認知症保険は必要か?
メリットとデメリット・選び方のポイント


将来認知症になったときのリスクに備えるために、今から保険に加入したほうが良いのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

認知症保険に加入すると、認知症になった場合に保険金・給付金を受け取れる可能性があります。一方で、保険金の給付条件や加入できる年齢などは保険会社によってさまざまなため、どの保険に入れば良いのかわからないというケースは少なくないでしょう。

本記事では、認知症保険に加入すべきかどうか、認知症保険の必要性や特徴、介護保険との違い、認知症保険のメリット・デメリットや選び方のポイントについて解説します。

※認知症保険は保険会社によって内容や支給要件が異なるため、詳しくは保険会社の公式サイト等を確認しましょう

認知症保険とは

認知症保険は、将来認知症になるリスクに備えて加入する民間の保険です。一般的に、保険会社が定めている所定の認知症と診断を受けた場合に、一時金や年金が支給されます。

認知症保険の必要性

認知症リスクの高い高齢者の増加にともない、認知症患者数は増加し続けています。国際アルツハイマー病協会の推計によると、全世界の認知症患者数は2030年に7,600万人になり、2050年には1億3,500万人に達すると見込まれています。
 

参考:内閣府「平成29年版高齢社会白書」、首相官邸認知症施策推進関係閣僚会議(第2回)資料、厚生労働省老健局 社会保障審議会介護保険部会(第92回)「介護保険制度をめぐる最近の動向について」より当社試算
(65歳以上を対象として各年齢の認知症有病率が上昇する場合の数値を使用)

日本でも同様で、2012年には約462万人だった認知症有病者数が、2030年には1.7倍の約830万人に達する見込みです。

認知症になると、公的な保険では補えない介護費用や医療費が発生するケースは少なくありません。そのため、将来の経済的リスクに備えた認知症保険の必要性が高まり、注目されるようになりました。

認知症保険の特徴

公的な介護保険や医療保険は、介護サービスや治療といった現物給付のため、現金給付は原則ありません。一方で認知症保険は、保険金や給付金として現金を受け取れる点が特徴です。

認知症保険の保険金の支払い基準は、公的介護保険との関係に応じて以下の3タイプに分けられます。

・非連動型
・連動型
・一部連動型

非連動型は、保険会社が独自で支払い基準を決めているタイプです。一方、連動型は公的介護保険の認定基準に基づいて、支払い基準を決定しています。

一部連動型は、公的介護保険の認定基準を考慮しつつ、保険会社独自の支払い基準を設定しているタイプの保険です。

認知症保険で給付される保険金の種類

認知症保険で給付を受けられる保険金の種類は、おもに以下の3つに大別されます。

・一時金タイプ
・年金タイプ
・その他の給付金

一時金タイプの場合、認知症と診断された際に保険会社が定める基準に基づいて一時金が一括で支給されます。年金タイプは、認知症の介護費用を定められた期間と金額に基づき年金形式で受け取るタイプです。

このほかにも、認知症を予防するための予防給付金や、認知症と診断されたあとに精神疾患で入院した場合に支給される入院特約など、さまざまなタイプの給付金があります。

認知症の判断基準や、保険金の支払い条件は保険会社によって異なるため注意しましょう。

認知症保険と介護保険の違い

認知症保険と介護保険には、受給要件に大きな違いがあります。保険会社によって要件は異なりますが、一般的な内容は以下のとおりです。
  • 認知症保険:民間保険で「認知症と診断された」ことが受給要件
  • 介護保険:公的介護保険と民間介護保険があり「要介護認定された」ことが受給要件
認知症保険は民間保険ですが、介護保険には公的介護保険と民間介護保険が存在します。公的介護保険は原則40歳以上の場合に加入義務があり、介護保険料を納付しなければなりません。その代わり、要介護度や所得に応じて介護サービスを1~3割負担で受けられます。

一方の民間介護保険は、加入条件や給付条件が保険会社によって異なりますが、現金給付を受けられます。

認知症になった際に、公的介護保険と自己資金で賄えるのであれば、基本的には認知症保険に加入する必要はないでしょう。しかしながら、認知症にともなう介護は、認知症をともなわない介護よりも費用が多くかかると言われています。

公的介護保険や医療保険に加えて自力で備えておきたい場合は、認知症保険への加入も手段のひとつとなるでしょう。

認知症保険の3つのメリット

認知症になった、あるいは認知症で要介護状態になった際に給付を受けられる保険には、公的介護保険と民間介護保険、認知症保険があります。ここでは、認知症保険の代表的なメリットを3つ見てみましょう。

