認知症の家族と旅するコツ
トラブルを回避し快適な家族旅行を実現する方法


認知症の家族と大切な思い出を作りたいと願いながらも、旅行に不安を感じる方もいるでしょう。旅行先でのトラブルや急な症状悪化を心配して、なかなか一歩を踏み出せない方も多いのではないでしょうか。

しかし、あらかじめ起こりうるトラブルを把握し、旅行業界が提供する各種サービスをうまく利用すれば、認知症の方と快適に旅行をすることができます。

この記事では、認知症の家族との旅行で考えうるトラブルや旅行時の注意点、利用できるサービスについて解説します。旅行先で家族との楽しい時間を過ごすためにも、ぜひ参考にしてみてください。

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認知症の家族との旅行は「可能」

結論として、認知症の家族と一緒に旅行をすることは十分に「可能」です。たとえ記憶障害があっても、美しい景色やおいしい食事、そして何より家族と過ごす充実した時間は心に残り続けます。旅行前から旅行後にいたるまで、認知症患者はいつもと違う新鮮な刺激を受けられるでしょう。

実際、頻繁に旅行することは認知症予防が期待できるという研究があります。2021年に発表されたクラブツーリズム株式会社と東北大学との共同研究の結果では、一定の条件下の旅行を通じて認知刺激を受けることで知的好奇心が満たされ、結果的に幸福度が高まるメカニズムが解明されました。

幸福度の向上には、認知症リスクの低減効果があるとされています。
このように、認知症の家族との旅行は思い出作りの機会になると同時に、認知症患者の心身にプラスの影響を与えられます。

ただし、認知症特有の行動により、トラブルが発生する可能性があることには注意しましょう。旅行前にはあらかじめ入念な対策を実施し、トラブル防止に努めることが大切です。

認知症の家族との旅行に起こりうるトラブル

認知症の家族との旅行はリフレッシュの機会になりますが、同時にさまざまなトラブルに直面するおそれもあります。

旅行の計画を立てる際には、起こりうるトラブルを事前に把握しておくようにしましょう。

ここでは、よくある3つのトラブルについて、事例とともにご紹介します。

記憶が混乱する

認知症患者は見当識障害や記憶障害により、記憶が混乱することがあります。自宅や介護施設などの慣れ親しんだ場所ではできていたことも、旅行先ではできなくなるかもしれません。

例えば、温泉から出たときに同じようなカゴに入った服の区別がつかず、ほかの入浴客の服を着てしまうようなことが考えられます。

認知症患者は周りの環境の変化を感じやすいため、旅行中はいつもより緊張してパニックになりやすくなります。温泉やトイレなど、個人で行動しなければならない事情があれば、あらかじめ対策を立てる必要があるでしょう。

行方不明になる

事前に旅行に行くことを伝えていても、見当識障害や記銘力障害により、自分がどこにいるかわからなくなり、徘徊してしまうおそれがあります。

例えば、トイレに行ったきり戻ってこなくなったり、宿泊先でほかの家族の就寝時に部屋を出て行方知れずになったりすることが考えられます。

旅行先で行方がわからなくなると、探し出すのは困難でしょう。いつどこで見当識障害や記銘力障害が生じるかは予測できないため、「ほんの少しの時間なら大丈夫だろう」と目を離すのは危険です。

体調が悪化する

認知症の家族との旅行中は、体調の変化にも注意が必要です。認知症患者は慣れない環境下で不安や緊張を感じやすく、その疲れから体調が悪くなることが考えられます。季節によっては熱中症や風邪、感染症のリスクが高まるため、水分補給や体温調整に気を付けましょう。

また、旅行中にはいつも飲んでいる薬を飲み忘れたり、そもそも持ってくるのを忘れたりすることも考えられます。認知症の方本人は自らの体調悪化に気付かないことがあるため、同行者がよく注意して見守る必要があるでしょう。

認知症の家族と旅行する際の4つの注意点

認知症の家族との旅行をする際、具体的に気を付けたい4つのポイントを解説します。

ゆとりのあるスケジュールを組む

認知症の家族との旅行では、ゆとりのあるスケジュールを組むことがポイントです。こまめな休憩や突発的なトラブル対応などが発生することを加味し、移動や観光の時間はなるべく余裕を持って計画することをおすすめします。

特に、長時間の移動や車の乗り降りを繰り返す場合、知らず知らずのうちに疲労がたまることも考えられます。せっかくの旅行だからと観光地をめぐりたい気持ちもあると思いますが、無理に予定を詰め込まずにゆとりを持って計画しましょう。

行き先の優先順位を決め、柔軟にスケジュール変更ができるとなお良いでしょう。必要に応じて、早めに宿泊先に向かうなど、疲れやストレスを溜めずにリラックスできる時間を確保するようにしましょう。

休憩所やトイレの場所を調べておく

認知症患者は、慣れない環境では疲れやすい特徴を持っています。疲れがひどくなると意識レベルが低下することも考えられるため、なるべく疲れを溜めないよう、こまめな休憩をスケジュールに組み込みましょう。急に疲れが出た場合に備えて、利用できる休憩所の場所を下調べしておくと安心です。

