認知症の家族のお金の管理方法はどうすべき?
よくあるトラブルや注意点


認知症が身近な問題となるなかで、「自分や家族が認知症になったり症状が悪化したりした場合、お金の管理はどうすれば良いの?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。

認知症にまつわるお金のトラブルは多いため、お金の管理に関して早い段階で話し合っておくことが大切です。認知症の家族のお金の管理方法には、成年後見制度や日常生活自立支援事業、家族信託(民事信託)などがあります。

この記事では、認知症にまつわるお金のトラブル例を紹介するとともに、認知症の家族の具体的なお金の管理方法などについて解説するので、ぜひ参考にしてください。

認知症にまつわるお金のトラブル4選

初めに、認知症になるとどのようなお金のトラブルが生じるのか、代表的な4つの例を紹介します。

お金の管理ができなくなる

認知症になると判断能力が低下するため、お金を計画的に使えなくなります。「これを購入したい」という欲求をコントロールできず、散財したり、何度も同じものを購入したりすることもあるでしょう。

また、キャッシュカードや通帳、印鑑といった、お金に関する貴重品を紛失する可能性が高くなります。

お金を盗まれたと思い込む

認知症になると、思考力が低下するのに加え、不安な気持ちが増す傾向にあるとされています。その結果、「誰かが自分のお金を盗んでいるのではないか」と思い込んでしまう場合があります。これが、いわゆる「物盗られ妄想」です。

物盗られ妄想では、家族をはじめ、認知症になった本人とかかわる機会が多い方が「盗んだ」と疑われやすいでしょう。

特殊詐欺や悪徳商法に巻き込まれる

高齢者を狙った特殊詐欺・悪徳商法は増えています。具体的な犯罪の例は、以下のとおりです。
【特殊詐欺・悪徳商法の例】

オレオレ詐欺

家族や警察官などを装い、お金をだまし取る手法

架空料金請求詐欺

未払いの料金があるなどと脅し、お金をだまし取る手法

還付金詐欺

支払ったお金が戻ってくるなどと伝え、ATMを操作させてお金をだまし取る手法

送り付け商法

一方的に商品を送り付け、支払いを請求する手法

点検商法・危険商法

無料で自宅を点検するなどと訪れ、虚偽の点検結果で不安を煽って工事契約させる手法

かたり商法

公的機関や有名企業の職員・関係者などを装い、商品やサービスを契約させる手法

これらの犯罪は、健常者でも騙されるほど巧妙な手口の場合もあるため、認知症の方が自分で被害を防ぐのは容易ではありません。

口座を凍結される

認知症になると、金融機関の口座が凍結されます。大きく分けて、家族からの告知で凍結されるケースと、認知症になった本人の状態を見た金融機関側の判断で凍結されるケースがあります。口座の凍結は、特殊詐欺や悪徳商法に巻き込まれないようにするうえでも大切な措置です。

一方で、口座を凍結されてしまうと、口座にお金があっても引き出すのが難しくなります。口座のお金を医療費や介護費の支払いに充てられないため、家族が立て替えることを余儀なくされるケースもあるでしょう。

認知症に備えてお金の管理方法を決めておくことが大切

前章の内容を踏まえると、認知症が発症・進行する前に、将来誰がどのようにお金を管理するのかを家族で話し合っておくことが大切です。

例えば、キャッシュカード・通帳・印鑑の保管場所や暗証番号を家族も把握しておけば、紛失・失念しにくくなるうえ、お金の管理がしやすくなります。また、資産を洗い出して記録しておき、怪しい動きがないかどうか家族が定期的にチェックするのも有効でしょう。

自分が認知症になることへの備えとしては、家族のために「エンディングノート」を作成し、お金の管理方法を明記しておく方法があります。エンディングノートは遺言書と異なり法的な強制力がありませんが、その分お金の管理方法に関する希望を比較的自由に記載できるのが特徴です。

認知症の家族のお金の管理方法(1)成年後見制度

ここから、認知症の家族のお金の管理方法を4つの章に分けて見ていきましょう。まずは、成年後見制度についてです。

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した人を保護・支援するための制度で、選任された後見人等が、本人に代わって財産の管理・処分をします。

成年後見制度には、以下のように「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。
 

法定後見制度

本人の判断能力が「不十分になったあと」に、家庭裁判所が成年後見人等を選任する

任意後見制度

本人の判断能力が「十分あるうち」に、本人が将来に備えて任意後見人を選任する

法定後見制度の3つの区分

本人の判断能力のレベルによって、法定後見制度には「後見」「保佐」「補助」の3つの区分があります。

●後見:本人の判断能力がまったくない場合
●保佐:本人の判断能力が著しく不十分である場合
●補助:本人の判断能力が不十分である場合

当てはまる区分によって、後見人等に付与される権限の範囲が異なります。

成年後見制度の利用時の注意点

成年後見制度を利用する場合、財産の管理・処分の権限は後見人等に属するため、本人や家族の意向が反映されにくい可能性があります。申立人が希望した人が後見人等に選ばれるとは限らないうえ、後見人等が一度選任されたあとは、家族の意向で後見人等を交代・除外することはできません。

