認知症に改善策はある?
予防や進行を抑えるためにできる治療・対策


認知症は老年期になると誰もが発症する可能性がある、身近な病気です。「将来認知症になってしまったら」と不安を抱える方もいるでしょう。

認知症は完治こそ難しいものの、治療により症状の進行を遅らせることは可能です。専門家のサポートを受けて適切な対策をとることで、認知症になっても普段どおりの生活を続けられる方も多くいます。

この記事では、認知症の症状改善に効果が認められている治療方法と、認知症の進行を抑えるために役立つ対策について解説します。

認知症は高齢になるほどリスクが高まる

認知症とは、何らかの原因で記憶力や判断力などの脳の働きが低下し、日常生活に支障がおよんでいる状態のことを指します。

厚生労働省がまとめた「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によると、2025年には65歳以上の約2割が認知症になると推計※1されており、将来的にはその割合がさらに上昇するとの予測です。生活習慣病の一つである糖尿病の罹患者が増えれば、さらに上昇幅が大きくなるとも考えられています。※2

さらに、認知症のリスクは高齢になるほど高まるという調査結果も出ています。85歳~89歳で4割以上、90歳以上になると6割以上が認知症になるとの推計※3です。平均寿命が伸長するなか、認知症は高齢者にとって特別な病気ではなく、誰にでも発症するリスクがあるといえるでしょう。

また、認知症は65歳以上で介護や支援が必要になる原因の第1位※4でもあります。認知症は将来の介護とも密接にかかわってくる問題です。
なお、認知症は高齢者だけの病気ではありません。65歳未満で発症する「若年性認知症」もあり、近年社会問題として認識され始めています。遠い将来ではなく、今のうちから認知症について考えておくことが大切です。

認知症は早期発見・早期診断が重要

認知症の症状はもの忘れなどから始まることが多く、年齢にともなう症状と見過ごされやすい傾向があります。そのため、症状が進んでから受診されることも少なくありません。

しかし、認知症は早期診断・早期治療が重要です。なぜ重要なのか、その理由を説明します。

早期の治療開始で改善できる可能性がある

認知症は環境変化などにより急に進行することもありますが、一般的には時間をかけて進行していくものです。

認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の段階で治療を始めれば、進行を遅らせる、認知症に移行せずに改善できるケースもあることがわかっています。

また、認知症が進行すると、症状も重くなり改善が難しくなるため、できるだけ早い治療開始が大切です。

認知障害を引き起こす疾患の発見につながる

認知障害は、認知症のみで起こるわけではありません。

例えば、注意力や活動性の低下は抑うつ症にもみられる症状で、認知症との識別が難しいといわれています。また、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫なども、認知障害があらわれる疾患です。これらの疾患では、有効な治療により認知障害の改善や完治が期待できるでしょう。

また、服用中の薬の影響で、一時的に認知症のような認知障害があらわれることもあります。睡眠薬をはじめ、抗コリン作用を含む薬などがその代表例です。

抗コリン薬はアレルギーや降圧剤、胃薬などさまざまな薬に用いられ、複数の医療機関から重複した処方を受けるなどして過剰摂取となることもあるため注意が必要です。

複数の医療機関を受診している場合には、各所でどのような薬を服用しているかを伝えることが大切です。それによって過剰摂取を防ぎ、適切な処方に変更することで症状を改善できるでしょう。

認知症の症状を改善する治療

認知症のうち、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの完治は困難です。しかし、治療を受けることにより、症状の軽減を目指せる可能性はあります。

認知症の症状を改善する治療には、大きく薬物療法と非薬物療法があります。

薬物療法

薬物療法には、認知機能を改善する薬と、行動・心理症状を改善する薬があります。

認知機能を改善する薬

認知機能を改善するために用いられる代表的な薬が、コリンエステラーゼ阻害薬です。

コリンエステラーゼ阻害剤とは、脳内の神経伝達物質「アセチルコリン」を分解するコリンエステラーゼを阻害することで、認知機能低下の進行抑制が期待できます。

しかし、進行を抑制する効果は期待できるものの、認知症自体をなくすことが期待できるわけではないことを認識しておく必要があります。

行動・心理症状を改善する薬

認知症にともない、抑うつや興奮、睡眠障害などの周辺症状(BPSD)も生じることがあります。それらの個々の症状に対して、漢方薬や睡眠導入剤、抗不安薬、抗精神病薬などが有効です。

