相続人に認知症の方がいる場合どうしたらよい?
対策や注意点


相続が発生した際、相続人のなかに認知症の方がいたらどのように手続きを進めればよいか分からず不安を感じる方もいるでしょう。

相続人に認知症の方がいて、意思能力が不十分と判断される場合、相続の手続きを進められず、さまざまな問題が生じることがあります。対応を誤ると手続きが無効になるおそれがあるため、注意が必要です。

本記事では、相続人が認知症である場合に起きる5つの問題やその解決法、認知症になる前にできる対策を解説します。ぜひ参考にしてください。

相続の基本知識を確認

 
まずは、認知症と相続の問題に入る前に相続の基本について確認しましょう。

民法では法定相続人と法定相続分が決められている

法定相続人とは、被相続人の財産を相続する権利のある人のことです。また、法定相続分とは、法定相続人が相続する割合のことをいいます。

民法上の法定相続人になる人は、被相続人の配偶者や被相続人の血族です。法定相続分は、被相続人との続柄によって異なります。

例えば、被相続人に配偶者と子ども2人がいた場合、法定相続人は3人です。配偶者に1/2、子どもにはそれぞれ1/4ずつが法定相続分として定められています。

この割合はあくまでも目安であり、必ずしも法定相続分のとおりに遺産を分ける義務はありません。仮に被相続人が遺言書を残していた場合は、基本的に遺言書の内容が優先されます。とはいえ、遺言書がない場合は、法定相続分を相続の目安にするのが一般的です。

実際の相続では遺産分割協議が必要となるケースが多い

相続の際は「誰が・何を・どのように相続するか」を決めなければ手続きを進められない場合が少なくありません。

具体的な財産の分け方について、相続人が全員で決める話し合いを「遺産分割協議」といいます。

協議の進め方は、法律上で特に決められていません。相続人が集まって話し合うだけでなく、電話や電子メールなどを用いた協議も可能です。

遺産分割協議を経て最終的に合意した内容は、「遺産分割協議書」として文書にまとめます。これは相続のさまざまな場面で必要とされる書類です。

なかには「民法で定められた法定相続分で分けるため、話し合いは不要」だと考える方もいるでしょう。

しかし、実際の相続において、遺産は預貯金のようにきれいに分割できるものばかりではありません。土地や家屋など分割しにくいものが含まれることもあり、そのような場面で遺産分割協議が必要となります。

また、預貯金の引き出しや土地の名義変更などの相続手続きを行う際に、遺産分割協議書が必要になるケースも多く見られるため、作成しておくと後の手続きがしやすくなるでしょう。

相続人のなかに認知症の方がいると遺産分割協議ができない可能性がある

遺産分割協議を成立させるには、法定相続人全員の合意が必要です。相続人に認知症の方がいる場合でも、存命である以上、協議から除外することはできません。

もっとも、認知症だからといってただちに遺産分割協議に支障が出るとは限らず、具体的な症状や進行の程度により判断能力があると認められれば、適切に協議を進められます。

一方、認知症により判断能力が十分でないと認められる場合には「有効な法律行為ができない」とみなされ、遺産分割協議を進められなくなるおそれがあります。例えば、軽度認知障害(MCI)の段階でも、記憶力や判断力の低下が見られる場合、相続手続きに影響する可能性はあるでしょう。

このように、認知症の有無や程度によって相続手続きへの影響は大きく異なります。今後はMCIや認知症の方の増加も予想され、2030年には約1,116万人、65歳以上の約3人に1人となる見通しです。そのため、遺産相続について早い段階から準備しておくことが重要となります。
 

内閣府「令和7年版高齢社会白書」より当社推計

認知症で遺産分割協議ができないときに起こる5つの問題

では、相続人に認知症の方がいて遺産分割協議ができないと、どのような問題が起こるのでしょうか。

法定相続分で決まった割合で相続するしかない

相続人の一人が認知症の場合でも、相続自体は可能です。しかし、遺産分割協議が成立しないと、法定相続分の割合で相続することになり、たとえ近しい間柄であっても、柔軟な遺産分割ができなくなります。

本来であれば、話し合いで相続割合を決め、配偶者控除や小規模宅地等の特例など、税金の控除枠を最大限に活用すれば、相続税の負担が軽減できます。しかし、遺産分割協議ができないと、相続税の負担や控除枠を考慮した相続ができません。