加入の年齢のハードルが低い

認知症保険は加入できる年齢の幅が広く、加入のハードルが低い点がメリットです。加入年齢の下限を20歳としているものがあれば、上限を80歳と設定しているものもあります。

将来の備えを考えたタイミングや認知症リスクに不安を感じたタイミングなど、必要性を感じたら比較的自由な時期に加入できる点は、認知症保険の大きなメリットといえるでしょう。

指定代理請求制度を利用できる場合もある

認知症保険では、指定代理請求制度を利用できます。指定代理請求制度とは、契約時にあらかじめ指定代理請求人を決めておくことで、被保険者に代わって保険金を請求できる制度のことです。

被保険者が認知症になると、本人による保険金の請求が難しくなるケースは少なくありません。そのような場合に指定代理請求制度を活用すれば、指定代理請求人のみの意思表示で保険金を受け取れます。

保険料が比較的安価

認知症保険は保険の適用が認知症に限定されているため、民間介護保険などに比べて保険料が安価に設定されている傾向があります。コストを抑えられる分、必要に応じて特約を付けられるようになるなどの選択肢も広がるでしょう。

また、内閣府が65歳以上の要介護者を対象に行った調査によると、介護が必要になった理由として最も多い原因が認知症で、全体の18.1%を占めています。
認知症が原因で要介護になるケースが多いことを考えれば、安価な保険料で介護費用が賄える点は認知症保険のメリットといえるでしょう。

認知症保険の2つのデメリット

認知症保険にはメリットが多い一方、デメリットもあります。自分や家族にとって最適な保険を選択できるように、注意すべきポイントをしっかり押さえておきましょう。

給付対象となる認知症が決まっている

認知症保険は、すべての認知症が給付対象になっているわけではありません。認知症保険を提供する保険会社によって給付要件が異なり、医師に認知症と診断された場合でも保険金給付を受けられない場合があります。

例えば、アルコール依存などが原因となる認知症の場合には、給付対象外になる商品が少なくありません。また、要介護度や日常生活自立度などが所定の基準を満たしていないと給付されない場合もあります。

認知症保険を選ぶ際は、契約前に対象範囲をよく確認することが重要です。

掛け捨ての商品が一般的

認知症保険は掛け捨て型の保険が一般的で、解約返戻金などは原則受け取れません。途中で解約した場合、保険金の給付が受けられないのはもちろんのこと、払い続けた保険料も戻ってこないため注意が必要です。

特に若いうちから保険加入した場合などは、保険料を払い続けられるかどうかを事前によくシミュレーションしておくようにしましょう。

認知症保険が役立つ3つのケース

認知症保険への加入が推奨されるケースとして、以下の3パターンが挙げられます。
  • 経済的な不安を軽減したい場合
  • 家族や周囲の人への損害に備えたい場合
  • 親の介護費用に不安がある場合
各パターンについて詳しく見てみましょう。

経済的な不安を軽減したい場合

認知症になると医療費や介護費のほかに、介護施設への入居費用、住居のバリアフリー化費用、介護ベッドや家具の購入費用など、状況に応じてさまざまな費用がかかります。

公的な介護保険や医療保険は、介護サービスや医療の現物給付となるため現金給付が受けられません。

認知症保険であれば現金が給付され、保険金の使途も自由なため、経済的な不安がある場合は認知症保険を検討するのもよいでしょう。

家族や周囲の人への損害に備えたい場合

認知症になると、記憶力が低下して現在の状況が把握できなくなったり、徘徊したりなど、行動の予測が難しいことがあります。最悪の場合、第三者に危害をおよぼすことも否定できません。

このようなケースでは、認知症患者本人は「責任無能力者」とみなされるため、法定監督義務者である配偶者や子、同居人などが賠償責任を問われる可能性があります。

認知症保険には、治療保障タイプのほかに「損害補償タイプ」と呼ばれるものもあります。損害補償タイプの保険に加入していれば、認知症で第三者に損害を与えた場合の賠償金などが補償されるため、配偶者や子など家族の万が一のリスクに備えられるでしょう。

介護費用に不安がある場合

認知症の場合の介護費用は、下図のように、通常の介護費用よりも高額になる傾向があります。自身だけでなく、親が認知症にかかったときのリスクに備えるために認知症保険を検討している方も少なくないでしょう。
 

参考:公益財団法人家計経済研究所「在宅介護のお金とくらしについての調査」(2016年)(月額金額をもとに当社にて推計/試算)
 「平成25年度 介護保険事業状況報告(厚生労働省)」「平成24~25年度 認知症者の生活実態調査結果(厚生労働省)」のデータより当社試算

