水分が不足すると、体内の水分バランスが崩れ、脱水症を引き起こすおそれがあります。脱水状態では体温調節機能が低下し、夏場の熱中症だけでなく、冬場には低体温症を招くリスクも高まります。
また、水分が足りないと腸の動きが鈍くなり、便秘を引き起こしやすくなる点にも注意が必要です。加えて、尿量が減ると細菌が排出されにくくなるため、尿路感染症を引き起こす可能性もあるでしょう。
食欲不振や血圧の低下、疲労感の蓄積といった症状も水分不足と関連しており、重度になると意識障害をともなうケースもあります。特に高齢者は体内の水分保持力が低下している傾向にあり、軽度の脱水でも深刻な状況に陥りかねません。
水分不足は、身体面だけでなく認知症の症状を悪化させる要因にもなり得ます。その一つが「せん妄」と呼ばれる急性の意識障害です。
せん妄を発症すると、突然の混乱や幻視のほか、時間や場所がわからなくなるような見当識障害が起こる場合もあります。そのため、水分を摂取するという判断が自身でできずにさらに水分不足になってしまうことも起こり得ます。また、認知症の方にこうした変化が生じても、もともとの症状と区別が付きにくく、周囲が異変に気付くまでに時間がかかるケースも少なくありません。
状態の悪化を防ぐには、日頃から水分の摂取状況に目を配り、体調や行動の小さな変化にも気付けるよう意識することが大切です。
高齢者が1日に必要とする水分の摂取量は、2,200~2,800ml程度とされています。このうち、食事に含まれる水分や体内での代謝によって得られる量を差し引くと、飲み物から摂取する量は1,000~1,500mlが目安です。
ただし、この数値はあくまで一般的なものであり、体格や日常の活動量、季節、発汗量などによって必要量は変動します。特に、心臓や腎臓に持病がある場合は、過剰な水分摂取がかえって身体に負担をかける可能性もあるため注意が必要です。
日々の体調を観察しながらこまめな水分補給を心がけ、持病がある方や服薬中の方は、主治医と相談のうえで水分量を調整しましょう。
認知症の方に十分な水分を摂ってもらうには、日常生活における小さな工夫が欠かせません。ここでは、水分補給を促す具体的な方法を3つ紹介します。
認知症の方本人が好む飲料や飲みやすい形態を意識すると、効果的に水分を補給しやすくなります。例えば、本人の好みに合わせて、味や温度を調整した飲み物を用意するのもよいでしょう。お茶や水だけでなく、スープやゼリー飲料などの「食べる水分」もおすすめです。
飲み込みに不安がある場合は、とろみを加えると誤嚥のリスクを軽減できます。このように、選べる楽しさや飲みやすさを意識することが、認知症の方の水分不足を防ぐポイントです。
認知症の方は、水を飲む行動自体を忘れてしまうことがあります。そのため、飲み物を視界に入りやすい場所に置き、自ら水分摂取をしやすい環境づくりをする工夫が大切です。例えば、リビングのテーブル、ベッドサイド、テレビの横など、生活のなかでよく目にする場所にコップや水筒を置くと意識しやすくなります。
また、動作の負担を減らすには、手の届きやすい位置に置くのも効果的です。飲むまでのハードルが下がれば、自発的な水分補給のきっかけが増えるでしょう。
さらに、コップの色や形を目立たせるほか、背景と区別しやすい色合いを選ぶと、認識しやすくなります。視認性をよくする工夫も、水分補給を促す環境づくりの一環です。
認知症の方が水分補給しやすくなるには、まわりの人の声かけも大切です。「お茶の時間にしましょうか」「少し水分補給しませんか」など、優しく促すだけでも水分補給のきっかけになります。
また、飲み物の選択肢を用意して「どれにしましょうか」「温かいのと冷たいのとどちらがいいですか」と声をかけると、自主性が尊重されて飲む意欲も高まるでしょう。
声かけをするタイミングは、入浴前後や食事のあと、服薬時間など、生活の区切りを生かすとスムーズです。無理に促すのではなく、安心感を与える接し方を心がけることが、継続的な水分補給につながります。