貯金の払い戻しが制限される

遺産分割協議が成立しないと、被相続人の預貯金を払い戻せない可能性があります。

通常、被相続人が亡くなった旨を銀行に伝えると、相続手続きが終わるまで口座が凍結されます。原則として、相続手続きが終わるまでは、相続人が単独で預貯金を引き出すことはできません。

例外として、「遺産分割前の相続預金の払戻制度」を活用すれば、相続手続き前でも一定額までの預貯金を引き出すことは可能です。

とはいえ、被相続人との続柄に応じた払い戻しの上限額や、手続きに相続人全員の戸籍謄本や全部事項証明書が必要など、厳しい決まりが設けられています。

ちなみに、金融機関によっては、遺産分割協議書がなくても、相続人全員の印鑑証明書や戸籍謄本などの必要書類があれば、預金相続が行える場合もあります。しかし、認知症の方が意思表示できない状況では、市役所での印鑑登録ができないため、手続きは困難といえるでしょう。

土地や家屋などの相続財産が共有となってしまう

不動産を相続する場合、遺産分割協議をすることで、不動産を相続する特定の相続人を決めたり、不動産を相続しない相続人に対して代償金を支払ったりして、相続を円滑に進められます。

しかし、遺産分割協議が成立しない場合、預貯金のように分割することができない財産は、原則法定相続人全員の共有名義で相続します。

不動産を共有名義にすることは、デメリットが大きいといわれています。例えば、相続人の一人が不動産を売却したいと思っても、売却には共有者全員の同意が必要です。

建物の建設や賃借契約を結ぶ場合も同様です。共有名義人に認知症の方がいる場合、同意を得られないため、ただ不動産を所有し続けるしかない事態に陥ってしまいます。

不動産の相続登記ができない場合もある

2024年4月1日から、不動産の相続登記が義務化されました。以前は任意でしたが、現在は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。

遺産分割が成立した場合も、その成立日から3年以内に相続登記が必要です。令和6年4月1日より前に始まった相続も対象で、3年の猶予期間があります。

しかし、認知症によって遺産分割協議ができない相続人がいる場合は、相続登記の手続きを進められない場合もあります。その後の不動産の売買や処分にも支障が出るため、期限に注意し、早めに対応することが大切です。

相続放棄・限定承認ができない

相続放棄や限定承認も法的な行為であるため、有効に行おうとすると意思能力が必要です。しかし、相続人が認知症の場合、意思能力がないとみなされます。

相続において、被相続人に負債などのマイナスの財産があった場合、相続人は相続放棄をすることが可能です。

また、相続によって得た財産の限度内で、マイナスの財産を弁済することを条件として相続の承認をする、限定承認を選択することもできます。

しかし、相続人が認知症の場合は相続放棄や限定承認の意思を示せないため、マイナスの遺産を相続せざるを得なくなってしまうのです。

なお、ほかの相続人や親族が、認知症の方の代わりに相続放棄や限定承認を申し立てることは、原則としてできません。

相続人が認知症のときは成年後見制度を活用する

認知症の相続人が含まれる遺産分割協議を円滑に行うには、「成年後見制度」を活用する方法があります。

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害など意思能力が不十分だと判断される方を守るための制度です。成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。

このうち任意後見制度は、相続人に判断能力があるうちに、相続人本人が後見人を指定する仕組みです。そのため、相続人が認知症を発症する前に後見人を指定していれば活用が可能ですが、認知症発症後では任意後見人を指定できません。

相続人がすでに認知症を発症し、意思能力が不十分とされる場合に活用できるのは法定後見制度です。

法定後見制度には、さらに「補助」「保佐」「後見」の3種類があり、どれに当てはまるかは医師の診断書などを踏まえて家庭裁判所が判断します。それぞれの概要は以下のとおりです。
  • 「補助」
    1人で何でもできるが、自身で法律行為をすることに不安がともなう人に対して選任する。本人の同意が必要。与えられる権利は本人の状況に応じて決まる。

  • 「保佐」
    日常生活を1人で送れるが、重要な法律行為をすることに不安をともなう人に対して選任する。選任された保佐人にはおもに同意権、取消権が与えられる。

  • 「後見」
    ものごとの判断力がなく、1人で日常生活を送ることが難しい人に対して選任する。選任された成年後見人にはおもに代理権、取消権が与えられる。

    家庭裁判所によって選定された成年後見人等は、意思能力や判断能力が不十分とされる本人に代わって遺産分割協議に合意したり、相続財産を管理したりします。

【成年後見制度】
種類 内容 後見人の決定
法定後見制度
(補助・保佐・後見)
本人や親族が家庭裁判所に申立てを行い、補助人・保佐人・成年後見人が選任される。認知症を発症したあとでも申立てが可能。 家庭裁判所
任意後見制度 本人に判断能力があるとされるうちに任意後見人を選出する。本人があらかじめ「任意後見契約」を締結しておく必要がある。 本人

