認知症でおしゃべりが止まらないのはなぜ?
原因と対処法


両親や祖父母などと会話をしていると、いつもと様子が違うと感じることはありませんか。こちらの話を気にせず一方的に話し続けたり、おしゃべりが止まらない状態だったりする場合、それは認知症の症状かもしれません。

この記事では、認知症のおもな種類、認知症になるとおしゃべりが止まらなくなる原因、おしゃべりが止まらない方と接するときの対処法や注意点を紹介します。

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認知症の種類

認知症は病気によって引き起こされる状態や症状の総称をいいます。
認知症は多くの種類がありますが、アルツハイマー型・レビー小体型・血管性・前頭側頭型を「4大認知症」といいます。まずは、4大認知症について理解しておきましょう。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、思考、行動、記憶に異常が起きる脳の病気です。
4大認知症のなかでも、アルツハイマー型認知症の割合は最も多く、65歳以上では全体の67.6%を占めています。
アルツハイマー型認知症になる原因の一つは、脳のなかにアミロイドβという不要なたんぱく質が溜まることといわれています。それが原因で神経細胞を破壊され、脳が萎縮することにより認知症の症状が出てくるのです。
加齢や遺伝が原因ともいわれていますが、明確なことはわかっていません。代表的な症状は物忘れで、初期の段階で適切な治療を受ければ症状の進行を遅らせることも可能です。

脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血が原因の認知症を脳血管性認知症といい、65歳以上では認知症全体の約20%を占めています。
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により、細胞が死滅して発生します。
脳梗塞や脳出血は高血圧や糖尿病などの生活習慣病が原因でもあるため、生活習慣の改善が病気の再発防止や脳血管性認知症の予防にもつながります。

脳血管性認知症の症状は、おもに記憶障害や判断力障害となりますが、障害のある脳の部位
によっては歩行障害や手足のしびれなども表れます。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、レビー小体という脳の神経細胞にできる特殊なたんぱく質が脳に溜まり、神経細胞を破壊することで起こる症状です。男性の発症率が女性の約2倍といわれ、ありありとした幻視(現実にないものが見えてしまう)が症状として特徴的です。

「知らない人が立っている」など実際には見えないことを見えるように発言があった場合、レビー小体型認知症の症状である可能性があります。

ほかにも手足が震えてうまく動けなくなるパーキンソン症状や歩行障害などもあり、転倒しやすくなる点には注意が必要です。睡眠時に大声を出すなどの異常行動も見られる場合があります。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、前頭葉および側頭葉の萎縮や機能低下により発症するといわれています。原因として、脳にピック球という異常構造物が溜まって発症する場合と、TDP-43というたんぱく質が溜まって発症する場合があるといわれていますが、どちらもなぜ溜まるのか明らかになっていません。

認知症のなかでは前頭側頭型認知症のみ難病指定されており、一般的に40-65歳の比較的若い年齢での発症が多く※、症状は10年以上かけてゆっくりと進行します。
おもな症状は、性格の変化や異常行動です。感情が麻痺するため、ぼんやりすることが増えたり、身だしなみに無頓着になったりします。同じ言動を繰り返したり、集中力の欠如から会話を続けるのが困難になったりすることもあるでしょう。

認知症でおしゃべりが止まらない原因

認知症の種類にかかわらず、おしゃべりが止まらなくなる場合はありますが、それには以下のような原因が考えられます。

記憶障害

記憶障害は、物事を覚える記銘をつかさどる脳の側面にある側頭葉の海馬が萎縮すると起こります。ややこしいかもしれませんが、認知症による記憶障害と単なる物忘れは同じではありません。

記憶障害になると、本人に自覚がなく、「食事をした」「会話をした」といった出来事自体を記憶できなくなります。特に最近の出来事ほど記憶できないのが特徴です。

一方、物忘れは、記憶した出来事を思い出すのが困難になることです。食事をしたことは覚えていても、何を食べたか覚えていないような状態は、物忘れの可能性が高いでしょう。

記憶障害になり出来事を記憶できなくなると同じことを繰り返し尋ね、おしゃべりが止まらなくなる場合もあります。ときには話がまとまらない状態にもなるでしょう。

見当識障害

見当識とは、自分が置かれている状況を正しく認識する能力のことで、自分の居場所や現在の時刻などがわからなくなることを、見当識障害といいます。

アルツハイマー型とレビー小体型の認知症でよくある症状です。記憶障害とは異なり、今自分が置かれている状態がわからなくなったり、判断できなくなったりします。

例えば、今日は何月何日なのか、今自分はどこにいるのか、今は何時なのかといったことがわからない場合は見当識障害の可能性が高いでしょう。

見当識障害の症状が現れると、自分の置かれている状況を尋ね続け、おしゃべりが止まらない症状と似たような状態になります。また、自分が今どこにいるのかわからないため、徘徊をする場合もあるでしょう。

不安

認知症になり出来事を記憶できなかったり、自分の置かれている状況がわからなかったりすると不安を感じます。常に何か忘れているかもしれないという不安を抱えていると、安心するために同じことを繰り返し尋ねてしまいます。

