認知症の症状による問題行動とは?
対処法を知って適切に接しよう


認知症を発症すると、ただ忘れっぽくなるだけでなく、怒りっぽくなったり判断力が低下したりするなど、問題行動につながることも少なくありません。

問題行動には理由があり、それを知ることで対処が取りやすくなるでしょう。一方で、きちんと向き合わずに放置してしまうと、症状の悪化だけでなく介護者の疲れにもつながります。

また、問題行動は認知症の種類によっても対処法が異なるため、それぞれの特徴を理解することが大切です。まずは、認知症の種類を把握して対処方法を試し、改善が見られないときには専門機関に相談することも視野に入れておきましょう。

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認知症の種類はおもに4つ

初めに、おもな認知症の種類を解説します。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、神経細胞が破壊されて脳が萎縮することで発症する認知症です。物忘れが多くなる、徘徊や性格が変わるといった症状が見られます。

認知症の種類として最も多いものであり、2019年の厚生労働省による調査では、日本人の認知症全体の約67%※を占めています。

脳血管性認知症

脳血管性認知症はアルツハイマー型の次に多く、全体の約20%※を占める認知症です。脳出血や脳梗塞など、脳の病気が発症のきっかけになります。
脳のどこが侵されたかによって症状は異なりますが、進行すると手足の筋力低下や麻痺、感情のコントロールが難しくなるといった症状も現れることがあります。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は認知症全体の約4%※を占めており、上記の「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」とともに三大認知症といわれています。レビー小体というタンパク質が蓄積し神経を破壊することで発症するといわれています。

転倒しやすかったり、歩行しづらかったりするパーキンソン症状、現実にないものが見えるといった幻視の症状が特徴的です。知識がなければ認知症とは気づきにくいかもしれません。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、全体の約1%※と非常に少なく、難病に指定されています。言葉の記憶や理解ができなくなったり、知っている相手の顔がわからなくなったりするなどが挙げられます。
性格の変化も見られるため、周りは戸惑うかもしれません。さらに、万引きといった行動が増えることも報告されており、社会性への障害が現れる傾向にあります。

認知症の症状によって起こる問題行動

認知症は本人だけの問題ではなく、周りにもさまざまな影響をおよぼします。なかでも、認知症の症状によって起こる問題行動には、戸惑ってしまう方も多いのではないでしょうか。

認知症の症状は、認知症の基本的な症状となる中核症状と2次的な周辺症状に分けられます。これら2つの症状から見られる問題行動を詳しく見ていきましょう。

中核症状の場合

認知症の中核症状はおもに、記憶障害や見当識障害など、認知症に見られる基本的な症状が該当します。

例えば記憶障害は、覚えること自体が困難になり、進行すると覚えていたことも忘れてしまうことが特徴です。具体的には、病院の受診日を忘れてしまう、食事をしたこと自体を忘れてしまう、つい先ほど話したばかりの人に「久しぶり」と声をかけるなどの症状が見られます。

見当識障害では、自分と他者の関係性が理解できなくなったり、場所や時季がわからなくなったりする症状が現れます。具体的には、外出時に家までの道順を忘れて帰れなくなる、孫を息子・娘と認識する、冬に半袖を着るなど季節に見合った服を選べなくなるなどです。

その他、言葉が出てこなかったり、相手の質問が理解できずに意味不明な回答をしてしまったりするケースも見られるでしょう。

周辺症状(BPSD)の場合

周辺症状はBPSDとも呼ばれ、上記で述べた中核症状に付随して起こる症状です。本人の性格、周囲の人間関係、置かれた生活環境など、あらゆる要因が絡み合って見られるため、症状の現れ方には個人差があります。

周辺症状による問題行動の例として挙げられるのは、他者に対する暴言や暴力、徘徊、物を盗まれたと思い込む物盗られ妄想などです。ほかにも症状は多くあり、認知症の進行度合いや、前述したアルツハイマー型認知症などの原因疾患によっても現れる症状は変わってきます。

認知症の症状による問題行動の対処方法

認知症の症状による問題行動が発生すると、ついつい本人を否定したり行動を制限したりしてしまいます。もちろん、場合によっては危険なこともあるため、すべての対処が間違いということではありません。

しかし、知識なく問題行動に対処することは難しく、症状を悪化させる可能性もあります。まずは、問題行動にどう対処していくのかを理解しておくことが大切です。

本人の気持ちを理解する

認知症は、認知症となった本人でも違和感を覚えたり、将来に対し不安になったりします。それにもかかわらず、それらを周囲にうまく伝えられないゆえにもどかしく感じ、より不安を募らせることも珍しくありません。

これらに対し、認知症だからと適当にあしらわずに、一人の人間として気持ちを理解し丁寧に接することが大切です。例えば、毎日のように同じ話をされてもしっかりと聞く、失敗しても否定しないといった対応を取ることを心がけましょう。

環境を変化させない

認知症の方は環境の変化に敏感で、変化を感じると強いストレスを感じ、メンタルも不安定になりがちです。また、環境の変化が周辺症状を引き起こすきっかけになることも少なくありません。