法定後見制度を活用する際の注意点

 
法定後見制度は、判断能力が不十分な方を支援する制度です。一見便利な制度ですが、利用を検討する前に知っておきたい注意点があります。

手間と費用がかかる

相続人が認知症を発症したあとでも利用できる法定後見制度は、家庭裁判所への申立てが必要です。

申立てには、申立書や住民票のほか、戸籍謄本や成年後見に関する登記事項証明書などが必要となり、書類をそろえるだけでも時間と手間がかかります。

さらに、成年後見人等が決定して制度が利用できるまで、申立てから早くて1~2カ月程度、長いと4カ月かかる場合もあります。

相続税の申告は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に行う必要があるため、期限に間に合うよう早めの手続きが必要です。

また、司法書士や弁護士などの専門職の方が成年後見人等に選出された場合、利用した方が亡くなるまで継続的に報酬を支払わなければなりません。

相続が終わったとしても利用をやめることはできず、成年後見人等を変更することも簡単ではありません。相続人が亡くなるまでにかかる費用を考慮して、活用を検討する必要があるでしょう。

親族が成年後見人等になるのは難しい

司法書士や弁護士などの専門職の方に支払う月々の報酬を考えると、親族を成年後見人等として選任したいと考える方もいるでしょう。法定後見制度では、申立時に候補者の希望は出せますが、最終的な成年後見人等の選任は家庭裁判所が行います。

法定後見制度は、本人の財産と生活を守ることを第一に考えて作られた制度です。そのため、認知症である相続人の財産が高額な場合や、相続に関して親族間で意見が対立している場合は、司法書士や弁護士などの専門職が選出されるケースも珍しくありません。

仮に親族が選出されたとしても、親族自身が相続人となる遺産分割協議では、成年後見人等である親族と、認知症の方が利益相反関係になってしまいます。ここでいう利益相反とは、相続の当事者が複数いる場合に、一方には利益となり、もう一方には不利益となる状態を指します。

その場合、遺産分割協議では、成年後見人に代わって後見監督人が認知症の方の代理をします。また、後見監督人がいない場合は、家庭裁判所にて特別代理人を選任します。

柔軟な遺産分割協議ができるわけではない

成年後見人等を立てたとしても、自由に遺産分割協議ができるわけではありません。成年後見人等は、本人の財産を守るため、法定相続分の割合を重視します。そのため、節税効果を意識した遺産分割協議は、原則として認められません。

また、相続した土地の積極的な活用や売却も、本人の利益に反する可能性があるため、容易ではないでしょう。

被相続人が認知症の場合にも注意が必要

ここまで、相続人が認知症を患っているケースについて解説してきましたが、被相続人が認知症だった場合にも、以下のような問題が起こる可能性があります。

生前の相続税対策が難しくなる

被相続人が認知症と診断されたあとに、生前贈与や不動産の売却を行った場合、「正常な判断がされていなかった」とみなされ、無効になる可能性があります。預貯金の解約や引き出し、生命保険への加入なども同様です。

例えば、親がすでに認知症を患っている場合、子どもが何かしらの相続税対策をしたいと考えても、「親には判断能力がない」とみなされるため、無効な行為とされてしまいます。

遺言書が無効になるケースがある

被相続人が遺言書を残していた場合でも、その遺言書の作成された時期によっては、無効になる可能性があります。

被相続人が認知症だと診断される前に書いた遺言書だとしても、安心できません。なぜなら、遺言書の有効性は、相続人が判断できるものではないからです。遺言書の作成時に判断能力があったかどうかを決めるのは、あくまでも裁判官です。

遺言書の有効性を主張するには、被相続人が遺言書を作成した時点で、判断能力があったことを裁判官に証明する必要があります。そのため、遺言書を作成する被相続人が高齢の場合、以下の2つの方法を検討してください。
  • 公証役場を利用して遺言書を作成する
  • 医師(できれば認知症専門医)に診断書を作成してもらい、遺言書を作成する意思能力があることを証明する。診断書の日付は、なるべく遺言書を作成する時期に近いほうがよい
のちのトラブルを回避するために、ぜひこのような準備をしておきましょう。

