認知症で「要介護3」になることはある?
要介護3になる基準と症状・受けられるサービス


要介護認定は、「要支援」から「要介護」まで、段階によって7つに分類されています。そのうち、介護サービスの内容や種類が大きく変わるといわれるのが「要介護3」です。

認知症の多くの方が要介護認定を受けていますが、「要介護3」になることはあるのでしょうか。また、「要介護3」に該当する認知症の症状や、具体的に受けられるサービスについて、気になるご家族も少なくないでしょう。

この記事では、どのような認知症の症状がみられると「要介護3」に該当するのか、「要介護3」で受けられるサービスは何かを解説します。

要介護認定で認知症が原因になる割合

要介護認定される方のうち、認知症を原因とするのはどの程度の割合になるのでしょうか。

高齢者が要介護・要支援になる原因

まず、厚生労働省の「2022年(令和4年)国民生活基礎調査の概況」をもとに、2022年に要介護認定を受けた人がどのような原因で介護が必要になったのかを紹介します。

分類

1

2

3

要支援者

要支援1

高齢による衰弱:

19.5

関節疾患:18.7

骨折・転倒:12.2

要支援2

関節疾患:19.8

骨折・転倒:19.6

高齢による衰弱:

15.5

総数

関節疾患:19.3

高齢による衰弱:

17.4

骨折・転倒:16.1

要介護者

要介護1

認知症:26.4

脳血管疾患

(脳卒中):14.5

骨折・転倒:13.1

要介護2

認知症:23.6

脳血管疾患

(脳卒中):17.5

骨折・転倒:11.0

要介護3

認知症:25.3

脳血管疾患

(脳卒中):19.6

骨折・転倒:12.8

要介護4

脳血管疾患

(脳卒中):28.0

骨折・転倒:18.7

認知症:14.4

要介護5

脳血管疾患

(脳卒中):26.3

認知症:23.1

骨折・転倒:11.3

総数

認知症:23.6

脳血管疾患

(脳卒中):19.0

骨折・転倒:13.0

全体の総数

認知症:16.6

脳血管疾患

(脳卒中)16.1

骨折・転倒:13.9

※単位は%

要介護者では介護原因の第1位が認知症

要支援者の段階では認知症を主原因とする認定は上位には見られません。しかし、要介護者になると、認知症を認定の原因とする人は総数の23.6%を占めており、要介護認定を受けた全体の総数でも認知症が一番多くなっています。

特に要介護1~3ではその傾向が顕著であり、今回取り上げる「要介護3」でも、要介護認定された原因の第1位は認知症です。

介護度の「要介護3」とは?

では「要介護3」とはどのような意味があるでしょうか。ここでは介護サービスにおける介護度の「要介護3」について、概要を説明します。

要介護認定は7段階ある

要介護認定には要支援1・2、要介護1~5の、合計7段階があります。

要支援より要介護のほうが、より介護を必要としていると判断され、数字が大きいほど介護度が重いとされています。

要介護3以上で、食事や入浴・排泄などの生活全体にサポートが必要と判断されるため、介護サービスでは要介護3が生活全体のサポートを考える節目とされているのです。

要介護認定は介護にかかる時間から判断

ここで、要介護認定とはどのようなものかを振り返ってみましょう。

日本には介護保険制度があり、要介護認定に基づいて介護サービスの給付額が決定します。日常的な家事などのサポートが必要な場合から、認知症や寝たきりの状態などで24時間の介護が必要な場合まで、どの程度の介護が必要かを判定するのが「要介護認定」です。

認定は市町村に設置されている介護認定審査会で行なわれるため、全国で同じように判定できるよう、客観的な基準が設けられています。

要介護認定は、介護にかかる手間を「介護時間」に換算して判定します。具体的には、要介護認定等基準時間の分類に応じて、一日にどの程度の介護時間が必要かを判断する流れです。身体は元気でも徘徊などがあって目が離せない認知症の方などは、状態を加味して判断されます。

