認知症の方に見られるアパシーとは?
症状の特徴・改善方法・接し方


認知症の方にあらわれる症状のうちの一つとして、アパシーという症状があります。名前を聞いたことはあるものの、実際に出現する症状は知らないという方もいるのではないでしょうか。

アパシーとは、認知症に見られる行動・心理症状(BPSD)の一つです。ほかの疾患と似ている症状も見受けられるため、慎重に様子を見守り適切な判断と対応をすることが求められます。

この記事では、アパシーとは何か、症状の特徴や改善方法、接し方などについて解説します。

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「アパシー」とは認知症の方に見られる症状の一つ

アパシーとは、自分の身の回りのことや周囲の出来事に対して無気力・無関心になる状態を指します。もともとは社会学の概念でしたが、近年では心理学や医学の分野でも広く用いられるようになりました。

アパシーは、認知症の周辺症状(BPSD)の一つとして知られており、特にアルツハイマー型認知症において高い頻度で見られるとされています。また、脳血管障害(脳梗塞や脳出血など)によって起こる脳血管性認知症でも、アパシーが出現することがあります。

さらに、パーキンソン病や頭部外傷の後遺症としてアパシーを発症するケースも報告されています。

アパシーの症状

 
アパシーを発症すると、生活習慣の乱れが顕著になり、日常的な行動にも無精が現れます。例えば、着替えをしない、外出を避ける、歯磨きや入浴などの基本的な身だしなみを怠る、といったことが見受けられるようになることがあります。

また、感情の起伏や表情が乏しくなるなど顔つきにも変化が見られることがあります。さらに、認知症によってアパシーを発症した場合は、失語などの症状をともなうケースがあるため、円滑なコミュニケーションが困難になる可能性もあるでしょう。

アパシーとうつ病の違い4つ

症状に似た点があることから、アパシーとうつ病は同じような病気と思われがちです。

症状を悪化させないためにも、正しい判断のもと、適切に対処することが重要となるでしょう。

以下では、アパシーとうつ病の違いを4つ紹介します。

症状に対する自覚

アパシーと呼ばれる状態では、無意欲や無関心といった症状が見られます。そのため、自身の状態に対する自覚が乏しく、本人が症状に気付かないことも少なくありません。

また、改善に向けた行動も起こしにくく、長期的に放置されてしまうこともあります。

一方、うつ病の人は、強い気分の落ち込みや無力感を自覚しています。そのため、病院を受診したり、誰かに相談したりと、改善しようとする行動が見られるのです。
ただし、これらの行動が思うような結果に結びつかないと、自責の念に駆られ、うつ症状が悪化するということも起きがちです。

暴力行為や自傷行為

認知症の人のなかには、暴力行為や自傷行為を行う人もいます。しかし、認知症の症状の一部として現れるアパシーでは、周囲とのかかわりを避けることはあっても、攻撃的な行動はあまり見られません。

怒りが爆発するようなことも少なく、暴力行為や自傷行為といった極端な行動に出ることは非常にまれです。

これに対して、うつ病の場合は、感情のコントロールが難しくなり、自身や他人に向けて攻撃的な行動を取ることがあります。

場合によっては自傷行為や暴力行為が見られることもあるでしょう。

気分の変動

アパシーの大きな特徴は、感情の起伏がほとんどないことです。無意欲・無関心という症状が強く、楽しい・うれしい・悲しいといった感情をほとんど示しません。

また、表情や反応も乏しい傾向があります。このため、外から見ると常にフラットな精神状態に見えるでしょう。

一方、うつ病の場合は、気分が大きく沈み込む傾向が強く、日によって調子が良かったり悪かったりといった波が見られることもあります。

うつ病の人も無意欲・無関心といった症状を示すことはありますが、それは一時的なもので、アパシーのように無意欲・無関心が継続するわけではありません。

薬による治療

アパシーに対しては、まず非薬物的なアプローチが取られることが一般的です。心理療法を通して感情や行動の回復を図ったり、生活習慣を見直したりするなど、日常生活のなかで刺激を増やす工夫が重要となります。

場合によっては脳代謝を活性化させる薬剤や抗認知症薬が用いられることもありますが、あくまで補助的な役割と考えておくとよいでしょう。

うつ病の場合は、薬物治療が治療の中心になることが多いでしょう。抗うつ薬の処方だけでなく、運動療法、心理療法なども実施されます。また、十分な休養を取ることも重要とされています。

アパシーが疑われる際に有効な改善方法3つ

アパシーを改善するためには、どのような方法を試みればよいのでしょうか。次では、有効と考えられる改善方法を確認しておきましょう。

心理療法の実施

アパシーに陥る背景には、過度なストレスや人間関係の問題、環境の変化などが潜んでいることも少なくありません。心理療法では、まずカウンセリングを通じて無気力の根本的な原因を探ることが重要です。

そのうえで、回復に向けた具体的な対策として、社会活動への参加や生活リズムの立て直しといった提案がなされることがあります。専門家の伴走のもとで自分自身の内面と向き合うことにより、次第に意欲の回復が期待できるでしょう。

生活習慣の改善

高齢になるとノンレム睡眠の時間が減少しやすく、上質な睡眠が得られにくくなります。また、無気力な状態が続くことで食事がおろそかになり、栄養不足に陥る可能性も考えられるでしょう。

このようなことが慢性的に続けば、アパシーの症状はさらに悪化する恐れがあるため、生活習慣を見直して症状の改善を目指すことが大切です。

例えば、無理のない範囲からの取り組みとして、毎朝起床後に日光を浴びる方法が挙げられます。日光を浴びてセロトニンの分泌を促すと、脳の活性化や精神の安定が期待でき、睡眠ホルモンであるメラトニンの生成も増えるでしょう。

薬物療法によるアプローチ

脳機能の低下、認知症の一症状としてアパシーが現れているケースでは、医師の判断により薬物療法が提案されることもあります。

アパシーに対して用いられる薬として挙げられるのは、脳の代謝を活性化させる「脳代謝賦活剤」や、認知症の進行を抑制する「抗認知症薬」などです。

薬の種類や投与量は、患者の年齢、健康状態、症状の程度などを総合的に考慮して決定されます。まずは医療機関を受診し、必ず医師の指導を仰ぐようにしましょう。

家族がアパシーになったらどのように接すれば良い?