相続人や被相続人が認知症になる前にできる対策

 
このように、相続人や被相続人が認知症であることで、相続手続きに問題が起こるケースが増えています。

ここでは、認知症の発症リスクに備え、事前にできる対策を具体的に紹介します。いずれも、意思能力がはっきりとしているうちに行わないと無効になる可能性があるため、早めに検討しましょう。

有効な遺言書を作成しておく

相続人、被相続人のどちらが認知症になった場合でも、遺言書を正しく作成しておけば、相続手続きを円滑に進めるための重要な備えとなります。有効な遺言書があれば、遺産分割協議ができなくても、不動産や預貯金の相続手続きができる場合があります。

ここでポイントとなるのが、法的効力が高い遺言書を残すことです。遺言書は、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類に分けられます。

自筆証書遺言は、作成者本人が自分で氏名・日付・全文を書いて押印し、作成します。いつでも作成や修正ができ、費用はかかりませんが、遺言書として不備が起こる可能性があるため注意が必要です。

公正証書遺言は、遺言者が公証役場で証人の立ち会いのもと作成し、公証役場で保管されます。遺言書の不備が起こりにくく、作成時に被相続人に遺言能力があったことも証明しやすいなどのメリットがあります。

秘密証書遺言は、公正証書遺言と同様に公証役場で手続きを行いますが、遺言書を密封した状態で提出するため公証人も内容を確認できません。そのため、遺言書の内容を公証人が確認していないことから不備が起こる可能性もあります。

【遺言書の種類】
自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法 遺言者が作成 遺言者が口述した遺言内容を公証人が記述 遺言者が作成
証人 不要 2人以上 2人以上
保管場所 遺言者が保管 公証役場で保管 遺言者が保管
メリット 費用がかからず、一人で作成できる 無効になりにくい 遺言内容を知られるリスクが低い
デメリット 不備により無効になる可能性がある 作成時に費用がかかる 不備により無効になる可能性がある
いずれの遺言書も同列に法的効力があり、不備があった場合には無効になるリスクもあります。

3種類のなかで作成されることが多いのは、自筆証書遺言と公正証書遺言です。遺言書が複数あって、それぞれ不備がない場合は、種類に関係なく日付が新しいほうが優先されます。

生前贈与を行う

被相続人となる予定の方が認知症を発症する前であれば、生前贈与が可能です。

贈与税には控除枠が設けられており、その範囲内で不動産や預貯金の財産を贈与することで、相続税の節税対策になります。贈与の場合、毎年110万円までが非課税です。110万円を超える場合は、相続時精算課税または暦年課税のいずれかの方法を選択します。

仮に、法定相続人となる予定の方に認知症の方がいた場合でも、生前贈与を活用することで、ほかの相続人に事前に財産を移転しておくことが可能です。

認知症の場合の相続は専門家に相談することも一手

近年、相続人や被相続人が認知症であるために、相続手続きが円滑に進まないケースが増えてきました。相続をスムーズに進めるには事前の準備が必要ですが、遺言書の作成や生前贈与、成年後見制度の利用などは、個人で対応するのが難しい面もあります。

例えば、成年後見制度を利用するには、家庭裁判所に多くの書類を提出する必要があり、内容も複雑です。もし書類に不備があれば、遺産分割協議の開始が遅れることがあります。

また、相続人や被相続人が認知症であることを隠して手続きを進めてはいけません。あとになって認知症が判明した場合、手続きが無効になる可能性があります。本人に代わって署名や捺印をすると、私文書偽造の違反となる可能性があります。

認知症と相続に関しては、法律の知識が必要な場面が多いため、弁護士、司法書士、税理士、行政書士などの専門家に相談することも検討しましょう。

相続人に認知症の方がいるなら早めに相続の対策を


相続人に認知症の方がいる場合、判断能力が不十分とみなされて、遺産分割協議や不動産の売却、相続放棄などが難しくなります。その解決策として、家庭裁判所が支援者を選ぶ法定後見制度がありますが、手続きに手間や時間がかかったり、継続的な費用が発生したりするため、注意が必要です。

できるだけ本人の判断能力があるうちに、遺言の作成や生前贈与などの対策を検討してください。認知症が関係する相続は、司法書士や弁護士などに相談するのも一つの手です。専門家の力を借りて親族の負担を軽減し、スムーズに相続を進めましょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

赤上 直紀

元銀行員。若年層から高年層まで幅広い資産運用の提案を行う。メディアを通じて、より多くのお客さまに金融の知識を伝えたい気持ちが強くなり、退職を決意。現在は、編集者として金融機関を中心にウェブコンテンツの編集・執筆業務に従事している。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士

公開日:2026年4月23日

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