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認知症について知る

 あらゆる結果から総合的に診断

認知症の診療に対するお考えをお聞かせください。

 私の認知症診療におけるモットーとして、「可能な限り、患者様・ご家族様のお話をお伺いし、今までの生活史、現在の生活様式や生活環境なども考え合わせながら、環境調整・非薬物療法・薬物療法の最善の組み合わせを考えること」を重視しています。

 また、認知症の方を介護されているご家族の方ご自身の心身の健康状態や安定した生活にも注力した診察を心がけています。


どのようなきっかけで来院されることが多いのでしょうか。

 「もの忘れ外来」に自主的に来院されるケースでは、ご自身で「もの忘れ」を気にして来院される方や、ごく身近にいるご家族(配偶者や子供)からもの忘れが多いと指摘されたことをきっかけに来院される方が多いです。会社の上司や同僚などの第三者から仕事でのミスが多いと指摘されたりしたことをきっかけに来院される方もいます。

 最近では、区市町村の健康診断などで行われた「もの忘れチェック」の結果から来院につながる方もいます。運転免許証の更新をきっかけにされる方も増えてきています。テレビインターネット雑誌の情報「認知症自己チェックシート」などの結果をお持ちになる方もいらっしゃいます。

 一方、主治医から受診をすすめられて来院される方、地域包括支援センターやケアマネージャーからの紹介もあります。お一人で来られる方、ご家族とご一緒に来られる方とさまざまです。

 実際は、受動的に来院されるケース(ご本人にはもの忘れの自覚がない、または自覚はあるが受診に消極的でご家族が連れてきたというケース)が5割強を占めています。

 このように、きっかけはさまざまで、全く問題がない方から高度の認知症の方までいらっしゃいます。当院での認知症の患者様は、年代的には70歳代の方が多いです。


認知症の診断はどのようなステップで行うのでしょうか。

 初診では、問診票をもとに詳しくお話を伺うことに重点をおいています。「いつからどのような症状が出ているのか」「何に困っているのか」だけではなく、認知症はこれまで“獲得“してきた能力を失っていく脳の病気なので、その方が歩んでこられた人生や家族の歴史、どのような能力を“獲得”してきたのかを丁寧にお聴きしています。ご自身や血縁者がかかったことのある病気も重要な情報なので、詳しくお聴きします。

 また、もの忘れをしている本人の発言だけでは真実がわからないこともあるので、ご家族や第三者からの情報・状況確認も非常に重要と考えています。本人の認識と周囲の認識とのギャップ部分を丁寧に確認していきます。

 そして、認知機能検査も行い、数値で客観的評価もします。当院では主に、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、MMSE(ミニ・メンタルステート試験)を行っていますが、MCI(軽度認知障害)を疑われる方にはより複雑な検査を、認知機能低下が明らかな方にはより簡易な検査を適宜選択しています。患者様の状態に応じて、必ずしも初診では検査せず、関係性を構築してから、もしくは特定の症状が落ち着いてから検査を行うこともあります。認知機能検査は、結果の点数だけでなく、問題に取り組む姿勢やミスへの弁明の様子、ミスの特徴などが診断にとって重要な情報となります。

 問診や認知機能検査の結果から認知症が疑われる場合は、MRI(磁気共鳴画像診断装置)、CT(コンピュータ断層撮影装置)、SPECT(脳血流シンチグラフィ)などの画像検査で脳の状態を調べます。画像検査を併用することで、脳梗塞や脳腫瘍、正常圧水頭症などの有無をチェックするとともに、脳の萎縮状態からアルツハイマー型脳血管性レビー小体型前頭側頭葉変性症など認知症のタイプと症状の進行具合を判別していきます。

 診察室に入ってきた時の歩き方や顔つき、姿勢、整容状態なども診断に有用な情報になります。


診察室に入ったところから診察が始まっているのですね。

 実は、問診票の記入の仕方が診断の一助になることもあります。
 例えば、

● 問診票を自分では全く書けない● 質問への回答を忘れる● 回答がまとまらない● 文字が震えている● 文字の大きさにバラつきがある● 几帳面なほど細かく記入する

 など記入の仕方を一つとっても性格や病気の兆候がわかる場合もあります。うつ病や発達障害、パーキンソン病など他の病気の可能性を示唆していることもあるからです。

 さらに、待合室や受付・会計のご様子、問い合わせや予約の電話内容も診断をつける際の重要な情報となります。

 例えば、

● 待合室でじっとしていられない	● 家族と衝突している● 診察券が見つからない	● 支払いがスムーズにできない● 忘れ物をして行ってしまう● 同じことの確認を何度も行う

 などです。

 認知症を疑うような症状の病気や状態は100種類以上もあるので、診察中は、脳をフル活動させて可能性を振るい落としていく“除外診断”をしています。特に、治療可能な認知症といわれている病気が原因となっていないかには注意を配っています。それとともに、確定的な診断に近づけるために、認知症のタイプごとに特徴的な症状エピソード集めをしています。

 このように、認知症は症状や検査、あらゆる情報の結果から総合的に判断して診断に至ります。


「認知症ではない」と診断される場合もありますか。

 そうですね。自発的にもの忘れを心配して受診された方の多くは、認知症ではない場合が多いです。加齢によるもの忘れを心配し過ぎているだけや、MCI(軽度認知障害)もあります。認知症にかかりやすいとされる年齢ではない若い方(20~50歳代)では、主訴が「もの忘れ」でもうつ状態や不安障害、発達障害などである場合が多いです。

 MCI(軽度認知障害)は、日常生活や社会生活に支障はなく、認知症の診断には至らないけれど、もの忘れの症状が多く、認知機能が低下しているいわば“認知症の予備軍”です。患者様にもよりますが、薬を服用することが進行抑制や心身の安定につながると判断した場合は、予防をかねて薬を処方することもあります。

 患者様にもよく聞かれますが、「加齢によるもの忘れ」「認知症」との大きな違いは、日常生活に支障があるかどうかという点ですが、初期の認知症はもの忘れとの判別が非常に難しいので、不安を感じたら早めの受診をおすすめします。

※認知症サポート養成講座標準教材「認知症を学び地域で支えよう」全国キャラバン・メイト連絡協議会(2015 年 8 月)

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話し手 さちはなクリニック 副院長  岡 瑞紀

さちはなクリニック

さちはなクリニック 副院長  岡 瑞紀

琉球大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神神経科学教室にて研修。国家公務員共済組合連合会立川病院、桜ケ丘記念病院勤務後、慶應義塾大学病院メモリークリニック外来、一般内科医院での認知症診療、各種老人入居施設への訪問診療、保健所の専門医相談、地域研究、家族会など各種講演会での啓発活動を通して、様々なステージや状況下の認知症診療を経験。慶應義塾大学大学院医学研究科にて学位取得。2015年より、さちはなクリニック副院長として、もの忘れ、認知症の診療を担当。

免許・資格:医師/精神保健指定医/精神科専門医/日本老年精神医学会認定専門医/医学博士
所属学会:日本精神神経学会/日本老年精神医学会