認知症の人は水分不足になりやすい?
改善方法と注意点


認知症の家族がなかなか水を飲んでくれず、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。特に暑い時期や体調を崩しているときは、水分不足から脱水症状や熱中症、さらには意識障害に至るリスクも高まります。

認知症になることで、喉の渇きに気付きにくくなったり、水の飲み方がわからなくなったりするケースも少なくありません。水分不足による身体機能の低下やせん妄などの深刻な症状を回避するには、日常生活における細やかな工夫が大切です。

本記事では、認知症の方が水分不足になりやすい理由や水分補給が健康に与える影響と併せて、水分の効果的な補給方法、注意点も解説するので、ぜひ参考にしてください。

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認知症の人が水分不足になる原因

認知症の方は、感覚・記憶・心理面など複数の理由から水分補給が難しくなり、水分不足に陥りやすい傾向があります。

大きな原因の一つが感覚の鈍化です。身体が水分を必要としていても、そのサインをうまく感じ取れず、自然に水分を摂取する回数が減ってしまいます。また、水を飲む行為そのものを忘れてしまうケースもめずらしくありません。

さらに、トイレが近くなるのを避けようとして意識的に飲水を控えるほか、こぼしてしまうのではという不安から水を拒む方もいるでしょう。このように、認知症になると、身体機能や認知機能の低下に加え、心理的な抵抗感が重なり、水分不足が慢性的に起こりやすくなります。

水分不足が引き起こす問題

 
水分不足は、脱水症や熱中症といった身体的リスクに加え、認知機能や精神状態にも深刻な影響をおよぼす可能性があります。ここではその代表的な問題を紹介します。

身体への影響

水分が不足すると、体内の水分バランスが崩れ、脱水症を引き起こすおそれがあります。脱水状態では体温調節機能が低下し、夏場の熱中症だけでなく、冬場には低体温症を招くリスクも高まります。

また、水分が足りないと腸の動きが鈍くなり、便秘を引き起こしやすくなる点にも注意が必要です。加えて、尿量が減ると細菌が排出されにくくなるため、尿路感染症を引き起こす可能性もあるでしょう。

食欲不振や血圧の低下、疲労感の蓄積といった症状も水分不足と関連しており、重度になると意識障害をともなうケースもあります。特に高齢者は体内の水分保持力が低下している傾向にあり、軽度の脱水でも深刻な状況に陥りかねません。

せん妄の誘因

水分不足は、身体面だけでなく認知症の症状を悪化させる要因にもなり得ます。その一つが「せん妄」と呼ばれる急性の意識障害です。

せん妄を発症すると、突然の混乱や幻視のほか、時間や場所がわからなくなるような見当識障害が起こる場合もあります。そのため、水分を摂取するという判断が自身でできずにさらに水分不足になってしまうことも起こり得ます。また、認知症の方にこうした変化が生じても、もともとの症状と区別が付きにくく、周囲が異変に気付くまでに時間がかかるケースも少なくありません。

状態の悪化を防ぐには、日頃から水分の摂取状況に目を配り、体調や行動の小さな変化にも気付けるよう意識することが大切です。

高齢者に適した水分摂取量の目安

高齢者が1日に必要とする水分の摂取量は、2,200~2,800ml程度とされています。このうち、食事に含まれる水分や体内での代謝によって得られる量を差し引くと、飲み物から摂取する量は1,000~1,500mlが目安です。

ただし、この数値はあくまで一般的なものであり、体格や日常の活動量、季節、発汗量などによって必要量は変動します。特に、心臓や腎臓に持病がある場合は、過剰な水分摂取がかえって身体に負担をかける可能性もあるため注意が必要です。

日々の体調を観察しながらこまめな水分補給を心がけ、持病がある方や服薬中の方は、主治医と相談のうえで水分量を調整しましょう。

認知症の方に効果的な水分補給方法3つ

 
認知症の方に十分な水分を摂ってもらうには、日常生活における小さな工夫が欠かせません。ここでは、水分補給を促す具体的な方法を3つ紹介します。

飲み物を工夫する

認知症の方本人が好む飲料や飲みやすい形態を意識すると、効果的に水分を補給しやすくなります。例えば、本人の好みに合わせて、味や温度を調整した飲み物を用意するのもよいでしょう。お茶や水だけでなく、スープやゼリー飲料などの「食べる水分」もおすすめです。

飲み込みに不安がある場合は、とろみを加えると誤嚥のリスクを軽減できます。このように、選べる楽しさや飲みやすさを意識することが、認知症の方の水分不足を防ぐポイントです。

