認知症が遺伝する可能性は?
検査方法や発症リスクを軽減するためのポイント


認知症を発症している家族や親族がいると、「自分も将来認知症になるのでは」と不安を感じる方は少なくありません。同時に、「そもそも遺伝する病気なの?」と疑問を抱く方もいるかもしれません。

この記事では、認知症と遺伝の関係を解説するとともに、認知症の遺伝の有無を調べる検査方法を紹介します。併せて、遺伝以外の認知症を発症する要因、発症リスクを下げるためのポイントもご紹介しますので、認知症を予防したい方はぜひ参考にしてみてください。

認知症は遺伝する?

認知症の原因や発症のメカニズムは、わかっていない部分が多いのが実情です。ただ、なかには遺伝が要因になると考えられている認知症が存在します。

三大認知症の一つである「アルツハイマー型認知症」は、「孤発性アルツハイマー型認知症」と「家族性アルツハイマー型認知症」の2種類に分類できます。このうち、「家族性アルツハイマー型認知症」には遺伝が関係するとされているのです。

家族性アルツハイマー型認知症は、発症年齢が40~50代と比較的若い年齢で発症し、症状の進行も速い傾向にあります。また、両親のいずれか、もしくは兄弟姉妹が発症していると発症リスクが高まる点も特徴です。

ただし、アルツハイマー型認知症自体の発症割合は孤発性のほうが高く、認知症全体で見ても家族性の発症割合は数%程度とされています。また、遺伝という要因一つだけではリスクが大きく高まるともいえないため、過度に不安になる必要はないと考えられるでしょう。

認知症が遺伝している可能性を調べる方法

自身に認知症が遺伝している可能性を調べるには、認知症治療を行なう医療機関で「遺伝子検査」を受ける方法があります。遺伝子検査は保険適用外のため自費診療となり、15,000~25,000円が相場です。

家族性アルツハイマー型認知症の遺伝の有無を調べる代表的な検査には、「APOE遺伝子検査」が挙げられます。

この検査では、家族性アルツハイマー型認知症の要因となる「アポリポタンパクE(APOE)」と呼ばれる遺伝子の型を調べます。この遺伝子には、「ε2」「ε3」「ε4」などのサブタイプがあり、このなかで「ε4」のサブタイプを持っていると、持っていない方に比べ比較的発症リスクが高いとされます。

ただし、上記のサブタイプの遺伝子を持つからといって、必ずしも発症するとは限りません。遺伝以外にも、生活習慣をはじめ認知症の要因となるものは幅広いためです。遺伝の有無と併せて、発症リスクを高めるほかの要因を知り対処することで、認知症の予防につながります。

遺伝以外の認知症を発症する要因

前述のとおり、認知症は遺伝以外の要因によっても発症リスクが高まる場合があります。ここからは、遺伝以外にどのようなものが発症リスクを高める要因になるのか見ていきましょう。

認知症の症状を引き起こすおもな原因疾患

「認知症」とひと口にいっても、原因となる疾患は多岐にわたります。例えば、先ほど解説したアルツハイマー型認知症以外にも、「レビー小体型認知症」や「前頭側頭型認知症」、「脳血管性認知症」などが挙げられます。

また、認知症ではない別の病気でも、認知症のような症状が出る場合があるため注意が必要です。例えば、「慢性硬膜下血腫」や「正常圧水頭症」、「甲状腺機能低下症」などが該当します。
これらの疾患は前述の認知症とは異なり早期発見・早期治療により症状の改善が見込める可能性がある点が特徴です。

生活習慣の乱れ

偏った食事や運動不足の状態が続くと、認知症の発症リスクに影響するとされています。加えて、偏った食事や睡眠不足といった生活習慣の乱れが続くと、後述する肥満や生活習慣病の要因となる恐れもあるため注意が必要です。

肥満

前述の生活習慣の乱れから肥満になると、動脈硬化や高血圧、糖尿病といった「生活習慣病」のリスクが高まります。生活習慣病は、認知症の発症リスクも高める要因となる恐れがあるため注意が必要です。

例えば、動脈硬化や高血圧は、血管に大きな影響を与えかねません。脳の血管まで影響がおよぶと、認知症だけでなく脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患のリスクを高めます。

