認知症になったら保険は解約できる?
正しい手続きと事前にできる備え


「親が認知症になった場合、加入している保険の解約や請求手続きはどうすれば良いのだろう」と不安に感じる方は少なくないでしょう。認知症を発症すると本人が手続きを行えなくなるケースが多く、家族だけで対応を進めるには難しいのが現状です。

ただし、状況によっては本人以外でも各種手続きや解約を行える場合があります。

本記事では、認知症と保険解約の関係をはじめ、解約の具体的な手続き方法や契約内容の確認ポイント、注意したいトラブル事例についてわかりやすく解説します。

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認知症になると本人による保険解約は原則不可に

 
認知症により判断能力が低下すると、本人の意思だけでは保険の解約手続きを進められなくなります。「家族が代わりに対応しよう」と思っても、正式な代理権がなければ解約は認められず、勝手に手続きを進めた場合は無効になってしまう可能性があります。

認知症になるとすぐに解約できなくなるわけではなく、軽度の認知症で意思確認が明確にできる場合は、本人の判断で手続きを進められるケースも少なくありません。そのため状況の見極めを誤ると、家族間で判断が分かれたり、保険会社との間で誤解が生じたりすることもあります。行き違いがトラブルに発展しないよう、契約内容をあらかじめ把握しておくことが大切です。

近年、認知症・軽度認知障害の患者数は増えており、2030年には65歳以上の約3人に1人の割合になると見込まれています※。こうした状況を踏まえ、早い段階から加入保険の契約内容を整理し、家族や専門機関に相談しておくと安心です。
 

65歳以上を対象として各年齢の認知症有病率が上昇する場合の数値を使用
内閣府「令和6年版高齢社会白書」より当社推計

認知症になった場合の保険の解約方法2つ

認知症が進行しても、一定の条件を満たせば保険を解約できる場合があります。ここでは、代表的な方法である「委任状を用いた手続き」と「成年後見制度の活用」について解説します。

委任状の作成

まず1つは、本人による委任状の作成により、家族をはじめとする本人以外が手続きを代行する方法です。認知症がまだ軽度であり、本人に意思能力があると認められる場合に限り、この手続きが可能となります。保険会社は本人の意思を慎重に確認のうえ判断をするため、調査が行われる可能性もあります。

「認知症が進行して意思能力が失われた」と判断された場合、委任状は無効となり、代理人による解約が認められない可能性があることに注意しましょう。

そのため、本人の判断能力があるうちに委任状を準備しておくことが、将来のトラブル防止につながります。

成年後見制度の活用

成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

まず、保険の解約手続きを後見人が行うケースとして一般的なものは「法定後見制度」です。これは、認知症や心身の不調により既に判断能力が低下した人に対して、家族等の申立てを受け、家庭裁判所が成年後見人を選任し、財産管理や契約手続きを代わりに行う仕組みです。

そのため、本人が契約内容を理解して判断する力がなくなった場合は、家庭裁判所により後見人が選出され、その後見人が本人に代わって保険の解約手続きを進めます。

一方で、「任意後見制度」は、本人に十分な判断能力があるうちに「将来判断能力が低下した際にサポートしてもらう内容」を、あらかじめ契約で決めておく仕組みで、自分で任意後見人となる方を選べます。

後見人は本人の利益を守る立場にあるため、解約によって不利益が生じないよう、家庭裁判所の監督を受けながら慎重に対応してくれます。なお、申立てから選任までには一定の時間がかかるため、早めに専門機関へ相談し、必要な書類や流れを確認しておきましょう。

認知症の本人が加入している保険を確認する2つの方法

そもそも、認知症となった本人が加入している保険の契約内容がわからなければ、解約や請求などの手続きはスムーズに進みません。そこでここでは、加入している保険を確認するおもな方法を紹介します。

保険証券を確認する

認知症の親が「どんな保険に入っているか」を把握するには、まず契約内容を確認できる書類を探すことから始めましょう。自宅や金庫などに、保険証券や保険料控除証明書が保管されているケースがあります。また、預金通帳の引き落とし履歴や保険会社から届いたハガキ・封書なども手がかりの一つです。

書類が見つからない場合は、銀行口座の振替履歴を確認し、どの保険会社と取引があったかを探る方法もあります。認知症が進行すると書類管理が難しくなるため、早めに家族で情報を共有し、所在を明確にしておくと安心でしょう。各種書類の整理を習慣化しておけば、万が一の際もスムーズに手続きを進められます。

生命保険契約照会制度を活用する

保険証券などの書類を探しても保険契約の有無を確認できない場合は、生命保険協会が運営する「生命保険契約照会制度」を利用できます。これは家族などが本人に代わって、生命保険の加入有無や契約している保険会社を一括で照会できる制度です。

なお、この制度は死亡・認知症・災害などによって本人が手続きできないケースを想定しており、照会には所定の申請書、本人確認書類、医師の診断書などの提出が求められます。また調査を受ける際は、対象となる親族1名につき3,000円の利用料金がかかる点にも留意しましょう。

どうしても手がかりが見つからず契約先がわからない場合や、複数の保険に加入している可能性があるときに役立つ手段といえるでしょう。

認知症によって起こりやすい4つの保険トラブル

 
認知症に関する保険トラブルは、解約ができなくなることだけではありません。そのほかに起こりやすい問題を4つ紹介します。

契約内容や加入先がわからない

認知症が進行すると、本人が「どの保険に加入しているか」を説明できなくなるケースが少なくありません。そして家族も保険証券や通知物の所在を把握していなければ、解約や保険金請求の手続きが滞ってしまうおそれがあります。