目に見える場所に置く

認知症の方は、水を飲む行動自体を忘れてしまうことがあります。そのため、飲み物を視界に入りやすい場所に置き、自ら水分摂取をしやすい環境づくりをする工夫が大切です。例えば、リビングのテーブル、ベッドサイド、テレビの横など、生活のなかでよく目にする場所にコップや水筒を置くと意識しやすくなります。

また、動作の負担を減らすには、手の届きやすい位置に置くのも効果的です。飲むまでのハードルが下がれば、自発的な水分補給のきっかけが増えるでしょう。

さらに、コップの色や形を目立たせるほか、背景と区別しやすい色合いを選ぶと、認識しやすくなります。視認性をよくする工夫も、水分補給を促す環境づくりの一環です。

声かけをする

認知症の方が水分補給しやすくなるには、まわりの人の声かけも大切です。「お茶の時間にしましょうか」「少し水分補給しませんか」など、優しく促すだけでも水分補給のきっかけになります。

また、飲み物の選択肢を用意して「どれにしましょうか」「温かいのと冷たいのとどちらがいいですか」と声をかけると、自主性が尊重されて飲む意欲も高まるでしょう。

声かけをするタイミングは、入浴前後や食事のあと、服薬時間など、生活の区切りを生かすとスムーズです。無理に促すのではなく、安心感を与える接し方を心がけることが、継続的な水分補給につながります。

水分補給で気を付けたい3つのポイント

認知症の方が水分補給をする際は、見守りや介助をする方も注意すべきポイントがあります。ここでは、特に配慮が必要な3点を解説します。

飲み過ぎに注意する

水分補給は健康維持に不可欠ですが、誰もが一律の量を飲めば良いわけではありません。例えば、心疾患や腎疾患などの持病がある場合は、水分制限が必要になるケースがあります。無理に多量の水を摂取すると、むくみや呼吸への影響をもたらしたり、心不全のリスクが高まったりすることも考えられるでしょう。

また、服用している薬の種類や作用によっても、適切な水分量は異なります。認知症の方が水分補給をする際は、一度に多く飲ませるのではなく、こまめに少量ずつ摂取するよう工夫すると安心です。本人の体調を見ながら、医師の指示にしたがって水分を補給してもらいましょう。

誤嚥防止の工夫をする

認知症の方のなかには、嚥下機能が低下しているケースも少なくありません。無理に飲ませると気道に入ってしまい、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがあります。

こうした場合は、とろみをつけた飲み物やゼリー状の水分など、嚥下しやすい形態に工夫することが大切です。とろみの濃度は、本人の状態に合わせて調整しましょう。

また、飲むときの姿勢やペースにも注意が必要です。背筋を伸ばして座る、急がせずゆっくり飲ませるなどの配慮をすると安全に水分補給してもらいやすくなります。

嚥下に不安がある場合は、医師や看護師などの専門家に相談し、適切な補給方法を確認しましょう。

無理強いをしない

認知症の方が水分を拒むからといって、本人の意思を無視した声かけや強制的な行動を取ると不安や混乱を招いてしまいます。その結果、かえって水分摂取から遠ざかってしまうおそれがあることも否めません。

水分を拒否する背景には「トイレが近くなる」「お腹がいっぱい」などの身体的な理由だけでなく、不快な体験や環境への不安が潜んでいる可能性もあります。拒否の原因を探り、本人に合った方法でアプローチする姿勢が大切です。

例えば、飲み物の温度や味を変えてみたり、飲むタイミングを調整したりといった小さな工夫が安心感につながります。信頼関係を大切にしながら、自然に飲みたくなる状況づくりを目指しましょう。

理由と対策を知り、認知症の方の水分ケアを始めよう


認知症の方は、感覚や行動の変化により、水分不足に陥りやすい傾向があります。水分が不足すると、脱水症や熱中症などの身体的リスクだけでなく、認知機能の低下やせん妄を引き起こす可能性も否めません。

うまく水分が摂れない場合は、声かけや飲み物の工夫、置き場所の調整などの配慮が大切です。家族や介護者が状況を正しく理解し、安心できる環境のなかで継続的な水分ケアを行いましょう。

 
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菊池 大和[医師]

医療法人ONEきくち総合診療クリニック理事長・院長。地域密着の総合診療かかりつけ医として、内科から整形外科、アレルギー科や心療内科など、ほぼすべての診療科目を扱っている。日本の医療体制や課題についての書籍出版もしており、活動が評価され2024年11月にTIMEアジア版に掲載される。

資格:日本慢性期医療協会総合診療認定医・日本医師会認定健康スポーツ医・認知症サポート医・身体障害者福祉法指定医(呼吸器)・厚生労働省初期臨床研修指導医・神奈川県難病指定医 など

公開日:2025年10月15日

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