認知症の方が言うことを聞かない原因とは?行動例や対処のポイント


認知症の家族が指示を聞いてくれないとき、なぜなのかと戸惑いや悲しみを感じることがあるかもしれません。ただ、認知症の方が言うことを聞かないように見えるのには理由があるため、周囲はその理由を理解し、適切な対処法を見つけることが大切です。

本記事では、認知症の方が言うことを聞いてくれない原因と行動例、なかでも特に注意すべき認知症の方の行動を解説します。

また、言うことを聞いてくれないときに気をつけたい周囲のNG行動例や認知症の方々への適切な接し方のコツも紹介します。

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認知症の方が言うことを聞かない原因と行動例

認知症になると、脳の病気や障害によって認知機能が低下し、さまざまな中核症状(脳の働きの低下により起こる症状)が表れます。認知症の方が言うことを聞かないように見える原因は、この中核症状が原因の場合が多くあるのです。そこで以下では、中核症状の種類とそれぞれに紐づく行動例を解説します。

記憶障害

記憶障害は認知症の代表的な症状の一つで、過去の記憶が薄れていくのが特徴です。予定やルーティン、直前に聞いたことが記憶から抜け落ちてしまうため、周囲には指示やルールに従っていないように見えることがあるでしょう。

例えば、「食後に薬を飲むよう伝えたにもかかわらず飲み忘れる」場合、認知症による記憶障害では「うっかり忘れる」のではなく、数分前に会話したこと自体が記憶から失われているのです。

見当識障害

見当識障害は、自分が置かれている状況(場所、日時、季節、他人との関係性など)を正しく認識できなくなる症状です。状況を把握できないため、言われたことが現在の自分に当てはまらないと感じてしまい、指示に従わないことがあります。

例えば、「時間の認識ができなくなるため約束の時間が守れなくなる」「季節がわからないため気候に合わせた服装をしない」といった行動が見られます。

理解・判断力の低下

認知症によって理解力や情報処理能力が低下すると、物事の正常な判断が困難になるほか、善悪の判断ができなくなることもあります。特に、一度に複数の指示をされると情報を処理しきれないことから、言うことを聞かないように見えることがあるでしょう。

例えば、「着替えてから出かけましょう」と伝えても、「着替える」「出かける」の両方を一度に理解するのは難しい可能性があります。

また、曖昧な指示も理解しづらくなります。例えば、「(寒いので)温かくしてね」のような曖昧な声かけでは適切な行動をとれないことがあるため、指示に従っていないように見られるかもしれません。

実行機能障害

実行機能障害が起こると、目的に向かって計画的に行動できなくなることから、料理や買い物などの日常生活が困難になります。

例えば、「炊飯器でご飯を炊いているうちにみそ汁とおかずを作り、調理が終わったら片付けをする」のような、順序立てた行動が難しくなるでしょう。この場合、「ご飯を炊く」「調理器具を洗う」など一つずつの行動はできても、料理全体を計画的に進めるのが難しいのです。そのため、周囲からはアドバイスをされても行動していないように見えるケースがあります。

失認・失語・失行

失認・失語・失行とは、認識・言語・行動などの面で、以前はできていたことができなくなる症状です。

言葉がうまく出てこない(失語)、服を着られない(失行)といった症状のほか、空間の片側半分だけ認識できなくなりご飯を片側だけ残す(失認)などの症状も見られます。以前はできていた受け答えや行動をしなくなるため、言うことを聞かないように見えるかもしれません。

認知症で注意すべき症状

認知症になると、言うことを聞かないケースがしばしば見られるようになります。かといって、すべてに対処するのは、周囲の負担も考えれば現実的ではありません。

ただし、以下のような症状が見られたときは、本人や周囲の安全面に影響があるため、特に注意して早めに対処したいところです。

徘徊

徘徊とは、道がわからなくなる、目的を忘れてしまうなどの理由により歩き回ってしまう状態を指します。徘徊は行方不明になったり、事故にあったりするリスクがあるため、行動が見られた際は、早めに対応したい症状の一つです。

徘徊は認知症の中核症状からくる行動です。よって対処する際は「ただ歩いているのではない」とまず理解してあげることが大切です。

なお、足取りがしっかりしているケースもあり、周囲が徘徊と気付きにくいこともあります。疑わしいと感じたら注意深く観察してみてください。

暴言や暴力

認知症の方は、感情が暴言や暴力のかたちで表れることがあります。これは、思っていることをうまく表現できない苛立ちや不安が、脳機能の低下によって抑えられなくなることがおもな要因の一つです。

暴言や暴力を放置すると、ご家族だけでなく外出の際などに無関係の周囲に迷惑をかけてしまうこともあります。

暴言や暴力の傾向が見られたら、こうした行動の背後にある理由を理解して適切な対処が必要です。過去の行動パターンや状況を観察し、感情の高まりを見逃さずに「どうかしましたか?」などと声かけをして、気持ちを落ち着かせるようにしましょう。