介護内容の5分野の分類は以下のとおりです。

分野

内容

直接生活介助

入浴・排泄・食事などの介護

間接生活介助

掃除・洗濯といった家事援助など

問題行動関連行為

徘徊した際の探索や不潔な行為に対する後始末など

機能訓練関連行為

日常生活訓練や歩行訓練といった機能訓練

医療関連行為

輸液の管理やじょくそう(床ずれ)の処置などの診療補助

上記の5分野にかかる時間が、要介護認定等基準時間となり、要介護認定の判断に用いられます。1日当たりの基準時間の分類は以下のとおりです。

分類

要介護認定等基準時間の範囲

要支援

25分以上32分未満、またはこれに相当する状態

要介護1

32分以上50分未満、またはこれに相当する状態

要介護2

50分以上70分未満、またはこれに相当する状態

要介護3

70分以上90分未満、またはこれに相当する状態

要介護4

90分以上110分未満、またはこれに相当する状態

要介護5

110分以上、またはこれに相当する状態

要支援・要介護状態の大まかなイメージ

要介護認定は介護時間の長さを基準として判断されますが、実際のところイメージしにくいと感じる方もいるでしょう。

厚生労働省の報告では、要支援・要介護の状態について、以下のような状態像が見られると公開しています。

分類

内容

自立(非該当)

歩行や起き上がりなど日常生活上の基本的動作ができ、かつ、薬の内服・電話の利用といった手段的日常生活動作を行なう能力もある状態

要支援状態

日常生活上の基本的動作はほぼ自分で行なうことが可能だが、日常生活動作の介助や現在の状態の防止により、要介護状態にならないよう手段的日常生活動作について何らかの支援を要する状態

要介護状態

日常生活上の基本的動作を自分で行なうことが困難であり、何らかの介護を要する状態

 

要介護1

要支援状態から、手段的日常生活動作を行なう能力がさらに低下し、部分的な介護が必要となる状態

要介護2

要介護1の状態に加え、日常生活動作も部分的な介護が必要となる状態

要介護3

要介護2の状態と比較して、日常生活動作および手段的日常生活動作の両方の観点からも著しく低下し、ほぼ全面的な介護が必要な状態

要介護4

要介護3の状態に加え、さらに動作能力が低下し、介護なしに日常生活を営むことが困難な状態

要介護5

要介護4の状態よりさらに動作能力が低下しており、介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能な状態

認知症の要介護認定でチェックされる内容

要介護認定時には、「認定調査票」「主治医意見書」という書類が必要です。これには、麻痺や拘縮、寝返り、座位確保などの身体状況の情報や病名以外に、認知症に関する「日常生活自立度」について記載する項目があります。これにより、身体の状態だけでは判断できない認知症の方の状態が、よりわかるようになっています。

ここでは、認知症の方の要介護認定時にチェックされる日常生活自立度について理解を深めておきましょう。

認知症高齢者の日常生活自立度

認知症の方の生活自立度を判断する「日常生活自立度」は、「道に迷う」「金銭管理ができない」など、認知症ならではの症状から程度を判断します。

ランクの分類や、判定基準、症状・行動の例は以下のとおりです。

ランク

判定基準

見られる症状・行動の例

何らかの認知症を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立している。

 

日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる。

 

 

a

家庭外でも上記Ⅱの状態が見られる。

たびたび道に迷うとか、買い物や事務、金銭管理などそれまでできたことにミスが目立つ等

b

家庭内でも上記Ⅱの状態が見られる。

服薬管理ができない、電話の対応や訪問者との対応などひとりで留守番ができない等

日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さがときどき見られ、介護を必要とする。

 

 

a

日中を中心として上記Ⅲの状態が見られる。

着替え、食事、排便・排尿が上手にできない・時間がかかる、やたらに物を口に入れる、物を拾い集める、徘徊、失禁、大声・奇声を上げる、火の不始末、不潔行為、性的異常行為等

b

夜間を中心として上記Ⅲの状態が見られる。

ランクⅢaに同じ

日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。

ランクⅢに同じ

M

著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。

せん妄、妄想、興奮、自傷・他害等の精神症状や精神症状に起因する問題行動が継続する状態等

障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)

