アルツハイマー型認知症とは?原因・症状・治療方法


アルツハイマー型認知症の特徴や原因について、詳しく知りたい方も多いのではないでしょうか。

アルツハイマー型認知症とは、徐々に脳が萎縮していき、記憶障害や判断力の低下を招く病気のことで、生活習慣や頭部外傷の有無などが発症にかかわるとされています。

今回は、アルツハイマー型認知症の特徴を紹介したうえで、発症リスクを高める原因、段階別の症状、検査を受ける流れなどを解説するので、ぜひ参考にしてください。

アルツハイマー型認知症とは「徐々に脳が萎縮する病気」

まずは、アルツハイマー型認知症のおもな特徴・症状や、その他認知症との違いについて解説します。

おもな特徴・症状

アルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質が脳に蓄積して神経細胞を壊し、脳の一部が萎縮することでさまざまな症状を引き起こす病気とされています。徐々に進行することが特徴で、記憶障害や実行機能障害、判断能力の低下といった症状がみられるようになります。

アルツハイマー型認知症には、根本的な治療法はまだありませんが、薬などで進行を遅らせることは可能です。

また認知症の前段階には、MCI(軽度認知障害)と呼ばれる症状があります。MCIの段階で早期発見して治療をスタートすれば、発症リスクを低減できるとされています。

その他認知症との違い

アルツハイマー型認知症の患者数は、日本の認知症患者数の約7割を占めていますが、認知症には脳血管性認知症やレビー小体型認知症などの種類もあります。

アルツハイマー型認知症とその他の認知症との違いは、下表のとおりです。
病名 アルツハイマー型認知症との違い
脳血管性認知症 脳出血や脳梗塞などにより脳の神経細胞が損傷し発症する
階段状に進行し、物忘れの自覚があることが多い
レビー小体型認知症 おもな症状は幻視・パーキンソン症状・睡眠時の異常行動など
症状の日内変動がある
前頭側頭型認知症 おもな症状は人格変化や社会機能の障害、常同行為、脱抑制など
進行が速いといわれている

もの忘れとの違い

もの忘れは、年齢を重ねたことで脳の老化がもたらす記憶障害を指します。出来事の一部を忘れ、ヒントがあれば思い出せるケースがあることが特徴です。

一方のアルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞の変性などが原因で、記憶障害が引き起こされます。出来事自体を忘れ、ヒントがあっても思い出せない点が、もの忘れと異なります。時間の経過とともに症状が進行し、日常生活にも支障をきたすようになるため注意が必要です。

アルツハイマー型認知症のリスクを高める6つの原因

次に、アルツハイマー型認知症のリスクを高めるとされている、6つの原因を紹介します。

年齢

アルツハイマー型認知症と診断された方の多くは、65歳以上とされています。一方で、数は少ないものの、若年性発症型アルツハイマー病と診断される65歳未満の方もいます。

遺伝

まれに、「家族性アルツハイマー病」と呼ばれる遺伝型のアルツハイマー型認知症を発症することもあります。家族性アルツハイマー病は、家族や親戚がアルツハイマー型認知症を多く発症していること、40~50代で発症しているケースが多いことが特徴です。ただし、65歳以上の方が家族性アルツハイマー病を発症するケースもあります。

生活習慣

食事や運動をはじめとした生活習慣も、アルツハイマー型認知症の発症リスクに関係するとされています。
生活習慣 特徴
食事 乱れた食生活は発症リスクを高めるとされる。
運動 運動習慣などのある人は、発症リスクが低いとされる。
喫煙 喫煙による酸化ストレスが、神経変性の進行に悪影響を与える可能性がある。
アルコール アルコール摂取によるビタミンB1欠乏が、ウェルニッケ脳症を発症させて神経細胞障害を引き起こし、認知症リスクを高めるおそれがある。
上表を参考に、日頃の生活習慣を見直してみるとよいでしょう。

教育期間

学校教育を受けた期間が短いと、アルツハイマー型認知症のリスクが増すといわれています。反対に、知的活動を行なうことで脳のニューロン間の接続が増え、認知症による脳の変化が生じたとしても、代替経路の利用で対応しやすくなるとされています。