また、年齢を重ねるとトイレが近くなりやすいため、定期的なトイレ休憩が必要です。目的地にたどり着いたら、まずはトイレの場所を確認し、早めに利用しましょう。

特に、車いすや歩行補助具を利用している場合は、多目的トイレの有無も重要です。訪問予定の観光スポットやホテルも、なるべくバリアフリー対応の施設を選ぶことをおすすめします。必要に応じて事前に問い合わせを行い、スムーズな動線確保に努めましょう。

利用可能な医療機関を把握する

旅行中には急に体調を崩したり、怪我をしたりすることが考えられます。突発的な事態に対応できるよう、観光先や宿泊先の近くで利用可能な医療機関を把握しておくことが重要です。診察時間や休診日、深夜・早朝の救急対応の有無なども忘れずにチェックしましょう。

何か気になることがあれば、旅行前にかかりつけ医からアドバイスをもらうと安心です。ただし、かかりつけ医から旅行の許可をもらっていても、環境がガラリと変わる旅行先では何が起こるかわかりません。旅行中は常に健康保険証を携帯し、普段飲んでいる薬やお薬手帳、持病がわかるメモなどを1つのポーチにまとめておくことをおすすめします。

混乱や行方不明に備える

周りの環境が急激に変わると、認知症患者は混乱を起こしやすくなります。混乱のリスクを抑えるためには、旅行中もできるだけ慣れ親しんだ環境を再現することが重要です。例えば、いつも利用している車での移動や、ホテル・旅行の部屋にいつもと同じアイテムを用意するなどの工夫が有効です。

また、旅行先や行程についても、あらかじめ共有しておきましょう。ただし、認知症患者は一度説明しても忘れてしまう場合があるため、移動するたびに次の行き先を丁寧に説明するとよいかもしれません。

旅行先では、見当識障害や記憶障害による混乱に加えて、行方不明になる事態にも備える必要があります。行方不明を防ぐには、目を離さないことが大切です。

しかし、お風呂やトイレ、ホテルのチェックイン時など、ふと目を離した瞬間にいなくなってしまうことも考えられます。認知症患者をサポートできる同行者が少ない場合、GPS端末や支援サービスの利用を検討するとよいでしょう。認知症の家族について、あらかじめ宿泊先に伝えておくのも一つの手段です。

認知症の家族との旅行で使えるサービス3選

認知症の家族との旅行では、同行者の負担が大きくなることも考えられます。旅行中のトラブル対応に不安がある場合、無理して家族だけの旅行にこだわる必要はありません。

認知症に関する知識や経験が豊富な専門家の力を借りれば、トラブル防止や同行者の負担軽減に役立ちます。通常の旅行より費用はかかるものの、安心して旅行を楽しめるでしょう。

ここでは、認知症の家族との旅行で利用できる3つのサービスをご紹介します。

トラベルヘルパー・旅行介助士

トラベルヘルパーや旅行介助士は、介護と旅行両方の知識を備えた専門家です。介護・旅行のプロに依頼すれば、旅行前から旅行後にかけて一貫したサポートを受けられます。

認知症の家族との旅行では、それぞれの希望や体調、症状に合わせたプラン作りがポイントです。計画段階からトラベルヘルパーや旅行介助士に相談することで、認知症患者はもちろん、同行者にとっても負担の少ない旅行を実現できるでしょう。

また、旅行中には移動や食事、トイレ、入浴などのサポートを任せることも可能です。認知症患者が見当識障害や記銘力障害を起こしてもすぐ気付けるため、トラブル防止につながる可能性が高いでしょう。

利用料金は要介護レベルや介助内容によっても異なりますが、1日(8時間)で3万~5万円が相場です。

介護タクシー

介護タクシーは、介護・介助が必要な方でも旅行先での移動に利用できるタクシーです。出発地から目的地までドア・トゥー・ドアで移動ができるため、公共交通機関の乗り継ぎを気にする必要がありません。

介護タクシーのドライバーは介護関連の資格を有しており、旅行先でのサポートをお願いすることも可能です。一部のタクシー業者では、通常の車いすのほか、リクライニングができる車いすやストレッチャーを用意できるため、必要に応じて検討しましょう。

利用料金には、運賃に加えて、介助料金や車いすなどのレンタル料金が含まれることがあります。料金体系は会社ごとに異なりますが、1日貸切で3万~5万円程度が相場です。

介護付き旅行サービス

より包括的なサービスを受けたい場合には、旅行会社が提供する介護付き旅行サービスの利用が便利です。認知症患者やその家族のニーズに合わせて、旅行プランをオーダーメイドで作成できます。トラベルヘルパーや旅行介助士、介護タクシーの手配にも対応しているため、認知症の家族と初めて旅行をする方は検討してみてはいかがでしょうか。

利用料金はサービスによっても異なりますが、1日(8時間)でスタッフが同行して3万~5万円が相場です。旅行前の面談やプラン作成、手配にも追加料金がかかる場合があるため、事前に問い合わせることをおすすめします。

認知症の家族との旅行には事前準備が重要!トラブルに留意して快適な旅を


認知症の家族との旅行を安心して楽しむためには、入念な準備が必要です。起こりうるトラブルに留意してスケジュールを組み、旅行先の休憩所やトイレ、医療機関の情報を把握しておきましょう。

家族だけでの旅行が不安な場合は、プロの力を借りるのも有効です。プロに依頼すれば、認知症の方や同行者の負担を軽減し、トラブルの発生を抑えられます。安全で快適な旅行を実現し、認知症の家族との大切な思い出を作りましょう。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年6月5日

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