介護拒否

認知症の方のなかには、介護を嫌がる人がいます。これは、自尊心が傷つけられたと感じたり、脳機能の低下により介護の意味が理解できなかったりするためです。

介護を拒否されてしまうと、介護する側が計画的に動けなくなるなど、日常生活に影響が出てしまいます。この場合は、介護拒否の背後にある理由を尊重し、コミュニケーションを通じて信頼関係を築く姿勢を見せることが重要です。

異食

異食とは食べ物以外を口にする症状で、認知機能の低下によって、食べ物かどうかの判断がつかなくなることが原因です。また、不安やストレスから異食が起こることもあります。

異食は、緊急事態を引き起こす可能性もあるため、特に口にすることで生命にかかわるもの(電池やたばこなど)を目の付く場所に置かないようにするなど、生活環境を整える配慮が必要です。

言うことを聞かないときの周囲のNG行動例

認知症の方が言うことを聞かないと感じたとき、周囲はさまざまなアプローチを試みる必要があります。ただ、以下に挙げたような働きかけは、認知症の方に対しては避けましょう。

責める・叱る

認知症の方が間違った行動をとってしまっても、本人は自分の行動が間違っていると認識しているとは限りません。そのため、責めたり叱ったりすると、本人との信頼関係を崩してしまうことがあります。そもそも間違っていると認識していない可能性も考慮したうえで、指示やルールを理解しやすい方法で伝えましょう。

放置や無視

認知症の方は放置されたり無視されたりすると、ストレスや不満、焦燥感が高まり、暴力的な言動につながることがあります。

また、放置や無視によって募る孤独感は、感情のコントロールを妨げる原因にもなりかねません。サポートやコミュニケーションを通じて、認知症の方の不安や孤独感に寄り添うことが大切です。

誘導する・急かす

認知症の方に対して、強く行動を誘導したり急かしたりするのは避けましょう。相手のペースを尊重し、こちらの都合や要望を押し付けないことが重要です。過度なプレッシャーや急かしは逆効果となり、反発して余計に動かなくこともあるため注意しましょう。

認知症の方と接するときの5つのポイント

次に、認知症の方に接するときのポイントを5つに分けて解説します。認知症の方は自分の言動に関する記憶がなくなりがちであるため、周囲からの嫌悪や叱責の理由がわからないことがあります。

一方で、嫌悪感を抱かれていることは伝わるため、本人が不安を募らせることにつながります。周囲は認知症の症状を正しく理解し、適切な接し方を知ることが必要です。

傾聴する

認知症の方の話を聞くときは、気持ちや思いを汲み取ろうとする傾聴の姿勢が大切です。決めつけたり聞き流したりせず、理解したいという真摯な態度で耳を傾けましょう。

感情や思考の背後にある意味を読み取ることで、信頼関係が生まれ、理想的なコミュニケーションが生まれやすくなります。

目線を合わせる

会話の際に認知症の方が座っている場合や寝ている場合などは、周囲の方もそれに合わせて目線を下げることが重要です。

立ったまま上から話しかけると、相手に威圧感や不快感を与えかねません。相手と同じ目線で会話をすることで、より良い信頼関係を築くことにつながります。

ゆっくり大きな声で話す

徘認知症の方は、早口の会話は理解しづらい傾向があります。そのため、大きな声でゆっくり話すなど、相手が理解しやすい会話を心がけるとよいでしょう。

ただし、突然大きな声で話しかけると驚いて混乱することもあるため、話しかける場面では適切な声のトーンを心がけましょう。

短く簡潔に話す

認知症の方は、複数の情報を一度に受け取るのが難しいことがあります。会話はなるべくシンプルで短く、一度に一つのことだけを伝えるように心がけましょう。無駄な情報や細かい指示は避け、端的に情報を伝えることが大切です。

日常の障害を取り除く

認知症の方が生活をスムーズに送るためには、日常の障害となる事柄を取り除く工夫が必要です。

例えば、忘れてしまうことを前提に、あとからでも思い出せる工夫をしておくのは一つの手です。

具体的には、「予定や大切な情報を大きく書いて、目につくところに貼りだす」「食事後の食器をあえて出したままにしておく」などが考えられます。

また、部屋の模様替えは控えるなど、生活の変化を最小限にするように心がけましょう。無用な変化を避けることで、認知症の方がストレスなく生活できる環境が整います。

言うことを聞かない理由があるという理解が大切


認知症の方が周囲の言葉や指示に従わない理由には、記憶障害や判断力の低下などの中核症状が影響している場合があります。

言うことを聞かないと感じた場合は、認知症特有の症状による可能性もあるため、理解をもって接することが大切です。

なかには、徘徊や暴言、介護拒否などの注意すべき行動が見られることもあるので注意しましょう。

認知症の方とのかかわりで大切なのは、どのような言動に対しても責めずに傾聴し、目線を合わせて簡潔な指示を心がけることです。

理解と共感をもって認知症の方との関係を築き、穏やかなコミュニケーションをとることを目指すとよいでしょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年10月2日

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