認知症の方の転倒予防策
転ぶ原因とケーススタディ


認知症の方の転倒予防は、難しいといわれています。

その理由としては、転倒の原因が筋力や薬剤の影響など多岐にわたることや、対策に費用がかかること、介護者の負担が大きいことなどが挙げられます。しかし、転倒による骨折などは寝たきりの原因にもなるため、心配は尽きません。

転倒の原因は一人ひとり異なることを知り、その方に合った転倒予防策を講じることが大切です。

この記事では、よくある転倒の原因やケーススタディ、すぐに効果が期待できる転倒予防法から長期的な転倒予防法まで紹介します。

その方に合った転倒予防法を知ることで転倒リスクを減らし、認知症の方の身の安全を守りつつ、介護者の負担軽減にも役立ててください。

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認知症の方がよく転倒する理由とは?

まず、認知症の方が転倒しやすい理由を解説します。

認知症の方の転倒に悩んでいる方や転倒が心配な方は、よくある理由を知り、どのケースに当てはまるかチェックしてみましょう。

認知力が低下し、小さな段差や物につまずくから

認知症の方は、記憶力や物事の理解・判断力などの認知力が低下します。そのため、見えているものを正確に把握できない・危険を判断できない・気が散ってしまうなどの症状が現れます。

それにより「地面の小さな段差に気付かない」「障害物をよけ切れず強引に進もうとする」「距離感がわかりにくい」ことがあり、転倒してしまうのです。

混乱して焦るから

認知症が進むと記憶力が低下し、「自分がどこにいるのか」「なぜこの場所にいるのか」などがわからなくなり混乱が起きやすくなります。混乱すると不安が増大して焦ってしまい、転倒につながりやすくなるのです。

健康状態が悪化し、歩行能力が制限されるから

白内障などによる視力の低下や、骨粗鬆症・筋力の低下など健康状態の悪化も転倒につながります。歩く力自体が衰えてくると特に注意が必要です。

薬の影響でふらつきなどが起きるから

病気の治療薬で、副作用の影響が出る場合があります。例えば睡眠薬は眠気が残っていたり効きすぎていたりするとふらつきを起こしやすく、また血圧の薬などもふらつきを起こす可能性があります。こういった形で薬の影響により眠気やふらつき・めまい・起立性低血圧などが起きるケースもあり、運動能力の低下につながる場合は転倒に注意が必要です。

認知症の方が転倒しやすい場所とケーススタディ

次に、認知症の方が、実際に転倒している具体的な場所やケーススタディを解説します。転倒事故が起きやすい場所や状況を知ることは、予防策を考える際に役立ちます。

よく転倒する場所

認知症の方の転倒は、以下のような場所で起こっています。
  • ベッド周辺
    認知症の方にとって生活の拠点となる場所が、ベッドの周辺です。転倒・転落事故の6割以上がベッド周辺で起きているという報告もあります。電気コードなどつまずきやすいものがあったり、散らかっていたりすることなどが転倒のきっかけになります。
  • トイレ周辺
    夜間頻尿になっている場合は、夜中に2回以上トイレに行く方もいます。夜間のトイレは暗闇を歩くことになり、つまずきやすいといえます。また、トイレ内は狭くバランスを崩しやすいうえ、「下着をおろす」「便座に座る」など重心移動をともなうさまざまな動作が必要になるため、転倒につながりやすくなっています。
  • 車や玄関周辺
    車の乗り降りなどは普段より大きな動作が求められるため、転倒リスクが高まります。車止めなどにつまずくケースもあるため、注意が必要です。玄関周辺や庭は、天候など外の環境に影響を受けやすく、思わぬ事故につながることもあります。

起きやすい転倒のケーススタディ

上記のような場所で転倒は起こりやすいですが、具体的にはどのような状況で起こってしまうのでしょうか。
  • トイレでバランスを崩し転倒
    トイレで排せつするには、重心移動をともなう複雑な動作が必要になります。狭い場所で一連の動作を行ない、バランスを崩してしまう方もいるでしょう。また、つかまる場所がないこともバランスを崩す原因となり、転倒につながります。
  • 電気コードにつまずき転倒
    白内障などで視力の衰えがある場合は、ベッドサイドなどの電気コード類が見えにくい場合があります。足を引っかけるなどして転倒につながります。
  • 1~2㎝程度の室内段差(敷居)につまずき転倒
    転倒は玄関や庭などの大きな段差よりも、敷居などのわずかな段差のほうが起きやすいといわれています。カーペットの縁やめくれ、こたつ布団、キッチンマットなども転倒につながります。