環境の変化とは具体的に、日課となっていることを急に止めること、突然の引っ越しや部屋の模様替えなどです。

これらに対し、本人のペースに合わせ、極力環境の変化をきたさないよう心がけることが大切になります。もし引っ越しが必要な場合は、家具などの配置をこれまでと大きく変えないようにするなどの工夫が必要です。

問題行動の理由を考える

問題行動は、一見すると意味や理由がないように感じますが、本人からすると理由があります。そのため、「なぜこのような行動を取るのか」を周囲は考え、理解しようとすることも大切です。そのためにも、周囲の人は認知症の方の行動を注意深く観察するとよいでしょう。

認知症の方は、記憶障害があっても、自身の失敗や受けた注意は負の感情として残る傾向があります。そのため、周囲が問題行動に対し叱ったり否定したりすると、認知症の方本人は相手を「すぐ怒る人」などとネガティブな印象を持ちかねません。そうなると、介護に支障をきたし、認知症の方はさらに不安定になってしまうでしょう。結果として問題行動につながってしまうことも少なくありません。

したがって、まずは、すぐに怒ったり注意したりすることは避けるようにしてみてください。優しく、共感的態度で接することがスムーズな介護につながる可能性が高いでしょう。

距離をとる

問題行動に対処する基本は本人の気持ちを理解することですが、すべて介護者が負担する必要はありません。どちらも同じ人間のため、自然ではなく無理をしていると介護疲れに繋がってしまいます。

特に、暴言や暴力など、いくら理解しようとしても難しい問題行動もあります。こういった場合は我慢し続けるのではなく、一度距離をとってみるのも一つの方法です。

「自分しか介護する人間がいない」という場合もありますが、責任を強く感じすぎてもよくありません。完全に施設に任せるだけではなく、デイサービスで少しの間離れるだけでも気持ちに余裕が生まれるものです。

薬物療法を行なう

認知症には、中核症状の進行を遅らせるための手段として薬物での治療法があります。その際におもに用いられるのは、受容体拮抗薬、コリンエステラーゼ阻害薬といった保険適用される抗認知症治療薬が代表的です。

また、脳腫瘍などの病気からくる認知症には、その病気の治療(手術や服薬)によって認知症の改善が期待できます。

さらに、薬物療法は周辺症状に対しても有用です。その際に用いられる薬には、大きく分けて以下の2通りがあります。

・興奮状態などの「過活動症状」を抑制する薬:抗精神病薬、抗てんかん薬など
・うつ状態や意欲低下などの「低活動症状」を抑制する薬:セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)など

薬物療法を検討したい場合は、医師に相談してみるとよいでしょう。

認知症の問題行動は一人で抱え込まずに相談しよう

認知症の方の問題行動は、人に相談せずに抱え込んでいる方が多くいます。家族だけの問題と考えるかもしれませんが、「人を巻き込んではいけない」と考えないようにしましょう。悩んだときには誰かに相談することも大切です。

親族に相談する

もし、一人で介護しているのであれば、親族にも相談してみてください。兄弟や叔父叔母などに話を聞いてもらうだけでも大丈夫です。

悩みを話すだけでも気持ちが楽になることは多く、ほかの解決方法を提案してもらえるかもしれません。知人であっても、認知症の方の問題行動で悩んだ経験がある可能性もあります。こういった場合にはアドバイスをもらえることもあるため、誰かに相談することは重要です。

介護サービスに相談する

デイサービスセンターやショートステイなどの介護サービスには、ケアマネジャーをはじめとした介護の専門家がそろっています。認知症の方の介護もしているため、的確なアドバイスがもらえるかもしれません。

まずは、施設の利用を考えての相談をしてみてください。自分で調べても構いませんが、お住まいの市町村の地域包括支援センターで相談にのってもらうのもおすすめです。認知症に関する相談から施設探しまで、助けになってくれるでしょう。

医療機関に相談する

現在服用している薬やその副作用が原因で、認知症のような症状が出ている可能性もあります。そのため、認知症を疑うような症状がある場合には、医療機関に相談しましょう。なお、薬が原因だと疑って自己判断で薬をやめることはおすすめしません。

相談先としてまず挙げられるのは、かかりつけ医です。かかりつけ医がいる場合はかかりつけ医に、かかりつけ医がいない場合は物忘れ外来など、認知症を専門に診る医師がいる医療機関がおすすめです。

症状の原因が薬によるものであっても、認知症によるものであっても、まずは受診して医師の判断を仰ぎましょう。

認知症の方の問題行動は原因を理解してから対処することが大切


認知症の症状によって起こる問題行動はさまざまです。特に周辺症状は中核症状だけではなく、本人の性格や心理状態によっても変化します。

すべての問題行動に対処するのは難しいですが、原因や理由を知ることで対処はしやすくなるでしょう。それでも対処するのが難しくなった場合には、一人で抱え込まないことが大切です。

まずは、親族にも相談し、場合によっては専門機関なども頼ってみてください。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年10月27日

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