認知症の方が食事拒否をする原因は?
対応方法や認知症の種類による傾向も解説


認知症の方の介護において、突然食事を取らなくなり、対応に困ってしまったことはないでしょうか?
認知症の方が食事を拒否する原因はさまざまです。体調が悪い、食べ物を認識していない、あるいは食べ方がわからなくなっているなどの可能性も考えられます。まずは認知症の方の様子を注意深く観察し、原因を確認・把握することが大切です。

この記事では認知症の方が食事拒否をするおもな原因やその対応方法、さらには認知症の種類ごとに見られる傾向について解説します。

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認知症の方が食事拒否をする8つの理由

認知症の方は、どのようなときに食事拒否をするのでしょうか。以下では食事拒否の理由を8つ取り上げ、詳しく解説します。

食べ物だと認識できていない

認知症の一症状である「失認」によって、目の前の物を食べ物だと認識できていない可能性が考えられます。失認とは、視力には異常がないにもかかわらず、目の前の物や状況を理解することが難しくなる症状です。

認知症の方が、その物の色や形を見て食べ物以外のものと誤認し、もてあそんでしまうケースもあります。

また、目の前に用意されたものを食べても安全なのか判断ができなくなり、口に入れることに恐怖心を覚える場合も珍しくありません。これらが食事拒否につながります。

食べ方がわからない

認知症の進行にともない出てくる症状の一つに、日常的な基本動作や物の操作ができなくなる「失行」があります。

失行により、本人は目の前にある食べ物を食べたいと思っていても、箸の持ち方や、食べ物を箸で口に運び入れる動作がわからなくなります。そのため本人が食事を拒否しているように見えることがあるでしょう。

認知症の方が食事を取る際、手が止まっている、不安そうな顔をして戸惑っているなどの様子が見受けられる場合には、失行により食事の仕方がわからなくなっている可能性が疑われます。食事の際には、認知症の方の様子をしっかりと確認しましょう。

食事環境に問題がある

認知症の方のなかには、食事を取っているときの環境が合わないために食事拒否をする方もいます。例えば、食事の際に流れているテレビの音量や、リビングの照明の明るさが気になるなど、落ち着いて食事できないことが食事拒否の原因となりえます。

認知症の症状に「集中力が続かないこと」があり、そのため認知症の方は周囲の環境の影響を受けやすくなりがちです。介護者にとっては些細に思える環境の刺激でも、認知症の方が「心地良く食事ができない環境だ」と感じてしまうと、食事拒否につながります。

嚥下機能が低下している

高齢者の場合には、加齢による身体機能の低下にともない、嚥下機能の低下が見られることもあります。これは、喉の筋肉や舌の運動機能の衰えなどによって飲食物が飲み込みづらくなることです。

飲み込む力が低下すると、食事の際にむせてせき込んでしまったり、食べ物を吐き出してしまったりすることがあります。このような状況が続けば、食事の時間になるたび「また苦しい思いをするかもしれない」といった考えが浮かぶようになり、食事の時間を苦しく嫌な時間であると認識してしまいかねません。

また、無理に飲食物を飲み込むことで気管に入り、窒息や誤嚥性肺炎を引き起こすおそれもあるため、介護者としては注意が必要です。

口腔トラブルがある

認知症の方が歯周病や虫歯を患っている場合、食事により痛みを感じるなどのストレスから食事を嫌がることもあります。

入れ歯の場合は、かみ合わせが悪いなどの理由で食べ物をうまく嚙み切れなくなると、食事が辛くなることもあります。食べたいのに食べられないというストレスが、食欲減退をもたらす場合もあるでしょう。

また、口腔ケアが不十分だと、舌の汚れで味を感じにくくなるため、食事をおいしく感じられなくなります。これも食欲の低下につながる原因の一つです。

体調が悪い

便秘や睡眠不足、身体的な痛みなどで体調が悪くなると食欲が低下し、食事拒否につながることもあります。

認知症により、自分自身で体調不良を訴えることが難しい方もいます。介護者がよく見て体調確認をしっかりと行い、体調不良の原因を解決することが先決です。

BPSDによる気分の落ち込みがある

認知症の中核症状によって生じる行動や心理状態のことを、「BPSD(Behavioral and psychological symptoms of dementia)」といいます。

