食べ物を手づかみで食べてしまっている場合は、箸やスプーン、フォークなどの使い方がわからなくなっている可能性があります。これは、日常生活の基本的な行動ができなくなる「失行」という認知症の症状が原因です。
介助する方はまず、認知症の方の目に入る位置で一緒に食事を摂り、箸の使い方などを真似してもらうようにしてみましょう。
それでも難しい場合は、箸やスプーンを使った食事を強要しないことも大切です。おにぎりやコロッケ、野菜スティックなど手づかみで食べられる料理を提供することで、認知症の方の不安やストレスを軽くしてあげましょう。
高齢になると、嚥下(えんげ:飲み込む)機能が低下する傾向にあります。食べ物をうまく飲み込めなくなったり、食事を口に入れても上手に飲み込めずにむせてしまったり、吐き出してしまったりするケースが見られます。
咀嚼(そしゃく:かみ砕く)する力が弱い場合には、具材を細かくカットしたり、食べ物の固さを変えたりするなど調理方法を工夫するとよいでしょう。咀嚼運動を促す赤ちゃんせんべいなどの利用も有効です。
食事介助をする際には、スプーンなどで舌の奥の付け根部分に少しだけ圧をかけて、料理を置くようなイメージで食べてもらうように促しましょう。また、リクライニングベッドで食事をする場合には、角度を50度以上に保ち、低くしすぎないようにする注意が必要です。
認知症の方がむせてしまう場合、酸味の強い料理を避けることや、市販のとろみ剤を入れることで嚥下しやすくするとよいでしょう。とろみを好まない場合には、ゼリー状の食品で水分を摂ってもらうのもおすすめです。
食事をする環境によっては、認知症の方の食事拒否や、食欲低下につながることがあります。認知症では集中力が続かない症状が見られる場合があり、周囲の環境の影響を受けやすい傾向にあります。大切なのは、食べない原因となっている背景を注意深く探ることです。
食事に集中できない場合、認知症の方が食事を摂る姿勢や位置が気になっているケースが考えられます。枕やクッション、タオルなどを使って食事をしやすい姿勢にしてあげたり、テーブルとイスの高さが本人に適しているか確認してあげたりするとよいでしょう。
周りの人間やテレビの音が気になって食事が摂れていない場合には、食事時間をずらすなどして静かな環境で食べられるように調整しましょう。また、食事中にトイレに行くと、気持ちが食事から離れてしまうこともあります。食前に排せつや手洗いを済ませておくようにするとよいでしょう。
認知症の方の食事介助をする際には、介助を行う方向や目線の位置などに気を付けて行うとよいでしょう。ここからは、認知症の方の食事介助のポイントを6つに分けて解説します。
認知症の方の食事介助を行う際は、利き手を確認しておくとよいでしょう。
「利き手とは逆の方向から箸やスプーンが口もとに近づいてくる」という、日常ではあまり多くない状況に置かれると、認知症の方は食事に対する違和感を覚えてしまう可能性があるからです。そのため要介助者が右利きなら右側、左利きなら左側から介助を行い、混乱を避けるようにしましょう。
ただし、要介助者に麻痺がある場合は注意が必要です。このケースでは要介助者の利き手に関わらず、麻痺がないほうに座りましょう。
目線を合わせながら介助することも大切です。立ったままの介助では要介助者が落ち着いて食事を摂れません。そのうえ、介助者が立った状態だと、要介助者は意識せずとも上を向くことになります。食事の際に上を向いてしまうと、食べたあとにむせてしまう危険性もあります。
椅子の高さを調整するなどし、要介助者と目線を合わせて介助を行いましょう。
食事中にむせたり、喉につかえたりするのを防ぐためにも、食事前にはお茶や水などの水分を摂ってもらうようにしましょう。誤嚥(ごえん:飲み込んだときに気道に入ること)が心配な場合は、水分にとろみを付けてから摂取してもらう方法が有効です。
また、食べる順番を工夫し、味噌汁やスープなど水分を多く含む汁物から食べ始めてもらうのもおすすめです。唾液の分泌が促され、食事が喉を通りやすくなります。
食事前に水分を摂ってもらったからといって、いきなりスプーンいっぱいに乗せた食べ物をあげないように気を付けましょう。なぜなら最初の一口、二口目では唾液が十分に分泌されていなかったり、筋肉もすぐには動けなかったりすることが多いからです。
そのため、最初の一口は少なめにし、スムーズに飲み込めるようにするとよいでしょう。一口目がスムーズに飲み込めたら、徐々に量を増やし適量の一口を心がけます。
適量は要介助者によって異なります。要介助者の食べ方や様子を観察したり、本人への声かけで確認したりするとよいでしょう。
また、口に入れる際にはスプーン全体を口に入れてしまわぬように注意が必要です。まずはスプーンの前半分程度を口に入れてあげるとよいでしょう。