アルコールは認知症リスクを高める?
アルコール性認知症の症状や治療法


お酒を好む方のなかには、「お酒は認知症に影響をおよぼすの?」「アルコール性認知症の原因や症状にはどのようなものがあるの?」といった疑問を持つ方もいるでしょう。

多量のアルコール摂取は、認知症のリスクを高める可能性があります。

今回は、アルコール性認知症の概要や原因、おもな4つの症状や治療法などについて解説します。

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アルコール性認知症とは?

アルコールを多量に摂取すると、ビタミンB1の欠乏による栄養障害や、脳出血や脳梗塞といった脳血管障害などを引き起こします。アルコール性認知症とは、これらが原因となり生じる認知症です。

また、アルコールを多量に摂取した際に、脳が小さくなる「脳萎縮」が見られることがあります。脳萎縮の状態になると、脳梗塞を発症するリスクを高め、認知機能の低下を引き起こしかねません。

アルコール性認知症の原因

アルコール性認知症の原因は多岐にわたり、おもに以下のようなものが挙げられます。
  • 脳血管障害
  • 肝硬変
  • 糖尿病
  • 頭部外傷
  • 栄養障害
  • ウェルニッケ・コルサコフ症候群
継続的なアルコールの多量摂取が原因のひとつとなり起こる病気で、「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」があります。ウェルニッケ・コルサコフ症候群とは、「ウェルニッケ脳症」と、その後遺症による「コルサコフ症候群」を組み合わせた呼び名です。

アルコールの多量摂取によるビタミンB1(チアミン)の欠乏により、ウェルニッケ脳症を発症すると、ふらつきや精神状態の変化、眼球運動障害などの症状が現れます。コルサコフ症候群は、ウェルニッケ脳症の次の段階でおこるとされる病気です。

ウェルニッケ脳症の原因の約半分はアルコール依存症とされています。コルサコフ症候群になると改善が難しく、ウェルニッケ脳症の段階において早期治療を施すことが大切です。

アルコール性認知症のおもな5つの症状

次に、アルコール性認知症のおもな5つの症状について見ていきましょう。

記憶障害

記憶障害とは、同じことを何度も聞き直したり、過去の出来事が思い出せなくなったりするなどの症状を指します。また、新しい出来事や言葉を覚えることが難しくなります。

作話

作話とは、記憶障害によって忘れてしまったことの埋め合わせをするために、覚えている情報をつなぎ合わせて作る話のことです。作話は、コルサコフ症候群の特徴的な症状の一つでもあります。無意識に行なわれるもので、うそをついているわけではありません。

見当識障害

見当識障害は、自分の状況を正しく認識できなくなる障害のことです。今日の日付や現在の時刻がわからなくなる、自分がどこにいるのかわからなくなる、家族を認識できなくなるなどの特徴があります。

精神症状

幻覚、意欲の低下、興奮しやすくなる、暴力的になる、脱抑制(理性的な行動ができなくなる)などの精神症状が現れます。

運動失調

手が震える、歩行の際にふらついて不安定になる、何かにつかまらないと歩けないなどの症状が見られることもあります。

アルコール性認知症のおもな治療法4つ

アルコール性認知症は、なるべく早期に医師の指導のもと治療を開始することが大切です。ここでは、アルコール性認知症の4つの治療法について解説します。

断酒

アルコールの摂取を絶つことで、認知機能や症状の改善が期待できます。ただし、アルコール依存症を患っているときは離脱症状が出る場合があるため、医師の指導のもとで行なうことが大切です。

断酒が難しい場合は、自助グループへの参加や、治療施設への入院などを検討しましょう。

食事療法

アルコールを多量に摂取すると、脳は栄養不足の状態になります。そのため、ビタミンB1・B2・B12や葉酸などが豊富に含まれた食事を摂取することが重要です。ウェルニッケ脳症の治療では、ビタミンB1の大量投与を行ないます。

薬物療法

断酒が難しい場合は、薬物療法を行ないます。薬物療法では、アルコールを摂取したい気持ちを抑える薬や、アルコールの分解を阻害する薬などが処方されます。

アルコールの分解を阻害する薬が処方されるのは、薬の作用により酔いやすくなることで、体がアルコールを求めなくなる効果が期待されるためです。

認知症と同時に脳梗塞などの脳血管障害を患っている場合は、リスク因子となる糖尿病などに対する薬物治療も行ないます。

生活スタイルの改善

早寝早起きや運動を習慣化させるなど、生活リズムを整え、今までの生活スタイルを改善させることが大切です。また、アルコールをいつでも気軽に摂取できる環境を変えることも忘れてはなりません。

例えば、家で多量のお酒を飲む習慣がある場合は、習い事やボランティアに行くなど定期的に外出するようにし、飲酒の機会自体を減らす心がけが必要です。

適切なアルコールの摂取量はどれくらい?

アルコールを多量に摂取すると認知症の発症リスクが上昇します。ただし、適切な量のアルコール摂取であれば、発症リスクに影響しないとされています。

また、まったくアルコールを摂取しない方よりも、少量のアルコールを摂取する方のほうが、認知症のリスクが低いという報告もあります。

厚生労働省によると、通常のアルコール代謝能がある日本人の節度ある適度な飲酒量の平均は、1日当たり純アルコールで約20gです。おもなお酒の種類と、それに含まれる純アルコール量を見てみましょう。

お酒の種類

アルコール度数

純アルコール量

ビール

(中瓶1500ml

5

20g

清酒

1180ml

15

22g

ウイスキー・ブランデー

(ダブル60ml

43

20g

焼酎

35度・1180ml

35

50g

ワイン

1120ml

12

12g

なお、「節度ある適度な飲酒」を考慮する際は、以下の点に気を付ける必要があります。
  1. 女性は男性よりも少ない量が適当
  2. 少量の飲酒で顔面紅潮を来すなど、アルコール代謝能力の低い者では通常の代謝能を有する人よりも少ない量が適当
  3. 65歳以上の高齢者は、より少量の飲酒が適当
  4. アルコール依存症者は、適切な支援のもとに完全断酒が必要
  5. 飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない
性別や体格など個人差はあるものの、アルコール摂取の適量を知っておくことは大切です。

認知症予防のためにも多量のアルコール摂取は控えよう


アルコールの多量摂取は、認知症リスクを高める可能性があります。

アルコール性認知症は、原因としてビタミンB1の欠乏による栄養障害や脳血管障害などがあげられます。なかでもウェルニッケ・コルサコフ症候群は改善が難しく、そうなる前に対策を講じる必要があります。

アルコール性認知症のおもな症状は、記憶障害や作話、見当識障害、精神症状などがあり、治療するためには、断酒や食事療法、薬物療法、生活スタイルの改善などが必要になります。

アルコール性認知症を予防するためにも、適度なアルコールの摂取量を守りながらお酒を楽しみましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年3月29日

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