認知症の作業療法では具体的に何をする?
種類や実施するメリット


認知症治療における作業療法について、「話は聞いたことがあるけれど、何のためにするのか、具体的に何をするのかは知らない」という方も少なくないでしょう。

作業療法は、日常に関係する作業を通して脳を刺激し、症状の進行を遅らせることを目的に実施されます。脳を刺激することからリハビリテーションの効果が期待でき、また、作業療法にはさまざまな種類がある点も特徴です。

この記事では、認知症の作業療法を実施するメリット、作業療法の種類や実施する際の注意点を解説します。

認知症治療として作業療法を実施する3つのメリット

認知症治療における作業療法は、薬を使わない「非薬物療法」に分類されます。

冒頭でも述べたとおり、日常に関係する作業を用いて脳を刺激し、症状の進行を抑えることを目的としています。このほか、心身の機能の維持・強化、幸福感や自尊心の充足を取り戻すために活用されるケースも少なくありません。

ここからは、作業療法のメリットを3つ挙げて解説します。

拒否感が少なく取り組みやすい

認知症の患者は、診断の際に「何ができなくなったのか」を見られる傾向にあります。そのため、課題をこなすことや試されることに対して抵抗感を抱くケースも少なくありません。

その点、作業療法では日常的な作業を用いるため「難しい作業をしなければいけないのでは」「できなかったらどうしよう」などと感じにくい特徴があります。日常生活の延長のような作業が多く、拒否感を抱かずに取り組みやすいのです。

安心感や自信を取り戻せる

認知症を発症すると、それまで問題なくできていた家事や趣味が思うようにできなくなり、精神的な落ち込みや自信の喪失、自分を見失ったような感覚に陥ることがあります。

作業療法は、作業に関する能力の回復を目指しているため、作業能力の回復や向上を見込めます。「できなくなっていたことがまたできるようになった」「できることが増えた」などの経験を得た結果、自尊心や自信を取り戻す効果が期待できるでしょう。このほか、安心感の回復につながるケースもあります。

「なじみのある記憶」を活用できる

認知症を発症すると、初めての作業やなじみのない事柄に対して苦手意識を持ったり、ストレスを感じたりすることが少なくありません。

一方、作業療法では本人にとってなじみ深い「体で覚えていること」「日常的にこなしていた作業」を中心に活用するため、ストレスを感じにくいのが特徴です。また、なじみのある作業を繰り返すことで過去の記憶を取り戻し、懐かしさや作業を行なう喜びを再び感じられるようになる効果も期待できます。

認知症の作業療法の種類

認知症の作業療法には、いくつかの種類があります。それぞれの概要やおもな作業内容を見ていきましょう。

回想法

回想法は、認知症の特徴の一つである「過去にさかのぼるほど記憶が喪失しにくい」という点を利用した手法です。会話などを通じて本人の幼少期や学生時代の記憶をたどり、過去の出来事を共有して脳に刺激を与えます。

例えば、昔の写真や使っていた道具を見せたり使わせたりするなど、過去の記憶を想起させやすいヒントを示しつつ、一緒に会話することも回想法の一つです。会話のなかで自身の記憶を取り戻すことで、QOLの向上や症状の進行を遅らせる効果が見込めます。

音楽療法

音楽療法では、懐かしい曲や好きな曲を聴く、自分自身で歌う、楽器を演奏することなどで過去の記憶の想起や身体機能の改善を目指します。

また、音楽を楽しむことでリラックスし、不安やストレスの緩和、精神的な落ち着きを取り戻す効果も期待できるでしょう。

認知刺激療法

言葉や会話に加えて、「見る・聞く・触る・匂いを感じる・味わう」などの五感を刺激し、認知機能の改善や脳の活性化を目指すのが認知刺激療法です。

代表的な方法としては、音楽療法にも含まれる音楽鑑賞、習字や塗り絵などの創作活動が挙げられます。マッサージや足湯を行ない、触覚を刺激して「気持ちいい」「温かい」という感覚を与えて気分の安定を図るのも、認知刺激療法の一つです。

動物介在療法

動物介在療法は別名「アニマルセラピー」とも呼ばれ、犬などの動物と接することでストレスの緩和や精神状態の安定を図るとともに、活動性の向上を目指して実施されます。

動物介在療法は人と接するのが苦手な方でも実施しやすいメリットがあり、なかには自ら動物の世話をするといった意欲が芽生えるケースもあります。

運動療法

運動療法は、体を動かして筋肉量を保つことで寝たきりになるのを防ぐとともに、睡眠障害や興奮による行動障害の軽減を期待できる手法です。

運動療法では、本人の体調や能力を十分に考慮したうえで、椅子に座ったままでもできる簡単な運動やウォーキングなどを行ないます。

その他

上記以外に、園芸や書道、陶芸、ゲームなどのレクリエーションが作業療法となるケースもあります。本人にとって興味のあるものや好きなこと、得意なことを通して自信を取り戻す、自発性を高めるといった効果が見込めるでしょう。

作業療法を実施する際の4つの注意点

ここからは、認知症治療の一環として作業療法を行なう際の4つの注意点について解説します。

無理強いはしない

本人が作業療法を嫌がる場合は、その気持ちを優先して強制しないことが重要です。強制されることで嫌悪感を抱いてしまうと、それ以降は実施に対して消極的になってしまうおそれがあります。

また、嫌がるほどではなくとも作業に対して戸惑いなどが見られる場合も、無理強いはせず、あくまで本人の自発的な参加を促すように心がけるとよいでしょう。

適切な難易度を設定する

作業療法の難易度設定も、本人の意欲に大きく影響するため大切な要素といえます。

例えば、作業の難易度が高すぎる場合、本人の意欲を削いでしまうでしょう。一方で、簡単すぎる作業も本人の自尊心を傷つけてしまったり、作業に飽きさせてしまったりするため注意が必要です。

作業の難易度は、本人にとって「少し頑張れば実施できる程度」を基準に設定することが重要です。

こまめに疲労していないかチェックする

認知症の方は、健康な方に比べて脳が疲れやすいため、疲労度をこまめにチェックすることが大切です。疲れているにもかかわらず続けると、集中力が低下するほか、作業がはかどらない苛立ちや焦りを感じてしまう可能性があります。

作業などを実施する際は適度に休憩を入れつつ、本人にとって無理のない時間で作業を終えられるよう工夫するとよいでしょう。

専門家の意見を仰ぐ

作業療法に関して、疑問や不安、相談したいことがある場合には、作業療法士や利用中の介護サービスの事業所など、専門職の方に相談して意見を仰ぐのがおすすめです。

専門職の方は、認知症や作業療法に関する知識や経験が豊富なため、本人の状態を理解したうえでプロの観点から適切なアドバイスをしてもらえるでしょう。アドバイスを参考にすることで、作業療法の効果をさらに高めることも期待できます。

作業療法を適切に取り入れて認知症治療に役立てよう


認知症治療において非薬物療法に分類される作業療法には、作業によって脳を刺激し、症状の進行を抑える効果が期待できます。そのほか、身体機能の維持・強化に加え、自信や自尊心、安心感の回復にも役立つでしょう。

作業療法にはさまざまな種類があるため、本人に適したものを選択することが可能です。実施する際は、本人の意向を尊重しつつ無理のない範囲から始めるとよいでしょう。

また、現在「もし将来認知症になったら」と考えて情報収集などをしている方は、介護や治療にかかる経済的負担にも備えておくのがおすすめです。将来の治療・介護の経済的負担に備えるための手段としては、民間介護保険の加入が選択肢の一つとなるでしょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年11月28日

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