睡眠不足は認知症の発症リスクに影響する?
発症リスク低減につながる睡眠のポイント


認知症の予防法を知りたいという方のなかには、睡眠が認知症発症リスクに与える影響について気になる方も多いのではないでしょうか。
睡眠不足や睡眠障害は、認知症の発症リスクを高める恐れがあるため注意が必要とされています。

この記事では、睡眠不足や睡眠障害が認知症の発症リスクに与える影響について解説するとともに、睡眠を通して発症リスクを低減させるためのポイントを解説します。

併せて、現在睡眠障害に悩んでいる方や睡眠状況がなかなか改善せずお困りの方におすすめの対処法についても解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

認知症の発症リスクと睡眠不足の関係

睡眠不足は、認知症のなかでも最も発症数の多い「アルツハイマー型認知症」の発症リスクに関係しているとされています。
アルツハイマー型認知症の発症原因は、いまだ完全には解明されていません。一般的にはアミロイドβと呼ばれるたんぱく質が脳に蓄積し、神経細胞が破壊されることで認知症が発症すると考えられています。

このアミロイドβは、脳も体も眠っている「ノンレム睡眠」時に脳内から排出されるという特性を持っています。そのため、ノンレム睡眠が十分に行なわれないと、アミロイドβが排出されずに蓄積し、認知症の発症リスクを高める可能性があるのです。

ノンレム睡眠を妨げる要因としては、前述の睡眠不足に加え、浅い眠りが続く、中途覚醒や昼夜逆転などの睡眠障害が挙げられます。

睡眠不足が招く認知症以外の4つのリスク

睡眠不足や睡眠障害は、認知症以外のリスクを高める可能性もあります。そのため、高齢者だけでなく若年層の方も注意が必要です。
ここからは、睡眠不足が認知症以外にどのようなリスクを招くのか、4つ挙げて解説します。

集中力や記憶力、判断力が低下する

睡眠不足の状態に加え、「昼間でも眠い」「頭がぼーっとする」と感じる状態は、脳が正常に働いていないと考えられます。そのため、認知機能も低下している可能性があります。

認知機能の低下は、集中できない、口頭で伝えられた内容を覚えているのが難しくなる、物事に対する判断力が低下するといった状態を引き起こす恐れがあるでしょう。

集中力や記憶力、判断力の低下は仕事でのミスや思わぬ事故を招く可能性もあるため十分に注意すべきです。

免疫力が低下する

睡眠中は免疫細胞が活動するだけでなく、成長ホルモンの分泌も行われ、傷ついた細胞を修復しています。
しかし、睡眠が不足すると免疫細胞の活動が低下し、成長ホルモンも十分に分泌されなくなります。その結果、免疫力が低下し感染症などにかかりやすくなるのです。

加えて、睡眠不足は自律神経のバランスを乱す恐れもあります。自律神経の乱れは、重要な免疫機能の一つである白血球の動きを低下させる要因となり得るため注意しましょう。

代謝が低下する

睡眠不足は代謝の低下を招くため、消化器の機能や皮膚の再生機能を低下させる恐れがあります。その結果、起床時に倦怠感を抱いたり肌荒れが目立ったりする可能性があるため気を付けましょう。

また、睡眠不足により基礎代謝の低下が生じると、食事から摂取したエネルギーを消費しきれなくなります。消費しきれなかったエネルギーは脂肪として蓄積されやすくなるため、肥満につながるケースもゼロではありません。

生活習慣病などの発症リスクが高まる

慢性的な睡眠不足は、前述のとおりホルモンの分泌が十分に行なわれないだけでなく、神経機能の調節にも支障をきたし、さらには血糖値や血圧に悪影響をおよぼす可能性もあります。

その結果、糖尿病や高血圧、心筋梗塞などといった生活習慣病の発症リスクを高めるとされているため注意が必要です。

加えて、睡眠不足は身体面だけでなく精神面にも悪影響をおよぼす恐れがあり、不安定な精神状態やネガティブ思考に陥りやすくなることでうつ病の発症リスクが高まる可能性もあります。

十分な睡眠は認知症の発症リスク低減につながる!質の良い睡眠をとる5つのポイント

睡眠不足は認知症の発症リスクを高める一方、十分な睡眠や質の良い睡眠は認知症の発症リスク低減につながるとされています。
ここでは、質の良い睡眠を取るために心がけると良いポイントを5つ挙げ解説します。自身の睡眠を改善したいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。