 
ご家族にアパシーと思われる症状が見受けられた場合、どのように接するとよいのでしょうか。ここでは、具体的な接し方について解説します。

自力で行えることは見守る

アパシー状態の家族に対して、つい何でも手を差し伸べたくなる気持ちは自然なものです。特にトイレや着替え、食事といった日常生活のサポートは、「困っているなら助けたい」という思いからくる行動でしょう。

しかし、過度なサポートはかえって本人の「何もしなくても良い」という意識につながり、症状の長期化や悪化を招くこともあります。

本人が自力でできることがある場合、静かに見守る姿勢が大切です。小さな行動であっても、自分の力で達成するという成功体験は、活動意欲の回復に大きく貢献します。

人との交流機会を増やす

アパシーの大きな特徴の一つは、他者への関心が薄れることです。そのため、孤立した状態が続くと、ますます無関心が深まり、社会とのつながりを断ってしまう恐れがあります。これを防ぐためには、意識的に人との交流機会を増やす工夫が必要です。

例えば、地域のデイサービスに参加したり、近所のコミュニティー活動に参加したりすることで、他者とかかわる機会を作れます。また、家族や友人と一緒に趣味の時間を過ごすことや、気分転換のために軽い運動を取り入れることも効果的です。

生活習慣の改善をサポートする

アパシー状態にある人は、生活リズムが崩れやすく、日々の生活に対する関心や意欲が失われていることが多く見られます。そのため、規則正しい生活習慣を取り戻すことは、症状の改善において重要なポイントといえるでしょう。

しかし、本人が自ら生活を整えるのは難しいものです。介護者がすべてを代行する必要はありませんが、例えば「そろそろご飯の時間だよ」「今日は早めに寝ようか」など、さりげない声がけで生活のリズムを整えてあげることが大切です。

適切なタイミングで働きかけを行うことで、自然な形で生活習慣の改善につなげられるでしょう。

一人の時間を無理に奪わない

アパシーが確認される高齢者に寄り添い、声をかけ続けることは大切なことですが、それが本人にとっては負担になる場合もあります。アパシーの状態では他人とのかかわりをストレスと感じることもあるため、体調や気分に配慮しなければなりません。

このような場合は、無理に一緒に過ごすのではなく、本人の希望を尊重し、静かな一人の時間を大切にしてあげることも必要です。患者本人が穏やかな気持ちで過ごせるようになれば、介護者自身の心の負担も軽減されるでしょう。

目標を立てて行動することを促す

日々の生活に小さな目標を設けることは、行動意欲を引き出す有効な方法です。例えば「1日に1回は散歩する」「毎週木曜日は掃除をする」など、無理なく達成できる目標は、成功体験につながり行動意欲を高めることが期待できます。

ただし、無意欲・無関心ゆえに拒否反応が見られる場合は、心理療法などと組み合わせて支援するのも一つの方法です。介護者は、焦らずに見守りながら、継続的に声がけをして習慣化を促すことが大切です。

本人のペースに寄り添いつつ、少しずつ前向きな行動を取り戻せるよう、根気強く支えていきましょう。

介護者がアパシーになる可能性もある

認知症を発症した高齢者だけでなく、その介護を担うご家族がアパシーに陥る可能性もあることをご存じでしょうか。

例えば、介護をしていても症状が改善しない、患者に受け入れてもらえないといった状況にあると、虚無感が募るケースがあります。

また、長年にわたり献身的に介護をしてきた家族が亡くなった際、介護疲れと深い喪失感が重なり、心のエネルギーが枯渇してしまうことも考えられるでしょう。

こうした事態を防ぐためには、介護者自身の心身の健康を守ることが何より重要です。ストレスを軽減するために趣味の時間や適度な運動を取り入れる、介護サービスを上手に活用するなど、日常のなかで自身を労わる工夫を心がけましょう。

アパシーが疑われる際は慎重に様子をチェックし適切な対応を


アパシーとは無意欲・無関心になってしまう症状のことで、認知症の周辺症状(BPSD)とされています。うつ病と症状が似ていることから混同されることもありますが、それぞれの特徴や適した治療法は異なるため、慎重に見極める必要があるでしょう。

アパシーに対しては、心理療法や生活習慣の改善、薬物療法によるアプローチなどが有効な改善方法といえます。ご家族にアパシーの症状が見られる場合は、医療機関を受診し、適切に対応することが大切です。

 
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菊池 大和[医師]

医療法人ONEきくち総合診療クリニック理事長・院長。地域密着の総合診療かかりつけ医として、内科から整形外科、アレルギー科や心療内科など、ほぼすべての診療科目を扱っている。日本の医療体制や課題についての書籍出版もしており、活動が評価され2024年11月にTIMEアジア版に掲載される。

資格:日本慢性期医療協会総合診療認定医・日本医師会認定健康スポーツ医・認知症サポート医・身体障害者福祉法指定医(呼吸器)・厚生労働省初期臨床研修指導医・神奈川県難病指定医 など

公開日:2025年6月13日

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