また、財産を使い込むといった不正を防止するため、後見人等はどのような職務をこなしたか毎年家庭裁判所に報告する必要があります。

成年後見制度の利用に際して、本人の判断能力を医学的に鑑定する場合は、10~20万円程度の鑑定費用を申立人が支払う必要がある点にも注意しましょう。

認知症の家族のお金の管理方法(2)日常生活自立支援事業

日常生活自立支援事業とは、認知症などで判断能力が低下した人が自立した生活を送れるよう、社会福祉協議会の専門員・生活支援員が幅広いサポートをする制度です。

具体的には、介護保険制度等に基づく福祉サービスの利用援助や、日常生活上の消費や、サービスを利用するための契約に関する援助、銀行印や通帳などの重要書類の管理サポートなどを行ないます。また、お金の管理状況や生活環境の変化を見守るため、定期的な訪問も実施されるのが特徴です。

日常生活自立支援事業を利用する際は、各地域の社会福祉協議会が定める利用料を支払う必要があり、訪問1回当たりの利用料は平均1,200円となっています。

認知症の家族のお金の管理方法(3)家族信託(民事信託)

家族信託(民事信託)とは、将来自分の財産を管理できなくなったときに備えて、家族に財産の管理・処分を任せる方法です。家族間で信託契約を結び、第三者に任せることなく柔軟にお金を管理できます。

家族信託(民事信託)では、以下の3者が関係します。

●委託者:財産の本来の所有者
●受託者:財産の管理・処分を任される人
●受益者:財産から生じる利益を得る人

「認知症になった親のために子どもが財産を管理・処分するが、その利益は親が得る」など、委託者と受益者は同じ人になるケースが多いようです。ただし、誰が受託者になるかは、家族間で揉める可能性もあります。

また、契約締結にあたり弁護士や司法書士に手続きを依頼する場合は、数万円~数十万円の費用も見込んでおきましょう。

認知症の家族のお金の管理方法(4)資産承継信託

認知症の家族のお金の管理をするうえでは、金融機関が提供するサービスの「資産承継信託」を活用する方法もあります。

資産承継信託を利用すると、預け入れたお金について、事前に設定した条件のもとで特定の人が引き出せるようにしておくことができます。本人がお金を引き出せなくなっても、特定の人(家族など)が引き出せるようにしておけば、医療費や介護費に充てられるでしょう。

ただし、細かいサービス内容や利用条件は金融機関によって異なるため、あらかじめ確認が必要です。

認知症の家族のお金の管理における注意点

最後に、認知症の家族のお金を管理するうえで、気を付けるべきポイントを紹介します。

認知症になり、家族から見てお金の管理がうまくできなくなっていても、本人がそう思っているとは限りません。お金を管理する権利を無理やり奪ってしまうと、自尊心を傷付けることになります。また、強いストレスや不安を感じ、認知症の症状が悪化する可能性もあるでしょう。

そのため、基本的なお金の管理は家族がしつつ、少額を入れた財布を本人に持たせるなどの気遣いが大切です。家族が直接的にお金を管理するのが難しい場合は、認知症の家族が買い物に行く際やお金を引き出す際に同行するのもよいでしょう。

本人の気持ちにも配慮しながらうまくお金を管理しよう


認知症になると、お金の管理が困難になるほか、お金を盗まれたと思い込み家族とトラブルになったり、特殊詐欺・悪徳商法といった犯罪に巻き込まれたりする場合があります。

そのため、認知症の発症・進行に備えて、お金の管理方法を考えておくことが大切です。今回は、認知症の家族のお金の管理方法として、以下の4つを紹介しました。

(1) 成年後見制度
(2) 日常生活自立支援事業
(3) 家族信託(民事信託)
(4) 資産承継信託

それぞれ特徴が異なるため、自分たちに合う制度・サービスの利用を検討してみてください。ただし、これらの制度・サービスを利用するときでも、認知症になった本人の気持ちに配慮することを忘れないようにしましょう。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

赤上 直紀

元銀行員。住宅ローンを通じて、多くのお客様のライフプランニングに携わる。住宅ローンは人生で一番の買い物と言われているため、慎重に契約すべきだと考える。現在は、編集者として金融機関を中心に、ウェブコンテンツの編集・執筆業務を行う。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士

公開日:2023年11月28日

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