適切な睡眠時間を確保する

まずは、自身にとって適切な睡眠時間を確保するよう心がけてみましょう。確保すべき睡眠時間は、季節や年齢、体質などの個人的な要因によって変動します。

成人の場合、個人差があるものの6~7時間が睡眠時間の目安とされています。ただし、加齢とともに必要な睡眠時間が短くなる傾向があります。

適切な睡眠時間が確保できているかは、日中に眠気を感じることなくしっかり目覚めた状態で過ごせるかどうかを目安に判断するのがおすすめです。

また、長すぎる睡眠時間はかえって眠りが浅くなり、認知症の発症リスクを高める恐れがあるため注意が必要です。

毎日決まった時間に起床する

休日や季節に関係なく、毎朝決まった時間に起きることも大切です。例えば、休日はいつもより遅く起きる、長い睡眠時間を取るといった「休日の寝だめ」も避けたほうがよいでしょう。

起床時間と併せて、就寝時間や食事の時間などもできるだけ決めておき、日頃から規則正しい生活を送るよう心がけましょう。体内時計が整いやすくなり、質の良い睡眠につながります。

日光を浴びるよう心がける

起床時は、可能な限り日光を浴びるよう意識することで、体内時計がリセットされ日々の睡眠リズムが整いやすくなるためおすすめです。
加えて、日中に日光を浴びることで睡眠ホルモンと呼ばれている「メラトニン」の分泌が眠りにつく際に活発になり、寝つきが良くなる効果も期待できるでしょう。

適切な運動を生活に取り入れる

適度な運動は前述のメラトニンの原料となるホルモンである「セロトニン」の分泌も促すと言われており、睡眠の質を高める効果が期待できます。

睡眠の質を高めることを目的とした運動を行うタイミングは夕方から夜、就寝の3時間ほど前までにするとよいでしょう。

寝る前のアルコール摂取や夜食の習慣を控える

就寝前の飲酒(アルコール摂取)は、眠りが浅くなる恐れがあるため避けたほうがよいでしょう。コーヒーや濃いお茶など、覚醒作用のあるカフェインが含まれる飲み物も避けたほうが無難です。

また、夜食など就寝直前の食事は就寝後も消化活動が続く要因となります。脳が興奮状態となって寝つきが悪くなる、眠りが浅くなるなどの悪影響をおよぼす可能性があるため避けましょう。

昼寝について20~30分程の昼寝が認知症予防に効果的であるという意見もありますが、長時間昼寝してしまうと不眠の要因になったり、かえって認知症の発症リスクを高めたりする可能性があるため、昼寝は避けたほうが無難です。

睡眠状況が改善しない場合は医療機関の受診も選択肢の一つ

前述の対処法を取り入れてもなかなか睡眠状況が改善しない、もしくは睡眠不足に加えて以下の症状が見られる場合は、睡眠障害に該当する可能性があります。
  • 中途覚醒:就寝中に何度も目が覚めてしまう
  • 早期覚醒:予定の起床時間よりも2時間以上早く目が覚めてしまう
  • 昼夜逆転:昼に寝て夜に起きる状態
  • 入眠困難:なかなか寝付けない、眠るまでに30分~1時間以上かかる など
上記に心当たりがある方は、医療機関を受診し医師に相談するのがおすすめです。睡眠に関して受診できる診療科は、内科や精神科、心療内科などがあります。

また医療機関を受診すれば、睡眠薬の処方といった解決策が見つかるだけでなく、睡眠時無呼吸症候群など快適な睡眠を妨げている要因がないかどうかのチェックもできるでしょう。

適切な睡眠を心がけ、認知症の発症リスク低減につなげよう


睡眠不足や睡眠障害はノンレム睡眠を妨げるため、アルツハイマー型認知症などの発症リスクを高めるだけでなく、免疫力を低下させたり生活習慣病のリスクを高めたりする恐れもあります。

質の良い睡眠は認知症の発症リスクを低減する効果が期待できます。そのため、適切な睡眠時間の確保をはじめ、日光浴や適度な運動を生活習慣に取り入れてみるとよいでしょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年12月18日

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