認知症が原因で、何かうまくいかなかったり不安を感じたりすると不機嫌になる場合もあるでしょう。それが怒りに変わり、怒鳴り続けることもあります。

認知症でおしゃべりが止まらない方と接するときの対処法

認知症の症状だとわかっていても、おしゃべりが止まらない方の相手をしているとストレスが溜まるでしょう。そのようなときに役立つ対処法を紹介します。

うまく聞き流す

認知症でおしゃべりが止まらない方を否定するのは厳禁ですが、すべての会話を真剣に聞き入れる必要はありません。ときには軽く受け流してもよいでしょう。そのほうがストレスも軽減できます。

受け流す場合は、「そうなんですね」程度の相槌で十分です。「あとで聞かせてください」と断るのも問題ありません。また、受け流していると話し疲れて会話が終わることもあります。

ただし、あまりにもおざなりな対応にならないように注意してください。認知症の方がないがしろにされていると感じるおそれがあるため、しっかりと顔を向けて対応するなどを意識しましょう。

オウム返しをする

相手の発言をそのまま返すオウム返しという会話のテクニックがありますが、これをおしゃべりが止まらない方に活用するのもおすすめです。例えば、「この間散歩に出かけた」と繰り返し話している場合、「この間散歩に出かけたんですね」と返すだけで構いません。

これだけでも話を聞いているという意思表示となり、認知症の方は安心できます。オウム返しを繰り返しているうちに、会話が落ち着いてくる場合もあるでしょう。もし何を言っているのかわからない場合でも、語尾だけ、もしくはわかる部分だけをオウム返しすれば問題ありません。

初めて聞いたときと同じように答える

認知症になると、少し前に聞いたことでも聞いたこと自体を忘れてしまう場合もあります。そのため、同じことを繰り返し尋ねてきた場合には、初めて尋ねられたときと同じように答えるのが適切な対応です。

例えば、「今日は何月何日か」と聞かれて「○月○日です」と最初に答えたあと、何度も今日の日付を聞かれても「○月○日です」と答えるようにしてください。「さっき答えましたよ」と指摘してしまうと、尋ねたこと自体を忘れている認知症の方にとっては不安や苛立ちにつながるおそれもあります。

話題を変える・意識をそらす

聞かれたことに答えながら、うまく話題を変えるのも効果的です。例えば、今日の日付を聞かれた際には、「今日は○月○日です。もうすぐ○○があるので楽しみですね」といったように話題を変えられます。うまくいけば日付を尋ね続ける状態が止まり、新しい話題で会話を楽しめるでしょう。

また、ほかのことに意識をそらすのもおすすめです。例えば、音声認識人形を活用してもよいでしょう。趣味や楽しみに興味を向けさせるのも効果的です。
音声認識人形についての説明はこのあとにあります。

不安や不満を解消する

認知症の方は、不安や不満を感じていることの話を繰り返す傾向にあります。そのため、不安や不満を解消するとおしゃべりが収まる可能性もあります。例えば、日付を何度も尋ねてくるなら、目に付く場所にカレンダーを置くとよいでしょう。

時間を繰り返し聞いてくる場合は、近くに時計を置いてみてください。自分で確認できるようになれば、同じ質問を繰り返さなくなるかもしれません。

<参考>音声認識人形の活用
音声認識人形とは、言葉を理解して会話できる人形のことです。男の子や女の子、犬、猫などを模したものがあり、うまく取り入れれば家族の代わりに認知症の方の話し相手になってくれるでしょう。

音声認識人形は会話だけでなく、例えば、歌を歌ったりひとりごとを言ったりもします。特徴的なのは、会話の内容が季節や時間帯などによって変わる点です。

歌も季節に合わせたものを披露してくれます。目覚まし機能や日時や曜日を教えてくれる機能もあり、見当識障害がある方にも適したアイテムです。

認知症でおしゃべりが止まらない方と接するときの注意点

認知症でおしゃべりが止まらない方との接し方を誤ると、逆に認知症を悪化させてしまうおそれもあります。以下で紹介する点に気を付けて、おしゃべりが止まらない方を安心させてあげましょう。

否定しない・怒らない

認知症の方の話を否定してはいけません。否定するとそのとき感じた不安が残り、認知症の悪化につながります。「さっきも言ったでしょう」や「もうご飯は食べたでしょう」など、否定的なことを言うのは避けてください。

また、「どうしてできないの」「早くして」などと怒るのも厳禁です。怒られた記憶が残り、ストレスが蓄積して認知症の悪化につながります。

目線を合わせて大きな声でゆっくりと話す

目線を合わせて会話をするのも重要です。認知症の方のなかには、ベッドに寝たきりの方や車いす生活の方もいます。そのような方に立ったまま話しかけると、威圧感や不安を与えるおそれがあります。

目線が合う高さまでしゃがみ、目を見て話すようにしてください。その際、耳もとで大きな声で話しかけるとなおよいでしょう。声が小さくて聞こえないと、言葉が理解できなくなってしまったと思い込む可能性もあるため、注意してください。

認知症でおしゃべりが止まらない方と上手に接しよう


認知症でおしゃべりが止まらないおもな原因には、記憶障害と見当識障害、不安の3つです。おしゃべりが止まらない方の対処法には、初めて聞いたときと同じように答える、話題を変えるなどがありますが、会話に熱心に付き合うのはストレスにもなります。

時には、聞き流したりオウム返しで済ませたりしても問題ありません。話の内容を否定したり怒ったりせず、うまく対応するようにしましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年1月26日

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