ちなみにニューロンとは、脳を構成している最小単位の脳細胞のことです。

心血管疾患

心臓や心血管にかかわる疾患を発症していると、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高まるとされています。該当する代表的な疾患としては、高血圧や脳卒中、糖尿病などが挙げられます。

頭部外傷

頭部の強打やケガにより、意識消失などの外傷性脳障害を経験している場合、認知症の発症リスクが増すといわれています。例えば、自動車事故による外傷性脳障害が挙げられるでしょう。また、特定のスポーツ選手などは脳外傷をたびたび受けているケースがあるので、注意が必要です。

【段階別】アルツハイマー型認知症の症状とは

続いて、アルツハイマー型認知症の症状を段階別に紹介します。

発症前の症状

発症前の症状として、もの忘れや抑うつ状態、睡眠障害などがみられます。前述のMCIを指し、アルツハイマー型認知症を本格的に発症する、10年ほど前から兆候が出るケースもあります。

初期症状

発症から1~3年前後の期間には、以下のような初期症状がみられます。
症状 特徴
もの忘れ 最近起きた出来事を忘れたり、約束を忘れたりする
見当識障害(時間) 日時や季節などがわからなくなる
実行機能障害 物事を計画的に進めづらくなる
物盗られ妄想 財布など自分のものを誰かに盗られたと思い込んでしまう
初期症状の段階では、家族や周囲のケアによって自立した生活は送れるでしょう。

中期症状

発症から5~9年前後の期間には、以下のような症状がみられます。
症状 特徴
遠隔記憶障害 数年から数十年前の出来事を忘れる
見当識障害(人・場所) 見知っているはずの人や場所がわからなくなる
失認 ものや人などの対象を認識できなくなる
失行 着替え、入浴など簡単な行為ができなくなる
失語 ものの名前を思い出せなくなる
言語障害 相手の話を理解できなかったり、自身の考えを上手に伝えられなかったりする
徘徊 外を歩き回る
中期症状の段階を迎えると、基本的な行為や日常会話が難しくなるため、第三者のサポートが必要です。

後期症状

発症から10年以上経過すると、以下のような症状がみられます。
症状 特徴
見当識障害(人) 同居する家族や、関係性の深い人が誰かわからなくなる
身体機能の低下 パーキンソン症状があらわれたり、歩行が困難になったりする
失禁 1人ではトイレに行けず、尿や便を漏らす
弄便(ろうべん) 排せつ物を触ったり、壁に擦りつけたりする
異食 食べ物以外のものを口に入れてしまう
後期症状がみられるころには、日常生活全般での支援が必要な状態にあります。家族や周囲の介護負担を抑えるために、介護サービスの活用や施設への入居などを検討したほうがよいでしょう。

アルツハイマー型認知症の検査を受ける流れ

ここからは、アルツハイマー型認知症についての検査を受ける流れを紹介します。

1.問診

認知症の検査を受けるにあたり、まずはかかりつけ医に相談して専門医を紹介してもらいます。かかりつけ医がいない方は、自治体の相談窓口や地域包括支援センター、保健センターなどに問い合わせてみましょう。

診断は、神経科や神経内科、脳神経外科などがある医療機関で行なわれます。そして、専門医による問診では、本人と家族に対して以下のような質問がされるでしょう。

・異変に気付いたのはいつ頃か
・どのような症状が出ているか
・家族構成や生活環境で変わった点はあるか
・日常生活で困っているのはどの点か
・病歴や服用中の薬はあるか

上記のような質問をされるため、普段からメモにまとめておくことをおすすめします。

2.診察

診察で認知症が疑われる方の健康状態を調べ、現時点での症状の要因がアルツハイマー型認知症か、それ他のものなのかを切り分けていきます。診察の内容として、おもに挙げられるのは以下です。

