介護保険と医療保険の違いは?
併用するときのポイントや優先順位を解説


日本では社会保険として公的介護保険制度と公的医療保険制度が設けられています。これらの保険対象となる場合、それぞれの利用区分や違い、併用の可否などがわかりにくいと感じることもあるでしょう。

原則として、公的介護保険と公的医療保険は併用できません。両方が対象になる場合は、公的介護保険が優先されます。

この記事では、公的介護保険・公的医療保険の概要や違いを解説します。また、公的介護保険と公的医療保険の併用可否、民間介護保険・民間医療保険との違いについても解説します。

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公的介護保険制度とは

初めに、公的介護保険制度の概要について見ていきましょう。

公的介護保険制度とは、高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みです。2000年に施行された介護保険法に基づき、40歳を迎えると被保険者として公的介護保険に加入します。

公的介護保険料は、40歳~64歳の間は医療保険者が公的医療保険の保険料に上乗せする形で一括徴収し、65歳以上になると原則年金から天引きする形で市町村が徴収します。

被保険者は2つに区分され、65歳以上の方が第1号被保険者、40歳~64歳の方が第2号被保険者に分けられます。

第1号被保険者が要介護認定を受けた場合、要介護度に合わせた公的介護サービスを一定の自己負担割合で利用できます。

第2号被保険者は、末期がんや関節リウマチなど老化に起因する16種類の特定疾病が原因で要介護認定を受けた場合に公的介護サービスの利用が可能です。 

公的介護サービスを利用した際の自己負担割合は、第1号被保険者の場合は所得に応じて1割~3割、第2号被保険者の場合は1割です。

公的医療保険制度とは

公的医療保険制度の概要を説明します。

日本は「国民皆保険制度」を取り入れており、原則として国民全員が何らかの公的医療保険に加入します。これにより、加入者は医療機関で健康保険証を提示し、1割~3割の自己負担分額を支払うことで医療を受けられます。

また、医療機関の選択が自由なこと(フリーアクセス)、世界最高レベルの保健医療水準を実現していることなどの特徴があります。

公的医療保険は雇用や年齢により区別され、以下のように大きく3つに分かれています。

被用者保険

会社などに勤めている人が加入する保険です。被用者保険には、おもに大企業の従業員と扶養家族が対象の「健康保険組合」、おもに中小企業の従業員と扶養家族が対象の「協会けんぽ(全国健康保険協会)」、公務員・教職員と扶養家族などが対象の「共済組合」、船員が対象の「船員保険」があります。

国民健康保険

上記の被用者保険に加入していない、農家・自営業者・非正規雇用者・会社の退職者などが対象です。市区町村では地域保険と呼ぶこともあります。

後期高齢者医療制度

75歳以上の方が加入する保険です。また、65歳~74歳で後期高齢者医療広域連合から一定の障害の状態と認定された場合も加入できます。

公的介護保険制度と公的医療保険制度の違い

ここからは特に注意したい相違点について、比較してみましょう。

利用者の年齢と利用条件

公的介護保険には対象年齢があり、40歳以上の方が加入を義務付けられています。また、利用条件は以下のとおりです。

40歳~64歳

厚生労働省が定めた、加齢により発症する16種類の特定疾病が原因で要介護(要支援)認定を受けた人。なお、特定疾病には末期がん・関節リウマチ・筋萎縮性側索硬化症・後縦靱帯骨化症・骨折をともなう骨粗鬆症・初老期における認知症などが含まれます。

65歳以上

要介護(要支援)認定を受けた人。
このように、公的介護保険制度は要介護認定を受けた人が介護サービスを利用できる制度となっています。つまり40歳~64歳または65歳以上でも、要介護認定を受けていない人は利用できません。

なお公的介護保険で利用できる介護サービスには、訪問看護・訪問介護やデイサービスなどの在宅サービスと、特別養護老人ホームなどに入所して利用する施設サービスがあります。在宅サービスと施設サービスは同時に利用できないため、いずれかを選択します。

公的医療保険は「国民皆保険制度」に基づいてすべての国民が加入し、要介護認定を受けていなくても利用可能です。

自己負担額

公的介護保険の在宅サービスでは、要介護度に応じて1ヵ月の介護サービス利用限度額(支給限度額)が決まっています。支給限度額について詳しくは後述します。

支給限度額の範囲で介護サービスを利用したときの自己負担は、介護サービス費の1割(一定以上所得者の場合は2割又は3割)です。第2号被保険者は、所得に関わらず1割負担です。

支給限度額の範囲を超えて在宅サービスを利用した場合、超過部分は全額自己負担です。

施設サービスでは、相部屋か個室かなどの施設の環境によって自己負担額が異なります。

ただし自己負担額が高額になった場合でも、高額介護サービス費や特定入所者介護サービス費の支給により負担が軽減される可能性があります(市区町村への申請が必要です)。

また、同じ医療保険の世帯内で医療保険・介護保険の両方で自己負担が発生した場合、合算後の自己負担額が軽減される高額医療・高額介護合算制度を利用できます。年収に応じて決められた限度額を500円以上超えたときに、公的医療保険者に申請すると超過分が支給される仕組みです。
公的医療保険の自己負担額は基本的に3割ですが、6歳未満(義務教育就学前)と70歳~74歳は2割負担、75歳以上は1割(一定以上の所得がある場合は2割)負担です。

70歳以上で現役並みの所得(年収約370万円以上)がある場合は、公的医療保険の自己負担額が3割負担となります。

また、1ヵ月にかかった医療費が限度額を超えたときには、高額療養費制度の利用が可能です。自己負担限度額を超えた分が払い戻されるので、医療費の負担を軽減できます。

支給限度額

公的介護保険における在宅サービスは要介護度ごとに支給限度額(サービス利用の上限額)が定められています。
 

要介護度

利用限度額

要支援1

5320

要支援2

105,310

要介護1

167,650

要介護2

197,050

要介護3

27480

要介護4

309,380

要介護5

362,170

公的医療保険には限度額が設定されていません。

公的介護保険制度と公的医療保険制度は併用できる?

