このように、相続人や被相続人が認知症であることで、相続手続きに問題が起こるケースが増えています。
ここでは、認知症の発症リスクに備え、事前にできる対策を具体的に紹介します。いずれも、意思能力がはっきりとしているうちに行なわないと無効になる可能性があるため、早めに検討しましょう。
相続人、被相続人のどちらが認知症になった場合でも、遺言書を正しく作成しておけば、相続手続きを円滑に進めるための重要な備えとなります。有効な遺言書があれば、遺産分割協議ができなくても、不動産や預貯金の相続手続きができる場合があります。
ここでポイントとなるのが、法的効力が高い遺言書を残すことです。遺言書は、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類に分けられます。
「公正証書遺言」は、遺言者が公証役場で証人の立ち会いのもと作成し、公証役場で保管されます。遺言書の不備が起こりにくく、作成時に被相続人に遺言能力があったことも証明しやすいなどのメリットがあります。
【遺言書の種類】
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自筆証書遺言
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公正証書遺言
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秘密証書遺言
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作成方法
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遺言者が作成
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遺言者が口述した遺言内容を公証人が記述
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遺言者が作成
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証人
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不要
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2人以上
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2人以上
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保管場所
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遺言者が保管
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公証役場で保管
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遺言者が保管
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メリット
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費用がかからず、一人で作成できる
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無効になりにくい
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遺言内容を知られるリスクが低い
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デメリット
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不備により無効になる可能性がある
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作成時に費用がかかる
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不備により無効になる可能性がある
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被相続人となる予定の方が認知症を発症する前であれば、生前贈与が可能です。
贈与税には控除枠が設けられており、その範囲内で不動産や預貯金の財産を贈与することで、相続税の節税対策になります。贈与の場合、毎年110万円までが非課税です。110万円を超える場合は、相続時精算課税または暦年課税のいずれかの方法を選択します。
仮に、法定相続人となる予定の方に認知症の方がいた場合でも、生前贈与を活用することで、ほかの相続人に事前に財産を移転しておくことが可能です。
家族信託とは、財産を有する方が、信頼できる方に自分の財産の管理や処分をする権限を託す契約制度です。家族信託を活用すれば、事前に財産を誰に相続するかを決めておくこともできます。
例えば、親子で信託契約を結べば、親が認知症で判断能力を失った場合でも、子どもが信託財産の管理や処分が可能になります。仮に、父が亡くなり、認知症の母と子どもが相続人となった場合、父子で信託契約を結んでおくことで、積極的な財産運用も可能でしょう。
家族信託は、任意後見制度との併用も可能です。家族の状況や資産に応じて、専門家に相談しながら内容を検討することをおすすめします。