人によっては、BPSDの精神状態の一つである「気分の落ち込み(抑うつ状態)」になることもあります。気分が落ち込むことで食欲が低下し、食事拒否につながるケースも少なくありません。

食事内容に不満がある

認知症の方の好みに合わない食事メニューだったり、食事に苦手な食材が用いられていたりする場合、食欲が湧かずに食事を拒否することがあります。

好みの問題以外にも、食事の形態が気になる、盛り付けの見栄えが悪いなどの理由で食欲低下を招くこともあります。例えば、材料が細かく刻まれていて何が入っているのかわからない料理や、見た目がドロドロしているミキサー食などの提供は、食事拒否につながる可能性があるでしょう。

認知症の方が食事拒否をした際の対応方法

 
認知症の方が食事を拒否した際には、無理に食べさせてはいけません。ここからは、認知症の方が食事拒否をした場合の対応方法を8つ紹介します。

食器を工夫する

認知症の症状の一つである「失認」では、食器の柄と食べ物が判別しにくいことがあります。そのため、食器はシンプルな形状の、食べ物が目立つ色のものを用意するとよいでしょう。食欲が湧きやすい暖色系(黄色・オレンジなど)の食器もおすすめです。

また、箸がうまく使えない場合はスプーンやフォーク、補助箸を用意しておくとよいでしょう。食事する際のストレスを軽減することで、食べることに集中できます。

食材の工夫や調理方法・盛り付け・メニューの変更をする

本人に食べやすいと感じてもらえるよう、食材をカットする際の大きさや、食べ物の固さを意識して調理することも大切です。

食欲が湧くように、盛り付け方を工夫しましょう。彩りのバランスが良い盛り付けをしてみたり、小分けにして出したりするのもおすすめです。また、盛り付けの量が多いと見た目にも圧迫感が生じ、食欲の減退を招くこともあるため注意が必要です。

栄養バランスも大事ですが、本人の苦手な食べ物ばかりでは食欲が湧きづらく、食事拒否につながる可能性があります。可能な範囲で本人の好きなメニューを出し、食欲の増進に結び付けていきましょう。

声かけや食事介助をする

食事拒否は、声かけや食事介助をすることで改善できることもあります。認知症により「食べたくても食べ方がわからない」という失行状態になってしまう方がいます。

そのようなときは一緒に食事を取ったり、食べ方を見せたりすると、認知症の方が真似して食べてくれることもあります。料理内容の説明など、食欲が湧くような声かけも効果的です。食事の前に食べ方や箸などの道具の使い方を説明しておくのもよいでしょう。

自分で食事するのが難しいという方にはさりげなく手助けをしましょう。その際は急かすことなく、本人のペースに合わせてゆっくりと行うことが大切です。

食事環境を整える

認知症の方は周囲の環境の影響を受けやすくなっているため、食事の際はテレビを消す、食事以外のものを机上に置かないなど、食事に集中できる環境を整えることが大切です。

また、「照明が明るすぎる・暗すぎる」「食事を取る空間が広すぎる」といった些細なことがストレスに感じられ、食欲不振へとつながる場合もあります。認知症の方が心地良く食事を取れる環境作りをしましょう。

このほか、椅子やテーブルの高さを調整し、食べやすい体勢をとれるようにすることも大切です。体勢が悪いまま食事しようとすると、食べ物をこぼしたり、飲み込みがうまくできなかったりして、心地良く食事が取れなくなってしまいます。

口腔トラブル対策を行う

「入れ歯が合わない」「歯周病や虫歯などによる痛みがある」などの口腔トラブルも、食事拒否の原因の一つです。入れ歯の不調でしっかりと噛むことができなかったり、痛みで食事に集中できなかったりといったストレスから、食事拒否に至ることがあります。

また、口腔ケアが不十分で舌が汚れていると食べ物の味を感じられなくなるため、毎日の口腔ケアをしっかりと行うことが大切です。

体調管理に気を付ける

体調管理は毎日を快適に過ごし、ご飯をおいしく食べるためにも大切なことです。認知症の方は、体調の変化や痛みなどを自覚しにくかったり、体調が悪いことをうまく伝えられなかったりします。