認知症の方の日常生活自立度以外に、「寝たきり度」を判定する「障害高齢者の日常生活自立度」もあります。こちらも、要介護認定に利用されています。

分類

ランク

症状の例

生活自立

ランクJ

何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており、独力で外出する。

1.       交通機関などを利用して外出する

2.       隣近所へなら外出する

準寝たきり

ランクA

屋内での生活はおおむね自立しているが、介助なしには外出しない。

1.     介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する

2.     外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている

寝たきり

ランクB

屋内での生活は何らかの介助が必要で、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ。

1.     車いすに移乗し、食事・排泄はベッドから離れて行なう

2.     介助により車いすに移乗する

ランクC

一日中ベッド上で過ごし、排泄・食事・着替えにおいても介助を要する。

1.     自力で寝返りをうつ

2.     自力では寝返りもうてない

自立度は認定調査票に記載

認知症高齢者の日常生活自立度と障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)は、「介護認定調査票(基本調査・特記事項)」や「主治医意見書」に記載欄があり、要介護認定の参考にされる要素です。

これらにより、身体が元気でありながら認知症の症状が重いというケースでも、要介護認定を受けられる場合があります。

認知症で「要介護3」に該当する具体的な症状

認知症の方の要介護認定は、先ほど紹介した日常生活自立度も参考に判定されます。しかし、要介護認定に用いる介護時間の長さは認知症の度合いによって変わるため、自立度がⅢの場合に要介護3になるといった直接的な関連性はありません。

ただし、調査票の内容などをもとに、全体像を推測することが可能です。要介護3になる人の症状について、具体例を紹介します。

身体面での症状

身体面では、以下のような症状が見られます。
  • 立った姿勢を保つことが難しい
  • 服の着替えや入浴・トイレなど、身体の衰えで身の回りのこと全般に介助が必要
  • 自力で立ち上がるのが難しい

精神面での症状

精神面では、以下のような日常生活に支障が出る行動が見られます。
  • 失禁
  • ものを口に入れたり拾い集めたりする
  • 徘徊する
  • 大声や奇声などを発する
  • 片時も目を離せないほどではないが、意思疎通の困難さが重度になる
  • 一人暮らしは困難

「要介護3」で利用できるおもな介護サービス5つ

最後に、要介護3で利用できる主要な介護サービスを、5つに分類して紹介します。

介護施設の入居

要介護3になると、特別養護老人ホームの入居対象となります。介護老人保健施設(老健)の利用度も高いようです。利用できる介護施設には以下のような種類があります。
  • 特別養護老人ホーム(特養)
  • 介護老人保健施設(老健)
  • 介護療養型医療施設
  • 介護医療院
  • サービス付き高齢者向け住宅
  • 認知症高齢者グループホーム
  • 介護付き有料老人ホーム
  • 住宅型有料老人ホームなど

ショートステイ

要介護3では、ショートステイ(短期入所)が利用できます。
  • 短期入所生活介護
  • 短期入所療養介護(医療型)

通所サービス

要介護3では、デイサービス(通所介護)やデイケア(通所リハビリテーション)が使えます。認知症に対応したプランもあります。
  • 通所介護(デイサービス)
  • 通所リハビリテーション(デイケア)
  • 認知症対応型通所介護(地域密着型サービス)
  • 地域密着型通所介護(地域密着型サービス)
  • 療養通所介護

訪問サービス

ホームヘルパーや看護師、医師、理学療法士などが自宅を訪問し、入浴などの身体介護や生活援助、看護などのサービスを提供します。
  • 訪問介護(ホームヘルプ)
  • 訪問看護
  • 訪問入浴
  • 訪問リハビリテーション
  • 居宅療養管理指導
  • 夜間対応型訪問介護
  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護

生活環境のための補助

生活環境を整えるため、介護に必要な用具の購入費支給やレンタルを利用可能です。住宅を改修するための費用支給などもあります。
  • 福祉用具の購入費支給
  • 福祉用具の貸与
  • 住宅改修費支給

認知症の「要介護3」は介護サービスを活用して介護環境づくりに役立てましょう


認知症で要介護認定を受けることは、もちろん可能です。

「要介護3」まで症状が進むと、ご家族や周囲の介護負担は大きくなります。一方で、利用できる介護サービスの内容は手厚くなります。介護サービスを活用し、ご本人・介護者が満足できる介護環境づくりに役立てましょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年3月29日

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