すぐできる!認知症の方を転倒事故から守る予防策

認知症の方がよく転倒する理由を知ったうえで、事前にできる転倒予防策を見ていきましょう。まずは、比較的簡単に実行できるものから取り上げます。

ベッド周辺の環境・動線を見直す

先にも述べたように、転倒事故の6割以上はベッド周辺で起きています。床に物を置かない、段差などの障害物を極力減らす、コードを整理する、手すりを設置するなどの工夫をしましょう。

トイレ周辺の環境・動線を見直す

トイレとわかる貼り紙を扉に設置する、廊下やトイレ内の障害物を極力減らす、センサーライトを設置する、手すりを設置する、滑りにくいトイレマットに変えるなどの対策が有効です。

生活習慣を見直す

夜間頻尿になっていて夜中の排せつ回数が多い場合は、夕食以降の水分摂取量を調整してみましょう。夜間に歩き回る頻度を減らせます。

また、昼間に眠りすぎて昼夜逆転してしまった場合も、夜間の活動が増える原因になります。認知症の方の生活習慣を知り、日中の活動量を増やすなど、その方に合った睡眠時間に調整しましょう。

長期的に取り組む!認知症の歩行トラブルを遠ざける転倒予防策

次に、長期的に取り組むと効果が期待できる転倒予防策を紹介します。早い効果は見込めませんが、長い目で見て焦らずじっくり取り組んでみましょう。

ストレッチや体操で筋力をつける

転倒予防には、歩行に必要な筋肉やバランス感覚を鍛える運動が大切です。机や手すりにつかまったり、椅子に座ったりしたままできる体操など、高齢者向けの無理のない体操やストレッチを継続して行ないましょう。

厚生労働省が公開している「ご当地体操(全国の自治体が考案した高齢者向け体操)」をもおすすめです。

本人のニーズを把握して混乱を防ぐ

認知症の方が歩き回る(徘徊する)行動は、一見目的がないように見えますが、実は本人には歩き回る理由があるといわれています。

夜間の徘徊も「排せつを介助してもらうのは気が引けるから、一人でトイレに行こう」という気持ちの表れかもしれません。一人の行動は、介護者と意思疎通ができていないことが原因の場合もあります。

認知症の方は、独自の価値観や意思がありながら、意思疎通ができないことで自らのニーズを満たせず、無理に一人で行動してしまう傾向にあるため、周囲の人は腰を据えてコミュニケーションを取ることが大切です。

薬の影響がある場合は、医師と相談する

薬の副作用からふらついて転倒につながるケースがあります。処方薬や飲み合わせ、症状、状況は人により異なるため、薬の副作用が気になったときは、自己判断せず、医師に相談してください。処方時に薬剤師に質問するのもおすすめです。

認知症の方が興奮・抵抗したときは?転倒ケアのポイント

認知症の方の転倒を予防するには、事前対策や介護者とのコミュニケーションが大切です。しかし、認知症の方が興奮したり抵抗行動をとったりすることがあります。

これはBPSDと呼ばれており、幻覚・興奮・暴力・徘徊など、認知症患者の行動や心理状態の総称です。認知症のほとんどの方が、BPSD症状を経験するといわれています。

BPSDは、介助の仕方や環境を整えることで、和らげることができうるものです。転倒予防の観点で考えると、具体的にはトイレなどの動作をていねいに説明したり、清潔感を保ったりして、環境調整を行なうことが有効です。介護者の間で、うまくいった介護の方法を共有することもおすすめです。

認知症の方一人ひとりに合った転倒予防策を!


認知症の方の転倒予防には、室内の段差解消などの環境調整はもちろん、介護者とのコミュニケーションが重要です。

転倒が起こりやすいシチュエーションを理解し、認知症の方のニーズを把握することで、危険な転倒事故を予防しましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年1月26日

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