親が認知症になったときに、親自身の預貯金などの資産が少ない場合は、家族が介護費用を負担しなければならないこともあります。

契約者を子、被保険者を親として加入できる認知症保険もあるため、経済的な不安を軽減する一つの選択肢として検討しておいても損はないでしょう。

認知症保険を選ぶ際の3つのポイント

認知症保険の種類は多種多様のため、自身や家族に合ったものを選ぶことが重要です。認知症保険を選ぶ際のポイントはいくつかありますが、おもに以下の3点を押さえておきましょう。

・保障の範囲や加入条件
・保障期間のタイプ
・保険金の受け取り方法

それぞれのポイントについて詳しく解説します。

保障の範囲や加入条件で選ぶ

認知症保険でカバーできる保障の範囲は保険会社ごとに異なりますが、認知症と診断された場合に保険金や給付金を受けられるタイプが基本といえるでしょう。これに加えて、先述した第三者に損害を与えた場合の費用を補償する損害補償タイプなどもあります。

そのほか、重度の認知症のみに対応しているものや、比較的軽度の症状でも給付を受けられるものもあるため、対象となる認知症の度合いを確認しておくとよいでしょう。

認知症のみに備えるか、認知症による要介護や認知症の予防・早期治療についても備えるかどうかも、保険を選ぶ際の重要なポイントです。加入できる年齢や、認知症以外の病気が対象になっているかについても確認しておきましょう。

保障期間のタイプで選ぶ

認知症保険を保障期間で分類すると、おもに定期タイプと終身タイプの2つがあります。

定期タイプは、契約時にあらかじめ決定した保障期間が経過すると、保障が終了するタイプです。一方で、終身タイプは保障が一生涯続くため安心ですが、一般的には定期タイプよりも保険料は高くなります。

いずれもメリット・デメリットがあるため、保険料と収入のバランスをみて自分に合ったタイプを選びましょう。

保険金の受け取り方法で選ぶ

保険金や給付金の受け取り方法に着目して、一時金タイプか年金タイプかで選択する方法もあります。一時金タイプは一度に全額の給付を受けられるため、入所する施設の入居費用など、初期費用としてまとまった金額が必要な場合に検討するとよいでしょう。

一方で年金タイプは、老齢年金などと同じように、定期的に給付を受け取れます。認知症の治療や介護にかかる月々の費用負担を軽減したい場合は、年金タイプを考えるとよいでしょう。

認知症保険に加入する際の3つの注意点

認知症保険は、選ぶ保険会社によって契約内容が大きく変わる点にも注意が必要です。認知症保険に加入する際に、特に覚えておきたい注意点を3つ解説します。

すぐに給付金を受け取れるわけではない

保険金や給付金の支払い基準は保険会社や商品によって異なりますが、多くのケースにおいて認知症と診断されても、すぐに保険金・給付金を受け取ることはできません。

例えば、公的介護保険と連動型の商品では、医師による診断に加えて要介護認定が給付要件になっている場合があります。また、要介護認定は申請から結果通知まで30-60日程度かかります。

そのほか、医師による認知症の診断後、一定期間症状が継続することを給付要件としている商品もあり、その場合は期間の経過を待たなければなりません。

免責期間がある点に注意する

認知症保険には、免責期間を設定されているのが一般的です。免責期間とは、保険加入直後の一定期間であり、この期間に認知症になった場合は保険金や給付金は支払われません。

保険会社によって設定している免責期間の長さは異なりますが、多くの場合、90日~2年間ほどとされています。そのため、できるだけ早めに加入したほうが、免責期間のリスクを避けられるでしょう。

加入検討時は家族や親族に相談する

認知症になると、被保険者本人が保険に加入していることそのものを忘れてしまうこともあり得ます。加入していることを家族が知らないと、契約して長年保険料を支払っていたにもかかわらず、保険金・給付金を受け取れないということにもなりかねません。

先述のとおり、認知症で被保険者が保険金・給付金請求を行えない場合、指定代理請求制度によって指定代理請求人が代わりに請求できます。

指定代理請求人はあらかじめ指定されたことに同意し、認識しておく必要があるため、必ず家族・親族間で認知症保険の内容について相談・共有しておきましょう。

もしものときに備えて自分に合った認知症保険を検討しよう


認知症保険は加入できる年齢が幅広く、費用負担を抑えられるケースが多い点がメリットです。ただし、保険会社によって保障内容が大きく異なるため、自分や家族に合ったものを選ぶことが重要です。

将来の認知症リスクに備え、精神的・経済的負担を軽減するためにも、家族・親族などとよく相談しながら最適な選択ができるようにしましょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

CFP 齋藤 彩

急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(Certified Financial Planner)

公開日:2024年7月4日

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