・血圧測定
・聴診
・聴力
・発語
・歩行状態
・精神状態 など

診察結果によって治療方針が変わる可能性もあるため、重要なステップといえるでしょう。

3.検査

認知症の診断を進めるために、以下のような検査を行ないます。
検査 内容
神経心理検査 図形を描いたり、質問に答えたりして認知機能をチェックする
画像検査 脳梗塞の有無、脳の萎縮の状態を確認するため、頭部MRIや頭部CTなどの検査を行なう
その他検査 血液検査や心電図検査を必要に応じて行なう
問診や検査結果をもとに、その時点での診断結果が医師から伝えられます。認知症だと考えられる場合は、治療やケアの方向性についてしっかりと話し合い、家族や周囲の方がサポートしてあげましょう。

アルツハイマー型認知症の治療方法

アルツハイマー型認知症は、まだ根本的な治療方法が確立されていないとされています。そのため、この認知症に対する治療は、症状の進行をなるべく遅らせて、発症した方が少しでも長く穏やかに暮らすことが目的です。

治療方法は、薬物治療と非薬物治療の2つに大別されるので、以下の項目ではそれぞれの特徴を解説します。

薬物療法

薬物治療は、大きく2つのタイプに分かれます。

1.認知機能を増強して、記憶障害や見当識障害などの中核症状の改善を図る治療
2.徘徊・抑うつ・妄想などの行動・心理症状(BPSD)を抑える治療

中核症状の改善を図る治療では、神経伝達物質の働きをサポートする「コリンエステラーゼ阻害薬」や、グルタミン酸の受容体に作用することで神経細胞の興奮を抑制する「受容体拮抗薬」が用いられます。

また、行動・心理症状を抑える治療では、抗精神病薬や抗うつ薬、漢方薬、睡眠薬などが用いられます。薬の効果や副作用をチェックしながら、症状に応じて処方されるでしょう。

非薬物療法

非薬物治療は、認知症の方の自発性を引き出し、脳を活性化させて認知機能などを高めるのが目的です。おもな治療法は、以下のとおりです。
治療法 特徴
運動療法 有酸素運動や平衡感覚訓練、筋力強化訓練などに取り組む
認知リハビリテーション 個別の目標設定を定めたうえで、音読や計算問題、書き取りなどに取り組む
音楽療法 クラシック音楽鑑賞や歌謡曲の歌唱、楽器の演奏などに取り組む
回想法 テーマを決めたうえで過去の話を他者へ話して、認知機能の向上を図る
また、日常生活では料理をしたり洗濯物を畳んでもらったりと、本人に役割を持たせることが大切です。

家族がアルツハイマー型認知症になった際の注意点

ここでは、家族がアルツハイマー型認知症になったときの注意点を2つ紹介します。

接し方に気を配る

家族がアルツハイマー型認知症になった際には、以下のことに気を配りましょう。

・何か忘れても責めない
・服薬管理をする
・メモやカレンダーを活用してサポートする

また、ガスコンロをIHコンロに切り替えるなど、事故の発生を防ぐために生活環境の整備も進めることも大切です。

要介護認定を受ける

要介護認定を受けることで、本人への介護サービスの必要度が判断されます。要支援1・2、要介護1~5の段階に分かれており、要介護認定の区分によって、利用できる介護サービスや自己負担額などが変わるのが特徴です。

要介護認定を受ける際は、市区町村の窓口へ申請します。調査員の訪問調査や主治医による意見書作成などを経て、介護認定審査会による最終判定が行なわれます。

なお、認知症の方の見守りや家事支援・代行などのサービスは場合によっては公的介護保険適用外のため、自己負担が必要となることがあります。介護にかかる費用負担を軽減するために、民間介護保険に入っておくという手もあります。民間介護保険では、受給要件に当てはまると現金で給付されるため、使い道を限定されず柔軟にやりくりできる利点があります。

アルツハイマー型認知症の方の気持ちに寄り添った介護が大切


脳が徐々に萎縮するアルツハイマー型認知症には、根本的な治療法はまだありませんが、薬物療法や非薬物治療を取り入れて進行を遅らせることは可能とされています。

ただし、認知症患者の症状は段階的に重くなります。特に中期症状以降は、介護負担を抑えるために介護サービスの利用などを検討しなければならないでしょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年10月2日

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