公的介護保険と公的医療保険、両方の制度を利用できる場合、併用はできるでしょうか。

原則としては併用できない

公的介護保険と公的医療保険は、原則として併用できません。理由としては、それぞれの保険制度の目的が違う点が挙げられます。医療が必要な場合は公的医療保険の対象ですが、目的が介護など医療から外れる場合は公的介護保険が適用されます。

例えばリハビリを利用する場合、病気治療のために必要なものであれば公的医療保険の対象です。しかし、病気治療ではないものの、必要なサービスと判断されれば公的介護保険が適用されます。また、公的医療保険でリハビリを受けていた人が要介護認定を受けると、公的介護保険の適用に変更されることもあります。

例外として併用できるケース

例外的に公的介護保険と公的医療保険の併用を認められるケースがあります。

別の診断名を受けた場合

公的介護保険のリハビリ中に発症した新たな病気に対して、公的医療保険のリハビリを利用する・公的医療保険を利用している診断名とは別の診断名に対し、公的介護保険のリハビリや訪問看護を受ける場合など。

診断名が同じでも時期(月)が違う場合

公的医療保険での訪問看護が終了後、翌月から公的介護保険で訪問看護を利用する場合など。

末期がんなどの難病の場合

命をつなぐために医療・介護の両面のサポートが必要な場合は同じ月内でも併用可能。

公的介護保険制度と公的医療保険制度の優先順位

先ほど述べたように、原則として公的介護保険制度と公的医療保険制度は併用できませんが、両方が利用できる場合は、公的介護保険制度の利用が優先されます

公的介護保険制度が利用できる場合は優先される

公的介護保険制度と公的医療保険制度で利用できるサービスには共通するものがあります。ただし、公的介護保険で給付が受けられるサービスは公的医療保険から給付しないと法律で定められており、公的介護保険の給付が優先されます。

一例として、在宅介護のケースで考えてみます。
自宅で看護師などのケアを受ける訪問看護は公的介護保険・公的医療保険両方の対象ですが、原則として要介護認定を受けているときは公的介護保険からの給付が優先されます。

公的介護保険の範囲

下記は、介護の必要性に対応するものであれば、公的介護保険の給付対象です。
  • 医療サービスとしても行われる居宅療養管理指導
  • 訪問看護・訪問リハビリテーション
  • 通所リハビリテーション(デイケア)
  • 短期入所療養介護(医療系ショートステイ)
また、訪問入浴介護、訪問介護(ホームヘルプサービス)などの介護サービスは当然介護保険からの給付となります。

公的医療保険の範囲

介護サービスに該当しない医療行為は、公的医療保険から給付されます。公的医療保険の対象になるのは投薬や検査・処置・訪問診療などの医療行為です。

なお、公的介護保険を利用できるのは要介護認定を受けている対象者です。40歳~64歳で末期がんなどの特定疾病を患っている人や65歳以上の人であっても、要介護認定を受けていない場合は公的医療保険のみ対象となります。

民間介護保険・民間医療保険との違い

公的介護保険・公的医療保険を利用すると一定の自己負担でサービスを利用できますが、継続して掛かる介護費・医療費の負担は大きいものです。そのような経済的不安に備えるためには、民間介護保険・民間医療保険が役立ちます。

ここからは公的介護保険・公的医療保険と、民間介護保険・民間医療保険の違いを解説します。

民間介護保険・民間医療保険の保障内容

民間介護保険・民間医療保険は、公的介護保険・公的医療保険でカバーしきれない費用を補ってくれます。

民間介護保険は、保険会社所定の要介護状態になると介護一時金や介護年金といった形で現金が給付され、介護にかかる費用などを補填できます。

民間医療保険では、入院給付金や手術給付金の保障があります。給付金を、医療費の自己負担分や、全額自己負担となる差額ベッド代や食事代・先進医療費などにも充てられます。

公的介護保険・公的医療保険は実際にかかった費用が軽減される現物給付ですが、民間介護保険・民間医療保険は現金で給付される点が最大の特徴です。現金給付なので、仕事ができないなどで収入が減少した際にも充てられます。

公的保険制度との併用が可能

公的介護保険と公的医療保険は原則併用できませんが、「公的介護保険と民間介護保険」「公的医療保険と民間医療保険」の併用は可能です。

また「民間介護保険と民間医療保険」双方に加入していると、疾病の内容によっては双方から給付を受けられる可能性があります。 公的保険制度に加えて民間の介護・医療保険で備えておくと、いざというときの安心につながるでしょう。

公的介護保険制度と公的医療保険制度の違いを理解して活用しよう


公的介護保険制度と公的医療保険制度は原則として併用できず、両方を利用できる場合は公的介護保険が優先されます。 ただし公的介護保険は、要介護認定を受けている場合のみ利用できます。

公的介護保険を利用すると介護サービスにかかる自己負担額を抑えられるほか、負担限度額を越えた場合に超過分が払い戻される高額介護サービス費などの制度もあります。しかし、自己負担額や公的介護保険でカバーしきれない費用を考えると不安に思う人も少なくないでしょう。そのような場合は、民間介護保険に加入して介護費用の負担に備えておくと安心です。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

CFP 齋藤 彩

急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(Certified Financial Planner)

公開日:2024年12月13日

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