非薬物療法

非薬物療法とは、薬物を使用せずに認知機能や生活能力を高める治療法です。認知症の方が自分らしい生活を送ることを目的としています。

非薬物療法は、薬物療法と組み合わせるのが一般的です。ただし、薬物療法は副作用のリスクがあるため、周辺症状に対しては非薬物療法が優先されています。

おもな非薬物療法には以下が挙げられます。

認知リハビリテーション

認知リハビリテーションは、認知機能を向上する効果を期待し、計算やパズルなどの脳を使うゲームや、手先を動かす作業などを行ないます。

心理療法

心理療法とは、対話や訓練により情緒や行動、認知に働きかける治療法です。

認知症の心理療法には、過去について話すことで脳を刺激する「回想法」や、自分の環境を確認することで見当識を高める「リアリティ・オリエンテーション」、患者本人の感情にフォーカスし、喜びや怒りなど、いかなる感情に対しても共感し、同一の価値観を共有する「バリデーション療法」などがあります。

運動療法

運動療法は、運動機能の改善や意欲向上、認知症の進行を遅らせるなどを目的とした治療法です。有酸素運動、筋力トレーニング、ストレッチなどが挙げられます。

将来の認知症リスクに備えるには

現状では、認知症を確実に予防できる方法はありません。しかし、認知症の発症を遅らせるのに有効な対策があることが明らかになってきています。将来の認知症対策のために、今からできることを紹介します。

認知症について正しい知識を身に付ける

まずは、認知症についてどのような病気であるかを知ることが大切です。

認知症になると「何もわからなくなり何もできなくなる」と想像している方もいるかもしれませんが、それは正確ではありません。認知症を発症しても、適切な支援や介護を受けられれば、変わらず自分らしい生活を送れるのです。

認知症についての正しい知識を身に付けることで、認知症に関する悩みを抱え込まずに済むだけでなく、発症した際にもきちんと向き合うことができるでしょう。早期診断や早期治療にもつながります。

併せて、認知症に対して受けられる支援や介護などのサービスについて知っておくと、先々の不安を解消できます。

生活習慣病を予防する

認知症のうち多くを占めるアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症は、高血圧や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病との関連が深いことがわかっています。そのため、認知症を予防するには、まず生活習慣病の予防に取り組むことが重要です。

以下に注意して生活習慣病の予防に取り組みましょう。

・バランスの良い食事を摂る
・適度な運動を習慣化する
・十分な睡眠を取り規則正しい生活を送る
・喫煙や過度の飲酒を避ける
・ストレスを溜めない

脳機能の活性化に取り組む

脳機能の活性化には、運動や十分な睡眠に加え、歌を歌ったり映画を鑑賞したりと、知的活動につながる趣味や生きがいを見つけましょう。人との交流機会を持ち続けることも大切です。

また、国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」※というトレーニングが認知症予防の一環として期待されています。コグニサイズは、簡単な運動と認知トレーニングを組み合わせたもので身体と脳の活動を同時に活性化する効果が見込まれている取り組みです。

引用:国立長寿利用研究センター作成パンフレット.認知症予防に向けた運動 コグニサイズ

気になる症状は早めに専門機関へ相談する

認知症の前段階とされる軽度認知障害は、早めに対処することで認知症への進行を防げることがあるといわれています。本人や家族も気になるほどのもの忘れなど、気になる症状がある場合には、早めにかかりつけの医師やもの忘れ外来などに相談しましょう。

自治体や地域包括支援センターでも認知症をはじめとした相談を受け付けているので、積極的に活用してください。受けられる支援や支援先を紹介してもらえます。

また、身内に認知症になった人がいて、自分も将来認知症になるか不安な方もいるでしょう。現在大きく気になる症状がなくても将来の発症が心配なら、認知症ドックを受診する方法もあります。

認知症ドッグは、一般的な脳検査である脳MRIに、VSRAD(早期病的脳萎縮解析)や認知症発症にかかわる遺伝子や血液の検査、専門の医師との面談などを組み合わせたものです。認知障害の早期発見だけでなく、将来の発症リスクなども評価できます。

認知症保険を活用する

認知症の予防に取り組むことも重要ですが、認知症を発症してしまった場合に備えることも対策になります。

認知症を発症した際に経済的な支えとなるのが、認知症保険です。認知症保険は認知症に特化した民間介護保険で、認知症と診断されたときや認知症で介護が必要になった場合に一時金や年金を受け取れる場合もあります。

認知症保険のなかには軽度認知障害に対応できる特約を設定できる商品もあり、発症予防に役立てることも可能です。

認知症の改善に大切なことは早期の対処


認知症の改善には、早期診断・早期治療が重要です。症状が進行してからでは治療の効果があらわれにくくなるため、少しでも気になることがあれば、早めに医療機関を受診してください。

また、生活習慣病の予防や脳機能の活性化に取り組むことが、認知症予防にもつながると考えられます。将来の認知症リスクを少しでも減らすために、今のうちから始めるのがおすすめです。

 

朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年8月28日

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