また、糖尿病もアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症を発症する要因となり得るため注意が必要です。糖尿病になると、アルツハイマー型認知症の原因物質とされるアミロイドβが正常に分解されず、これが脳に蓄積すると認知症の症状が出る可能性が高まると考えられているのです。

飲酒・喫煙

長期、もしくは過度な飲酒は、脳の萎縮を引き起こすため認知機能の低下につながる恐れがあります。また、喫煙者は非喫煙者に比べ、認知症のリスクが2~3倍になるとのデータがあるほか、脳卒中などさまざまな疾患の原因にもつながります。

ストレス

長期にわたるストレスの蓄積は、脳に悪影響をおよぼす恐れがあります。ストレスは自律神経の働きの乱し、血流の悪化を招くとされています。その血流の悪化は、細胞に十分な酸素や栄養を行き渡りにくくさせる特徴があり、結果的に脳の働きが低下したり、神経細胞にダメージが生じたりしてしまうのです。

また、ストレスによって分泌されるホルモンの一種である「コルチゾール」は、前述したアルツハイマー型認知症の原因物資であるアミロイドβの蓄積を引き起こすとされています。そのため、ストレスは脳の働きの低下を招くだけでなく、認知症の発症リスクを高める可能性もあるのです。

認知症の発症リスクを下げるための3つのポイント

認知症の治療法や予防方法は、いまだ確立されてはいません。ただし、食事をはじめとした生活習慣を見直すことで、前述した遺伝以外のさまざまな要因を予防し、発症リスクを下げることが期待できます。

ここからは、生活習慣を改善し、発症リスクを下げるために心がけるべき3つのポイントを解説します。

生活習慣病の治療

現在何らかの生活習慣病を発症している場合は、まず治療を始めましょう。前述のとおり、認知症は糖尿病や脳血管障害といった生活習慣病に起因することも少なくないためです。

現在かかっている生活習慣病を治療、もしくは今後かからないように予防することで、認知症の発症リスクを軽減することにもつながります。そのためには、定期的に医療機関を受診し、検査や投薬を含めた適切な治療をきちんと受けることが重要です。

バランスの良い食事

栄養の偏った食事や乱れた食生活を見直し、栄養のバランスが良い食事を摂るよう心がけることで、脳の健康を維持することにつながります。そのためには、タンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル、ビタミンなど基本の栄養素を摂取できるメニューを考えることが重要です。併せて、認知症の予防に効果的とされる食材を積極的に取り入れましょう。

例えば、青魚はアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症の予防効果が期待できるとされ、野菜や果物は抗酸化物質により細胞の働きを保つ効果があるとされています。また、コーヒーや緑茶も認知症や脳細胞の老化を防ぐ効果が期待できるとされています。

食材を意識するだけでなく、塩分過多な食事や過剰なカロリーの摂取、間食などを控えるよう意識するのも忘れないようにしましょう。

適度な運動と十分な睡眠

適度な運動は、脳に刺激を与えるため認知機能の向上や、身体の血流促進による認知症の予防効果が期待できます。例えば、ウォーキングをはじめとした定期的な有酸素運動を生活に取り入れ、少しずつ習慣化させるとよいでしょう。

また、十分な睡眠も、発症リスクを下げる要因となり得ます。脳と身体がどちらも眠る深い睡眠状態であるノンレム睡眠時に、前述のアルツハイマー型認知症の原因物質である「アミロイドβ」が脳内から排出されるためです。

認知症予防のために必要な睡眠時間については解明されておらず個人差がありますが、およそ6時間半から8時間未満を目安にするとよいでしょう。

認知症の遺伝が心配なら遺伝子検査・生活習慣の見直しをしよう


認知症の原因はわかっていない部分が多いものの、家族性アルツハイマー型認知症では、遺伝が発症要因として考えられています。ただし、家族性の発症割合は低い傾向にあるうえ、認知症の発症要因は遺伝以外にも多岐にわたるため、遺伝のみを過剰に不安視する必要はないでしょう。

どうしても不安な場合は、遺伝子検査を受けるのがおすすめです。併せて、生活習慣を見直し食事や運動、睡眠に気を配ることで、認知症の予防につながります。

また、予防を続けつつ、万が一家族や自分自身が認知症になった場合に備えて、民間の介護保険に加入しておくとより安心です。

 

朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年9月7日

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