにも、はじめの認定調査の段階で調査員との間に認識の差がないように本人の身体機能や認知機能、周囲の環境など介護の必要性をしっかり伝えるようにしましょう。

介護予防・日常生活支援総合事業を活用する

要介護認定で「非該当」の場合、公的介護保険の介護サービスを受けることはできません。そこで選択肢となるのが、介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)の活用です。

総合事業は高齢者が要介護状態になることを防ぐために2015年の介護保険改正により創設されました。2017年4月以降、全国の市町村がさまざまな介護予防サービスを提供しており、高齢者が自立して日常生活を送り続けられるようにサポートしています

総合事業の対象は次のいずれかに該当する方です。
  • 要介護認定における要支援1または2、もしくは基本チェックリストに該当する者
  • 65歳以上

基本チェックリストとは、25項目の質問により日常生活や心身の状況を把握するリストです。

要支援あるいは基本チェックリスト該当者は「介護予防・生活支援サービス事業」の訪問型サービスや通所型サービスなどを、65歳以上の方は「一般介護予防事業」の体力づくり教室や介護予防教室などのサービスを受けられます。

総合事業におけるサービスは要介護認定を受けなくても利用可能です。積極的に検討してみると良いでしょう。

介護の自己負担分への備えに民間保険は有用?

公的介護保険では1~3割の自己負担が発生します。

1割負担の方が公的介護保険制度での介護サービスを支給限度額まで利用した場合の1年間の自己負担額をみてみましょう。要介護1で約20万円、要介護5で約43万円必要となり、要介護度が大きいほど経済的負担も増えることがわかります。
●「公的介護保険制度」を支給限度額まで利用した場合の1年間の自己負担額(1割負担の場合)
 

厚生労働省老健局老人保健課「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の一部を改正する件の公布について」(平成31年3月28日)より当社で試算​

介護サービスを支給限度額まで利用した場合の自己負担額(自己負担割合が1割の場合)は全国平均であり、地域によって異なる場合があります。介護サービスの支給限度額を超えたサービス利用分は全額自己負担になります。

一定以上の所得がある65歳以上の方は2~3割負担となります。

事前に備えていないと予想外の支出で困ることもあるでしょう。また、介護で家族が離職したり、今までどおり働けなくなったりすることによる収入減少も問題です。さらに、介護期間が長期になった場合は経済面の不安定から家族間のトラブルに発展することもあり得ます。

経済面の負担を軽減するために、民間の介護保険への加入は有用です。

公的介護保険はサービスの現物給付ですが、民間の介護保険は現金給付が一般的です。貯蓄などから介護費用を捻出することが難しい場合、民間の介護保険への加入により経済的負担に備えられるでしょう。

民間の介護保険は給付金を一括で受け取れる一時金タイプ、要件を満たした際に、定期的に定額を受け取れる年金タイプ、あるいはそれらの併用タイプがあります。一時金タイプは介護開始時の初期費用に、年金タイプは毎月の介護費用や家族の収入減少時の生活費などに対応できます。

また、一般的に加入年齢が高いと保険料も高くなります。民間の介護保険は40歳未満でも加入できる商品があり、早めの加入は月々の保険料を抑えられるでしょう。

公的介護保険で受けられる介護サービスの理解を深め、将来の介護に備えよう


公的介護保険制度は、要介護度に応じて居宅サービス、施設サービス、地域密着型サービス、福祉用具関連サービス、住宅改修サービスを1~3割の自己負担で受けられる制度です。

利用者の生活を助けてくれるだけでなく、家族の介護負担も軽減できるでしょう。

しかし、介護費用や家族の収入減少などで経済的負担が生じ、家族間のトラブルにつながる可能性もあります。公的介護保険や貯蓄などから介護費用の捻出が難しい場合は民間の介護保険の加入も一案です。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

CFP 齋藤 彩

急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(Certified Financial Planner)

公開日:2024年7月9日

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