「体調が悪く食欲がない」「便秘でお腹に不快感があり、食欲が湧かない」といった理由から食事拒否をしているケースもあります。周囲の方が適切に健康チェックを行い、体調管理をしましょう。

食事前の適度な運動や活動を取り入れる

活動量が少ない認知症の方の場合、食事の時間になってもお腹が空かないことが食事拒否につながっている可能性もあります。身体への負担が少ないストレッチや散歩など、日常生活のなかに適度な運動を取り入れるとよいでしょう。

本人にとって興味のある活動をしてもらう、できる範囲での運動を取り入れるといった取り組みで、食欲の促進ができます。

無理強いはせず本人の意思を尊重する

食事拒否している相手に対し、食べることを強要したり責めたりしてはいけません。認知症の方が大きなストレスを抱え、食事の時間が苦痛の時間になってしまい、食事拒否を強めてしまう危険性があるためです。

認知症の方が食事拒否をしているときは、本人の意思を尊重することが大切です。見守る姿勢を保ちつつ、食欲がなくても食べられそうなものを用意するとよいでしょう。

認知症の種類による食事拒否の傾向

以下では、認知症の種類ごとに食事拒否の傾向を解説します。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、アミロイドβなどのたんぱく質が脳にたまり、脳内の神経細胞が徐々に減少したり、脳の萎縮などが起こったりすることで、認知機能が低下していく症状です。

アルツハイマー型認知症の方の場合、おもな食事拒否の理由は、物忘れの進行による失認で「食べ物が認識できない」ことや、失行が原因で「食べ方がわからない」ことです。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症では、進行性の認知機能障害に加え、パーキンソン病と似た症状であるパーキンソン症状、繰り返す幻視が見られます。これらのほか、視空間認知障害も生じることがあります。

レビー小体型認知症の方の場合、パーキンソン病に似た症状や幻視が原因となって、食事拒否が表れがちです。パーキンソン症状で手の震えなどが表れると、箸やスプーンが持てずに食事をすることが難しく感じる場合があります。

また、視空間認知障害により、目の前にある物が見えていても認識できないため、食事に支障が出ることもあります。例えば、お皿のなかのものをスプーンですくおうとしても、お皿がないところですくってしまい、食事ができないなどの状態です。

さらには、幻視により、料理のなかに虫が入っているように見えるといった理由で、食事拒否が発生します。

脳血管性認知症

脳血管性認知症の方の場合、脳梗塞や脳出血などで脳のどの部分がダメージを受けたかの違いによって、食事拒否の理由や傾向は異なります。

特定部位の麻痺により食事の姿勢が保てないケース、箸やスプーンを使うことが難しいケースのほか、口を開くことができない、噛む力が弱くなるなど、身体的な症状によって食事拒否が表れることがあります。

認知症の方が食事拒否をする理由を理解して適切に対応しよう


認知症の方が食事拒否するのにはさまざまな理由があります。人それぞれ理由は異なるため、認知症の方の様子を日頃からよく観察し、どのような理由から食事拒否を行っているのか理解することが大切です。

また、食事拒否をする方に対して無理強いすることは避けましょう。ストレスを抱え、食事拒否の傾向が強くなってしまう危険性もあります。本人の意思を尊重し、介護する方は見守る姿勢を取りながら、食欲がなくても食べられそうなものを用意するといった工夫をしてみるのもよいでしょう。

食事を取る本人も介護する方も、お互いが食事の時間を楽しめるよう、適切に対応しましょう。

 
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菊池 大和[医師]

医療法人ONEきくち総合診療クリニック理事長・院長。地域密着の総合診療かかりつけ医として、内科から整形外科、アレルギー科や心療内科など、ほぼすべての診療科目を扱っている。日本の医療体制や課題についての書籍出版もしており、活動が評価され2024年11月にTIMEアジア版に掲載される。

資格:日本慢性期医療協会総合診療認定医・日本医師会認定健康スポーツ医・認知症サポート医・身体障害者福祉法指定医(呼吸器)・厚生労働省初期臨床研修指導医・神奈川県難病指定医 など

公開日:2025年7月10日

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