また複数の保険会社と契約している場合は、内容の確認が複雑になりやすい点にも注意が必要でしょう。こうした場合は、前述の「生命保険契約照会制度」を利用すると、家族が本人に代わって生命保険の加入有無や契約先の保険会社を一括で確認できます。

保険金・給付金等が受け取れない

認知症により判断能力が低下すると、医療保険や生命保険の給付金・死亡保険金を請求できず、未請求のまま時効を迎えてしまうおそれがあります。

年金のように定期的な請求が必要な契約では、手続きの継続が難しくなり、支払いが止まってしまう可能性もあるでしょう。

本人が認知症などで意思表示ができない場合に、代理人が給付金等を請求できる指定代理請求特約もありますが、付加していない場合は請求手続きが難しくなります。

こうしたトラブルを防ぐためにも、日頃から家族が契約内容を共有できる体制を整えておきましょう。併せて受取人や代理請求人を事前に設定しておくと、いざというときに手続きをスムーズに進めやすくなります。

不要な契約が発生する

判断力の低下によって契約内容を十分に理解できず、不要な保険に加入したり重複契約を結んだりしてしまうことも、気を付けたい保険トラブルの一つです。特に保険商品は専門用語や複雑な仕組みで構成されるものが多く、「意図せず契約してしまった」という例も少なくありません。

なお、認知症発症後に締結した保険契約は、意思能力の欠如を理由に取り消しの対象となる可能性があります。もし不要な契約を結んでしまっている場合は、契約日を確認のうえ解約の相談をしてみることをおすすめします。

事前にこうした金銭的なトラブルを防ぐためには「契約時には家族が同席する」「一緒に内容を確認する」といった協力体制をとることが有効です。

保険料を払い続ける

認知症になると契約の管理が難しくなり、本人が解約の手続きを行えないまま保険料の自動引き落としが続くトラブルも見られます。家族が知らないうちに長期間にわたって保険料を払い続けている事例も珍しくありません。また、保障内容が現状の生活や健康状態に合わなくなっているケースも考えられます。

こうした事態を防ぐには、口座の取引明細やクレジットカードの利用履歴を定期的に確認することが大切です。普段から自分や家族が加入している保険の内容を整理し、保険料の支払い状況を把握しておきましょう。

認知症になる前にできる3つの備え

前述のとおり、認知症を発症すると、本人だけでは保険の契約や請求などを行いにくくなります。万が一のトラブルを防ぐためにも、本人の判断能力がしっかりしている段階で、家族と一緒に準備を進めておくことが理想的です。ここでは、認知症になる前に実践できる3つの備えを解説します。

受取人や契約内容を定期的に見直す

保険は「一度加入したら終わり」ではなく、家族構成や生活状況の変化に合わせた見直しが大切です。例えば、子どもの独立や配偶者の死去などにより、受取人や保障内容が現状に合わなくなるケースは少なくないでしょう。認知症を発症すると、こうした変更手続きが本人だけでは行えなくなるため、判断能力があるうちに定期的な確認をしておく必要があります。

また、保険証券や約款などの契約書類を家族と共有しておくと安心です。内容が把握できていれば、いざというときも請求や解約手続きをスムーズに進められます。将来的なトラブルを防ぐためにも、保障内容の確認と整理を習慣化するのが望ましいでしょう。

指定代理請求特約を締結する

「指定代理請求特約」とは、契約者本人が認知症などで保険金や給付金の請求ができなくなった際に、あらかじめ指定した代理人が手続きを行えるようにする仕組みです。保険契約の際にこの特約を付けておけば、本人が判断能力を失っても、必要な手続きや支払いが滞るリスクを抑えられます。

一般的に、代理人の対象は配偶者や子どもなどの家族・親族となります。ただし、指定できる範囲や手続きの流れは保険会社によって異なり、後から特約を付加できるケースもあるため、事前に確認しましょう。認知症で手続きが難しくなったときでも、スムーズに保険金や給付金を受け取れるよう、早めの準備が大切です。

任意後見契約を締結する

任意後見契約は、将来を見据え、意思能力があるうちに自分の代わりに手続きを担う人(任意後見人)をあらかじめ定めておく制度です。契約は公正証書で締結され、本人の意思能力が低下した際に家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると効力が発生します。

任意後見人は監督人のもと、財産管理や契約手続きなどをサポートしてくれます。保険の解約や内容の変更といった手続きも代理でき、信頼できる人に将来の対応を任せられる点が大きなメリットです。認知症によるトラブルを未然に防ぐうえで役立つ備えといえるでしょう。

将来に備えて、加入している保険の整理と代理人手続きの検討を


認知症を発症すると、判断能力の低下によって保険の解約や見直しなどの手続きが難しくなる場合があります。そのため自身や家族の負担を軽減するには、契約内容や受取人を定期的に確認し、保険証券などの情報を共有しておくことが大切です。

さらに、指定代理請求特約や任意後見契約などの制度を活用すると、本人が手続きできなくなった場合でも、代理人に対応を任せられます。こうした準備を事前に行い、将来起こり得るトラブルを防ぎましょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

CFP 齋藤 彩

急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(Certified Financial Planner)

公開日:2025年12月12日

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